カツラは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を取り除かなければならぬと決意した。カツラにはコーチングがわからぬ。カツラは、ただの大学生である。けれども疲労に対しては、誰よりも敏感であった。
ある日、カツラが大学に行くと怪しい雰囲気がした。ひっそりしている。国立に元気がない。カツラは校内を歩いていたバスケ部員にこの状況を質問した。部員は力無く答えた。
「王様は、大腿四頭筋を殺します」
「なぜ殺すのだ」
「3部昇格の為だと言います。今まで何人も殺されました。カイはシンスプという病にかかりました。コジマは大事なゼリーを奪われました。タイヨウはあばらを折られました」
「おどろいた。王はご乱心か」
「いいえ、私どもが苦しむ姿を嬉しそうに見るのです」
カツラは激怒した。カツラは単純な男である。疲労に敏感な男である。そのまま体育館に入って声高に叫んだ。
「部員を暴君の手から救うために来た!」
「お前がか?いいだろう、お前が全ての疲労を背負うのだ。20秒セットしろ。タバタ式トレーニングをわしがマンツーマンでやらせてやる」
「気は確かか⁉︎ レストの無いタバタ式など最早タバタ式ではない!」
「だまれ!今さら泣いて詫びたって聞かぬぞ」
「私は死ぬ覚悟でここに来た。命乞いなどしない。しかし、もし、もし情が少しでもあるなら猶予が欲しい。温泉に行き疲労を全部無くしてから挑戦したい」
「ばかな。そう言って帰ってこないつもりだろう」
「必ず戻ってくる。もし信じられないなら、部員にベンジャミンというハリウッドスターがいる。彼を人質としてここに置いておこう」
王は、この男は嘘を言っていると思った。だが、友に裏切られたベンジャミンの顔を見てタバタ式をやるのも面白いと思いカツラに一日の猶予を与えた。
「明日の日暮れに間に合わなければ、お前の友人はタバタ式のえじきになるだろう」
カツラはベンジャミンに一切の事情を語った。ベンジャミンは無言で頷き、記念に2人でインスタのストーリーを撮った。友と友の間はそれでよかった。
翌日、カツラは高尾のスーパー銭湯へ旅立った。世間は平日で大学生は授業を受けているが今のカツラにとっては些細なことだ。中央特快で向かい時間に余裕があったため高尾の一駅前で降りて歩きながら自然を満喫した。

高尾の温泉は極楽だった。字が書けそうなほど白い雲が浮かんでいる青空の下、檜のお風呂に入るのはこの世のものとは思えないくらい恍惚とした。

カツラは躊躇した。まだ完全に疲労は癒えていない。マンツーマンタバタ式をやるには思い残すことがもう一つある。最後に生協のチキン竜田丼を食べたい。カツラの大好物だ。サウナに入るのはやめたのでまだ時間はある。国立へ急いで向かった。
もう大丈夫だ、チキン竜田丼をゆっくり食べても日暮れに間に合う。生協のカウンターで注文をしようとした災難、はたと、カツラの足が止まった。先週まであったチキン竜田丼がなくなり、唐揚げ丼になっているではないか。生協の淑女は肩を落として言った。
「業者さんが昨日処刑台の上でタバタ式をやらされたのです。それで肉が届かなくなって唐揚げ用の肉しかここにはないのです」
カツラはガクと、膝をついた。立ち上がることができぬのだ。
「私は全力を尽くした。済まない、ベンジャミン。私を恨まないでくれ。私はあと一歩まで来たんだ。君への誠実な気持ちに嘘はない」
ベンジャミンはカツラを信じたために殺されるのだ。私は結局、王が思う通りの裏切り者だ。ああ、もうどうでもいい。カツラは四肢を投げ出した。
ふと耳に、優しい声が聞こえた。
「...唐揚げ丼も美味しいですよ。騙されたと思って食べてみてください」
そっと頭をもたげ、カツラは唐揚げ丼を一口食べた。そしてもう一口。かき込むように食べ尽くした。正直騙された。とんでもなくうまいと思ったら想像通りの普通の唐揚げの味のである。しかし、なぜだか力が湧いてきた。体の中からマグマのように力が溢れてくるのだ。これは、、、ニンニクが入っているな!ニンニクだぁ!これならいけるぞ!
私は信じられている。少しも疑わず待ってくれている者がいるのだ。私は信頼に報いなければならぬ。走れ!カツラ。
道行く人を跳ね飛ばしカツラは走った。
「ああ、カツラよ」
呻くような声が風とともに聞こえた。
「誰だ」
「バスケ部員です。もう駄目です。もうベンジャミンを助けることはできません。走るのをおやめください」
「まだ間に合う!」
「つい先程、1セット目が始まるのを見ました。あなたは間に合わなかった。お恨み申します。あともう少し早かったなら!」
「まだ日は沈まぬ」
カツラは胸が張り裂ける思いで走った。人混みをかき分け叫んだ。
「待て、その人を殺してはならぬ!カツラが帰って来た。タバタ式をやめるんだ!」
カツラはギリギリで立っている友の体にかじりついた。部員はどよめいた。あっぱれ、カツラ。
カツラは涙を浮かべベンジャミンに言った。
「ベンジャミン、私を殴れ。私は途中で一度、悪い夢を見た。君が私を殴ってくれないと君を抱擁する資格がない」
ベンジャミンは全てを察してオーストラリア産の冷凍オージービーフでカツラを力一杯殴った。そしてベンジャミンは言った。
「カツラ、私を殴れ。私も一度、ちらとだけ、やっぱ富士山登っときゃよかったと思ってしまった」
カツラはひねりを加えながらベンジャミンの頬を殴った。そして強く抱き寄せ抱擁した。
暴君はその様子を眺め、2人に近づいて言った。
「お前たちの心は真実だ。私もどうか仲間に入れてくれないか。これからは10秒トレーニングを4分間連続のメニューに変えよう」
カツラは激怒した。
完
今年度主将を勤めさせていただきます、桂です。とても遠回しな言い方になってしまいましたが、今年はコーチと力を合わせフットワークに力を入れて安定感のあるセンターとなりチームを三部昇格に導きます。OBOG、保護者の皆様、これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
文責: 桂
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