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雨の記号(rain symbol)

五十円玉

 駅のエスカレーターは二人分の幅を持っている。動かないで乗っている者と先を急ぐ者のためであろうか。
 会合の帰り、駅のホームで五十円玉を拾った。上りエスカレーターに向けて降客が集まり、秩序をなし始める中、彼らの足元からころころと五十円玉がホームへ流れ落ちてきたのである。カチンとホームの床面で鳴って転がっていた五十円玉は停止した。何人かがそこに目をやり、僕もその一人だったが、誰もそれを拾う様子がないので僕が歩み寄って拾った。五十円玉を握り、落とし主を追いかけるようにエスカレーターに乗った。歩き上がった。
 人の塊の中から転がり落ちてきたので、誰が落としたのかは分からない。
 五十円玉を握っている後ろめたさがあり、改札口に向かう連中に向かって、五十円玉落とした人いませんか、と僕は声を張り上げた。何人かが僕を見た。だが、自分だ、という表情の者はいない。僕を怪訝そうに一瞥しただけで改札の外へ出て行き、どんどん散らばった。
 おおかたの者が改札を出た後、僕は五十円玉を指につまんだまま、改札を出た。途方にくれ、切符の販売口に目を向けたりした。駅員に渡そうかと思ったからだが、どう考えても彼らの懐に入るだけのような気がする。
 それではこんな行為に出た自分がくやしい。
 しばし躊躇した後、ジーンズのポケットに五十円玉を投げ入れた。出口階段の方へそそくさ歩き出した。この五十円玉は僕を持ち主に選んだのだと言い聞かせながら。
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