*** june typhoon tokyo ***

Especia@渋谷CLUB QUATTRO




 成長と自信と新たなステップと。

 暗転してやおら流れる『GUSTO』の「Intro」。フロアから聞こえる歓声を自らの期待感へ上乗せしたようなやる気に満ちた表情でステージへ登場する頃には、すでにこの日のステージの成功が約束されたようなムードで包まれていた。
 2015年2月にミニ・アルバム『プリメーラ』でメジャー・デビューを果たしたガールズ・グループ、Especia。4月18日の“レコードストアデイ”に500枚限定のヴァイナル『Primavera』をリリースしたことで話題にもなった彼女らが、名古屋、渋谷、広島、梅田の4カ所のライヴハウス“クアトロ”を巡るツアー“Brisa de Primavera”を開催。その渋谷クラブクアトロ公演は、紆余曲折しながらも結束を高めた5名の自信と気概が感じられる充実したステージとなった。

 まず目に飛び込んできたのが新しい衣装。それぞれのメンバーカラーに合わせたところは従来と同様だが、漢字で“恵須篦死亜”のロゴが入っている。ヘアスタイルやメイクなども含めて、大げさな効果音を駆使する大映テレビが描く80年代の青春ヤンキー過剰演出ドラマの世界観と意識した?とでもいえるだろうか。ツアー毎など頻繁に歌パート割、ダンスやフォーメーションを変えてくる彼女らだが、ダンスもそれまでのグルーヴィなものから切れ味鋭いロック・スタイルなアクションがメインとなっていた。

 そのコンセプトが奏功したのか、この日最も目を引いたのが三瀬ちひろ。奇しくもMCの時に「歌、ダンスももちろんだけど、表情も見てほしい」と発言していた彼女だが、そのMCを待たずして冒頭から大きくそしてキレのあるパフォーマンスを展開。まだ冨永悠香、脇田もなり、森絵莉加よりはヴォーカル・パートは圧倒的に少ないが、それでも新たなパートを披露し、どこか吹っ切れたような動きで非常に強いインパクトを与えていた。ヤンキーというコンセプトにメンバーカラーのパープルがマッチしたという相乗効果もあったかもしれない。

 これまでEspeciaの現状を鑑みるに、メイン・ヴォーカルが執れる3名と三瀬ちひろ、三ノ宮ちかの間に少なからず歌唱力の差があるのは否めない。これが仮にモータウン全盛のベリー・ゴーディのような敏腕プロデューサーだったら、強引に「3人でデビューさせろ」ときっと迫るだろう。アイドルの中の“楽曲派”としてこれからもやっていくのならば、そこまでを求めなくていいのかもしれない。だが、ガールズ・グループとして長く生き残ろうとするのであれば、その命題は必ず突き付けられる。『プリメーラ』のライナーノーツにあった金澤寿和のギミックを含んだ観点からのコメントよろしく、楽曲派アイドルの楽曲は“本物の入り口”だと大上段から言うつもりもないが、どちらかというと刹那的なアイドルとしてではなく、パーマネント・グループとして活動してもらいたいというEspeciaに対する個人的な思いもある。楽曲が良いのはファンも充分承知しているところ。その良曲が、若さやアイドル性という刹那的な資質だけで埋もれてしまうのは非常に口惜しい。メンバーが出産、結婚などで一時的に5名を欠けて活動することがあっても、再び歌い踊る場所へと戻って、その時代ごとの味わいも含みながら長く歌い継いでいくグループ、そういうグループを目指してもらいたいという願いがある。
 その点で、個人的には三瀬と三ノ宮がどのように成長しているかは非常に気になるところだった。それが、こちらの予想を上回っての前述の三瀬のパフォーマンス。もちろん、歌唱力が一気に良化したとまではいかないが、それまでパフォーマンスもやや控えめに見えていたただけに、その成長ぶりの嬉しさと安堵が去来し、彼女の一挙手一投足や豊かな表情を知らず知らずのうちに追っている自分に気づくまで、しばらく時間が掛かるほどだった。

 また、冨永と脇田は経験を踏んで、歌うことの楽しさや難しい課題をクリアする喜びを知ってきたのか、非常に自信に満ち溢れた表情でのヴォーカル・パフォーマンスを展開。グループ全体のことを気にするあまり、自身の歌やパフォーマンスに時折戸惑いを見せたリーダーの姿はもうないといっていいだろう。脇田も迷わずに歌い切るという境地に達したのか、まずは楽しもうという感じが窺える。それがフロアを煽る余裕にも繋がっているようだ。 

 一方、やや心配だったのが森絵莉加の声。中盤以降でやや掠れ始め、終盤では辛そうな場面も。ダブルアンコールでの「We are Especia~泣きながらダンシング~」で森が観客を煽る、盛り上がるパートがあるのだが、それまでPAにいた若旦那がステージに乱入して、サプライズ・パフォーマンスを披露。これは森の声を気遣っての乱入だと感じた。
 というのも、最近急速にヴォーカリストとして伸びてきた彼女。さらに冨永、脇田に追いつけ追い越せという思いもあったのだと思う。この日も歌唱にも力を込め、強弱をつけるなど、単に上手く歌うのではなく表現するという気持ちが感じられた。ただ、ステージ序盤から気になったのが、メリハリをつけようとしてなのか、多少喉を駆使した歌い方をしていた点。終盤にその憂いが的中する形になってしまったのは、残念だった。
 これまで勢いで伸びてきたという部分も正直ある彼女。向上したいという気持ちは当然持つべきだが、焦って声を潰しては元も子もない。今後はしっかりとしたヴォーカル・ワークを身に付けていく必要があるだろう。

 さらに厳しいことをいうかもしれないが、これまで何度も語ってきたように、Especiaがより成長するためには、歌唱力、そしてグループの一体感が不可欠。そして、アイドル・グループではなく“ガールズ・グループ”と名乗る以上、歌で勝負が出来るようにならなければいけない。歌でメインを張れなければ、ダンスやトークなどそれに代わるものを身に付ける必要がある。それらが高い次元で一体化することで、グループとしてのクオリティが保たれるのだ。
 ゆえに、グループとしての一体感をさらに突き詰めることが今後の課題か。冨永のファルセット・フェイク、脇田のパンチ力あるヴォーカルは以前よりも格段に成長したが、それは“個”としてのもの。この日は『プリメーラ』収録曲を前半に、その後に既発曲を披露する形だったが、ノリのいい楽曲はいいとして、ミディアム~スローのしっかりとしたピッチが求められる楽曲では、ややコーラスで不安定さも散見された。それらは歌唱力のなさというよりも、表現力としての“しなやかさ”や持久力がやや不足しているだからだろう。マラソン同様、事前にいくつかのペースを想定してステージへ臨めているかというと、まだそこまでの器用さは見られない。

 その意味では、歌唱やソロ・パートも少ない三ノ宮ではあるが、自身とグループとを俯瞰出来るメンバー唯一の存在は彼女だろう。なかなか突出した見せ場もないが、最年長ゆえの経験値からか、良くも悪くも力の入れどころ、抜きどころを知っていて、パフォーマンスの質がそれほど前半から終盤まで落ちない。無論、その質をもっと高めることが求められるが、そういった術を各メンバーに浸透させることで、全体的なパフォーマンスの進化に繋がるのではないかと思う。

 本編を「ミッドナイトConfusion」2連発で締めた後は、シュテイン&ロンガーらのギターやサックスを加えたバンド編成でのアンコールを。正直全編バンド編成で通してくれと思った観客も少なくなかったはずだが、個人的には音源を流してのパフォーマンスとのステージング、見栄えの差は案外大きいとは思わなかったのは、この日の構成とパフォーマンスに充足していた証拠だろう。
 
 それに続いて新曲を2曲披露。角松敏生や杏里あたりを想起させるサマー・グルーヴィン・チューン「Boogie Aroma」と爽やかなアシッド・ジャズも透過したフュージョン系ファンク「Aviator」、どちらも心を躍らせるグルーヴが弾ける楽曲で、BONNIE PINKが「A Perfect Sky」でブレイクしたように資生堂「ANESSA」のCMソングにでも起用されたら、一躍注目されてもおかしくないキラー・チューンだ。これらが7月にリリースされる1stシングルになるという。パフォーマンスの仕上がりは他曲に比べて若干劣るところもあったが、オーディエンスが心地よくノれるグッド・テイストゆえ、精度を高めた今後のステージングに期待が持てそうだ。

 さまざまな注文をつけてはいるが、それは彼女らが一つずつステージを上がっているという証左に他ならない。当初は妄想に近い理想を掲げていた位置にいたのかもしれないが、現在は一つ上へのステップが明確に見えるところまで成長した。彼女たちの目にも「私たちならやれる」という自信がみなぎっているようだ。ただ、あくまでも到着地点はまだ先。慢心することなく、スタミナとスキルをつけていくことだ。常に比例曲線を描ける訳ではないことを知り、時には忍耐が必要なことも知ることだ。

 ダブルアンコールでの「We are Especia~泣きながらダンシング~」、確かに若旦那の“乱入”でヴォルテージは上がった。だが、それがなくとも、あの瞬間の熱気はO-EAST公演の時のものとは格段に違っていた。メンバーの歌唱に対して、手を挙げ声を出す観客たち。これまでにはそれほど肌身に感じなかったうねりのようなものが生まれつつある。決して大きく派手な一歩ではないが、大きな期待を孕ませる一歩を彼女たちは踏み出している。
 “夏がやってくる前にキレイになる”……まだ粒の粗さも残るスパイスガールがさらなる成長を遂げる夏は、もうすぐそこに来ているのかもしれない。



◇◇◇
 
<SET LIST>
00 INTRO(from GUSTO)
01 We are Especia~泣きながらダンシング~
02 West Philly
03 Sweet Tactics
04 シークレット・ジャイヴ
05 Security Lucy(IBM)
06 さよならクルージン
~MC~
07 アビス
08 X・O
09 雨のパーラー
10 アバンチュールは銀色に
11 YA・ME・TE!
~MC~
12 ナイトライダー
13 FOOLOSH(12”Extended Ver)
14 ミッドナイトConfusion
15 ミッドナイトConfusion(Pureness Waterman Edit)
≪ENCORE #1≫
16 海辺のサティ(va Bien Ver)(Guest with Hi-Fi CITY)
17 きらめきシーサイド(Guest with Hi-Fi CITY)
18 No1 Sweeper(Guest with Hi-Fi CITY)
~MC~
19 Boogie Aroma(New Song)
20 Aviator(New Song)  
≪ENCORE #2≫
21 We are Especia~泣きながらダンシング~(Surprise guest with 若旦那)

<MEMBER>
Especia are:
Haruka Tominaga
Chika Sannomiya
Chihiro Mise
Monari Wakita
Erika Mori

Hi-Fi CITY(Band)

◇◇◇












◇◇◇





◇◇◇

 ところで、冒頭のエアロビ姉ちゃんの看板が描かれた宣材画像なんですが、よく見ると“QUATTRO”の文字が“QUATRO”となっていて“T”が一つ足りないんですよね。ただ、Espeica界隈の人たちはこういうことをネタとしてわざと仕込んでくることも多々考えられるので、頭ごなしに「スペルミスじゃねーか」と言ってしまうと「オマエはユーモアがねぇなあ」と言われそうな気もしてちょっとモヤモヤしていたのですが(大袈裟?)、左側に柱があって全体を見通せないという残念な構造を除けば、今回のライヴは満足度が高かったので、今はもうどうでもよくなっています(なら言うなよ、と)。

 あと、写真がぼやけすぎていてすみません。いまだに携帯カメラを使いこなせない、自分の技術の限界です。










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コメント一覧

野球狂。
やっぱりミスだったんですね
>ヴェクサシオンチャンネルさま
またまたコメントありがとうございます。
あの画像…スペルミスだったのですね。わざわざ教えていただきありがとうございました。これでだいぶスッキリしました。(笑)
ヴェクサシオンチャンネル
あのクアトロの誤字、全通チケット特典のステッカーは修正されてたので、単なる誤字みたいです...冠ツアーになってるのに笑
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