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小さき花-第8章~8

2022-11-01 21:17:05 | 小さき花

 私の希望についての話しに移りましたから、ついでに聖主が遂げさせてくださった今一つの変わった望みの事を申し上げましょう。この望みはちょうどかの着衣式の時に、雪を望んだような子供らしい望みであります。母様、綿日は花をいかほどに深く好むかという事をよくご存じで御座いましょう。私は15歳の時この修院の囲いの中に入ることを以って事後いつまでも春の宝ともいうべき、花に満ちている郊外をさまよう愉快を味わう事を犠牲としておりましたが、この「カルメル会修院」に入ってから後は、却って今までよりも多くの花を眺めることが出来ました。
 この世間の人々の中にその許嫁の男は許嫁の女に美しき花束を送る慣例があります。イエズス様はこれをもお忘れなく、私に立派な花束を与えてくださいました……。私は祭壇に飾るためにとか、菊とか、美人草など最も私の気にいるような花を、有り余るほどたくさん貰いました。この中に私の友として特に好きであった最も小さきナデシコがありませんでした。そしてこのナデシコは修院の花園にもなかったので、切にこの花を望んでおりました。ところが奇妙にもこの花が他かた送られてきました。天主はこれを以って、御自分を愛する為に全ての物に離れた人々に対しては大いなる事ばかりでなく、至極些細な事に至るまで、この百倍の報酬を与えるという事を示されたのであります。私は今一つの最も大切な希望……種々の事由によって果たされ難く、実行されにくい希望が残っておりました、これは即ち姉セリナがこのリジュの「カルメル会修院」に入って欲しい望みであったのです。然るにこれは余程難しい事であると思いましたので、この望みを天主様に犠牲として供え、この親愛なる姉の将来を全く主の聖慮に任せておりました。万一聖慮なれば彼女は世界の果てに行っても構いません……がどうかして私の如く、その身を全くイエズス様に捧げてその配偶者になるようにと望んでおりました、私はセリナがこの世間に於いて、私が知らなかった種々の危険の中にいるという事を見て如何にも辛くありました。また私は彼女に対しては姉妹の愛情よりもむしろ子に対する慈母の愛情に似ていて彼女の霊魂のために大いに案じ煩っておりました。
 ある日セリナは叔母や従姉妹らと共に、世間的の集会に行かねばなりませんでした。私はその時どういう理由かこれがために大いに心の苦痛を感じましたので、涙を流しながら「イエズス様に「どうか彼女がダンスをしないように」と熱心に祈りました。ところがちょうど私の願った通り、聖主はご自分の小さき許嫁が良い業を持っていながらその夜ダンスをしないように計らったばかりでなく、その相手もまた不思議がっている大勢の前で、この令嬢と共に至って慎んで出歩くよりほか、どうすることも出来ないように計らってくださいました。それでその相手も遂に恥じてその夜再び顔出しをしなかったそうであります。私はこの類例のない出来事によって、ますます天主様に寄りすがり任せるという思いが増長しました。そして親愛なるこの姉の額に、イエズス様の印影が明らかに置かれてある……聖主に選ばれているという事を確かに悟りました。
 



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