「保育ナビ」という園長向けの月刊誌があります。
その中に「汐見稔幸」先生のエッセイがあります。
汐見先生は東京大学名誉教授を経て、現在、
白梅学園大学学長をされています。
専門は教育学、教育人間学、育児学。
臨床育児・保育研究会等もされています。
楽しみにしているエッセイです。
10月号のエッセイがタイトルの「フラッシュカードは
逆効果?」でした。
内容が興味深く、引用して紹介したいと思います。
「保育ナビ2014年10月号64~65ページ」
-引用始め-
日本の幼稚園、保育所などで1980年代から使われ始めた教材として「フラッシュカード」がある。早期教育の教材としてよく使われているものだ。例えば、4、5歳の幼児に難しい漢字を書いたカードを瞬間見せてすぐに次のカードに移っていくのだが、その瞬間に「バラ」とか「サクラ」とか、読み方を当てていく。
実際にやっている場面を見ると、子どもたちがどんどん憶えて、パッパと答えていくので驚く。2、3歳で行っている園もある。
早期教育は、このように上手にパッパと刺激を与えてやればよいのだということで、よく使われているのがこのフラッシュカードだ。
ところで、こういう教育を受けた子どもたちが、その後、知的にとても優秀になっていったということを実はあまり聞いたことがない。以前、ある個別のドリル型学習を提案している塾で幼児期に高校までの教材を終えてしまった子どもたちのその後を追った本が出たが、その子たちの多くが様々な課題を抱えてしまっていたことが明らかになった。フラッシュカードにはそうした弊害はないのだろうか。
そう思って調べてみると、同じ問題意識で調査を行っている人も世界にはいるということがわかった。例えば、脳科学者の澤口俊之氏は自身のブログで、
「(1)フラッシュカードをしていて、その能力が高い幼児(6歳児)ほど、反応抑制・自己制御力が低く、衝動性・多動性の程度が有意に高い(その相関はこの種の調査ではかなり強く、有意水準も1%以下である)。(2)フラッシュカード能力が高い幼児(6歳児)は、ToM(心の理論)をもたない傾向が有意にある。」
ということを発見した研究があると報告している。ToMというのは「心の理論」といわれているもので、要するに他人がどう考えているかを察する心の働きのことである。この機能が不十分だと、他人がいろいろなシチュエーションであれこれ思うことを的確に想像することがうまくできず、社会性が弱くなる。
他にも批判的な研究結果が特にアメリカでいくつか出ているが似た内容になっている。
どうしてフラッシュカードを早くから熱心にやると、反応抑制や自己制御力がうまく発達しなくなるのだろう。
考えられるのは、脳のシナプス回路(神経細胞同士の目的に沿った結びつき)の問題だ。
最近の研究で、シナプス回路は、経験によってどんどん増えていくのではなく、逆に必要のない回路を刈り取って、ある目的にそった行為ができやすくなるようにしているらしいということがわかっている。シナプス回路は1歳半頃に数がピークになり、その後無駄なところがうまく刈り取られて、合理的で流れやすい回路ができていくということがわかってきている。
フラッシュカードを幼い頃にどんどんやると、脳回路がそれに合わせて刈り取られていき、フラッシュカード的にパッパという反応はできるが、じっくりとあれこれ考えて選択していくという思考の回路の形成が妨げられやすくなる、ということではないかと思われる。
じっくり考えるというのは、ああでもない、こうでもない、こっちを選択すると○○はできるが、逆に△△は困難になるかもしれない・・・・・・・というようなことを粘り強く考えることで、そのための回路が刈り取られて、粘り強い思考回路がうまく形成できなくなる。
心の理論が育ちにくいというのもそういうことと関係があるのかもしれない。ともかく考えておかねばならないことだと思う。
-引用終り-
今日は年少クラスで実習生の設定保育がありました。
カラフルなお魚さんたちを作り、海に浮かべて色々な
海の生き物を釣り上げました。