ベン・ノートン(Ben Norton)
Geopolitical Enocomy Report
2025年3月30日
ドナルド・トランプの政策は、裕福なエリートを利し、それ以外の人々を犠牲にしている。 彼の政権には13人の億万長者がおり、富裕層には減税し、貧困層には増税している。
ドナルド・トランプは2024年の米大統領選に立候補した際、労働者階級のアメリカ人を支援すると約束した。マクドナルドでファーストフード店の店員になりきって写真撮影をしたこともあった。
しかし、ホワイトハウスに戻ったトランプは、彼の政策が国民の大多数ではなく、ほんの一握りの億万長者オリガルヒに奉仕するものであることを明らかにした。
トランプは13人の億万長者を政権のトップに任命した。パブリック・シチズン(Public Citizen)が報告したように、これはトランプ政権がアメリカの富裕層の1%どころではなく、0.0001%の富裕層を代表していることを意味する。
世界一の富豪イーロン・マスクを含むトランプ政権の億万長者たちの総資産額は、2025年1月時点で4600億ドルを超えている。
トランプは就任式に世界最強のオリガルヒを招待した。シリコンバレーのビッグテック企業の億万長者CEOたちが閣僚たちと同席したのは象徴的である。
そして就任からわずか数時間後、トランプはさらに3人の億万長者オリガルヒをホワイトハウスに招き、その中にはOpenAI CEOのサム・アルトマンも含まれており、人工知能に関する記者会見を行った。
大統領に就任したトランプは、世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOをはじめとする億万長者の支持者たちと定期的に会合や電話会談を行っている。フィンクは自らトランプに電話をかけ、ブラックロックのパナマ運河両岸の港の購入を支援するようにホワイトハウスに要請した。
汚職:マネーロンダリング、贈収賄、暗号詐欺を後押し
ドナルド・トランプは米国大統領として、裕福なエリートのために、実質的に腐敗を押し進める一連の大統領令を可決した。マネーロンダリング防止法を廃止し、贈収賄を禁止する法律の施行を打ち切った。
トランプは大統領令の中で、贈収賄を認めることは「アメリカとその企業が世界中で商業上の戦略的優位性を獲得する」ことにつながると自慢した。同様に記者団に対しても、汚職を認めることは「アメリカにとってより多くのビジネスが生まれることを意味する」と語った。
ホワイトハウスに返り咲く数日前、トランプは自分の名前を冠したミームコインを発売した。ロイター通信によると、$TRUMPコインの背後にいる人々は、わずか2週間でおよそ1億ドルの取引手数料を稼いだという。トランプは就任式のわずか3日前の1月17日にミームコインを発売した。すると、その価値はすぐに上昇し、その後3分の2まで下落した。このミームコイン・スキャンダルで皮肉だったのは、トランプが自らの支持者を利用していたことだ。トランプの暗号スキームに投資した81万人が損失を被り、その総額は20億ドルに上った。
富裕層には減税、それ以外は増税
こうした富裕層擁護と貧困層排斥の政策は、ドナルド・トランプが1期目に追求したのと同じ脚本に基づいている。
2017年、トランプは富裕層と企業への減税を行った。2018年現在、米国で最も裕福な4,000億万長者世帯の実効税率は、貧困層や労働者階級の米国人の下半分よりも低い。2024年の大統領選に立候補した際、トランプは富裕なエリート層への減税を継続すると宣言した。税制経済政策研究所(Institute on Taxation and Economic Policy)のエコノミストたちは、トランプ大統領の2期目に、増税の対象となる最も足る階層は貧困層と労働者階級で、富裕層は減税になると試算した。彼らの試算によると、アメリカ国民のうち、5%の富裕層は約1.2%の減税となるのに対し、20%の貧困層は平均4.8%の増税となる。
トランプは関税を大幅に拡大しようとしているが、これは貧困層や労働者階級のアメリカ人にとってマイナスの影響を与える。関税は輸入品に対する税金であり、アメリカは中国、メキシコ、カナダなどから多くの消費財を輸入しているため、本質的には消費に対する増税である。貧困層や労働者階級は、給料のうち消費財や食料品、基本的な生活必需品に費やす割合が、富裕層よりもはるかに高い。もし金持ちが数百万ドルの富を持っていて、さらに100万ドルを手に入れたとしても、それ以上の食料品や消費財を買うことはないだろう。彼らの限界消費性向は低い。
ぎりぎりの生活をしている労働者階級が賃上げを受けた場合、食料品や消費財にもっとお金を使うだろう。彼らの限界消費性向は高いのだ。つまり、関税の負担は貧困層や労働者階級のアメリカ人により大きくのしかかることになる。
言い換えれば、トランプは実質的に労働者階級に増税し、富裕層を減税しようとしているのだ。トランプ政権は、大多数の労働者階級から少数の富裕層への富の移転を行っている。
税制経済政策研究所の試算によると、アメリカ人の1%のエリートに属する平均的な富裕層は36,320ドルの減税となるが、下位95%は増税となり、中間層の負担が最も大きくなる。
この調査は、トランプ税制が今後どのような影響を及ぼすかを予測したものである。2017年1月から2021年1月までのトランプ大統領の1期目の政策の分析でも同様の結論が出ている。
Center on Budget and Policy Priorities(予算政策優先度センター)の報告書は、トランプの2017年税法の影響を調べた結果、1%の富裕層は61,090ドル減税されたが、20%の貧困層は70ドル減税されただけであったことを明らかにしている。
トランプは、第一期政権時に、貧困層や労働者階級のアメリカ人を含むすべてのアメリカ人の税金を減らしたと言った。この主張は厳密には間違っていないが、非常に誤解を招きやすい。裕福なエリート層は、国民の大多数よりもずっとずっと高い減税を享受していた。
これは金額だけでなく、増減率も同様である。
トランプによる2017年の税制により、アメリカ人の富裕層5%の税引き後所得は約3%増加したが、貧困層20%の税引き後所得はわずか0.4%しか増加しなかった。中間層の税引き後所得は約1.4%増加した。要するに、トランプの政策は主に金持ちのエリートに恩恵をもたらしたのである。
反貧困団体オックスファムの2025年の報告:
米国の億万長者の税率は、ほとんどの教師や小売業従事者よりも低い。労働による所得よりも、資産所得を優遇する税制と、多くの租税回避戦略のおかげで、私たちの中で最も裕福な人々は、ほとんどの勤労者世帯よりも連邦政府に支払う所得の割合が少なくなっている。
以下はその結果である:
2024年、億万長者の富は1兆4,000億ドル(1日あたり39億ドル)増加した。新たに74人の億万長者が誕生した。
2021年のホワイトハウスの調査によると、米国で最も裕福な4,000の億万長者世帯の連邦個人税率はわずか8.2%だった。同じ年の平均的なアメリカ人納税者は13%であった。
プロパブリカ(ProPublica)によるリークされた納税申告書の調査は、アメリカの富豪25人が2014年から2018年にかけて136億ドルを納税したことを明らかにした。
富裕層と企業に対する米国の過去の税率
トランプと彼の億万長者の仲間たちは、税金が高すぎるとよく文句を言う。しかし、米国の歴史の大半を通じて、所得税の最高限界税率はもっと高かった。第二次世界大戦中の1944年と1945年の最高限界所得税率は94%だった。1950年代から60年代初頭にかけては、アメリカ資本主義のいわゆる「黄金時代」であり、強力な中産階級を育てたと称賛された時代であった。1970年代に入っても、アメリカの富裕層の所得には70%前後の税金がかけられていた。富裕層への課税を70%から28%へと大幅に引き下げたのは、1980年代のロナルド・レーガンだった。トランプはレーガンの親エリート政策を引き継ぎ、2018年には所得税の最高限界税率を37%に引き下げた。(ただし、これらの所得税は、富裕層の富の多くが、通常の所得ではなく、彼らが所有する資産のキャピタルゲインによるものであるという事実を考慮していない)
削減されたのは富裕層の個人に対する税金だけでなく、法人に対する税金も同様である。1950年代、60年代、70年代の法人税率は48%から53%だった。繰り返すが、これはアメリカ資本主義の「黄金時代」だった。レーガンはこれを34%に引き下げ、トランプは1期目に21%に引き下げた。2期目の今、トランプはこれをさらに引き下げようとしている。
米国政府が法人税から得てきた歳入を見ると、GDPに占める割合は着実に低下している。1950年代、法人税収入はGDPの約5%を占めていたが、1960年代には約3.5%に減少した。1970年代にはおよそ2.7%にまで減少した。レーガン政権下では最低の1%に達した。現在ではGDPの1.6%である。
※チャートやグラフ等は原文を参照のこと。