力不足でした。
敗因は自分でよくわかっておりますが、今の自分の体で可能なことは全てやり切ったので、後悔はありません。
とはいえ、一票をお預けいただいた方々には、貴重な一票を死票にしてしまったことを、深くお詫びします。
力不足でした。
敗因は自分でよくわかっておりますが、今の自分の体で可能なことは全てやり切ったので、後悔はありません。
とはいえ、一票をお預けいただいた方々には、貴重な一票を死票にしてしまったことを、深くお詫びします。
ひきたの政策、船中7策です。
あなたの一票があれば、どれも実現できます。
1-1:議員定数を削減しましょう。
1-2:物見遊山の議員視察を廃止しましょう。
1-3:議会での議論をわかりやすく伝えましょう。
1-4:議場を有効活用しましょう。
2-1:「お役所仕事」の実情を知らせましょう。
2-2:行政改革の手段をまちがえないようにしましょう。
2-3:人材育成の仕組みを作りましょう。
2-4:人材再生の仕組みを作りましょう。
3-1:人口減少時代の、地域のチカラとは。
3-2:商売の素人が大企業誘致を叫んでも…。
3-3:教育を通じて、新しいふるさとを作りましょう。
3-4:子どもたちには、生きる力を身に付けさせましょう。
4-1:荒れた畑が目立ちませんか。
4-2:農地のバトンを落とさずつなぎましょう。
4-3:「新しい農家」を惹きつけ、選ばれる地域になりましょう。
4-4:政策は農地だけでなく、一気通貫で。
5-1:さかさまのシルクハット、衰える林業。
5-2:山と川はいずれ再び牙をむきます。
5-3:まず、山に目を向けましょう。
5-4:市産材の市内利用、これぞ真の地産地消。
6-1:市内の7軒に1軒以上がすでに空き家です。
6-2:なぜ空き家は増え、棚ざらしになるのでしょう。
6-3:空き家をほぐす仕組みが必要です。
6-4:縮小時代を乗り切るためのまちづくり。
6-5:空き家リノベーションの実例。
7-1:新型コロナの第三波が来ています。
7-2:現場の方々に敬意と感謝を表します。
7-3:コロナ以後の、新たな日常。
7-4:飛んできた未来をつかみましょう。
選挙戦最終日、最後のお願いです。
どうか、みなさんの切実な願いが込められた一票を、ひきたにお預け下さい。
必ず、南アルプス市の遅れを取り戻し、未来の日本のふるさとを、ここにつくってみせます。
最終日の政策は、いまみなさんを最も脅かしている「新型コロナウイルス」についてお話したいと思います。
■7-1:新型コロナの第三波が来ています。
新型コロナウイルス(COVID-19、SARS-CoV-2)感染流行の第三波がはっきりと観測され始めました。
残念ながら予想通り、気温と湿度が下がるにつれて、感染者が急増しています。
大都市圏はもとより、山梨県でも、人口当たりの感染者数としては全国でも上位の数字が出てきています。
これまで、4月には第一波、8月には第二波が来ましたが、今度の第三波は間違いなくそれを上回る感染規模になります。
これまで国内ではあまり主流になっていなかった、欧米で変異した強毒型のウイルスが増える展開、季節性インフルエンザとの同時流行、それらによる医療体制のパンク、といった心配があります。
どうかお体を大切に、お気をつけてお過ごしください。
マスク、手洗い、3密回避についてはみなさん特にご注意なさっておられるでしょうが、それに加えて屋内の換気を、ぜひ普段以上に行っていただくよう、お願いいたします。
明日の投票日、投票所にお越しの際も、マスクは鼻までしっかりと。
他の方と距離をとって、投票していただければ幸いです。
消毒液のご用意や、換気については選挙事務の方がちゃんと準備されていますので、ご心配なく。
■7-2:現場の方々に敬意と感謝を表します。
コロナ対策としては、日本政府の対応が感染拡大防止に役立っている、あるいは日本人はすでに集団免疫を獲得している、とする論調も見られますが、おそらく誤解だろうと私は考えています。
アジア系の人はまだ死亡率が低い、ということは言えるかもしれませんが、結局は、医療現場の最前線で戦っておられる方々や、介護・福祉の現場で神経をとがらせて守備に努めておられる方々の努力によって、いまは他国よりもいくらか良好な均衡が保たれている、というのが正直なところではないでしょうか。
コロナウイルスはRNA(リボ核酸)の1本鎖からなっており、きわめて変異しやすく、その性質を「つかまえる」ことが難しい病原体です。
4月になんとか食い止められた時のウイルスと、その後アメリカなどで猛威をふるったウイルスは、別物と言えるほど性質が変わってしまっています(下の系統樹図はnextstrain.comから。青がアジアでの検出株、赤が北米、黄が欧州)。
ですから、開発されたワクチンも、今後継続的な効果が期待できるかどうかは全く不明です。むしろ、ワクチンによる味覚・嗅覚などへの副作用が無いことを、しっかり確かめていただきたいと願っています。
今後、コロナ禍が「いつ収束するか(感染に歯止めがかかるか)」については、2年という意見もあれば、地球人口の2割以上が感染するまで収束しないという説もあり、確からしい見通しがほとんどありません。
収束ではなく「終息するか」ということで言えば、私たちが生きているうちにすら、終息しないと考えるべきかもしれません。
100年前にスペイン風邪として世界で5000万人以上の命をうばったインフルエンザウイルスが、形を変えながら季節性インフルエンザとして毎年流行し、今も新型コロナウイルス以上の犠牲者を出していることを考えると、残念ながらありえることです。
■7-3:コロナ以後の、新たな日常。
このような100年に1度の状況にあって判断を下していくのは、大変難しいことです。
けれど、変わってしまった社会のあり様にあわせて、生き方、働き方を可能な範囲で変えることは避けられません。
これが「新たな日常」なのですから。
堺市では、市役所ウェブサイトに、コロナ禍に関係するたくさんの施策を一覧できるようにしています。規模の大きい自治体とはいえ、非常に意欲的なお仕事です。
南アルプス市でも、まずコロナ禍関係の国・県・市の施策をもう少し整理することは必要でしょう。
そして、ほんの少しではありますが、コロナ禍のおかげで良い影響が生じている面もあります。
巣ごもり需要や、テイクアウト・ドライブスルー需要をうまくキャッチした産業は業績をのばしました。
大企業や、先進的な職場では、テレワークが一気に普及しました。
イベントや会議は、オンラインで行うことが今後も増えるでしょう。
これらは、もう少し先だろうと予想されていた未来が、突然走り出して勢いよくぶつかってきたようなものです。
ぶつかられた私たちは痛みに目を回しますが、ぶつかられただけで終わるか、これをチャンスとして未来をつかむかは、それぞれの判断に委ねられています。
■7-4:飛んできた未来をつかみましょう。
たとえば、首都圏でテレワークに慣れてきた人の中には、もはや1週間に1度だけ東京の会社に出社するだけなので、いっそ首都圏に隣接する山梨に移住しようか、とまで考えている人も出てきています。1年前にはほとんどなかった動きです。
もちろん、南アルプス市の中にも、テレワークで働く環境をすでに活用していたり、導入を検討されている事業者の方がいらっしゃいます。
感染症対策を徹底することはもちろんですが、この機会にそうした人々のニーズに応えて、南アルプス市で美しい自然に囲まれた「新しいコロナ後の生活」を、他の自治体に先駆けて提案していくことはできないでしょうか。
国は、早くも来年度から、テレワークで東京の仕事を続けつつ地方に移住した人に最大100万円を交付し、あわせて地方でIT(情報技術)関連の事業を立ち上げた場合は最大300万円とすることを打ち出しています(9月25日付、日経新聞)。
地方公共団体が住民のテレワーク環境を整えるための交付金制度も新設し、費用の最大4分の3を助成するとのことです。
是非とも、これにあわせた施策を、急ぎ検討して南アルプス市方式の人材獲得・財源確保につなげましょう。
あるいは小規模な自治体の中には、コロナ禍をきっかけに、各家庭へデジタル機器を普及させ、少ない職員で今後の福祉事業などを推し進める力にしようと検討しているところも、いくつかあります。
南アルプス市で行うとすれば、どのような形が適しているのか、果たして効果があるのか。
こうした、「未来をつかむ」ための議論を、12月議会から早速始めたいと考えています。
選挙戦は、あとわずか。
「そんな選挙のやり方で通るわけがない」「お前はバカだ、勝つ気が無いのか」というお叱りのお声もいただいております。
本人はいたって真面目に、人にお会いしたり、電話をかけたり、こうやって政策をつづったりしているのですが、何しろ前例の無いことで、そう言われるのも仕方ないとは思います。
自分でも、これで当選するのか皆目わかりません。
けれど、私が市民として議員に望むのは、こういうやり方です。
同様に考えておられる方が、きっといらっしゃると信じて最後まで戦い抜きます。
ぜひ貴重な一票を、お預けいただくよう、あらためてお願い申し上げます。
毎日1分野ずつご披露してきた私の政策も、残り2つ。
今日は「空き家」についてです。
■6-1:市内の7軒に1軒以上がすでに空き家です。
荒れた農地(政策4)、伐られない山林(政策5)のと同じように、市街地では空き家が増えています。
日本全国、実は東京の都心部ですら、コロナ禍以前からずっと空き家が増加しています。
けれども、南アルプス市では全国平均や市町村ごとの平均を大きく上回る勢いです。
市役所のアンケート調査では、空き家は市内に数百軒しかないものとされ、空き家対策と称して、もっぱら空き家バンクへの登録、あるいは主要道路沿いで崩壊の恐れのある住宅への対策が行われています。
しかし、じつは南アルプス市内には、4420軒の空き家(別荘などの二次的住宅を除く。2018年現在)があり、全体に占める割合は14.6%だということが国の調査で分かっています。
つまり、すでに7軒に1軒以上が、使われていない空き家なのです。
さらに、空き家の中の6割にあたる2610軒、住宅全体の8.6%(12軒に1軒以上)は、借り手も買い手も探していない棚ざらし状態にあります。
■6-2:なぜ空き家は増え、棚ざらしになるのでしょう。
市役所のウェブサイトには、空き家バンクとして現在12軒の空き家が載っています。これまでの成約数は、およそ10年間に100軒足らず。
有意義な施策ですが、数字でお見せしたように、空き家全体から言えば、ごくごく一部です。悪化する状況には歯止めがかかっていません。
一方で、市内にUターン・Iターンしたい、と家を探している方は少なくありません。
そういった方々が口を揃えて言われるのは「物件が見つからない。空き家バンクを見ても、地元の不動産屋さんへ行っても、すぐ住める状態の家はほとんど出てこない」という悩みです。
なぜこれほどまで、空き家が増えているのに、不動産市場にはほとんど出てこないのでしょう。
5つほど、理由が考えられます。
(1)地価の下落。
まず、バブルのころの地価を思い出すと、こんな値段では売れない、という気持ちがぬぐえない方がいます。
(2)相続事情の変化。
かつて、実家は長男が継ぐものとされました。しかし今は、きょうだいで共同相続するケースが多く、意見が分かれて売ることに踏み切れない、という方がいます。
(3)書類の不備。
登記・権利書・確認済証・修繕記録・境界に関する覚書など、古い家では記録や書類の不備があり、返済の済んだはずの抵当が外れていないこともあります。これら書類の不備のために売買できないケースも案外多いものです。
(4)整理不能な家財。
昭和を通じて家の中のモノが爆発的に増え、ガレージや納戸はおろか、居室内までモノであふれかえったままの空き家。亡くなったおじいおばあが大事にしていたものだから、全部捨てるのは忍びない、けれど要るものと要らないものを分けるだけでも途方もない手間がかかる、とモノの整理がハードルになっている空き家は、かなりの数にのぼります。
(5)売ってはいけないという親の教え。
バブル以前は、ながらく地価は上がるものと考えられていました。いわゆる土地神話です。そのため「けっして売らず守るように」と子孫に言い残す方が多く、その教えを今も守って空き家のままになっているものが、とくに山梨では多いようです。
■6-3:空き家をほぐす仕組みが必要です。
国は、悲惨な状態になった空き家への対策として、市町村が危険な「特定空き家」と指定したら、固定資産税を最大6倍!にできてしまう「空き家特別措置法」を施行するなど、空き家対策を進めているとしていますが、これはせいぜい、空き家問題の終着駅をつくっただけのことです。
空き家問題をコントロールするためには、まず空き家が「特定空き家」にならないようにする仕組みの方が大切です。ちょうど、畑の果樹を伐ってしまう前に、担い手を探すのと同じですね。
固まってしまった空き家問題を、やわらかく揉みほぐし、新陳代謝させるのです。
それによって、不動産市場も流動化し、売買や賃貸の取引が活発になります。
売買でも、従来の賃貸でもなく、借地借家法で22年前に定められた定期借地権・定期借家権に基づいた契約によって、家を売るな、という教えを守りながら、資産の有効活用を図ることも可能でしょう。
まず大切なのは、空き家が「資産」から「負債」に転落するのを防ぐことです。
木造の空き家は、放置すれば普通3年ほどでその多くがシロアリやカビに侵され、住宅としての価値を大きく落としてしまいます。
締め切った無風の室内では、シロアリの作る塔「蟻道」が、背丈ほどになっている風景に出くわすこともあります。
土台が食べ尽くされ、宙に浮いた柱も珍しくありません。あまりにも酷いと、解体するしかなくなり、解体費用分の「負債」となってしまいます。
ただし、時々窓を開けて風を通してやったり、強風でずれた瓦を直してやったりという最低限の手入れをするだけで、価値の下落をある程度防ぐことができます。
ご近所から見た空き家も、同様です。
放置空き家は、雑草・悪臭など衛生環境の悪化、不法侵入や火事など治安の悪化、ブロック塀や建屋の崩壊による事故など、次第に地域内の頭痛の種となってゆきます。
たとえば最低限の草刈りや安全確認が行われるだけで、これらのリスクを抑えることができます。
もし解体がもっと安くできれば、解体して更地にして売りたい、使いたい、というニーズは確実にあります。
そこに補助金制度を導入することもひとつの方法でしょう。
もちろん、リノベーションやリフォームで空き家をよみがえらせ、投資した金額以上の価値をもつ資産にすることもできます(本稿の最後に、実例をお見せします)。
ただ、リフォームは新築に比べて融資が認められることが少なく、すでにある市の補助金制度も、使い勝手がわるい点は否めません。地元の金融機関には、ぜひリバースモーゲージ融資によって所有者がバリアフリー住宅にリフォームした上で、自ら住まう選択肢を、整備していただきたいものです。
これらの方法は、あくまでミクロなものです。4000軒以上あり、今後も増える空き家を市単位で何とかするためには、もう少し大きなスケールの積極的な施策が必要です。
■6-4:縮小時代を乗り切るためのまちづくり。
空き家の問題は、南アルプス市が抱えるたくさんの社会問題の「交差点」に位置します。
空き家の流動化・新陳代謝と、人口減を食い止めること、市外からやってきて滞在する方に観光などの経済活動に参加してもらうこと、さらには福祉、防災などの問題は、つながっています。
空き家だけに視野を狭めず、多くの分野で連携しながら取り組むべき課題なのです。
それによってはじめて、縮小時代を乗り切るためのまちづくりが可能になると考えます。
とはいえ、このプロジェクトをうまく動かすには、市役所だけでは到底無理です。
そこで、行政と民間企業の中間的枠組みが必要になります。
工務店やデザイナーが、効果的・経済的なリノベーション実例を現実として見せ、メディアや広告代理店の力も借りて、求める人に届いて、しっかり刺さって訴求する広報戦略を立て、広く発信する。そして、行政や地域の銀行が手を貸せる、適切で無駄のない制度を用意する。このサイクルを回していくことです。
新築住宅の開発とは別に、こうした空き家対策をしっかり進めていくことで、はじめて南アルプス市の持続可能性は保障されます。
20年先、50年先を見すえた、まちづくりのビジョンをみなさんと共有し、未来を切りひらいていきましょう。
■6-5:空き家リノベーションの実例
最後に、市内の空き家を、私が設計してリノベーションした例をお見せしましょう。
この住宅は、40年前に建てられ、最後にお住まいだった方が亡くなってからは、10年間空き家でした。しかし、息子さんが1か月に1回、必ず東京からやってきて風を通していたため、痛みの少ない状態だったのです。
とはいえ現代の設計に比べるとヒノキの柱も細く、地震に対する耐力には問題がありました。耐震補強が必要と考え、まず床を全て解体し、基礎のコンクリートを打ち増ししました。あわせて、水回りについても全て更新しています。
新築以下のお値段で、新築以上の価値を手に入れることができるリノベーションは、空き家問題をプラスに転換し、市内経済をさらに活性化させるカギになりえます。これからも実践していくつもりです。
多くのメールやコメントを頂戴しています。
ご返答が間に合わず申し訳なく思います。
本当にありがとうございます。
ひとりで風車に突撃する変人ドン・キホーテのような選挙戦を戦っておりますが、みなさんの応援のお声で、孤独な思いをせずに済んでおります。
あまりにも地域の常識からかけ離れたやり方ですので、当選できるかは全くわかりません。
けれど、こうした戦い方が、みなさんの「南アルプス市は今のまま永遠に変わらない」という悲しい思い込みに、「風穴」と言わないまでも「アリの一穴」を開けることができたなら、きっと無意味では無いはず、そう思って最後まで頑張ります。
どうか応援のほどよろしくお願いいたします。
私が「今のまま永遠に変わらない」なんてありえないですよ、それは幻想です、と言うと、みなさん揃って不思議な顔をなさいます。
そもそも、人の集まりで永遠に変わらないものなどありません。人口減少・少子高齢化社会ではなおさらです。
市という枠で言えば、岩手県知事や総務大臣を務めた増田寛也氏らが6年前発表した「増田レポート」では、日本全国の自治体のうち、半分が人口減で存続できなくなって消滅する、と結論されていました。
要は、20代・30代の若者が25年間に5割減ったら、もうその市は自治体としては存続できないということです。
現時点で、財政指標のいくつかがが、山梨県内で多少マシであろうと、「南アルプス市がずっと存続できる」根拠にはならないのです。
そろそろ本気で地域を変えないと、南アルプス市も、消滅する側の半分に入ってしまいます。
今なら、まだ間に合います。
いっしょに時計のネジを巻きましょう。
さて、毎日アップしてきた政策も5つ目になります。
今回は、あまり政策では取り上げられない、「山林」について。
■5-1:さかさまのシルクハット、衰える林業。
「甲府は盆地である。四辺、皆、山である」
太宰治の『新樹の言葉』はこんな書き出しで始まります。
「よく人は、甲府を、『擂鉢(すりばち)の底』と評しているが、当っていない。(中略)シルクハットを倒(さか)さまにして、その帽子の底に、小さい小さい旗を立てた、それが甲府だと思えば、間違いない」
この描写は、甲府の文化を形容すると同時に、甲府盆地の「縁」にあたる山々が、他の盆地よりもはるかに高く、急傾斜のまま平地にぶつかっている様子を看破しています。
逆に言えば、甲府盆地は盆状の地形に、山からの土砂が集まり積もって、なだらかな元の山すそを覆い隠した結果、急傾斜の山容が、市街地のすぐそばにそびえたっているということです。
こうした標高差と急傾斜は、木材のコスト競争においてハンディキャップとなり、山梨県の林業は、昭和50年代以降、急速に衰退しました。
南アルプス市の山にはヒノキをはじめとする良材が大量に伐期を迎えていますが、その伐採計画は思うように進んでいません。
枝打ちや間伐すら滞り、間伐した樹がそのまま山に放置されているような風景さえ、珍しくない時期もありました。
■5-2:山と川はいずれ再び牙をむきます。
山に背を向けた自治体経営が続いてしまうと、地元から林業家がどんどんいなくなり、製材所も廃業するところが増えていきます。
いきおい、手入れされない山がますます増えていくことになります。
きちんと手入れされた人工林は、木漏れ日で明るく、下草も茂っていて、表土の流出を防いでくれます。また水を一定時間キープして水害の発生も防いでくれています。
しかし、手入れされないと、暗い森となり、草木の根が張らず、土は痩せます。このような山は風雪害に弱い上、ゲリラ豪雨や台風などがやってくると、根が水を吸わず、土砂崩れが発生しやすくなります。水が沁みとおらず山肌を流れ落ちるため、ますます土も痩せてゆきます。
南アルプス市では、里山でも急傾斜が多いためこの傾向が強いのです。
50年後、100年後を考えると、南アルプス市において、最も警戒すべき災害は、土砂災害・水害です。
有史以前、縄文の昔からずっと、信玄公の時代もそうであったように、ですね。
幸いこれまでのおよそ100年は、先人の努力で土砂災害・水害を何とか抑え込むことに成功してきました。でも、それは長い災害の歴史の中ではごく短いひとときだった、後世はそう評するかもしれません。
火山や地震の災害対策は、市街地内である程度行うことができますが、土砂災害・水害は広範囲の対策が必須です。
おまけに、土砂災害によって水害対策の前提が破壊されると、土砂災害×水害の複合災害となってしまいます。
しかし、今後日本経済が縮小を余儀なくされる中で、山と川に対する対策の予算は、国・県とも長期的には縮小せざるを得ません。
土砂災害・水害のリスクは、静かに、しかし確実に大きくなってゆくのです。
もちろん、危険個所の法面工事などは、これまで同様行われるでしょう。
けれど、法面の上にある山の手入れまでは、十分手が届いていないのが実情です。
突然、裏の山が丸ごとすべり落ちてくる、そんな日が、このままではいずれやってきかねません。
■5-3:まず、山に目を向けましょう。
静かに高まる土砂災害・水害リスクに対し、市レベルで、いったいどんな対策ができるでしょうか。
まずは、山に目を向けることです。
環境教育の題材として、アウトドアスポーツのフィールドとして、山林を活用しましょう。
たとえば市内の公立保育所や、県内で広がる森の幼稚園等の活動の舞台として、エコパ伊奈ヶ湖とその環境教育プログラムを提供したり。
南アルプスの反対側にあたる伊那市の伊那西小学校をモデルに、学校林の活用を積極的に行ったり。
世界的に注目される、南アルプスマウンテンバイク愛好会・南アルプス山守人の先駆的な活動を支援したり。
継続的な獣害調査・対策を行いつつ、ジビエの商品化に取り組んだり。
ユネスコエコパークの枠組みを、名前だけでなく実質のともなうものとして、太く厚く拡大し、広く発信してゆきましょう。
山をよく見ていれば、手入れされた山とそうでない山の違い、そこに危険な兆候があるか、もしそうならどうすればよいかといったことを、みんなで共有できます。
■5-4:市産材の市内利用、これぞ真の地産地消。
つぎに、最低限保つべき水準の林業・木材加工業務を、市自らが継続的に発注できる、地産地消の仕組みをつくりましょう。
私が携わった庁舎整備事業では、櫛形山のヒノキを伐って、市内の製材所で板に挽いてから、公共工事の材料として支給したり、市内の工務店にカウンターを作っていただく形で使いました。
実は、先行する県庁や甲府市による試みでは、県産材を利用することだけを追求した結果、せっかくの県産材をわざわざ東北地方まで運んで、向こうで加工して持って帰ってくるというような形がとられていました。
しかしそれなら、東北の現地で伐った木をそのまま向こうで加工して持ってくる方が、まだ地球環境のためになるわけです。
おまけに、県外で加工するのでは、地元の産業へのプラスもない。何のための県産材利用だったか、これではわかりません。
そこで私たちは伐採・乾燥・加工・利用を、市の中で完結させ、小さな循環を地域の中に創り出すことを追求しました。
これこそが本来の地産地消です。そして木材の地産は、おなじ読みの治山にも通じるのです。これは「南アルプス市方式」として注目され、「林業やまなし」に載り、林業専門誌の取材も受けました。
今後は、毎年一定量の木を伐ってゆき、乾燥・加工させては、市内の公共施設の内装木質化、学校の什器や間仕切り製作などに使うことを繰り返す、という循環の定着を目指しましょう。
最初のスタートは、小規模なサイクルで良いのです。
材の利用は、あくまで市内産業と整合性のある形を探りながら、地産地消を前提として、少しずつ広げていく。
山の活用も、森林組合の経営計画と対応させながら。
たとえば林道などの条件が悪く、将来的に林業経営が厳しいと考えられる山では、間伐・主伐を行う中で、森の中に日光を入れて、今まで発芽できなかった木の種子を育て、本来の天然林を再生させていくことも視野に入れる必要があるでしょう。
先祖代々が山を守ってきたことで、代わりに山は私たちの暮らしを、水を、守ってくれていました。
私たちが守るのをやめ、山に背を向けたなら、山はいずれ牙をむきます。
その意味で、今も山には神が宿っているのではないか、と私は思うのです。