雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(17)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(17)


 体調が思わしくないのでキム・ヨンオクは横になることにした。
 しかし、寝床に入ったら電話がかかってきた。福祉館からの応援要請だった。
 ヨンオクは無理をおして賄いの手伝いに出た。
 だが、無理をすれば体はすぐに支障をきたす。ボールに入れた料理材料を扱っている時、ヨンオクは腹痛を覚えてしゃがみこんだ。

 ヨンオクが無理をおしてボランティアに励んでいる時、クムスンも一家の嫁、一児の母として家事に励んでいる。
 子供を気にかけながら食事の仕込をする。床掃除をし終え、子供を背負って外に出る。子供をあやしながら、声もかけず出かけていった姑の帰りを待つ。
 休む暇はなく身体も疲れているが、気力がそれを抑え込んでいる。
 姑が用向きと買い物をすませて帰ってくる。
「お帰りなさい」クムスンは笑顔で冷戦中のジョンシムに声をかける。「残りの青汁を届けてきます。お義母さん、夕食は私がつくりますから」
 ジョンシムは黙って家に入っていった。

 ジョムスンはいつもの場所(地下道出入り口)で野菜を並べて客を待っている。
 頭の中では息子の嫁が自分をのけ者にして孫のクマとピザを食べている光景がぐるぐる回っている。
 嫁から厄介者のような扱いを受けている自分が惨めでならない。世話になっているのを重々承知しているからなおさらだった。
 日ごろ抑えている気分が口をついて出る。
「もう、なんていう連中なんだ! 嫁たちとは縁をきらなきゃ・・・金をためて早くクムスンと一緒に暮らすんだ」
 ジョムスンは通りを行く人たちに思い切って声をかける。
「ちょっと、いい野菜だから買っていってくださいな」

 そこにクムスンが子供をおぶってやってくる。後ろからジョムスンに声をかける。
「おばあちゃん」
「あら、きたのね。やあ、フィソンも一緒なの?」
 ジョムスンの息子への呼びかけに嬉しそうにするクムスン。
「顔を見せなさい。かわいいわね」
 ジョムスンの顔色が変わった。
「どうして子供まで連れてくるのよ」
「配達があったんだけど、お義母さんが留守なので・・・」
 話を取り繕うクムスン。
「青汁の配達?」
「話したでしょ」
「つらくはない?」
「おばあちゃんの仕事よりはましよ。こんな仕事はやめて。座りっぱなしは身体にもよくないわ」
「私を心配してくれるのはお前だけだね。でも、心配はいらないよ。子供は私に預けていきなさい」

 クムスンは病院に配達でやってくる。例のおばあちゃんに青汁を届けなければならない。
 廊下を歩いていたら、この場所での天敵、ク・ジェヒが病室から出てきた。フィソンをおぶったクムスンはあわてて廊下の壁に顔をかくした。身体ごと隠るるひまはなかったからやむをえない。
 ク・ジェヒにとってもクムスンは自分のプライドをズタズタにしたはねっかえり娘である。顔は見えなくてもその女の青汁バッグはよく覚えている。
 あの女じゃないか?
 そうだったら文句の二つ三つ並べてやろうと近づいていったら、向こうから声がかかった。
 チャン・ウンジュだった。
 気をそがれてク・ジェヒは彼女と外へ出ていった。
 クムスンはほっとしておばあちゃんの待つ病室に入っていった。

 チャン・ウンジュはク・ジェヒに首ったけのようだ。病院の庭先で昼真からク・ジェヒに交際を迫った。だが、ク・ジェヒにその気はない。のらりくらりとウンジュの言葉をかわした。
 業を煮やしたウンジェは10回デートを提案する。交際を始めてみなければお互いの相性はわからないと言いたいわけだった。
 電話が入って手術室に入らなければならない。
「行かなきゃならなくなったよ。じゃあ、悪いけど」
 ニコニコしてそれを伝え、歩き出したク・ジェヒに向かってウンジュは叫んだ。
「ジェヒさん、ここで待ってるからね。本気よ。ク・ジェヒ! 後姿がとてもセクシーよ。私はそういう男が好き!」
 そばを通りかかってウンジュの父がそれを聞き、難しい顔になった。

 帰りのバスの中でクムスンは子供をあやしながら、若い娘たちの合コン話をまるで十年も年下の娘らの話を聞いてでもいるように楽しんだ。そういえば自分にはそんな時間もなかった。だが、不思議にも後悔もない。短かったがジョンワンと過ごした日々にも輝いた時間はあった。その結晶のようにジョンワンの家族や息子のフィソンとの充実した日々が続いているとクムスンは感じるのだった。

 クムスンはバスをおりて家に向かう。途中、コンビニで買い物を済ませて出てくるテワンを見た。
 黙って横を通り過ぎる。クムスンに気付いてテワンが声をかけてくる。
しかし、テワンの無礼口調がクムスンには耐えられない。黙って先を歩く。
「完全無視かよ。ちょっと待て。止まれと言ってるだろ」
 クムスンはようやく足を止める。
「敬うべき兄の言葉をなめてるのか?」
 クムスンはテワンを振り返る。
「誰を睨んでるんだ、おい。おい」
「…」
「お前のせいで、家の空気がどれだけ悪くなってると思ってるんだ。たった一年くらい待てばいいだろ」
「…」
「やりたいなら、しっかり許可を得てやったらどうだ。ただ、馬鹿みたいに意地だけ張ってないでよ」
「…」
「除隊の日にあんなことになったおかげで居心地も悪くなった。わかるだろ。家に入ったら、とりあえず詫びろ。わかったな」
「…」
「わかったか」
「…」
「返事くらいできないのか?」
「…」
「答えろよ」
「何の真似です?」
 クムスンはようやく口を開いた。
「だから答えろって言ってる。いいか。とにかく深くお詫びを入れて、母さんの機嫌を取るんだ」
「謝ってください」
 クムスンは言った。
「…」
「謝ってくださいよ。義兄だからって何という態度ですか。私はあなたの弟の嫁なんですよ」
「だから、何だ。否定なんかしてないだろが」
「ですから、謝ってください。早く」
「被害をこうむったのは俺の方だ。どうして俺が謝らなきゃいけない。睨んでも無駄だ。帰って母さんに謝れ」
 先に歩き出したテワンに向かってクムスンはいう。
「ジョンワンにあんな兄さんがいたなんて…彼と子供に免じて見逃しますが、次からは我慢しませんからね」
「俺とジョンワンを比べるな。これからは――他の誰とも比較なんかするんじゃないぞ」

 ジョムスンは部屋でも内職の仕事を取ってきて励んだ。

 家ではジョンシムが賄いを分担してクムスンとの冷戦を続けている。テワンは母親の顔色をうかがいながらクムスンに対している。
 ギクシャクしながら今日も一日過ぎた。そんな感じだ。

 窓の外は雨だ。
 激しさを増した春の雨は秋雨のように彼女には冷たく感じられるようである。
 オ・ミジャの心にはたそがれが訪れている。一人息子を女手ひとつで育て上げた反動なのであろうか。ほっとした気の緩みがさまざまの思いを彼女の心に忍び込ませてくる。この上は孫の顔――いや、ジェヒに素敵な嫁を迎えれば、少しは心の空洞を埋められる。
 
 ク・ジェヒは勤務を終え、病院を出ようとする。
 強い雨が降っている。
 まさか、待ってはいないだろうな、と例のベンチを見やる。
 ウンジュの姿はない、と思いきや、少し離れた場所でウンジュが立っている。傘もささず、雨に濡れそぼって立っている。
 無茶なやつだ、とジェヒは叱るが、ウンジュは引き下がらない。
 10回デートを承知しないと帰らない、と主張し続ける。
 ジェヒはやむなくウンジュの提案をうけいれた。ウンジュを促し帰路に着いた。





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