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 韓国ドラマ「病院船」から(連載188)

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  韓国ドラマ「病院船」から(連載188)




「病院船」第18話➡医療空白⓵


★★★ 


 仕事を終えて、夕暮れの海辺でもヒョンはひとり考え続けた。




 夜、病院船で手術を行った赤ん坊のもとにヒョンはやってきた。吸引を行ったのは自分だ。母親と同じほどにこの子が生き抜く力を取り戻してほしいと彼も願っていた。
 ヒョンは赤ん坊の前に立った。
「僕が分かるか? つらいだろ。もしかして僕が君を苦しめたのかな…キム・ハンソル。名前がついたのか。頑張れ、ハンソル。…この小さな身体で、僕らと共に頑張ったろ。君は必死に耐え、力強く闘ってこの世に生まれてきた。だから、もうひと息 ― 頑張ってくれ。時々、この世界にはつらいこともある。だけど―生きる価値がある場所だよ―楽しいことも、たくさんある…」
 外にはウンジェの姿もあった。
 そこにヒョンが出てきた。
「あなたも会いに来たの?」
 ヒョンは頷く。
「名前はハンソルだ」
「どうするの?」
「病院船を守るよ」
 ウンジェは小さく頷いた。




 翌日、ヒョンは警察署に出頭した。キム刑事を見かけて声をかけた。
「先日、お電話した病院船の内科医です」


★★★


 電話をかけている事務長にゴウンは訊ねた。
「出航しないんですか?
 事務長は受話器を握ったまま答える。
「クァク先生がまだなんです」
 そこにウンジェがやってきた。
「彼は乗りません」
 事務長は受話器を置いた。
「何だって!」
「後で客船で行くと言ってました」
「なぜです?」とゴウン。
「警察署に出向きました」
 ゴウンは信じられない顔になった。
「警察署? 何のために?」
 ウンジェは説明するのをためらう。
 ここで話しても、ピリピリしてるスタッフ間に混乱を招くだけだろう。




 その頃、ヒョンは病院船での手術の経緯について説明していた。
「ファンさんの子が生まれた瞬間から、新生児集中治療室に搬送されるまで、すべての処置は内科医の僕が担当しました」
「…」
「その過程で生じた問題は僕に責任があります」




 このことはすぐドゥソンの会長に報告された。
「内科医、クァク・ヒョンも告発します」
「家族の同意も得ずに安易に執刀した外科医と、未熟な内科医まで抱えているとは…病院船も一巻の終わりだな」




 チャン会長の意向を受け、道知事は記者会見を行った。
「家族の同意も得ずに執刀した―外科医ソン・ウンジェ。治療技術が未熟で患者を重体に陥らせた―内科医、クァク・ヒョン。人命を危険にさらす医者が病院船で勤務しています。更には経済力の有無に関わらず、誰でも無料で手術まで受けられる―病院船の診療制度自体も問題です。…裕福な島民も意外と多い」
 副知事も同調した。
「高所得者は有料で治療を受けるべきでは?」
 知事は頷いた。
「まさに税金の無駄遣いです」
 話を聞いていた記者から質問が飛んだ。
「病院船の問題をどう解決するおつもりで?」




 知事の記者会見の様子は地方局のテレビで放送されている。
 ウンジェやゴウンらは病院船のテレビでそれに見入っていた。


 テレビ画面に”巨済市、病院船の運営を中断”の字幕が出た。


「まずは病院船の運営を中断します。そして放漫な運営と診療の実態を把握し、病院船の廃止を提議します」


「運営の中断?」
 ゴウンは鼻で笑った。
「予想通りね」
 ウンジェは黙って腕を組んだ。




「これは何だ?」
 タブレットを睨んでジュニョンは呟いた。ジェゴルも携帯で同じ画面を睨んでいる。
「病院船を中断するみたいだ」
 ジェゴルは黙って画面の文字を追う。
 ”病院船を廃止すべきだ”の意見も出てきているようだ。


 
 ここの仕事は明日にもなくなくかもしれない。女性スタッフにとっても事は深刻だった。
「じゃあ、もう―」アリムは仲間を見た。「病院船は運航しないの?」
 訊ねられた方は黙って目を返すだけだった。




 ゴウンはウンジェを見て言った。
「クァク先生まで出しゃばったら、事が大きくなると考えなかったんですか?」
「承知の上です」
「なぜ、止めなかったの?」
「止めました」
「なのに聞かなかったの?」
 ウンジェは頷いた。腕を組んで考え込む。
 ゴウンは嘆息した。
「待つしかないのはもどかしいわ」
 ウンジェを見て言った。
「クァク先生は世間知らずにも程がある」
 横から事務長が庇った。
「彼はただ、医者としての原則を貫いただけです。でしょう?」
 ウンジェを見た。ウンジェは答える代わりにため息をつく。


 
 ウンジェはひとりデッキに出た。遠くの海を眺めて塞いだ気分をほぐした。
「原則…」
 ヒョンもその言葉を口にした。
「真実を話すですって?」
「ああ」
「どうして?」
「それが原則だ」
「…今、病院船は危機的な状況よ。あなたまで問題視されたら廃止に追い込まれる」
「分かってる」
「それでもやるの? 病院船を廃止されてもいいの?」
「まさか…」
「なら、なぜ強情を張るの」
「医者だからだ」
「…!」
「いくら切迫した状況でも、患者に真実を話す義務を怠るわけにはいかない。患者の期待を裏切った瞬間、僕らは医者でなくなるから」
 ウンジェはヒョンから目をそらした。
 やらねばならないことには意志を曲げない。いつしか忘れかけていた何かをヒョンから再び突き付けられた気がしたからだった。
 ウンジェはヒョンから身体をそらした。黙ってうな垂れた。
 ヒョンは言った。
「病院船を守りたいし、そのために闘うつもりだ。だけど、君だけを犠牲にはしたくない」
「…」
「信じるべき目標を達成するにはその方法も―堂々として正当であるべきだ」
 顔を上げてヒョンを見るウンジェの表情は和らいでいた。
 
 事務長がウンジェのところへやってきた。横に立って手すりを握った。
「クァク先生がもどかしいだろ」
「…」
「今後、予想される厳しい闘いを思えば心配にもなる」
「…」
「まったく、笑っちゃうよ」
「何がです?」
 事務長はウンジェを見た。
「今回、ソン先生と―クァク先生の役割が逆転したことだ」
「ソン先生が原則を貫こうとすると、柔軟に軌道修正するのはこれまでクァク先生の役割だった…」
「洗練された苦言ですね」
「苦言か…う~ん」
「”医者は原則を破るな”と―、今、苦言を呈したのでは?」
「いや…、先生の病院船への思いが分かったと言いたいんだよ」
「…」
「病院船のためだろ? 病院船を守りたいから、原則を破って辞めようと考えたのでは?」
「…」
「先生に申し訳ないし、自分が恥ずかしい」
 ウンジェは事務長を見た。
「実は私たちも先生と同じように考えた。”クソがあったらよけて通るべきだ”。”ソン先生ひとりに責任を押し付けて―この危機を脱しよう”と」
 事務長は言葉に力をこめた。
「でも、それは間違ってる! クソがあったる、すぐ片付けるべきだ。違いますか?」 
「事務長」
「すまない、ソン先生。原則を守れる環境で診療に専念してほしいのに、事務長として力不足で…」
「とんでもないです。何をおっしゃるんですか」
 事務長はウンジェを見た。
「まだ間に合うから原則通りにやりましょう。いや、やろう!」
「…困難が伴いますよ」
「だろうね」
「一番の問題は…そこで生じる”医療空白”です。病院船が運航しない間、島の患者が心配だわ…」
 2人は嘆息を交わし合った。

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