*** june typhoon tokyo ***

Phony PPL@WWW X


 音楽の坩堝から生み出す、ユニークで柔軟なネオソウル・ヒップホップの形。

 新年となってからやや出足が遅れた感じもあるが、2019年一発目のライヴ観賞となったのは米・ニューヨーク・ブルックリン出身のネオソウル・バンド、フォニー・ピープル。メディアなどは“西のジ・インターネット、東のフォニー・ピープル”という惹句を使っているが、実際に公私ともに仲が良く、共演もしている関係とのこと。ただ、日本においては、2016年の初来日公演およびフジロック出演からほぼ毎年来日公演を行っているジ・インターネットが確固たる人気を得ているのに対して、フォニー・ピープルはまだそれほど認知度は高くない。その意味でも、ファンにとっては“ようやく”の来日といったところか。

 会場は東京・渋谷のWWW X。当日券が若干出たものの、チケットは開演前にソールドアウト。開演時刻が近づくにつれて後方からジワジワとフロアへと人波が押し寄せる感覚を背中に受けながら、定刻より10分以上過ぎたところで暗転。期待に溢れて飛び交っていた会話が一瞬にして歓声へと変わるなか、フォニー・ピープルの初来日のステージが幕を開けた。

 2010年の始動当初はサポートメンバーを含めて9名体制だったが、ソロ活動などを経てバンドを離れる面々が続き、2016年頃よりエルビー・スリーことロバート・ブッカー、エイジャ・グラント、マット・“マフユー”・バイアス、イライジャ・ローク・オースティン、バリ・ベースことオマー・ジャバリ・グラントの5名体制へ。ただ、少年時代からの友人のスリーとグラントの屋台骨は変わらず。それ以外も同級生や近所の友人という間柄ゆえ(MCでもスリーが「コイツは学校の時からのダチだぜ!」などと連呼)、雰囲気から仲間意識の強さは直ぐに伝わってきた。ちなみに、キーボードのエイジャとベースのバリ・ベースは弟と兄(これもスリーが「コイツら兄弟!」と叫んでいた)、ドラムのマフューはアフリカ・バンバータの下で名曲「プラネットロック」に関わり、ズールー・ネイションのオリジナルメンバーだったDJジャジー・ジェイの息子だ。

 2012年のアルバム・デビュー当初はソウル、ヒップホップ、ジャズ、ラテンほか多彩なジャンルを融合させた生音バンドということで、ザ・ルーツのフォロワー的な期待もされたが、ラッパーのダイム・ア・ダズンが抜けた影響もあったか、ソウル、R&B路線へ重心をシフト。生音によるヒップホップのビート感覚とコンテンポラリーなR&Bとフュージョン色あるユニークなサウンドを構築した結果、前述の“西のジ・インターネット、東のフォニー・ピープル”というキャッチフレーズにも見合うグループとなった。たしかに、2015年のアルバム『イエスタデイズ・トゥモロー』などを聴くと、その音鳴りは“フューチャーR&B”や“オーガニックR&B”あたり括られるもの。
 だが、冒頭の「エンド・オブ・ザ・ナイト」から「サムシング・アバウト・ユア・ラヴ」という流れを眼前で体感していくにつれ、音像としてはジ・インターネットのライヴァルというよりもザ・ルーツ寄りで、そこへR&B成分を増量させたという印象。ただ、ギターのロークとドラムのマフユーのエッジ感ある鳴りでも窺えるように、時折ロック・アクト的な趣きも見せたかと思うと、「テイク・ア・チャンス」などではピースフルなレゲエ・ロックを紡ぐなど、そのブレンド・センスはどこかブラック・アイド・ピーズ的(もっと言えばウィル・アイ・アムらしさか)なドライヴ感も覚えた。

 メロウな「クッキー・クランブル」などはヒップホップマナーを包含したR&Bバンドという近年の傾向が明瞭となりそうな楽曲だが、ステージにおいて彼らがその潮流に属さないと感じたのは、やはり野性を孕んだ生音バンドゆえ。特にステージ前方に歩み出たロークが全身を小刻みに震わせながらいななかせたスリリングなギターが、ネオソウルやアンビエントR&B路線のグループの楽曲群に直結しがちなアーバンなムードを容易く強調させず、彼らならではの独自のネオソウル・ヒップホップ・バンド然としたスタイルを顕示していたように思う。

 マイケル・ジャクソン「ユー・ロック・マイ・ワールド」のカヴァーなどにも、一筋縄にはいかないというか、ユニークなアレンジの妙が窺えるのは、その時のステージでしか成し得ない一期一会の“リアル”な音を生んでいるから。そして何よりも自然体で、溢れ出る幸福感が全編を支配。個々の陽気なキャラクターがそうさせているのだろうが(初めての来日という興奮もプラスされたか)、そのステージ上でのフレキシブルな音の解釈が観客の顔をほころばせていく。それこそが生音バンドの醍醐味であり、彼らの強みとなって、ハッピーなヴァイブスをフロアに生み出していく。観客の反応に気をよくしたスリーは、「ヤッター! ヤッター!」と日本語を連呼するほど。


 センチメンタルなメロウ・グルーヴ「ウェイ・トゥ・ファー」をはじめ、アニメ『ヘイ・アーノルド!』のストーリーをモチーフにしたという「ヘルガ」(スリーは「カートゥン好きかい? オレも!」とも言っていた)、「サムハウ」などを繰り出した中盤では、しっとりとネオソウルの旨味を抽出させたパフォーマンス。その間にアッパーな「コンプロミス」を挟んではいたが、比較的“聴かせる”ステージに。それをやや加速を緩めたと捉えるか、終盤のクライマックスへの充填や“溜め”とみるかは観客の嗜好にもよるところ。ネオソウル好きな自身としては、彼らのR&Bの解釈のスタイルを知るという意味でも、なかなか程よい構成だったと感じた。

 その流れからエイジャ・グラントのキーボードソロで深淵なサウンドスケープを描くと、壮大なスケールで愛を語る「ホワイ・iii・ラヴ・ザ・ムーン」へ。ロマンティックな佇まいから後半はローファイな演奏を伴ってコール&レスポンスを重ねながらフロアのヴォルテージを高めるエキサイティングな演出は、フロアの熱気の上昇とともに彼らの楽曲やパフォーマンスの質の高さを物語るものに。

 クライマックスは、アウトキャストを引用した後、“イチ、ニ、サン、ヨン”と日本語でカウントアップして始まった新曲(「メッシング・アラウンド」?……直前がアウトキャスト「ファンキン・アラウンド」ゆえ、タイトルで押韻した流れにしたか)から新作『モザイク』にも収録された「ビフォー・ユー・ゲット・ア・ボーイフレンド」へ。フロアの方々から発せられる“オーオーオー、アア、ナナナ、ナナナ……オゥー”のシンガロングが、微笑みのグルーヴとなっていく。
 シリアスで洗練されたというよりも、ロマンティックで庶民的な人懐っこさが滲み出るステージング。近所でつるんでいたガキたちが大人になっても夢を語っていようぜとでもいえそうな親和性に、ネオソウルをなぞるだけではないファンクネスと野性を発露させた、彼らの下地にある雑多な音楽性とそれを絶妙なさじ加減で融合し抽出する証左を垣間見せた60分だった。

 新作のタイトルは『モザイク』。小片を寄せ合わせた絵画のように、さまざまなジャンルや要素のピースを集めて独自の音楽性を構築する彼らのコンセプトを意図したようなジャケットも印象的だ。まだ初来日ということもあり、全てをこのステージで出し切ったとまではいかなかっただろうが、次の来日に繋がるに申し分ないパフォーマンス。「また日本に戻ってくるゼ」と何度も口にしていたが、社交辞令ではなく、近いうちの来日の予兆も。キャラクターの良さも手伝い、今後人気が高まる素地は十二分にある。次回はもう少し大きめのハコで、長めのステージを期待したいところだ。


◇◇◇

<SET LIST>
01 End Of The niGht
02 somethinG about your love. (*m)
03 Cookie Crumble. (*m)
04 Take A Chance.
05 You Rock My World(Original by Michael Jackson)
06 Way Too Far. (*m)
07 HelGa.
08 Compromise.
09 Somehow.
10 KEYBOARD SOLO
11 Why iii Love The Moon.
12 Funkin' Around(Original by Outkast)
13 NEW SONG(“messinG around”?)
14 Before You Get a Boyfriend. (*m)

(*m): song from album“mō'zā-ik.”


<MEMBER>
Elbee Thrie(vo)
Elijah Rawk(g)
Matt“Maffyuu”Byas(ds)
Aja Grant(key)
Bari Bass(b)


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