
韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(126)
シワン夫妻とピルトの乗った車は帰宅途中でクムスンを拾った。
ピルトが車から降りて言った。
「暑いだろ」
「ええ、すごく暑いです。ビールを買いました」
「こんなに? 暑いから汗かいたろ」
「お義母さんが喜ぶので」
「そうか。さあ、乗れ」
クムスンが乗るとピルトはポケットからハンカチを出して額を拭いてやった。
クムスンは恐縮した。
「お義父さん、自分で拭きます」
「シワン、エアコンをもっと強くしろ」
家族がそろうとビールを飲みながらの団欒となった。久しぶりのビールでジョンシムも機嫌がよかった。
「ソンランが焼いたイカを私が食べて・・・」
「もう酔っ払ったのか?」とピルト。
「ええ、もうその感じよ」
クムスンはテワンに気を遣う。
「お義兄さん、食べてください」
テワンは硬い表情でビールを飲む。
「食べてください」
テワンは仕方なくスルメを手にする。
「フィソン、ダメ」
クムスンはハッとする。ソンランは言う。
「これ尖って危ないから食べさせないようにして」
「ええ」
「フィソン、イカを食べようね」
「それがいいわ」とクムスン。
ソンランを見てジョンシムは顔をほころばせる。
「間違いないわ。ソンランは子育てに向いてると思う」
とピルトを見る。
「冷たい感じだけど面倒見がいいんだもの」
ピルトの表情を硬くする。相槌など打てない。シワンたちも同じだ。
「子育ての経験がある人みたいよね」
事情を知らないクムスンが明るい声で同調する。
「そうよね、お義母さん。慣れてる感じですし、かわいい子を産むと思う」
ソンランを見る。ソンランはジョンシムに目をやりうつむく。
「当たり前でしょ。どちらに似てもかわいいはずだわ」
シワンたちや自分にとって重い話題をそらすため、ピルトは言う。
「なあ、お前、久々に歌ってくれ」
ジョンシムは怪訝そうにする。
「いきなり何よ」
「歌ってみろよ。聞きたいんだからさ。”海辺の女”とかいう歌があったろ。ほら、マイクだ」
スプーンを向ける。
「はい、拍手」
クムスンが手を叩く。しかし、他の者はも一つ乗らない。
「ほら、御覧なさい。誰も聞きたがってないわ」
「違うさ」とシワン。「歌ってよ」
「ええ、聞きたいです」とソンラン。
「けっこうよ。飲みましょう」
「歌ってくれよ」とピルト。
「いいよ、歌わなくて」とテワン。「黙って飲めよ」
ピルトは舌打ちする。
「こいつときたら・・・」
「いいよ。私も気が抜けたわ。クムスン、乾杯よ」
「はい」
缶ビールに口をつけた後、場のシラけムードを感じてクムスンは言った。
「お義母さん、私、カットを習い始めました。最も難しいんですけど、次はデザイナー試験で――それに合格すればデビューです」
「そうなの」と嬉しそうなジョンシム。「時が経てばちゃんと一人前になっていくのね」
「ええ」
「あと何年でデザイナーに?」
「それは・・・」
「クムスン」とテワン。「あそこにずっと通うのか?」
「・・・」
「なぜよ」とジョンシム。「美容院を辞める必要がある?」
「いや。ただ聞いただけさ」
「機嫌が悪いわね」
ジョンシムはテワンの腕を叩いた。
「オーディションに落ちた?」
「ええ――裏切られっぱなしだ。世の中と人に」
クムスンの表情は硬くなった。
ソンランは車のドアに手をかける。
「おい、ソンラン」
シワンはソンランを追いかけて出てきた。
車に乗り込んだソンランを呼び止めた。
「どこへ行くんだ」
「息苦しいからドライブを」
「バカ言うな。父さんに黙って外出するのか」
「・・・」
「降りろ」
「一人になりたいの。ドアを閉めて」
「降りろったら降りろ――身勝手過ぎるぞ」
「・・・」
「他人の涙も見ようとしろよ」
「・・・」
「辛いのは分かってるが・・・」
「どうして隠すの? お義母さまによ。問題から目をそらし、父子そろって優柔不断なんだから」
「・・・」
「隠したり延ばしたところで解決しない問題よ。お義母さまの言葉に――お義父さまはどんな顔をしてた? 罪悪感を抱かされる私のことも少しは考えて」
「・・・」
「まるでネズミ捕りよ。分かる? おいしそうな肉にかぶりついたら――捕まった気分よ
「いい加減にしろ」
「・・・」
「俺は肉かよ。それともネズミ捕りか」
「・・・」
「父さんがあれほど妥協してくれただろ。何とか自分を抑えて話してくれた。母さんにその苦しみを与えたくないんだ――分からないか?」
「・・・」
「そんなに譲れないのかよ。父さんは母さんを苦しめたくない一心なんだ。隠し続ける気はない」
「ええ。それよ――愛なんでしょ。あなたと同じね。でも私は愛し方を論じてるの。私だったらそんな愛し方はしない」
ソンランは車を降りた。先に家中に戻っていった。
クムスンは別れを告げたジェヒのことを考えていた。ジェヒの言葉を思い出していた。
――クムスン・・・クムスン・・・名前もいいな。ちっとも気まずくない。
二人でやった花火は楽しかった。子供の頃にやった花火とは違う楽しさがあった。ジェヒと二人だけの世界があった。
――俺たち結婚しよう。
クムスンはフィソンに背を向ける。
その頃、ジェヒも車の中で辛い思案に沈んでいた。家の前だった。
ようやく車から降りる。
ミジャの前に顔を出す。
「かあさん、なぜ反対するんだ?」
「・・・」
「歓迎されないとは思ってたけど――ここまで強く反対されるとは思ってもみなかった。彼女は自分の若い頃に似てるんだろ。なのになぜだ」
「・・・」
「こっけいだし、矛盾してると思わない?」
「・・・」
「それは――母さん自身の人生を否定し、侮辱することさ。俺は信じてた。平凡な人とは違う俺の母親だから――理解してくれると。母さんも同じくシングルマザーだから」
「結婚さえしなければ構わないわよ。いくらでも理解するわ。子持ちのバツイチとの結婚に賛成する親がどこにいる?」
「そんな言い方をするな」
「なら何と呼べばいいのよ」
「ナ・クムスンと呼べよ。ちゃんと名前があるだろ」
「この子ったら・・・」
「俺が初めて――結婚したいと思った人さ。生涯で初めて――釜山のやぶ医者の話をした女なんだ」
「・・・」
「俺を独身主義者だと思ってただろ。ナルシストで他人を認めないから?」
ミジャの目はどんどん潤んでくる。
「俺は誰にも――父親について話したくなかった。このク・ジェヒが――愛人の子だなんて隠したかったんだ。飲んだ勢いで先生に話した以外には――今まで誰にだって話したことはない。それを話したくなった相手だ」
「・・・」
「そんな彼女さ。どういう意味か分かるか?」
「・・・」
「だのに――なぜ反対するんだ? しかも叩いたり――侮辱までして」
「お前――私のことが恥ずかしかったのね」
「・・・」
「そうか・・・理解してくれてると思ってたのに・・・恥ずかしくて――誰にも話したくなかった・・・でしょ?」
「・・・違うさ」
「だったら何だと言うのよ」ミジャは泣き出す。ひしった。「だったら何だって言うのよ!」
「ええ。誇らしくはない――それに彼女には親がいる。チャン先生の奥様さ」
ミジャは顔を上げた。
「何ですって?」
「奥様の娘なんだ。チャン先生と出会う前に産んだ娘さんだよ」
ミジャはワナワナ唇を震わせた。
ジョムスンとスンジャはクマの妊娠を心配していた。それであれこれ聞き質そうとする。
クマはケロリとした調子で相手をする。
それにスンジャたちは当惑していた。クマは妙な夢の話もした。
ジョムスンは訊ねた。
「未婚で妊娠はまずいでしょ」
「でしょうね」
クマはニコニコして頷く。
「でも、なぜ私があんな夢見たのかな――誰かが妊娠を? 代わりに見ることもあるんでしょ。誰だろ――ジョンミンかな」
二人は顔を見合わせる。
「お前、本人じゃない?」
「私? どうして私が・・・」
「だって、一線を越えたんでしょ」
「えーっ?」
クマはスンジャの怖い目にぎょっとする。
「答えなさい。じつは何もなかったのね」
クマは急に押し黙った。
ジョムスンは何だかんだ理屈を並べながら、クマ自身の口からほんとのことを聞こうとする。
フィソンは保育園に行く前、おじいちゃんとおばあちゃんに「行ってきます」と挨拶した。
「行っておいで」
「気をつけてね」
フィソンはクムスンに連れられて出かけて行った。
クムスンらが出かけた後、ピルトはジョンシムに言った。
「夕食は外で食べよう。出て来いよ」
「ほんとに?」
「6時までに近くにきて電話してくれ」
「分かったわ」
フィソンは保育園に着いた。
「フィソン、来たわね」
フィソンにバイバイされてクムスンは保育園を後にしようとする。
すると他の園児らも次々保育園に到着する。両親に連れられてきた子を見て、クムスンは羨ましさを覚えた。
ウンジュはジェヒが美容室でクムスンに言っていた言葉を思い出して悲しさに打たれていた。
ヨンオクが部屋のドアを開けた。入ろうとしたが、ウンジュの沈んだ様子を見てそっとドアを閉めた。
「彼女がそんなに好き?」ウンジュはつぶやく。「そんなに・・・」
お茶を飲んでいるキジョンのところへヨンオクがやってきた。
「今夜、ウンジンに話すわ」
「分かった。俺が話そうか?」
「いいえ、私が話すわ」
「そうしろ――ウンジュは?」
「泣いてるわ」
「・・・」
「今のウンジュには何も言ってやれない。クムスンとジェヒさんが交際してると知ったから」
「吹っ切ろうとしてるのさ。俺の話を聞いた瞬間から目つきが違った――クムスンに会ってるか?」
「・・・」
「会ってないような気が・・・だろ? お前の方が拒否するはずはないし、向こうが?」
「いいえ。お義母さんの許しを得てこいって。そうすれば気楽に会えると言うの。だから昨日も行ったわ」
キジョンは頷く。
「まだ私には会ってくれないけど」
「ジェヒに訊ねたんだが・・・表情が暗かった。詳しい話もしないし、少し気がかりだ」
ヨンオクの表情は曇る。
「院長も知ったようだし――1度、クムスンさんに会え」
クムスンはジェヒの関係はスタッフらの間で噂になった。
「息子さんと交際を?」
「どうやって口説いたのやら」
「大した人ね」
スタッフを代表してヘミが訊ねた。
「院長の息子さんと交際してるの? どうやって口説いたのよ」
クムスンはヘミを振り返った。
「顔がいいからよ」
「何ですって? しょってるわね」
「先輩こそ、変なこと言わないで。交際って誰がよ」
ジェヒは美容室の前に車を乗りつけた。
クムスンは開店前の掃除をやっている。その姿を寂しそうに眺め、ジェヒは車で走り去った。
スンジャとジョムスンは暇に任せ、クマの話に熱中した。スンジャはなかった立場で理屈を並べ立て、ジョムスンはあったかもしれない可能性に言及した。
その時、インターホンが鳴った。
スンジャが応対に出ると現れたのはジェヒだった。
「こんにちは。キム・ジョムスンさんのお宅で?」
「そうですが、どなた?」
「私は・・・」
「あら、あなた」とジョムスン。
ジェヒはジョムスンに気付いた。
「どうも。覚えてます?」
ジョムスンは手を叩いた。
「当たり前でしょ。病院の美男子先生だもの」
三人は部屋に落ち着いた。
ソンランの携帯が鳴った。
「久しぶり・・・」
「お金を受け取ったよ。助けてくれてありがとう」
「大変なようね。仕事の調子は? ウジュは元気にしてるの? 何と?」
シワンは言った。
「早く家を探さないと――どこがいい?」
「・・・」
「俺は実家の近くがいい」
「私もそれでいいわ」
「大丈夫か」
「うん・・・私、話があるのよ」
「何だ?」
「・・・」
「どうしたんだ?」
「息子のウジュについてよ」
「・・・」
「さっき前夫から数年ぶりに電話があったの。状況は話したわよね。仕事が最悪らしいから、ウジュを韓国によこすって。それで本人は私と過ごしたいと言ってるそうなの。会いたいって」
「・・・また脅かしなのか?」
「そうじゃない。言葉が過ぎるわ」
「なら、何だよ」
「それが息子の本心なの。前夫は再婚を知ってるから無理ならいいって。でもウジュの希望だから訊ねたそうよ。無理だったら舅の家に」
「・・・」
「私に対しては別として前夫はいい父親よ。子供を利用したりはしないわ。断言する」
「・・・そうか。分かった。謝るよ」
「・・・」
「それでどう答えたんだ?」
「考えてみると伝えた。相談すべきだから」
「そう・・・」
「それで考えてたんだけど・・・私は1ヶ月面倒を見たい。4歳の時以来よ。しかもウジュ自らが――私といたいと言ってるの。そうさせて」
「・・・いつ来るんだ?」
「1週間以内よ」
「それは無理じゃないか。時間がないよ。まだ実家を出る前だろ。両親と同居してるのに突然はダメだ」
「・・・」
「舅さんの家にしろ。そこに会いに行けばいいさ」
「私は一緒にいたいの」
「気持ちは分かるけど――現実的に考えていさせる場所がない。それに・・・あまりに唐突過ぎるぞ」
「・・・」
「息子がいるのは知ってるが――こんなことは予想してなかった」
「・・・」
「ただでさえ戸惑うのに――親と同居してたらとても無理だろ」
「つまり・・・息子とはいたくないわけね」
「いや・・・」
「なら・・・私が出張することにする。家を借りるか――実家に帰るなりして面倒を見るようにする」
「待ってくれ。とりあえず・・・2人でゆっくり考えてみよう」
ジョンシムは化粧品を借りにソンランらの部屋に入った。鏡台で目的の品を見つけ、出てゆこうとしたら何かに触れてそれが下に落ちた。
振り返ると手帳が落ちている。手帳と一緒に写真を拾い上げた。子供の写真だ。
「誰?」
「甥っ子かしら。甥っ子の写真を入れるなんて」
この時、誰かの声がした。
帰ってきたのはシワンたちだった。
「ここにいらしたんですか」
「ええ。ファンデーションをかりようかと。バレちゃったわね」
「どうぞ使ってください」
「借りるわ――そうだ。写真が落ちたんだけど、これは誰なの?」
「・・・」
「甥っ子かしら」
「・・・」
「誰よ――なぜ答えられないの」
ソンランが答えかねているとシワンが答えた。
「従甥だよ」
ソンランは驚いてシワンを見た。
「いとこの息子さ」
「そう」
ジョンシムは笑顔になる。
ソンランが言った。
「いいえ。従甥ではありません」
「・・・」
「私の息子です」
script type="text/javascript" src="//translate.google.com/translate_a/element.js?2db9cb=googleTranslateElementInit"></script> google-site-verification: google3493cdb