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え? 『白墨の輪』のお話は、あの『大岡裁き』?

2017-07-01 22:52:00 | インタビュー

さて、まだこの作品を見ていない方には申し訳ありませんが、先にネタばらしをしてしまいます(スミマセン!)。

ブレヒトの代表作の一つ『コーカサスの白墨の輪』
実は、このお話のメインのエピソードは、なんと、あの「大岡裁き」で有名な、子どもをめぐって争う二人の母親を裁くお話なのです。

二人の母親が子どもの両手を、ちょうど綱引きのように互いに引っ張りあって決めることになりましたが、手を無理やり引かれて痛がる子どもが不憫で、つい手を離してしまう方の母親こそ「本当の母親」って認められるというやつです。

でも、この「大岡裁き」には元ネタがあるのです。

実は、この大岡裁きの話は、中国の『灰欄記(かいらんき)』という戯曲に書かれたお話から来ています。

『灰欄記』の「灰(かい)」とは石灰、「欄(らん)」は輪っかを意味し、直訳すると『石灰で書いた輪』なので、ほぼ『白墨の輪』ですね。(そう言えば小学生の頃、運動会とかがあると、グラウンドにこの石灰で競技場のラインとか引かされましたっけ。あれ? そういう経験ってありませんか?)

で、ブレヒトが『コーカサスの白墨の輪』を書く際に参考にしたのは、この『灰欄記(かいらんき)』を下敷きにしてドイツで上演された、別の作家の『白墨の輪』なんだそうです。

ブレヒトは、1944年、亡命中のアメリカで『コーカサスの白墨の輪』を書き上げていますが、実はその3年前に、舞台を自分の生地ドイツのアウグスブルクに、時代を30年戦争の時代に移して、短編『アウグスブルクの白墨の輪』を書いています。
この作品の中で登場する裁判官は、のちの『コーカサス…』に登場する”悪徳裁判官アツダク”に比べると、わりとマトモというか、体制側の人間なのだそうです。(スミマセン、『アウグスブルクの…』はまだ読んだことがないので、この辺は完全に受け売りです。)

「でも、いくら男気の強い人間だったとしても、体制側の裁判官が、生みの母親より、愛情をもって育てた女に親権を認める判決をくだすなんて、どこか無理があるな…」

そう考えたブレヒトは、次の『コーカサス…』では、国王軍とクーデター軍の争いが続く中、たまたま生まれた無秩序な期間に、たまたま裁判官をやる羽目になった男(アツダク)に、この役目をやらせます。

旧約聖書にさかのぼる『大岡裁き』

少し本題から逸れましたね。

で、このお話はさらに、旧約聖書の中のお話にまでさかのぼります。

皆さんは『ソロモン王』とか『ソロモン王の知恵』って、耳にしたことはありませんか?

ソロモン王とは、旧約聖書に描かれる古代イスラエルの王様で、神様からこの世の中の誰とも比べられないような「優れた知恵」を授けられ、古代イスラエル王国を大繁栄に導く伝説の王様です ( 旧約聖書「列王記」所収 )。

で、ソロモン王が神様から知恵を授けられた直後に、ソロモン王の優れた知恵の証として描かれるエピソードが、この「母親を決める裁判の話」なんです。というか、具体的なエピソードとして描かれるのはこれだけなので、正直ちょっと、「え? それだけなの?」という感じはしちゃいますが…(スミマセン)。

ただ、古い時代のお話なので、ちょっと描き方が強烈、というか極端です。

なんと、ソロモン王は、「剣を持ってきて、この子どもを二つに切り裂き、二人の女に分け与えよ!」と命じます。

本当の母親ではない方の女は「では、その子どもを半分に切り裂き、私たちに平等にお与えください。」と言うのに対し(ふつう言うかなぁ? そんな無茶苦茶なこと…。)

その裁きに驚いた、本物の母親は「わが君。どうかその子どもをあの女に与えて下さい。子どもを殺さないでください。」と頼みます。

それを聞いたソロモン王は、「子どもを切り裂くのは止めよ。この女こそ、この子どもの本当の母親だ。」と裁定をくだすのです。

まあ、「子どもの親権」については、古くから問題にあげられていたということでしょうか…。


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