ペリーが驚愕した日本の技術
2012.11.18
嘉永6(1853)年、黒船を率いて日本に開国を迫ったぺリー提督は、
幕府との交渉のかたわら江戸湾沿岸の測量に精を出した。
日本と開戦した場合に備え、地形を把握するのが狙いだった。
3隻の船を使い、当時世界最先端だった三角点測量を繰り返した。
そして意外な事実に気づく。測量結果と、携えていた日本の地図がまったく同じだったのだ。
この地図を作成したのは、ご存じ伊能忠敬。地図をつくるには数学や天体観測技術、
地球の自転に対する理解など先端知識が必要。
このため、ペリーは正確な地図がつくれるのは文明の進んだ西洋の数カ国に限られると思っていた。
ところが、予想に反して日本の技術レベルが高水準なことに驚き、測量を中止して引き揚げてしまった。
このことがやがて「ペリーの艦隊と戦端を開かず、無事に(明治)維新を行う原動力となった」
(日本人の育ての知恵、PHP文庫)とされる。
最近、日本の技術力に目を見張ったのは中国だろう。
中国は2年前、尖閣問題をめぐる対立で日本に対し、
電気自動車など先端製品の生産に不可欠なレアアース(希土類)の「禁輸」に踏み切った。
中国は世界のレアアースの9割以上を生産。日本に対する強力な外交カードになるはずだった。
ところが、日本企業はレアアースが不要な製造技術やリサイクル技術を次々に開発し、実用化。
さらに調達先をオーストラリアなど中国以外に広げ、対中依存度を急速に引き下げた。
このため、中国のレアアース業者は軒並み業績悪化や工場停止に追い込まれる事態になっている。
日本を侮った結果といえ、中国にとってはまったくの誤算だっただろう。
一方、今の日本経済は「失われた20年」「超円高」「空洞化」と難問が山積している。
少子高齢化にも直面し、国内総生産(GDP)は中国に抜かれた。
政府の無策ぶりもあって、閉塞(へいそく)感に覆われているのが実情だ。
昨今の世論調査をみても明るい展望を持てない人がたくさんいる。
日本が得意の技術が突破口にならないか。こんなことをよく考える。
iPS細胞を開発した京大の山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞受賞は、日本の技術水準を改めて世界に知らしめた。
一枚の地図がぺリーを追い返したように、技術には計り知れないポテンシャルがある。
日本人はもっと自国の技術力に自信を持っていい。
(フジサンケイビジネスアイ 副編集長 小熊敦郎)