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吉祥寺 「俺たちの旅」編 2

2024-04-26 08:28:00 | 小説「俺たちの旅?」

 その日の吉祥寺は小雨まじりだった。

結果的に、本拠地は吉祥寺に移動しなかった。正確にいうと、本拠地は小金井のままであった。 小生の通学定期の都合もあったが、小島さんのアパートは府中新町で、交通の便は圧倒的に国分寺か小金井が便利だった。それより何より、小島さんが小金井のダイヤモンドとの相性が戻った。

  その日は、クラスが一緒の大久保君と江藤君が一緒だった。

この面子はパチンコではないので、何をしに行ったのだろうか・・・

 寒かった。

近鉄デパートの最上階のレストランブースに讃岐うどんの店があり、うまい。

うどんをすすり、安いジャンパーを買ってサンロードに向かう。

12時前のサンロードは少し活気が出てきている。

「この前はこのあたりを中村雅俊が走ってたんだ」と小生が自慢。

二人は「ふーん」とさほど関心ない。伊勢丹の角を曲がろうとした時、伊勢丹とは反対側に人だかりが・・・

 現場はタバコ屋さんの前だった。皆、傘をさしていて、よく分からないが、カメラクルーがいる。「またロケか?中村雅俊なら、少し背が高いなぁ」と思うが、見つからない。

 暫く見ていると、通りに止まっていたワゴン車の中から女の人が、赤い傘をさして出てきた。

 そして、タバコ屋の赤電話の受話器を持って振り返った。

 少し離れていたが、ある事情で最近めがねを新調したばかりの小生の視線の先にはっきり捉えた。「岡田奈々だ!」と声に出したのは、私ではない。

 東京の親戚宅の“いとこ(女)“の同級生(堀越高校)に岩崎宏美がいて、最近、その、いとこ宅で、岩崎宏美まじえてトランプをして遊んだ。と自慢した江藤君が小さく叫んだ。

 俺たちの旅は、カースケ(中村雅俊)、オメダ(田中健)、グズ六(秋野大作)の3名を中心に展開する青春ドラマだが、オメダの妹役で岡田奈々が出ていた。

 この日はオメダ(田中健)に公衆電話から電話をかけるシーンだった。

「お兄ちゃん・・・・」「・・・・・」としか聞こえなかった。

  しかし、妹を故郷に2人残して都会の荒波を生きる小生には十分の出来事だった。

しばらくして、監督がOKを出し撮影は終わったようだ。

ロケ慣れしている小生は(前回の一回だけだが)、大久保君と江藤君が“ぼぉー”と見ている前で、近くのスタッフに「これ、いつ放送?」と聞いた。

翌日の小金井北口のダイヤモンドは気合十分だった。

景品コーナーに、岡田奈々の「青春の坂道」があった。

いわゆるシングル盤で、高校生でもレコード屋で小遣いで買えるのだが、それだけの事情ではなかった。

 小生はステレオを持っていなかったのである。(見栄をはるが、故郷にはVictorがあった)

そのうち好きなメーカーのコンポを揃える計画であるが、秋葉原に行く度に、欲しいコンポの値段が上がっていく。値上がりするのではなく、欲しいバージョンが変わっていくのである。

 スピーカーはダイヤトーンで我慢するか・・・アンプはパイオニアか山水じゃないとな・・・でも、チューナーはトリオかなぁ・・・プレイヤーはテクニクスでいいか・・・などと考えているが、欲しいスピーカーを買う金もない。

正月には帰省も、しなければならない。

 帰省を諦めることも考えたが、山陰の本田さんの実家に泊めてもらう約束もある。

さらに、「イカが目当てなら、冬場に来たほうが、美味しくて大量に食えるよ」という小生の言葉を信じて、冬休みに行かせてくれと、小寺君と西口君が小生の実家に来る予約もあった。

小寺君と西口君はこの冬休み、確かに船に乗ってやって来たが、その際、今でも大笑いとなる事件を起こす。しかし、これは本題ではない。

  話をもどす。

「青春の坂道」は買えばいいが、かけるステレオがなかった。

 この日も快調に午前中に一台止めて、2台目の最初の追加(500個ごとに、玉が台に新たに供給されること)で食事中の札を台に立てかけて、ポークジンジャーランチを食べにいった。小島さんに事情を説明すると、「そもそも、寮にステレオ置けるのか?」などと、まったく相談にならない。

 食事が終わり、長崎屋の電気コーナーへ行った。この手の店はメーカーのセットのステレオが置いてある。今のようなミニコンポではないが、その昔の家具調の時代は過ぎており、若干コンパクトだ。

「これでいいじゃん」と7万円くらいのナショナルを小島さんが指す。カセットこそ付いてないが、レコードは聴ける。

「えぇー!ナショナルですか?」

 このころ、日本のメーカーはオーディオのブランド名を戦略的に分け始めていた。

三菱はダイヤトーン、松下はテクニクス、東芝はオーレックス、日立はローディーなど、なんか高級感があり、音がよさそうな気がした。

 これらを、いいところ取りをしてオーディオを組むことが、カッコいいとされた。小生も少しは自慢できるセットにしたかった。でも、金がない。

 いくつか見ていると、ソニーのセットにスピーカーが4個ついている。

 「これは・・・4チャンネル」

憧れの4チャンネルだった。

 この仕組みは前に左右2つのスピーカーを置き、さらに後ろにも左右2つのスピーカーを置くと、さらに臨場感が増す。という触れ込みで有名であったが、実際見たのはオーディオ喫茶など、専門的にやっているところで、プロ仕様と思われるものであった。

 見ると、12万円という値札であった。「でも、全部ソニーじゃなぁ・・・」

  この日は練習日でなかったので、恐らく木曜だったのだろう。通常であれば、3時か4時で切り上げ体育館にいくのだが、6時くらいまで、パチンコ屋で粘った。まずまずの戦果だ。

 小島さんとマージャンしに行く前にもう一度、長崎屋へ。

 電気売り場は閑散としていた。

 「青春の坂道」のシングル盤はしっかり景品交換、あとは両替した。

  何かの時にと、定期入れに常時入れている3万円も含め9万円が手元にあった。

 一応、7万9800円のナショナルをもう一度、念のため(買う気はない)しかし、念のため、もう一度見ておこうということであった。

   男の店員が暇そうに接客した。

「これって、安くなる」と小島さんが店員に聞く。

「小島さん、買わないですよ」と小生。

「安くなりますよ」と店員。

1万円くらい値引いてもいいらしい。

へぇー、デパート(スーパーかもしれないが)って、値引きするんだ、と

思わず私も聞いた「あっちのソニーもまけてくれる?」

「いいですよ」と店員。やはり、1万円くらいは出来るという。

「でも、9万しかないんだ」と小生。

店員は意外なことを言った

 「いいですよ」

 斯くして、ソニーの4チャンネルは小生の部屋に運びこまれた。最初にプレイヤーのテーブルに乗ったのは、「青春の坂道」ではなかった。

こういう、イベント事は学生寮内での情報が早く、知らない人まで、集まってステレオを設置した。

 最後に4個のスピーカーの置き場所を確保し、配線が終わると、普段あまり会話もしたことのない物理学科の谷川さんが、「呪われた夜」をテーブルに乗せた。

(谷川さんは現在、某国立大学の教授だ)

あのリンダ・ロンシュタットのバックバンドの「イーグルス」か・・・と、中学一年になるとき、フジヨットの学生服を買うと、万年筆かラジオをもらえるという時に迷わずラジオを選択し、この年からオールナイト日本を聞いた小生は少しバカにした。

「おっ!このLP売れてるらしいね」と同室の北村もと寮長が言う。

 小生は以前も“はっぴいえんど”を岡林のバックバンドだ。と発言し、「キャラメルママ」という名前のグループの(のちのティンパンアレー)ファンから叱られ、あげくの果てには、“はっぴいえんど”解散後それぞれのメンバーが大活躍して、はじめて反省するなど、先入観にとらわれやすい性格だ。

 EaglesのLPレコードがテーブルの上で回りはじめた。プレイヤーに最初から付いているカートリッジは何故か、パイオニアだった。

 のちに名盤となるアルバムが、小生が長崎屋で12万円を9万円にまけてもらったソニーの4チャンネルで響きはじめた。「青春の坂道でなくて良かった」と、思うのに5分もかからなかった。

 歌詞カードを見ながら、3人ほどの先輩がふんふんと小声で歌っている。5曲目か6曲目が、Take It To The Limit だ。グリークラブの大森さんの声が大きくなり、他の2名も、それにつられる。谷川さんも歌詞を暗記しているのか、Take It To The Limitの大合唱となった。

  「青春の坂道」でなくてよかった。

  「9万円にしちゃ~、割といい音でるじゃん」「最初はこんなんで、いいんだよ」とか言いながら、オーディオマニアたちが部屋を出ていった。

だれもいなくなったので、そんなことをする必要はないのだが、小生はヘッドホンをステレオに差し込み、「青春の坂道」を聞いた。

 ちなみに、ホテルカルフォルニアはこの翌年だ。

 つづく



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