昨季の最終節で引き分けに終わり、リーグチャンピオンシップへの出場権を絶たれたFC東京。その相手であった鳥栖が味の素スタジアムへ乗り込んできた。さらに、その鳥栖を率いるのは前任のマッシモ・フィッカデンティと対戦前から“因縁”を煽ったようなマッチメイクとなったが、結果はある程度予測が出来たスコアレスドロー。だが、その意味合いは両者で大きく異なるものとなった。
鳥栖は1試合未消化ながらもここまで2勝のみで暫定16位。開幕戦で福岡に勝利したものの、第9節のアウェイ仙台戦での勝利を除けば、ずっと勝てていないことになる。5月は湘南に敗れた後、前節の広島戦で3失点。FC東京に移籍した水沼やロングスローを武器にしていた藤田などの穴が埋まらずに苦しむチーム状態のなか、どうにかして連敗を止めることが最優先事項だった。
一方のFC東京。昨季までに構築した堅守に高い攻撃性を上乗せさせる“アクションサッカー”を標榜して優勝戦線に名乗りを上げたものの、もはやその土台は崩壊。それどころか、勝利への道筋も失いかけているという危機的状態に瀕している。相対的に見れば、FC東京以下の戦績のチームは存在し、それとは別にACLグループステージ突破という第一関門もクリア。一見、コンディションや日程的な見地も含めて難しい状況のなかでのやり繰りという意味では理解出来る部分もあるが、チーム最高成績を勝ち取った指揮官を退任させて掲げた“頂戦”という一連の流れを考えると、これまでの戦いは決して評価出来るものではない。
結果はスコアレスドローで痛み分け。FC東京がシュート8本、鳥栖が2本というデータを示すまでもなく、FC東京が終始主導権を握り攻勢を続けていたものの、決定力に欠けて引き分け。内容としてはほぼ鳥栖の時間を作らせず、無失点に抑えたことは評価出来る……という論調も多いかもしれないが、正直なところ、その見立ては甘すぎると言わざるをえない。
マッシモの戦術ゆえに鳥栖の守備もなかなか堅く、こじ開けるのが難しかったとの評にも首を傾げるところ。4バックで時には6人で最終ラインをケアするような守勢から前線の豊田へ当ててという戦略は、ほぼ機能せず。怪我明けということもあろうが、鎌田も効果的な動きはほとんど見られず途中交代。最終的にはアウェイで勝ち点1を持って帰るという現実的な戦法に切り替えた鳥栖のプランにFC東京が無駄に付き合ってしまった形でしかなかった。
FC東京は前半の終盤、高橋のクロスバーに当たった惜しいミドルシュートから立て続けにチャンスが到来。相手ゴール前の混戦からの阿部のシュート（こちらもクロスバーに跳ね返される）、さらには徳永のヘディングシュートも鳥栖GK・林に阻まれて決定機を逸する。後半は鳥栖の運動量がガクッと落ちたこともあり、FC東京の時間帯に終始したが、得点を奪えずにタイムアップ。ただし、あとは決定力が課題……というのは正しくもあり、少々違和感もあるレポートとなる。“決定力を欠いた”という以上に、ゴールへ向かう、シュートへの意識とその構築がなされていないというのが、最も近しい評価だと思われる。
東京が攻勢を続けられていたのは、あくまでも鳥栖の出来が良くなかったからであって、決して東京の攻撃が次第に改善されてきたとかではない。これは守備面でも同じことが言えるのだが、ここまで失点が続いていたのが前節の湘南戦とこの鳥栖戦で無失点となったのは、守備に改善が見られたというよりも、単純に現状で強くないチームを相手にしていたからということに過ぎない。守備の改善が劇的に見られるというならば、試合序盤の鳥栖のセットプレーでキム・ミヌのFKからキム・ミンヒョクにあと僅か届かなかったというプレーがあったが、完全にノーマークのフリーでGK前に飛び出させてしまうということも防げたはずだ。
そして、攻撃という面では本当にスピードに欠けてしまっている。今回は特に左サイドの小川が持ち上がるも必ずと言っていいほどスローダウン、そして横か後ろへ下げるというプレーが頻出。FC東京は左サイドからの攻撃を武器の一つとしているので、攻め上がろうとする回数も多く、それゆえ目立ってしまうこともあるのだが、それにしても前への推進力がない。相手と競り勝って上がっていこうとするチャレンジよりもボールを繋ぐことを最優先する結果、鳥栖に帰陣する時間を与えてしまい、守備の態勢を整えさせてしまっている。
アタッキングサードあたりでの“お決まり”の狭い地域でのパス交換のオンパレードでシュートチャンスを自ら失っていき、中盤での意識のゆるいパス回しから相手に渡るミスを犯すと、カウンターの餌食となるという悪循環。前田へ当ててからのセカンドボールへの意識やボールを持つ前の“先のプレーへの読み”や判断力がなかなか見えてこないのも、この悪循環を助長。さらには、それまでボールを収めていた前田に代わった平山はその代役には不足というばかりか、空中戦さえも競り勝てないというように、途中交代で送り出す選手があまり機能しないことも攻撃に停滞を生み出している大きな要因だ。その意味では、先発メンバーの選出や配置などにも疑問が残る。
たとえば、クロスバーに当たるシュートを放つなど時折決定機に顔を出したものの、サイドに流れる阿部は彼が持つ長所が活かされないまま終えることが多く、果たして適所なのか。この試合では自分でゴール前へと運べるバーンズやムリキがベンチを外れていたが、ACLとの兼ね合いもあるとはいえ、それならば連戦出場している前田はどうなのかなど、その指揮ぶりに迷いが生じているのではとも感じられてしまう。
来週火曜にホームでのACLラウンド16の1stレグがあるため、試合後のゴール裏はFC東京の選手たちを叱咤激励したが、本来ならブーイングでもおかしくないような結果だ。ACLは丸山が、そして次節のG大阪戦では森重が、累積警告で出場停止となる。生命線である主力CBを1枚欠くなかで、果たしてどのような対策を練るのか。ACL、リーグとも、特にリーグでは試合結果や内容いかんによっては、（一部の城福“信者”を除き）城福体制への信頼性がますます減退しかねない状況に陥る可能性もある。特効薬はないが、まずは眼前の試合、プレーに対して一人一人が全身全霊でアグレッシヴに向かうこと。そうするためには何をするべきかを、次の試合までの短い時間に試行錯誤し、実行していかねばならない。
◇◇◇
【J1リーグ戦 第12節】
2016年05月13日／味の素スタジアム／19:04キックオフ
観衆：13,046人
天候：晴、弱風
気温：20.6度／湿度：70％
主審：木村博之／副審：岡野宇広、小椋剛
FC東京 0（0-0、0-0）0 鳥 栖
得点：
（東）：
（栖）：
≪スターティングラインアップ≫
47 GK 秋元陽太
02 DF 徳永悠平
03 DF 森重真人
05 DF 丸山祐市
25 DF 小川諒也
04 MF 高橋秀人
07 MF 米本拓司
17 MF 河野広貴 → 水沼宏太（68分）
27 MF 田邉草民 → 橋本拳人（71分）
20 FW 前田遼一 → 平山相太（75分）
44 FW 阿部拓馬
≪サブスティテューション≫
13 GK 榎本達也
10 MF 梶山陽平
22 MF 羽生直剛
37 MF 橋本拳人
38 MF 東慶悟
48 MF 水沼宏太
09 FW 平山相太
≪マネージャー≫
城福浩
◇◇◇
【J1リーグ】
≪1stステージ≫
第01節 2016/02/27(土)19:00✕FC東京 0-1 大 宮（H・味スタ）
第02節 2016/03/06(日)15:30〇FC東京 2-1 仙 台（A・ユアスタ）
第03節 2016/03/11(金)19:00〇FC東京 1-0 神 戸（H・味スタ）
第04節 2016/03/19(土)15:00✕FC東京 0-2 鹿 島（A・カシマ）
第05節 2016/04/02(土)16:00〇FC東京 3-2 名古屋（H・味スタ）
第06節 2016/04/10(日)19:00✕FC東京 0-1 柏 （A・ 柏 ）
第07節 2016/04/16(土)15:00✕FC東京 2-4 川 崎（H・味スタ）
第08節 2016/04/24(日)14:00△FC東京 1-1 甲 府（A・中銀スタ）
第09節 2106/04/29(金)17:00✕FC東京 0-1 福 岡（H・味スタ）
第11節 2016/05/08(日)16:00〇FC東京 1-0 湘 南（A・ＢＭＷス）
第12節 2016/05/13(金)19:00△FC東京 0-0 鳥 栖（H・味スタ）
第14節 2016/05/29(日)17:00 FC東京×Ｇ大阪（H・味スタ）
第15節 2016/06/11(土)15:00 FC東京×磐 田（A・エコパ）
第10節 2016/06/15(水)19:00 FC東京×広 島（H・味スタ）
第16節 2016/06/18(土)19:00 FC東京×新 潟（H・味スタ）
第13節 2106/06/22(水)19:30 FC東京×浦 和（A・埼 玉）※ ACLラウンド16進出
第17節 2016/06/25(土)19:00 FC東京×横浜FM（A・日産ス）
◇◇◇
◇◇◇
