goo blog サービス終了のお知らせ 

別冊「バビル2世」マガジン

「バビル2世」のコミックス&アニメその他を中心に、オールドファンがあれこれ語ります。

小説「始動編」№1

2008-04-08 20:21:09 | 創作の小部屋Ⅱ
第一章「砂漠」その1

かすかに、モーターが回るような音が聞こえる。目が覚めると、自分がどこにいるのかわからなかった。
古めかしい石造りの天井。無数に這っている色とりどりの配線。様々な機械音。
─そうだった、ここはバベルの塔、中央制御室だ。僕は、バビル2世だ。
思い出した。ヒマラヤから帰り、この部屋にたどり着いたとたんに、体中から力が抜けてしまった。猛烈な睡魔に襲われて、立っていることもできなかった。
ぼんやりと薄れる意識の中で、どこからかマジックハンドのようなものが伸びてきて、がっしりと両腕を捕まれたことだけは覚えている。
ゆっくりと伸びをしながら、起き上がった。彼は、メインコンピュータの足元、透明な円柱形をした治療用カプセルの中に横たわっていたのだ。モーターが回る音だと思ったのは、カプセルの蓋が開く音だった。
あっと思った。一糸まとわぬ裸だ。いつの間に脱いだのだろう?まったく記憶がない。
「やっとお目覚めですね、バビル2世」
いきなり、目の前にコンピュータの分身が出現していた。髪が金髪に変わっている。
どうせホログラムだとは思ったが、なんとなく恥ずかしかった。あわてて、カプセルのすぐ横にきちんと折りたたんであった学生服を着て、早口で言った。
「僕は、どれくらい眠っていたんだ?」
「約、68時間」
「68時間って、ほとんど3日間じゃないか」
「ええ、まさかこれほどお疲れとはね」
分身が、皮肉っぽい笑顔を見せた。言葉に険があるような気がする。バビル2世は、少したじろぎながらたずねた。
「どうして僕は素っ裸だったんだ」
「あなたは、全身泥やら塵やらにまみれて、おまけに老廃物だらけでしたからね。私のアームでお召し物を取り、スーパーソニックウェーブで隅々まで洗いました。どうです、キレイになったでしょう」
「それはどうも。さっぱりしたよ」
「ついでに、栄養剤も点滴いたしました。すっきりと元気になりましたか」
「随分と気がきくね」
「どういたしまして」
分身は、得意げに両腕を広げて見せた。そして、さらに続けた。
「ところで2世。どうですか、この姿は。ちょっと髪の色を変えてみました」
コンピュータは、何故か妙にハイになっているようだ。ちょっと意地悪な気分で、彼はそっけなく答えた。
「・・・別に?」
とたんに、ピュウッという音をたてて、分身の姿が消えた。
今度は、メインコンピュータ頭頂部のライトが点滅し、事務的な口調がはじまった。
「バビル2世、中央のモニターをご覧下さい」
一番大きなモニターに、映像が現れた。英語圏のテレビニュースのようだ。険しい山脈の風景を空撮したものだ。
フィルムには、大規模な雪崩に見舞われた山肌と、無惨に崩壊した氷河、そして泥の湖が映っている。明らかに、あのヒマラヤの秘境の風景だった。
若い女性アナウンサーが、深刻な表情で解説している。『・・・今や、このような秘境中の秘境にまで、地球温暖化の影響が押し寄せており・・・』
「バビル2世、実に派手なご活躍です」
またしても皮肉だ。よほど気に食わないらしい。事務的な口調で言われると、よりいっそう嫌味な感じが増す。
「仕方がないじゃないか。ああするしかなかったんだ」
「大変に危険なことでした。あなたは不用意にヨミを怒らせ、自ら窮地を招きました。まさに間一髪のところで、なんとか逃げおおせたのです」
返答に詰まった。確かに、そのとおりだった。
「バビル2世、あなたの力はいまだ開花しきってはいません。未熟なのです。まだまだ、ヨミと正面切って戦うには早いのです。それをお忘れなきよう」
「・・・わかった。忠告、ありがとう」
巨人との死闘が、バビル2世の脳裏に蘇った。あらためて冷や汗が流れる。本当に危ないところだった。
「しかし、あなたの力が完全に目覚めたなら、その時はヨミでさえかなわない最強の超能力者となることでしょう」
コンピュータのこの言葉には、ちょっと驚いた。ヨミよりも凄い自分の姿を想像するのは、なんだか恐ろしくさえある。
彼の戸惑いなどおかまいなしに、コンピュータは続けた。
「いいいですか、まず自分にはどんな力があるのか。あなたはそれをきちんと自覚しなければなりません」
「どうしろと言うんだ」
「何よりも、エネルギー衝撃波をうまく使えるようになる必要があります」
「エネルギー衝撃波?何だい、それは」
「自分自身の生体エネルギーを、衝撃波の形で放出するのです。これは、対象に直接触れねばほとんど効果はありませんが、あなたにとっては最大の武器となります。何故なら、これを浴びた人間は、瞬時に内臓がズタズタに千切れてしまいます。それほどの衝撃を受けるのです」
「そんなことが僕にできるのか」
「できます。バビル1世の子孫ならば、必ずできます」
半信半疑だった。しかし本当にできたなら、コンピュータの言うとおり、確かに大変な武器になる。
「さあ、バビル2世。イメージしてください。丹田、すなわち臍の下あたりに、あなたの全身のエネルギーを集めるのです。そして、それを掌から一挙に放出するのです」
言われたとおりにした。全身がゾクゾクと総毛立つような感覚が走った。
「そこにあるRコンピュータに掌をあてて、衝撃波を放出してご覧なさい」
メインコンピュータのすぐ脇に、小さなシュレッダーのような機械があった。これがRコンピュータだ。彼は、掌をあててエネルギーを放出した。
バリバリッという耳障りな音が響いた。Rコンピュータは火を吹き、「ボン!」という音と共に機能を停止した。
「すばらしい!2世、さすがです」
コンピュータが、ピュピュピュピュというけたたましい音を立てた。まるで、笑っているかのようだった。
しかし、彼はそれどころではない。ほんのちょっと試しただけなのに、まさかいきなり壊れてしまうとは。
あわててコンピュータに尋ねた。「このRコンピュータは何の役目をしていたっけ?」
「Rコンピュータは、あなたの寝室の空調と照明を受け持っています」
「ええっ、ひどいじゃないか!」
本気で青くなった彼に、コンピュータは何も答えなかった。またしてもピュピュピュピュという音をしばらく立てたあとで、やっと言葉を発した。
「・・・ご心配なく。すぐに直します」
ほどなく、壁からロボットアームが伸びてきて、Rコンピュータの修理を始めた。
─僕をからかったな。可愛くないヤツだ。
むっとして部屋に引き上げようとしたバビル2世に、コンピュータは再び指示を与えた。
「まだ終わっていませんよ、バビル2世。さあ、今度は出力をうまくコントロールする方法を学びましょう。エネルギーを無駄づかいしないようにするためです」
やれやれとため息をつきながら、彼はコンピュータに向き直った。


窓の外には、丈の短い草原がずっと続いている。その向こうには、はるかなヒマラヤの山並みがある。山頂は銀色に輝き、雲ひとつない晩冬の青空に屹立している。
ここが、とりあえずヨミの本拠地である。一番最初に作られたことから、第1基地と呼ばれている。
ここに常駐している職員は、100名ほどである。荒野にぽつんと建つ、素っ気ない外観の四階建てビルは、一応航空機会社の研究所ということになっている。
滑走路もある。ここから、第6まである各基地へ、即座に飛び立つことが可能だ。新たな出発地点として、まさにふさわしい基地である。
しかし、いつまでもここにいるとは限らない。これからは、転々と居場所を変えることになるだろう。今、本部を別な場所に建設中である。
基地の司令官であるアブドゥルは、浅黒い顔をほころばせ、前髪が後退した額を光らせながらヨミを迎えた。「光栄です、ヨミ様。我が基地においでになる日を、一同心よりお待ちしておりました」
その言葉には、全くの嘘いつわりはなかった。心底、ヨミに忠誠を誓っている。何も思い煩うことなく、ここから世界各地の同志たちへ号令すればいい。
しかし、ヨミの心は晴れなかった。どうしても、あのバビル2世のことが心に引っかかる。特に、その砦である「バベルの塔」のことが気になって仕方がないのだ。
ぼんやりと窓の外を見ていると、ドアがノックされた。アブドゥルが、何かを報告に来たのだろう。ここに出入りを許されているのは、アブドゥルと副官のサヴァだけだ。
「ヨミ様、ご指示のとおり、ヒマラヤのロケット弾について各国の報道を洗いざらい調べてみました」
「うむ。どうだ?」
「大雪崩の件は、特に先進国でさかんに報道されておりますが、ロケット弾については、どうやら各国とも報道統制が行われています。これを取り上げたのは、アメリカのタブロイド紙1紙のみで、軍関係者がうっかり口を滑らせた情報という形を取っております。全体的に、陰謀マニア向け記事という感じです」
「ふん、やはりな」
逆に、こちらの存在を察知し、様子を伺っているということだろう。それで充分だと、ヨミは思った。
アブドゥルは、さらに続けた。
「ところでヨミ様、バラビア共和国のソドム同志より連絡が入っております。バラビア領ジャハンナム砂漠近くで、巨大な鳥が遊牧民たちに目撃されたそうです」
「なんだと!」
ヨミは勢いよく立ち上がった。巨大な鳥とは、バビル2世のしもべではないのか。あの大雪崩の空を横切っていった怪鳥のことではないのか。
「ソドムと話をする!」
ヨミの剣幕に、アブドゥルはのけぞった。かまわずに、部屋を飛び出した。
ソドム大佐は、バラビア空軍が誇る国民的英雄であり、最精鋭部隊「金鷲隊」を指揮する大物である。そのソドムからの連絡に、ヨミの心ははやった。何故かそれは、「なつかしさ」に近い感覚だった。
自分の中にある不思議な感情に気づいて、ヨミは少し苛立ちをおぼえた。


(次回掲載 4月11日予定

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
祝! 始動編開始 (PHOTON)
2008-04-11 10:34:23
始まりましたね~
お待ちしておりました~

うーん、色々新鮮です。
まず、妙に感情的なコンピュータ。分身を残していることに加え、言動がどこか女性的なものが強い…………おお、女っ気無しで悪名高い(つーか、それが特質というか、本質みたいというか)横山作品にこういう要素を出すのは、かなり冒険ではないだろうか。これだけでかなり印象が変わりますね。

にしても、エネルギー衝撃波をメインの武器に勧めるのって、かーなーりのアブナイ気が。この力の両面性を考えると。
原作でもコンピュータの言動について感じていたのですが、「バビル(1世)」は完璧な超人である、あらねばならない! 何かそういう刷り込みが強烈にあるように感じます。(まあ、だから、私はコンピュータというか、それをプログラムしたであろうバビル1世が諸悪の根元と思っているのですが

もう一つが、あ、これは面白設定というか、うん、これがここにあると便利だねの、第一基地。
とりあえず、この位置に本部ではないけどスタート地点があると、第二、第三の本部がヒマラヤ山脈の近くにあることが極めて自然になってくる。
(ついでに、バビル二世の猛攻に次々壊滅・全滅する基地たちの運命を最期まで免れることができるかも………………?

ヨミの動向を窺う各国……これは101への大きな伏線かなー? まあ、謎のヨミの組織に警戒してたら、もっと無敵な少年が突然出現してしまうのですが(笑)

ではでは続き楽しみにしてますねー
返信する
メス? (一人虫)
2008-04-11 22:36:18
PHOTON殿、するどいっ!
実はですね。あの平成版アニメの中で、私が「ほおお~う」と感心したものがあります。それは、バベルの塔のコンピュータが「女性」だということです。
しかも、なんだっけ、ウルバヌスとかいう名前までありましたね。
(へなちょこバビル2世君は、「ウル」と呼んでいる)
昔なつかしSF小説なんかでは、よく「マザーコンピュータ」が出てきます。コンピュータって、レトロ感覚では女性なんですよね。
現実のコンピュータ社会は、残念ながら?「マザーコンピュータ」じゃない方向に行っちゃいましたので、これはちょいと昔SFへのオマージュ、みたいな感じでしょうか。

いやいや、「マザー」だと思わせて、峻厳な「ファーザー」かも知れませんぜ。
恐ろしいヤツかも
返信する