*** june typhoon tokyo ***

ikkubaru@新代田FEVER


 憧憬の地への到達と未来へ残した足跡。

 シティ・ポップやAOR、ニューミュージックと呼ばれた日本のポップ・ミュージックを愛してやまないインドネシアの4人組、イックバル(ikkubaru)の初となる日本ツアー“DUM-DUM LLP Presents IKKUBARU JAPAN TOUR 2015”の東京公演を観賞。福岡、神戸、大阪と経てのツアー最終公演だ。東京公演はNegicco、スカートとの3マン・ライヴ。会場は東京・新代田FEVER。

 イックバルはフロントマンのMuhammad Iqbal(vo,key,g)(イッくん)、Rizki Firdausahlan(vo,g)(イキちゃん)、Muhammad Fauzi Rahman(b)(アジちゃん)、Banon Gilang(ds)(バノやん)の4人組。tofubeats「水星」のカヴァーやEspeciaへ提供した「アビス」で話題となり、2014年秋には初となるアルバム『アミューズメント・パーク』(ディスクレビューはこちら)を発表。日本の音楽シーンでは時代を経て再評価の波は起こっているもののメインストリームとはなりえていないシティ・ポップをインドネシアの若い青年たち(大学生とのこと)が演奏するというトピックもあるが、実際に音を聴けば、その真摯なアティテュードと生半可ではない深い愛とともにしっかりと構築されたサウンドに、好事家たちが早い来日を期待していたのも頷ける。いわば、日本の地に足を踏み入れたかったメンバーたちと彼らの生の音を聴きたかったリスナー、相思相愛という形で彼らのツアーはスタートした。

 その最終公演。トップバッターのNegiccoのファンが大勢駆けつけ、フロアの熱量を一気に上昇させる。だが、Negicco終演後はフロアをいっぱいに埋めていた観客の多くがフロアを後にし、後方には緩やかな間隔のスペースが生まれていた。
 続くスカートは初見だったが、Negiccoとは異なり、30代、40代を中心とした女性たちの姿が多く集う。スピッツやcool drive makersあたりの作風の楽曲や、簡潔にいえば“暑苦しくないORIGINAL LOVE(田島貴男)”という感じのいわゆる渋谷系をルーツにしたサウンドを耳にし、集う女性陣の姿に「なるほど」と合点した。
 
 21時を刻みに向かおうとすると、ようやくこの日の主役のイックバルが登場。リーダーのIqbalが「今日ハお客サン多イネ」とシャイな表情を見せながら、アルバムのタイトル曲「アミューズメント・パーク」を奏でてライヴはスタートした。

 海外でのツアーという経験も多くないのだろう、連日のステージでリーダーのIqbal(イッくん)の喉の調子は正直あまり良い状態ではなく、ハイトーンやファルセットでは辛そうな場面が多くあった。ヴォーカル圧もそれほど感じられず、本来の彼のヴォーカルワークが堪能出来ずに終わったのは残念なところであった。
 それでも、音数を少なくしたア・カペラに近いアレンジで聴かせるパートなどではしなやかで瑞々しいスウィートな声を響かせていて、彼が持つ資質と表現力が垣間見られた。

 しかしながら、大きな発見だったのは、まずはもう一人のヴォーカル、Rizki Firdausahlan(イキちゃん)の存在だ。見た目は華奢な感じもするが、張りのある芯の太目な声質で、それでいてハイトーンは滑らかに聴こえるという自在性が魅力。Iqbalと足りないところをそれぞれで補完し合っているのがいい。今後はIqbalとRizkiが掛け合いをするようなコーラスやフレーズを用いた楽曲も増えていけば面白いかもしれないと感じた。

 次に、Muhammad Fauzi Rahman(アジちゃん)が鳴らすベースのファットな音だ。シティ・ポップだとウワモノ、つまりメロディや装飾音などの流麗さやアーバンな色彩に耳を惹かれるが、それがチープにならずにファッショナブルに聴こえるのは、しっかりとしたリズム・セクションが築かれているからこそ。その意味でこの日のFauzi Rahmanのベースは、当初はややリズムもズレかかっていたが見事に修正。“ボトム”という名にふさわしい低音を這わせ、黒さも感じさせるビートを提供してくれた。

 開演してまもなくはややリズムのズレも感じたが、即座に軌道修正。いわゆる著名な“外タレ”のバック・バンドでも“オレがオレが”という独りよがりな音を出すバンドマンもいなくはないが、この4人にはその手の杞憂はなし。ドラムのBanon Gilang(バノやん)もシャキシャキとしたビートを鳴らしながらも、メロディが心地良く映える音圧でリズムを刻んでいく。そのバンドの一体感がシティ・ポップやAORを鳴らす上で欠かせないブリージンなサウンドやメロウなグルーヴを削がない程よいコンパクトさを生んでいるのだろう。

 もちろん、息を呑むような超絶技巧や抜群のテクニックなどがある訳ではないから、演奏だけで観客を唸らせるということはないし、さらなるスキルの向上も必要だろう。ただ、そこにこだわることを主とさせない、好きな音楽を純粋に演奏して楽しめるという彼らのアティテュードが素晴らしい。その愛情は彼らの歌唱や演奏、そして曲間の何気ないしぐさや表情にも随時表われていたように思う。

 そして本国インドネシア以上に知名度があるという日本のファンのために、早耳のリスナーで話題となったtofubeatsの「水星」のカヴァーやIqbalが特に大好きだという山下達郎の「Your Eyes」を短いパートながらもアコースティック風に聴かせるなど、実に微笑ましいプレゼントも。アンコールで実現した澤部渡(スカート)、NegiccoとのSUGAR BABEのカヴァー「Down Town」もそうだが、いち早く日本のファンへ新曲を3曲(「ブライター」「ドゥ・ユー」「シューティング・スター」)も披露してくれた。今回限りで終わらない、再び日本へ新しい作品を持って演奏しにやってくる……というような気持ちがあったかどうかは定かではないが、そのように感じるほど、彼らのピュアな感情が伝わってきていた。

 本編ラストの「シー・ザ・スカイズ」の“パーパパッパー”のフレーズもどこか切なさを感じさせたが、Wアンコールのラストでの「ホントニホントニ……最後ノ曲」のフリから始まった「ラヴ・ミー・アゲイン」は、別れが近づくのが分かっていながらも残された時間を楽しみたいという感情が溢れたような心地に。アルバム冒頭曲であり、そのタイトル「ラヴ・ミー・アゲイン」を“再び私(たちの音楽)を愛してね”と意訳すれば、初めての日本での公演のラストの曲のメッセージとしては相応しいセレクトだった。

 スカートのステージのMCでフロントマンの澤部がイックバルについて「日本でも食えないジャンルなのに……インドネシアの人に悪いことしたようで申し訳ない」と冗談交じりに話していたが、シティ・ポップの良さを異国の人たちから改めて教えられた、そう感じた人もいたのではないだろうか。いい音楽、愛すべき音楽はボーダーレスに伝播する。そんなことが脳裏に浮かんだ、爽やかなステージだった。



◇◇◇

<SET LIST>

≪Negicco≫
01 トリプル!Wonderland
02 ときめきのヘッドライナー
03 1000%の片想い
04 クリームソーダLove
05 サンシャイン日本海
06 裸足のRAINBOW
07 二人の遊戯
08 パジャマ・パーティ・ナイト
09 BLUE, GREEN, RED AND GONE
10 Space Nekojaracy
11 自由に
12 光のシュプール



≪スカート≫
01 セブンスター
02 ストーリー
03 おばけのピアノ
04 ストーリーテラーになりたい
05 都市の呪文
06 ともす灯やどす灯
07 シリウス
08 すみか
09 スウィッチ
10 わるふざけ
11 返信



≪ikkubaru≫
01 Amusement Park
02 Highway
03 Chasing Your Shadow
04 City Hunter
05 Blue Waltz
06 Feelin' You
07 水星(Short ver.)(Original by tofubeats)
08 Star Guitar(Original by The Chemical Brothers)
09 Your Eyes(Short ver.)(Original by Tatsuro Yamashita)
10 Eternal Lover
11 Brighter(New Song)
12 See The Skies
≪ENCORE #1≫
13 Abyss(Original by Especia)
14 Do You(New Song)
15 Down Town(guest with Wataru Sawabe from Skirt, Negicco)(Original by Sugar Babe)
≪ENCORE #2≫
16 Shooting Star(New Song)
17 Love Me Again

◇◇◇









◇◇◇

 Negiccoのステージは2014年8月の9girls!(Negipecia)以来か。その時の記事にも「2010年代の“キャンディーズ”といっても不思議ではない、絶妙なトライアングルが存在している」と書いたが、益々その印象が強くなった。
 Perfumeは“平成のキャンディーズ”を目指して結成したという話を耳にしたことがあるが、曲風で言えば、Perfumeは少女隊をさらに進化させた形か。それに対し、Negiccoは正統派アイドル・グループのそれ。キャンディーズは歌謡界で絶頂を極めたが約6年で幕。Negiccoは広い認知度はないものの10年超のヴェテラン選手だ。その経験値を活かして、正統派ポップスの道を継承していってもらいたいし、関係者スタッフは彼女らに何とか大きなスポットライトが当たるようさらに努めてもらいたいものだ。

◇◇◇

ikkubaru - Amusement Park


ikkubaru - eternal lover


ikkubaru - "DOWN TOWN" SUGAR BABE COVER *DEMO


ikkubaru - アビス


 「アビス」を演奏する前、イッくん(どこか浦和レッズの興梠に似ている)は大阪では「Especiaノタメニ作リマシタ」と言ってたみたいですが、東京では「モナリノタメニ作リマシタ」とハッキリ言ってました。“もならー”なんだね。(笑)









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