日常雑記

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いまは山中

2016-07-31 21:12:16 | 随筆
近頃爽快な文章に、と思っていたら、池内 紀著の表題を読んで暑さの折の清涼感満喫であった。
近ごろ「前面展望車」に嵌まり、しかし物見遊山気分よりは浮いた物足りなさを感じていたところであった。著者の作物はほとんど読んではいない。ドイツ文学など昔々ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を読んだくらいである。清純な精神の年頃の話である。重い口調はいくらこの年では汗がでる。どこから読み出してもよい。それ故本書には栞が添えられていない絶好の読み物である。
三次から江津までの山中、川傍を走る各駅停車の車輌である。車内女子アナウンサーの声で「締まるドアにご注意を」「整理番号は必ず忘れずに」「ホームは左側です」とかを聞き流す。ただレールの変哲もない走りを眺めている。こらが結構楽しい。新幹線は隧道が多いとは聞いているが、強ち新幹線に限った話ではなく、鈍行路線でも同様で有る。そして幾山河を乗り越える。どうやら日本海沿いの江津駅に近づく。製紙工場煙突と江川橋か見えたころには辛抱が切れるところであった。なにしろ三次・江津間およそ三時間半経過するのである。


南谿の奇器

2016-07-27 13:01:55 | 随筆
天明二年秋(一七八二年)京都を登って九州を一巡し、四国に渡り、三年秋に帰京した。南谿西遊記については七月十一日・同十三日に載せた。「奇器」は紀行文ではないが儒医としての好奇心に溢れた文章である。
細工の微妙なる事は、世界のうちで阿蘭陀に勝る国なしと枕をふってエレキテル・虫眼鏡・望遠鏡など並べる。虫眼鏡で針先のほどの水を観察、その清浄な水の中に種々異形異類の虫を見て驚く。まだ見ることがなかった生き物のうごめき、塩は六角なるもの、油は円いもの、酒酢などには夥しい虫類がいる。華厳経には仏の水でも濾して飲むべしと仰せられるがいくら濾してもこの虫眼鏡に眼力には逃れられまい。人智の及ばざる事を、蛮人は道具を造って天賦の能力以上にに到っている。誠に巧妙なことである。
また望遠鏡という日月星辰まで眼力の届く遠眼鏡が有り、日月の真理を極めようとする。星も太白星を見れば、月のように満欠けがあり、木星は三つ引きの紋のような横に帯がある。土星を見れば斜めに輪を纏って星の形が長く見える。銀河の白いのを見れば、小さな星が夥しく集まっていて、その星を数えることさえできる。これは如何なものか合点しにくいのだが、隣目鏡といって高い塀飛び越え隣が見える眼鏡がある。また暗夜に遠方を見る眼鏡など奇器、耳目を驚かすものが年々渡来している。
等々好奇心というか探究心がむき出しで書かれている。もっともエレキテルには先達平賀源内(一七二八年生)がおいでではあるが。

蒲の穂

2016-07-23 16:24:19 | 随筆

近くの山裾の小高い丘に日吉神社がある。大己貴神・大山昨神が祭神である。大己貴神は大国主命の別名である。
出雲国の主神で、少彦名神と協力して天下を経営し、禁厭(まじない)・医薬などの道を教え、天孫瓊瓊杵尊に国土を譲って、杵築の地に隠遁なさった。現在では出雲大社に祀られている。大黒様とも呼ばれのは、インドのマカカラで、自在天の化身ではあるが、中世恵比寿様と並んで台所の守護神ともなり、福の神として広く民間に信仰されている。
昔の小学唱歌に、大国主命はワニに皮を剥がれ赤裸にされた因幡の白ウサギの治療処方を施された。
近くを流れる御笠川の岸傍に数拾本細い茎が並んでいる。しばらくは蒲であることに気付かなかった。昨夕蒲で有ることが判った。植物図鑑に蒲穂については次のような説明が有った。
円柱形で濃褐色の花穂をつける。花穂の上半分には黄色の雄花が、下半分に緑褐色の雌花が多数密生する。果実は熟すると飛散する。花粉は薬用になる。葉は筵や簾、籠などを編むのに用いられる。大国主命は「綺麗な水で身を洗い、蒲の穂綿にくるまれ(石原和三郎作詞)」と懇切に治療法を教えられた。さすが医薬などの道に通じた神様である。

野良猫大活躍

2016-07-22 19:04:55 | 随筆
全米一の「ネズミ都市」シカゴで駆除に野良猫が大活躍(CNN)ということである。戦後すぐネズミの跳梁に悩まされたことがあった。食糧難の時代である。不足がちな上にネズミに囓られた甘藷を食わされた憤懣はいまも記憶する。そこで友人から愛玩動物としてではなく仔猫を分けて貰った。不思議なもので鼠害が減少した。夜分濡れた足音をさせて枕元を駈け廻らくなったのは不思議である。いまはむかしの話である。そこでふとハーメルンの童話のような出来事をものの本で読んでみた。
一二八四年ハーメルンの町でネズミが爆発的に繁殖した。ある日、町に笛を持ち、色とりどりの布で作った衣装を着た男が現れ、報酬を呉れるならネズミを退治してやろうともちかけた。町の人は承諾した。男が笛を吹くと町中のネズミが集まってきた。そこで男はネズミを川へ誘い込んで溺死させた。けれども町の人たちは報酬を払わなかった。
一旦姿を消した男は、住民が教会にいる間に笛を鳴らしながら通りを歩いて行く。すろと家から出て来た一三〇人の子供たちは笛吹く男にぞろぞろとついて行く。そして町外れの山のほら穴に入っていく。笛吹き男も子供たちも二度とは戻ることはなかった。
いまも笛吹き男がどこぞにいるのかも知れない。
近ごろ町角で「猫に餌をやらないで」との張り紙をしばしば見る。ネズミもネコも繁殖力は相当なものであるようだ。

モリブデン

2016-07-21 20:27:26 | 随筆
昭和一五年に制作された宮澤賢治原作映画「風の又三郎」を幾度も見ている。高田三郎は父親とともに北海道から山間の小さな分教場へ転校してくる。最初の日が二百十日であだ名が風の又三郎、そして同じように風の強い日に北海道へ帰って行く。父親は鉱山技師でモリブテンの鉱脈調査が目的であったようだ。モリブテンとは次のように書かれている。
一七七八年にスエーデンの化学者カール・ヴィルヘルム・シェーレがモリブデナイトから新しい金属の酸化物を分離した。モリブデンの用途は鉄鋼に添付すると錆びにくく強度も増して、特にモリブデンを添加したステンレス鋼は優れた特性をもち、切れ味鋭い包丁やジェツト機の脚・ロケットのエンジンなどの特殊機械の材料に使用されている。その他の用途として潤滑油があり、これには高温条件にも比較的安定した二酸化モリブデンが用いられている。
モリブデンは人類の必須元素で、主に体内で有害な物質に対し酸化反応を起こす酸化酵素中に存在し、さまざまな働きをしている。モリブデン鉛鉱の産地としてアメリカ・メキシコ・モロッコなどである。
宮澤賢治はモリブデンについてかなり知識を有していたように思える。