漫画と本ばかり読んでいる

漫画、本、日々の記録いろいろ

我らが少女A  髙村薫

2020-04-02 | 読書 ミステリー

(※文中であらすじとネタバレに触れます。未読の方でネタバレを避けたい方は留意なさって下さい)

合田雄一郎シリーズ。去年の7月発行。合田はん、警察大学校の教授になっとるし加納祐介は身体を壊してる…?で、相変わらずこの2人の生活と交流がストーリーの根底に流れる。

いいなあ、こういう関係性。病気とかしても親しい友人(友人以上ですけどここでは言及はやめときます)が側にいて話をして話を聞いてくれたら気持ちの還る場所があるんだろうなあ…と物語の登場人物にしばし軽く嫉妬。

まあ加納祐介は合田の宿舎の合い鍵を持ってて、留守の間にも洗濯やら掃除やらやってあげてた世話焼きなパートナー的な立ち位置だったんだから病気したらそりゃ合田も親身になって当然か。

合田と加納の関係に昂るのはこれぐらいにして…これに出てくる浅井忍という青年、彼って「マークスの山」に出てきた水沢裕之だよね?って中盤ぐらいでハタと思う。そして嬉しくなってきた。マークスの山の哀しき青年水沢裕之に形を変えてまた逢えた、と。

『スパーク』という表現。マークスの山の時は暗い山と明るい山が交互に来る…とされていたが本作の浅井忍も明るい側面と暗い側面を行ったり来たりする。上手いのは、序盤で超絶怪しかった浅井忍は読者に次第に違う顔を見せていく。本当にヤバかったのは悪意の無い浅井忍ではなく

後半で出てくるモテ男の広告マンのほうがよっぽど危険人物だった、という図式には唸ってしまった。「マークスの山」の水沢裕之はぶっ飛んだ殺人者だったが、「我らが少女A」における浅井忍は問題行動と強い凶暴性を現出させるものの、殺人には関わっていない。(無論ヤバいはヤバいんですが小説ですから周囲からの評価描写もあるので。)

件の変態広告マン玉置が犯人?いいややっぱりフラグ立ってるっぽい小野君か?と最後の最後まで思わせておいて、もしかして真弓か?雪子か?と髙村センセに翻弄される久々の快感。

もう途中からマークスの山が頭から離れなくて、記憶の穴を埋めようとかつての同級生たちの間をぐるぐる訪ねる箇所なんかもう。「ヤバい」と応援の気持ちが混同。ガラケーで撮った写真によって謎が解き明かされていく過程とか凄い。終盤で降壇した登場人物には果てしない悲哀を感じ、それから加納祐介が一応退院して良かった。合田は相も変わらず千葉のキャベツ農家に手伝いに行ってた。

最高でした、合田シリーズ。


スワン 呉 勝浩

2020-02-13 | 読書 ミステリー

湖名川シティガーデン・スワンという国内最大級の敷地面積を誇るショッピングモールで起こった事件

犯人らは死んだ、だがしかし事件はそれで終わったわけではなかった

それなりに色々ありそうな犯人たちのそれぞれの背景が語られるのだろうか?と無駄な憶測をしてみる読者(自分)の想像など決して届かないところに物語は着地する。

女子高校生たちの小集団の中での諍いとプライドの激突。複雑な感情の絡み合い。

被害者という立場でありながら、些細な行動から世間からバッシングされてしまう過程。

真実を解き明かしたいという理由で、死亡者の遺族が開くお茶会がもたらす混沌。

終盤、別の事件の犯人が判明しページを繰って登場シーンに戻る!この人かー!

バレエ作品の白鳥の湖と、スワンをモチーフにしたショッピングモールの重なり。更には黒鳥のオディールと白鳥のオデットの対比が為されて

語り役の子と同級生の子はそれぞれ白鳥なのか黒鳥なのか…

最高に面白い作品でした。

登場人物が多くてめげそうになるけれど、読後感は満足。


宮部みゆき「昨日がなければ明日もない」感想パート2

2020-02-13 | 読書 ミステリー

「華燭」篇で心に残った言葉

『人は誰もが独り、時の川をボートを漕いで進んでいる。だから未来は常に背後にあり、見えるには過去ばかりだ。川沿いの景色なら、遠ざかれば自然に視界から消えてゆく。それでも消えないものは、目に見えているのではなく心に焼きついているのだ、と。』

「昨日がなければ明日もない」篇より

この作品では「絶対零度」で杉村三郎の前に現れた警察の立科警部補が再登場してくる。しれっといつのまにか侘助の常連になっていて

物語終盤で杉村三郎はある場所に行く時に警部補を伴う。

『もう無理です、もうできない、もうたくさんだ。うんざりだ。力尽きてしまった。「わたしを追い詰めている〈昨日〉は、すべて◯がやらかしたことなのに。わたしは一度だって自分の昨日を選べなかったのに」

容疑者を車に乗せ立科警部補がひとこと『あなたもしっかり頑張りなさい、探偵」

杉村三郎の次なるバディは立科警部補か


昨日がなければ明日もない 宮部みゆき 

2020-02-10 | 読書 ミステリー

どうでもいいことなのだが本がものすごく早く読めるようになった。量を読みたいからいいことだ。人物と出来事、ポイントだけ拾ってざっと表にする感じ。

宮部みゆきの杉村三郎シリーズ。いや〜さすがに読み応え抜群。自分の感覚だと『模倣犯』に出てきた犯人のゲス度に匹敵するレベルの悪人が出てきて自分的「イヤミス」作品のカテゴリーに入れたい。

「絶対零度」「華燭」「昨日がなければ明日もない」の三遍。イヤミス度が高いのは絶対零度。

杉村三郎シリーズのお馴染みの展開として、自首するという登場人物に杉村三郎が何か食べさせるシーンというのが過去作にも出てきて、今作でも侘助のマスター作のあったかい喫茶店メニューがその善き人物の心も胃袋も暖める。(マスターは、杉村三郎が今田コンツェルンを辞めた時自分も店を畳んで引っ越し先の近所に店を開店したのだ)


伊岡瞬 「不審者」 集英社

2020-02-04 | 読書 ミステリー

いや〜これは作者にしてやられた。読了後に何度も前のページに戻って「このシーンはこうだったのか…」を繰り返す。

久々にどっしりとした満足感を味わった。語り手の里佳子は既婚者で一児の母、在宅で校正と校閲の仕事をしている。まだ幼い息子を育てる平凡な毎日に、とある人物が入り込んでくる。その人物に胸騒ぎを覚える里佳子。
 
構成が絶妙で、里佳子が校閲している作品のワンシーンやあらすじが
作品世界とリンクする形で時折カットインしてくる。ちなみに冒頭は、その小説世界の記述から始まるので
読者は最初から作者の目眩しに合ったような心持ちにさせられる。
 
犯人は、自分の親に冷徹なまでの嫌悪感をもって生きてきたのだが
唾棄するように心の中でこう思う箇所がある
『認めたくないことは見なかったことにする人間がここにもいた』
 
「風は吹いているか」の問いかけが二回出てくる
二度目の問いかけに答えが「今日はほとんど吹いていない」だったのが哀しい。
吹いていて欲しかった。
ニーチェの『怪物とたたかうものは、それが故に自身が怪物にならぬよう用心せよ
お前が長く深淵を覗き込む時、深淵もまたお前を覗き込む』という言葉が意味を持つ本作においては
風が吹かないほうが似合っている。