オリンピックのトリビア

古代・近代オリンピック、パリ五輪2024等について

デフリンピックと聾者の「声」 ...

2011-03-01 | オリンピック

 
2011年2月18日-26日に開催予定だった「第17回冬季デフリンピック」...
(場所:スロバキア共和国(slovenská republika)のvysoké tatry)

国際ろう者スポーツ委員会(*)は、
(*)英語: icsd:international committee of sports for the deaf
 (仏語: ciss:comité international des sports des sourds)
冬季デフリンピック組織委員会(スロバキア)の準備不足のため、
昨年2010年5月の時点で
開催取消のプレスリリース(2010年5月11日)を出していましたが...

2011年2月11日
一足早く現地入りした国際ろう者スポーツ委員会事務局長が
開催不可能と判断
国際ろう者スポーツ委員会は 改めて開催中止の報道発表(英語)を出し...

第17回冬季デフリンピック組織委員会(スロバキア)は
中止告知文を出しました...

開催中止決定+組織委員会委員長(*)逮捕後、
// 組織委員会委員長ruda氏は 横領で懲役13年の実刑判決へ(20110601)
元の頁は削除され、
google検索サーバー上の痕跡頁も削除されてしまったので、
その引用文を置いておきます...

直前まで改めて資金調達を試みたが果たせず、改めて開催中止を告知、等々...

2011年2月13日には、
国際ろう者スポーツ委員会の事情説明文(英語)が...

2011年2月14日には、
全日本ろうあ連盟デフリンピック派遣委員会が
上記2011年2月11日(日本時間12日)の決定に基づき、
2011年2月12日の委員会で日本選手団の派遣中止を決定したことを報告。
このことが、日本の一般メディアのニュース(日本語)にも少しだけ触れられ...

2011年2月21日には、
全日本ろうあ連盟デフリンピック派遣委員会による
報告とお礼が公開されています...

また2011年3月2日には、
全日本ろうあ連盟デフリンピック派遣委員会による
経過報告が公開されています...
1.大会中止の経緯について
2.国際ろう者スポーツ委員会の対応について
3.賠償金の問題について
4.今後の対応について



---


さて、上の一連の情報の中には
「デフリンピック」「ろう者」「ろうあ」等の言葉が出てきました...


ここで問題です...


問1.「デフ」「リンピック」の「リンピック」は「オリンピック」のこと...
    では「デフ」とは何でしょう(綴りと意味)...?? 






解答例:
「デフ」:「deaf」(英語)、意味「ろう者」...






問2.では「ろう者」の「ろう」とは何でしょう(漢字と意味)...??





解答例:漢字で「聾」。耳の聞こえないこと。
(「聾」の中には「耳」が入っています...)






問3.「全日本ろうあ連盟」の「ろうあ」とは何でしょう...??
(漢字と意味)





解答例:漢字で「聾唖」。聴こえないこと→話せないこと。
(「聾」の中には「耳」、「唖」の中には「口」が入っています...)


既に話せる人が聴こえなくなった場合、
聴こえなくなっても話すことができますが...

小さい時から聴こえない場合、うまく話すことは困難です...


---


以上の情報から、先ず、デフリンピックは、
聾者(聴こえない者)のオリンピックであること...

また聾者にとっては
「聴者社会における音声の処理」が問題となっていることが解ります...


---


問4.「オリンピック」を開催する国際オリンピック委員会は、
3つの「・・リンピックス」を公認しています。
ひとつは「デフリンピックス(聾者)」。では他の2つは何でしょう...?






解答例:「パラリンピックス(身体障害者)」
「スペシャルオリンピックス(知的障害者)」


因みに、
「障害者の社会参加促進等に関する国際比較調査」(内閣府2006年)によると
それぞれの認知度
「パラリンピックス」94%,
「スペシャルオリンピックス」12%,
「デフリンピックス」2.8% ...

「パラリンピックス」は
身体障害者の声を社会に届ける場としても機能しているようですが、
「デフリンピックス」は
「聾者の声」を社会に届ける場としてはそれほど機能していないようです...





問5.なぜ「デフリンピックス(聾者オリンピック)」は
オリンピックと同時開催の「パラリンピックス(身体障害者オリンピック)」とは
別枠なのでしょう?






解答例:「国際パラリンピック委員会が1989年に発足した当時、国際聾者スポーツ委員会も一緒に取り組むことが確認されましたが、国際パラリンピック委員会がデフリンピックの独創性について理解を深めなかったため、1995年に脱退せざるを得ませんでした。以上の経過により、パラリンピックにろう者の出場がない状況が続いています。なお、デフリンピックの独創性とは、コミュニケーション全てが国際手話によって行なわれ、競技はオリンピックと同じルールで運営される点にあります。また、パラリンピックがリハビリ重視の考えで始まったのに対し、デフリンピックはろう者仲間での記録重視の考えで始まっていることもあります。」(2004)

第20回夏季デフリンピック Q&A集(2004)より引用。
全日本ろうあ連盟スポーツ委員会デフリンピック啓発ウェブサイト(2010)
も要参照。



つまり...
「聴覚障害者」の
リハビリテーション(「聴者社会における音声処理」の焼付訓練)(*)」でなく、
聾者仲間」の「声」無しのコミュニケーション言語である
手話 (sign language(手に限られないしるし)(*))」の重視...

「聴こえない人が何らかの形で「声」を獲得すること」
 とりわけ「「手話 (sign language(手に限られないしるし)(*))を獲得すること」
を促すコミュニティ作りへの聾スポーツの一定の貢献...

→「手話人」の大会としてのデフリンピック

  といっても、聾スポーツコミュニティは、聾者だけの集まりではなく

  聾者も聴者もみんなが手話ができるわけでもない...

  cf.盲聾者(目が見えず 耳も聞こえない人)の触覚による触手話 指点字...

  cf.デフリンピック選手候補の競技環境と意識に関するアンケート調査報告書
    (2009 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター)
  手話のできる指導者のニーズ...




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「聾者」の(音声無しの)「声」としての
sign language (手話(手に限られないしるしの言語))について...

□例えば...

2010年12月9日公開の
第17回冬季デフリンピック山根団長, 太田副団長, 粟野総監督
映像による手話メッセージを見ると、音声がないことに気が付きます...
(音声なしの手話 + 書記言語)

国際聾者スポーツ委員会の報道発表映像にも音声は収録されていません...

例:2011年2月14日、
国際聾者スポーツ委員会の「international signs(*)」による
(*)「international signs (国際的しるし)」は「国際手話」等と訳され...
  地域の何らかの手話を身に付けた上で身につけるものとされる...
プレスリリース映像「pursuing legal action following failure of 17th winter deaflympics」


(*)デフリンピックスのサイト
赤いビデオカメラのマークは手話動画のマーク。
同じ動画は、youtube「国際聾者スポーツ委員会」チャンネル
youtube「deaf sports」チャンネル)にも...


□聾者ニュース「h3」(*)のニュース映像は、
(*)手話(+字幕)による映像ニュース「h3.tv」。
  中止になった「2011年冬季デフリンピックス」について、
  手話と書記英語で最も詳しく追っているニュースサイトのひとつ。

初めと終わりにタイトル音声が入っているので、
聴者の自分は、上記の映像と違って、ボリュームを確認しないで済む...

ただし、書記言語のない取材映像は、
手話を知らない自分には殆ど聞き取れない...

2011年2月13日と14日のニュース映像
(youtubeにあがっているh3映像の書記言語はスペイン語)






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(おまけメモ)ギリシア語 / 手話、オリンピック / デフリンピック...

様々な言語が話されるオスマン帝国の広大な領域の全域に住むギリシア人...
ギリシア人の母語ギリシア語は、
音声言語と書記言語とがせめぎあいながらもくっついた形で、
家族、地域、教会(特に正教会コミュニティ)、学校などを通して伝わっていく...
必要な人はギリシア語以外の様々な言語も身に付けていく...



「日本手話」や「american sign language」等の手話(sign language)は、

小さい時からの聴覚障害者が、
コミュニケーションを取るための声(音声言語)として
自然に機能しうる言語のひとつ(母語としてのsign language)...

必要な人はその他の手話や(cf.日本語対応手話、国際手話...)、
地域の書記言語、その他の様々な言語を身に付けていく...

既に話せる人が聴こえなくなった場合、その人は日本語の声を持っている。
→日本語の声を補うものとしての
  「口話日本語(日本語の読唇/発話)」や「日本語対応手話」の習得...



手話(sign language)は、
家族、地域、学校などを通して辛うじて伝わっていく...

   1.聴者社会とのバイアス。
     聾者に解らない聴者の言葉、聴者に解らない聾者の言葉...

    ・小さい時からの聾者にはよく解らない「音声語」の
     聾者への適用の歴史:「口話日本語」「日本語対応手話」等々...
     :聴こえないにも関わらず→(訓練によって)
       聴者に近い日本語を話すことや
       相手の口/手の形で相手の日本語を読み取ることの難しさ...

    ・何をしるしているのか聴者にはよく解らない「sign(しるし)」」を
     聴者の前で使うことへの、聾者の戸惑いと、
     肯定(万人に手話を)と...

   2.「手話人」を涵養する稀有な場の例...
    (そのひとつとしての聾スポーツコミュニティ...)
   
    ・家庭(両親あるいは片親がたまたま手話人の場合等)
   
    ・聾学校の休み時間、放課後、寄宿舎
     (今日では聾学校でなく普通の学校に行く子供が多い)
     (聾学校の授業では、手話禁止、先生も手話ができない、
       という時代が長く続いた...)

    ・手話が使われる/手話の聴者への普及のための 様々な集まり
     (地域や学校の集まり、宗教の集まり、スポーツの集まり...)
     普通の学校で手話を身に付ける機会の無かった「聴覚障害者」は、
     例えばここで手話を身につける...


「ギリシア語」「ギリシア(正教)文化」を旗印として
オスマン帝国に散らばって活躍していたギリシア人の独立を求める
文化人の声と共鳴する声...

「ギリシア人の領土」獲得と、度重なる戦争、内紛、多くの死者...
(「近代以降 今日も続く バルカン半島細分化過程」の初めの一撃のひとつ...)

ヨーロッパの母国としての「ギリシア」、
古代オリンピック開催地オリュムピアのある「ギリシア」への、
フランス人によるオリンピックイベントの再植付...




一方 聴覚障害者だけの領土は考えられないこと

「手話人の国」は聾者と聴者からなる

・聾者同士の結婚が多いとはいえ、聾者の子供は9割方聴者
 (詳しいデータが欲しいところ...:一般的なデータはこちら等)

・手話人のオリンピックイベント「デフリンピック」を頂点とする
 聾スポーツの指導者の多くは聴者




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参考サイト:
第17回冬季デフリンピック日本選手団ウェブサイト
デフリンピック啓発ウェブサイト



  


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