絶品のファルセット・マジック。
東日本大震災の影響から公演が延期となっていたエリック・ベネイのブルーノート公演を観賞。1stショウ。エリック・ベネイの公演は、2007年9月、2009年2月、同年12月(それぞれリンク先はその時の記事)と観賞している。2009年12月からだと約1年9ヵ月ぶりとなるか。
「コンバンハー」「アリガトゴザイマース」と気さくに日本語を挟みながら、曲紹介をしていく。「I love Japan, TOKYO、OSAKA、YOKOHAMA、NAGOYA……I love town street, HARAJUKU……”と公演地や名所を挙げていき、親日家の面も見せる。客層の男女比は3:7くらいか。そして単に女性が多いというだけでなく、エリックへのラヴリーな視線(目がハートマーク)が多いこと。まぁ、あれだけ近接した空間で、エリックと視線があったり、指差されたり、手を握られたりしながら歌われれば、目がうっとりとなるのも致し方ないところだ。(笑)
メンバーは左手から、キーボードのジョン・リッチ、ドラムのジョン“スティックス”マクヴィッカー、ベースのアフトン・ジョンソン、ギターのジョン・ジョンソンという布陣。どうやら前回とはメンバーが異なるようだ。そして、これは常に思うことだが、やっぱりラップトップ(ノートPC)からの音源ではなく、バックコーラスをつけた方が一層ステージが映えるのではないか。エリックのバックコーラスでエリックのメイン・ヴォーカルを聴く……というCDとほぼ同じ状況はそれはそれで嬉しいことだが、あくまでもライヴの“生”の空気というか感覚が欲しいとは贅沢か。もちろん、予算などの都合もあってのこととは分かっているが。
この日の選曲はエリックのヒストリーのダイジェストといえるようなものとなった。「最初のアルバムからの最初のシングルだ」と言ってからの「スピリチュアル・サング」、「この曲名を言うと怒る人もいるんだけど……チョコレートの“脚”だって。でも、チョコレートにはホワイトもあるし、刺激的なのもあるよ……そういうセクシーな曲」と言ってからの「チョコレート・レッグス」、「ネットでも調べたけど、“Spanish Fly”っていうのはバイアグラとか興奮剤とか媚薬みたいなものなんだ。小さな虫を潰して使ったり、それをカプセルにしたりしてね。でも、みんなはバイアグラなんていらないよ。そう、エリック・ベネイのCDがありさえすればね」とちゃっかりCD買ってねと宣伝しつつの「スパニッシュ・フライ」など、曲ごとにコメントをつけて歌ってくれる。
ただ、例年とはやや肌色が違ったのは、「ユーヴ・ゴット・ア・フレンド」(邦題「君は友達」)とアイズレー・ブラザーズの「フットステップス・イン・ザ・ダーク」の2曲のカヴァーだ。
キャロル・キングなどで知られる「ユーヴ・ゴット・ア・フレンド」は、一人一人を指差しながら“Friend”と歌う姿が印象的。“Winter, spring, summer, or fall, all you have to do is call”と観客とコール&レスポンス。それは「冬、春、夏、秋と、君は僕の名前を呼べばいんだよ」の後に続く「だって、そしたら僕は君のところに行くよ、君は友達なんだから」(and I'll be there, yeah, yeah, yeah. You've got a friend.)の詞のように、“辛い時でもいつも思っているよ、だから頑張って”という、震災で痛んだ日本や日本人の心を励ますメッセージに思えた。
続いて、「もう1曲、懐かしい曲をやるよ。1973年に戻ろう」と言ってはじめたのは、アイズレー・ブラザーズの「フットステップス・イン・ザ・ダーク」。ところどころで“R&B”という言葉を発するエリックだが、往年のソウル・ミュージック・スタイルに返った『ロスト・イン・タイム』同様、エリックが表現したい、こよなく愛する“R&B”のルーツとも言える楽曲といえるのかもしれない。
ラストは「ユーアー・ジ・オンリー・ワン」。イントロが流れた瞬間に観客からワーッと歓声が湧く。スウィートでラヴリーなメロウ・ソウルだ。温かい気持ちのまま、終幕を迎えるには持って来いのナンバーだ。アウトロ途中でエリックはステージアウト、バンド演奏が終わるやいなや、アンコールの拍手が鳴り止まない。しばらくしてから、「マダキキタイデスカ」とフロアに声が響くと、馴染み深いイントロで観客は一気に立ち上がる。「トーキョー、スクリーム」と煽ってからの「ジョージィ・ポージィ」だ。フェイス・エヴァンズのパート“Georgy Porgy Pudding Pie, Kissed The Girls and Made Them Cry”の際には観客へマイクを向けてコール&レスポンス。それまでのムーディでセクシーな空間が一気にパーティ・グルーヴに。ある程度やることが解かっていながら盛り上がるこの曲は、原曲を超えたカヴァーといってもいい名カヴァーといえるのではないだろうか。
だが、これまではクライマックスの最右翼の「ジョージィ・ポージィ」以上にハイライトだったのが、中盤に組み込まれた全編ファルセットで歌われる「サムタイムズ・アイ・クライ」だ。元来ファルセットが綺麗なエリックだが、美しくそして気品を持ち、さらには情熱的でパワフルな歌唱は、まさに絶品と呼べるもの。マイクを離しても全く落ちることのない、むしろ圧力を増す声量で、溶け込むような優しい肌あたりで心に強く刺激を与えるこの曲は、「ジョージィ・ポージィ」に代わるエリックの代名詞として今後も歌い継がれていくに違いない。この曲だけを聴きに行くだけでも価値がある……そんな名曲・名演が、9月の東京を彩ったマジカルな夜となった。
◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRO
01 THE HUNGER
02 SPIRITUAL THANG
03 CHOCOLATE LEGS
04 SPANISH FLY
05 DON'T LET GO
06 SOMETIMES I CRY
07 SPEND MY LIFE WITH YOU
08 YOU'VE GOT A FRIEND(Orignail by James Taylor/Carol King)
09 FOOTSTEPS IN THE DARK(Original by Isley Brothers)
10 YOU'RE THE ONLY ONE
≪ENCORE≫
11 GEORGY PORGY(Original by TOTO)(Including Band Member Introduce)
<MEMBER>
Eric Benét(vo)
Jon Rych(key)
John Johnson(g)
Afton Johnson(b)
John "Stixx" McVicker(ds)
◇◇◇
こちらはエリック・ベネイの新曲「Real Love」。
<object height="81" width="100%"> <param name="movie" value="http://player.soundcloud.com/player.swf?url=http%3A%2F%2Fapi.soundcloud.com%2Ftracks%2F22832187"></param> <param name="allowscriptaccess" value="always"></param> <embed allowscriptaccess="always" height="81" src="http://player.soundcloud.com/player.swf?url=http%3A%2F%2Fapi.soundcloud.com%2Ftracks%2F22832187" type="application/x-shockwave-flash" width="100%"></embed> </object> Eric Benet - Real Love by Primary Wave Music
これもファルセット全開です。