久しぶりに何もない休日
私はぶらぶら堂島川沿いを歩いていた
四季の丘にはたくさんの花が咲いていた
ニャー
ふと猫の鳴き声にあたりを見渡す
植木の根元の奥の方で子猫が鳴いている
トラ模様の小さな子猫がいる
体はずぶ濡れでやせ細っている
「どうしたの?
「お母さんと一緒じゃないの?
ニャー
子猫を抱きかかえようとするも
子猫は奥の方へ行く
反対から回ってみると子猫が出てきた
ニャー
子猫はこちらを振り返りながら川の方へ向かっていく
川沿いに着くと子猫は草の中を突き進み
もっと川の方へ進んでいく
「ちょっと!危ないよ!
子猫を追いかけるが、小さい子猫は草と草の間をすり抜けどんどん進む
「もう!
私は服が汚れるのも気にせずに草をかき分けた
ふと川辺にビニール袋があり
子猫はそれに向かって
ニャーニャー鳴いている
何だろうと袋を開けてみると
同じくらいの子猫達がもう2匹入っている
その子達も体がずぶ濡れだ
私はその小さな体を抱きかかえた
その小さな体はすでに冷たく
たくさん川の水を飲んだんだろう
はち切れんばかりに膨らんだお腹と
顔中に広がった目ヤニ
腐敗臭はないものの
ドブの匂いがした
子猫達は人間に捨てられたんだろう
最近は保健所もやむを得ない場合でしか引き取ってくれない
だから飼い主はビニール袋に入れて川へ投げたんだろう
この1匹だけが袋から這い出て
あの丘までたどり着いたんだろう
ここまで連れてきたのは弱った兄弟を助けてほしくて
ニャーニャー鳴いていた子猫も
冷たくなった兄弟を前に座り込んでいた
匂いを嗅いでも
体を舐めても
触っても
動かない兄弟達が死んだことも分かってないのかもしれない
私はその近くに亡くなった子達を埋め
小さな子猫を抱いて帰路に着いた
とは言ってもウチは動物が飼えない
でも放っておくことも出来ない
ウチで面倒を見ながら飼い主を探すことにした
そして私は連れて帰った子猫にエサを与えるため
留守番させて家を出た
トイレや猫砂
首輪や猫じゃらし
思い当たるものを買い揃えるため近くのホームセンターに向かった
とは言っても猫なんて買ったことないから店員さんに聞きながら
それなりのものを揃えて
急いで帰宅した
子猫は玄関で小さくなっていた
私が帰るとすぐに立ち上がり
こちらへ向かって歩いてきた
ミルクを水で溶かして容器にいれると
お腹が空いていたんだろう
モゴモゴ言いながら子猫はミルクをがぶ飲みした
そして一緒にお風呂に入って体を洗った
怖くて逃げ回って
私の腕は引っ掻き傷だらけになった
お腹もいっぱいになり
体も綺麗になると子猫は私の膝の上で眠りについた
私もベットにすがったまま気づけば寝ていた
お決まりのアラームに起こされ飛び起きた
子猫はまだ私の膝の上だった
私は準備のためにその子を持ち上げた
子猫は体が冷たく硬直し
私の膝の上で息を引き取っていた
私は仮病を使って会社を休んだ
そして
あの川沿いに子猫と一緒に歩いて向かった
しばらくすると社内報にて人事異動があった
私は木戸ちゃんと周りの人たちからの推薦もあり
経営推進課に異動になった
私は何の部署なのかもわからないまま上層階へと上がった
そこには
綺麗目なスーツで清潔感のある爽やかなおじさま方や
エレガントかつ清楚で上品な感じのお姉さまたち
社内でも一目置かれるような部署なのが一目で分かった
「おはようございます
部署に入ると
「こっち!こっち!
木戸ちゃんだった
木戸ちゃんは真っ黒なスーツに赤い靴
髪型も1つに無造作に結ってキャリアウーマンみたいなスタイルに変わっていた
「また一緒やね。よろしくね。
「あ、はい。お願いします
私は木戸ちゃんと同じ班だった
私と木戸ちゃんの班はコンサルやお得意先を回る
そして
新規開拓班だった
今日もいきなりお得意先やコンサルの訪問だ
夜には会食があって
いろんな重役との会合だ
慣れない訪問でクタクタなわたしは慌てて帰宅してすぐに着替え
タクシーを飛ばして会場へ向かった
会場に着くと
ヨーロッパ風の建物にライトアップされた噴水やら
普段は縁のないようなところだった
会場に入ると木戸ちゃんに手を引かれ受付を済ます
中に入るとまず視界に入るのは豪華なシャンデリア
真っ赤なカーペットにたくさん並んだテーブルの上の食事たち
私は映画の中の登場人物になった気分だった
「挨拶して回るから気合いいれてこ!
そういうと木戸ちゃんは片手に持ったワインを飲み干し会場を回る
「お久しぶりです。会長
「おお、木戸くん。今日はニューフェイスも一緒か。
「はい。ともどもよろしくお願いします。
たくさんの人のところに連れ回され目が回りそうだった
乾杯をしてまわると
何やら嫌そうに木戸ちゃんが言う
「行きたないけど、あいつもお偉いさんやねん。気張っていこ。
木戸ちゃんはさらに気合いを入れた
「会長。ご無沙汰してます。
「ああ、木戸か。久しぶりやな。なんやその学生さんみたいなちんまいのは。
「うちのニューフェイスです。よろしくお願いします。
私は緊張しながらワインを片手に乾杯を誘った
すると、こいつはグラスを下げ、わたしのグラスに下から乾杯した。
「なんや。お前乾杯も出来んのか。目上の人には下から乾杯すんのが礼儀やで。
いきなり先制パンチをくらった。
「失礼しました。よろしくお願いします。
「出来損ない連れてあるくと木戸も大変やな。
絶対わざとだ。
わざとグラス下げた。
私は顔に出ないように笑顔で耐えた。
「こう言う奴ほど笑っとればええと思ってんねん。腹が分からんわー。
「会長相手に緊張してるんですよ。なかなかお目にかかれない大物ですから。
木戸ちゃんが私をかばう。
「まあ、木戸が連れてんなら仕事はバッチリなんやろな。期待してんで。ちんまいの。
「はい。よろしくお願いします。
私は顔がつりそうだった。
「今日は大変やったね。でもあいつ以外はほんまにええ人ばっかりやから。がんばろね。
「はい。ありがとうございます。
私は帰ってすぐベットに倒れこんだ。
そして案の定
顔の筋肉がつった
「痛たたたたた。
急いで帰宅し
私はすぐにシャワーを浴びた
あの日のことが鮮明に思い出され
今になって体の震えが止まらなくなった
私は自分の体が汚らわしいと
何度も何度も体をこすり洗った
それでも触れられたあの感覚を体は覚え
何度も鮮明に思い出される
私はベットに入り枕をキツく抱きしめながら眠りに落ちた
気がつくと朝が来ていた
いつも通りを装って出社する
今日もスタッフミーティングだ
こないだとは打って変わって淡々とミーティングは進行された
会議が中盤になるとアイツが口を開いた
「すんません。ここで新たな案の発表をさせていただきたいと思います。少々お時間をいただきます。
「昨日…ずっと考えていたのですが、いつも通りではクライアントや来場者も飽きます。新しい案を皆で考慮し、新しいことをやり始めたいと思います。
そういうと、アイツは私が話した内容と全く同じ内容を語り出し、それについてのメリット、またデメリットに対する対策を語り始めた
「…以上が新しく始めたいと思う内容の提案事項です。いかがでしょうか?
ひとしきりの沈黙の後 誰がが口を開いた
「ええやんか。やってみようや。
皆が賛同し、賞賛の拍手が湧いた
私は同じ空気の中、拍手をアイツに送るしか無かった
ミーティングが終わるとアイツは
後ろから私の肩を組み
「おおきに。お前のお陰でまた評価があがるわ。お礼にこないだの続きしてやろか?
鳥肌がたった
「気持ち悪い…
「は?なんか言うた?
「いえ…別に。よかったですね。頑張りましょうね。
「なんやつまらんやつやな。受け入れるんかいな。反抗も出来へんほど熱も入ってなかったんやないか。
私は吐き気がするほど拒絶反応を起こした。
殺意まで覚えた。
事務所に戻る途中
あの優しい人が声をかけてくれた。
「すごいやん。めっちゃええこと考えんねんな。斬新やで。
「え?…あの。
「分かってんねんよ。取られたんやろ。アイツのやりくちやねん。みんな大抵やられよんよ。でもミーティングに出てた人は大抵アイツの意見ちゃうことだけは分かってんねん。知らんふりしてやってんねん。アホやろ、アイツ。
こわばる体の緊張が解けた
久しぶりに笑った気がした
その後イベントは始まり
途中私の考えたことが実現したのを見たときはまた鳥肌がたった
気持ち悪い鳥肌じゃなく
満身創痍の鳥肌
やり甲斐って言葉が身にしみた瞬間だった
途中起きたトラブルには
アイツは自分発信じゃない発案の実現に戸惑っていた
すかさず優しい女の人が
「どうしたらええの?どうすべきか、もう考えてあんのやろ?
「…はい。あそこでこれをこうして…
「なるほどな。分かった。やってみるわ。
私と彼女の対応により
大きなトラブルとはならず
初めてのことだからと受け入れてもらえる程度のことで済んだ
アイツは自分が考えた案に対する対策が完全じゃなかったと批判され
思いつきで対応したと受け取られた私たちが客に賞賛された
私は満面の笑みでお礼を言った
そして
「私は…木戸久美子。これからもよろしくな。
「はい!
「木戸ちゃんでええからな。よろしく。
「はい。…木戸ちゃん…。よろしくお願いします。
私は彼女と
ぎこちない関西弁混じりの言葉を交わした。
イベントスタッフとなった私はプロジェクト開始前のミーティングに参加することになった
会議室に入ると長机で四角が作られ
各席の前に書類が置いてあり
数人が集まって開始前の打ち合わせをしていた
「はじめまして、今度から参加させていただきます
と、挨拶をすると
リーダーらしき人が
「遅いんちゃう?お茶の準備や書類を配るんも下っ端の仕事やで。
と、いきなりの先制攻撃を受けてしまった
「すみません。ただいまお茶くんできます。
そういうとリーダーはまた
「もうええねん。人によって濃さや何やちゃうし。一から説明するのも時間ないし。その辺に立ってな。
「はい。すみません。
集合時間の15分前に来たのに、もっと早く集まって準備があったみたいだ。
知らなかったなんて言い訳も出来ず、ただ人が続々とくる会議室の入り口で
ワイワイ楽しそうに集まり話し始める皆の輪に入れないままだった。
会議が始まる前に席に着こうとする。
でもそこには私の席がなかった。
壁にもたれかかった椅子はあるのに、資料もあるのに、席だけがなかった
「座らへんの?
「ここ座りーや
って気にかけてくれる人もいるのに
リーダー格は
「ええんです。そいつ遅れて来よったんで。やる気ないんとちゃいますかね。ハハハ。
と、適当に済ませて会を進行しだした。
立ったまま会は進行した
資料もないので、一生懸命ノートに写すがとても間に合わない
どんどん討論する内容と書き写す内容にタイムラグが発生する
すると
「新人の子はどう思うねん?
と、リーダー格が見計らったように問いてきた。
「いや…あの…
言葉を濁すとリーダー格はすかさず
「聞いてなかったんかいな。ホンマやる気あんのか。せっかく意見聞いたろ思うても、本人にやる気がないなら、どうもならんやんか。
「あの…はい。すみません。私の意見はいいので、進行してください。
「言われんでもそうするわ。仕切るなアホが。
と、会議室の空気が重くなった。
そのままタイムラグがどんどん発生しても
リーダー格は口を休めることなく次々と話す
私は書き写す内容にタイムラグが発生するたびに、リアルタイムの内容を書き写し
リアルタイムの話にだけは内容が把握できるように努めた
気づけば2時間が経ち、討論会は終わった。
帰り際
「慣れへんうちは大変やけど、頑張ろな。
って、言ってくれる人もいた
ほとんどは見て見ぬ振りで、目の前を素通りされる
1人
私に資料を渡し、今日夜聞かれへんかったところ教えたげるから。ご飯食べいこ。
と、優しい女性スタッフと会話を交わした
私も戻ろうとするとリーダー格が私を呼び止める
「さっきは悪かったな。進行の妨げは俺がアカんって見られんねん。
「はい。すみません。
「今日、夜俺も付き合ったるから空けとけや。書かれへんかったこと教えたるから。
「あ…はい。ありがとうございます。
そういうとリーダー格は私の肩に手を回し、
「そう、構えんなや。仲良くやろな。
と、ニヤついた顔で去っていった。
私は夜、約束の場所へ向かった
すると、優しい女性のスタッフはおらず、リーダー格が1人背もたれの倒れた椅子にもたれかかっていた
「おう。来たか。アイツ来られへんようになったから、お前と2人や。まあ、ここ座り。
「はい。失礼します。
そして私はリーダー格が話すことをゆっくり確実に書き写し、今日の討論内容が全て把握できた
そこで、リーダー格は私に
「ここで新人のお前の意見を聞いたわけや。
「慣れると第三者の目線が薄れてくんねん。
せやから新しい風をと思ってお前に聞きよんや。
「はい。私の意見が皆さんにどう映るかは分かりませんが…
と、私は自分の考えを言ってみた
するとリーダー格は
「なるほどな。そういうのもありかも分からんな。ええやんけ。ええこと聞いたわ。明日の会議で言ってみるわ。
「あ、はい。ありがとうございます。
私は嬉しかった。
自分の意見が聞かれて、それが良く思ってもらえる。
これほど嬉しいことは想像がつかない。
リーダー格はひとしきり私の意見を聞き、うなづき
そして気づけば22時を回りそうになったので、リーダー格はそろそろ終わりと腰をあげた。
「ありがとうございました。遅くまですみません。それではお先に失礼します。
そういうとリーダー格は
「ちょ、待てや。これで終わりちゃうやろ。
「はい?まだ何かありましたか?
資料をペラペラめくる
それらしきところは見当たらない
するとリーダー格は私の目の前に立ち
手を後ろに回した
リーダー格の手は私の背中を下り、腰のあたりでとまる。
「え。あの…
言葉に詰まる
しかし奴の手は腰を下り、私のお尻を包む
微弱ながら下から味わうようにお尻を触る
「これで終わりなわけないやろ?こっちは時間割いて付き合ってやってんねん。少しくらいお礼ないんか?
「いや…あの…
抵抗しようにも何か逆らえない感じがした
彼の手は私のお尻をさわり、そのまま下りタイツ越しの太ももまでたどり着いた
「あの…やめてください。困ります。
「ええんやで?今写したその紙。シュレッター行きやで?
「そらそやろ。何のお礼もなしにこんなめんどいことに付き合う奴があると思うんか?
彼の手は私の内ももに回ってくる
「スカート捲って、あっち向けや。
「いや…あの。やめてください。お願いします。
「やめるわけないやろ。ほんなら何かしら別のお礼でもしてくれるんか?金なら10万今すぐ持って来いや。
「無理です。今すぐなんて。すみません…
奴の手は後ろを向かせた私のスカートをめくり上げる
「意外とええケツしよるやんけ。そそるわ。
スカートをめくりあげたその手はタイツをズラし下ろそうとする
「やめてください言いながら、実はこん中、濡れてんちゃうんか?こういうん嫌いやないやろ?
タイツを膝までズラし、私の下半身は下着1枚になった
「やめてください
「うるさいな。この会社の縦社会で俺に楯突くとどうなるか知らんのか?
下着1枚になった私の下半身は
やつに下着の上から弄られ
奴の手は内ももの方から下着の中に手を入れようとした
ガチャッ
「まだ誰かおんのか?セキュリティかけんで?
「あ、はい。帰ります
たまたま立ち寄った別班の人がドアを開けた
間仕切りで仕切られた部屋だったので、こんな姿を晒すことはなかった
「なんや。ええとこやったのに。ま、また今度やな
そういうと、奴はそそくさと部屋を後にした
私は慌てて乱れた着衣を正し、その場を離れた
大阪へと羽ばたいた私
でもそこでは思いがけないことが次々と起こった
ハプニング EP1 いきなりの出向
私は大阪に着いて、引っ越し後の片付けを済ませ
その日はそのままとこに着いた
明くる日
事務所へ出向くと自己紹介のちすぐに出向命令が下った
新人研修を含む、他支店の視察動向
いきなり私は片道6時間をかけ、東北地方は青森県に到着した
目の前にある青森城を横目にビジネスホテルへ向かった
道中目にして驚いたのは車両用信号機が縦を向いている
冬の積雪面積を減らすために信号機が全て縦を向いていたのだ
やたらなまった方言を使う支店長と上司に挟まれながらも視察を終えた
ハプニング EP2 またもや出向
青森の出向を終えると今度は三重県まで下った
伊勢神宮のあたりを通りながら
投げ釣りでキスを狙う釣り人たちを横目に市街地へと向かう
ここでもまた支店長と上司に挟まれながらも視察を終えた
伊勢海老食べたかったなーと思いながらも
SAで昼食をすませると
その日のうちに今度は神奈川まで戻った
ハプニング EP3 芸能人
神奈川市内を鈍行していると
多摩川が見えてきた
橋の上では芸能人の仲間由紀恵が撮影をしていた
初めて見た芸能人に興奮しながらも
仲間由紀恵を横目に
無情にも車は通り過ぎる
その後も
茨城
広島
と、いろんなとこへ連れ回された
大阪に戻るとぐったりで
次の日が休みなことに安堵を覚えた
大阪に戻って働きながら、学校へ通った
今の稼ぎでは学費がヤバいと
私は夜のバイトを始めた
店長は私の源氏名を
「美咲
とした。
年齢層はさまざまで
いろんな業種の客が入れ替わり立ち代り来店した
酔っ払って大きくなる人
酔うとやたら喋る人
隅っこで寝てしまう人
あっという間にバイトは終わり
今日の給料分だと渡された金額の大きさに驚いた
会社員
学生
ホステス
3足のわらじを履く私は来る日も来る日も働いては学校へ通った
バイトも慣れ
会社員としても半人前くらいになった頃
上司が私のところへ1枚のパンフを持ってきた
そこに書かれたのはローカルながら昨年大盛況に終わったイベントのメイクアシスタント募集の広告だった
上司は私に
「これも勉強
と
私を応募してくれていたのだ
採用結果は
合格
こうして私はイベントスタッフとなった