
韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(139)
「クムスン」
ピルトが返事を促す。
「はい・・・」
なおためらうと、テワンから声がかかった。
「兄貴、久しぶりだな」
「・・・」
「元気だったか?」
ピルトの頬は緩む。
「父さん。知り合いの兄なんだけど、弟嫁と同じ美容室で働いてたんだ」
「ああ、そうか」とピルト。
「はい。だから面倒を見てくれるよう頼んだんだ。父さんに挨拶を」
テワンに促され、ジェヒは頭を下げる。
「はじめまして」
「こちらこそ。君も同じ美容師なんだね」
クムスンを見てジェヒは頷く。
「・・・はい」
クムスンは顔を上げられない。
役者の卵テワンは酒を飲むしぐさになった。
「それじゃ、近いうちまたこれでも――父さん、行こう」
「ああ。じゃあね」
ジェヒが軽く頭を下げる中、ピルトはテワンを伴って歩きすぎる。
歩きすぎてからテワンがクムスンを呼んだ。
「クムスンさん、行くよ」
ジェヒを見て、クムスンは二人の後に従った。
三人は家に入ってくる。
「あら、みんな一緒なの?」
「ああ、そこであった。夕食は?」
「フィソンと食べたわ。フィソンはシャワーをして寝たの」
「そうでしたか。大変だったでしょう? 最近は力が強いし、洗うのを嫌がるから」
「着替えなさい」
ジョンシムは部屋に入っていく。
「ああ、もう休め」とピルト。
「はい。おやすみなさい」
ピルトが消えると二人は目を見合わせた。
「お義兄さん・・・」
テワンは黙って二階へ消える。
クムスンはテワンを追って部屋に現れた。
「お義兄さん・・・すみません」
「・・・」
「ジョンワンの名にかけて誓ったのに守れなかった・・・止められなかったの。すみません」
「だから? だから、どうするつもりだ?」
「・・・」
「俺に目をつぶれと? これからはあいつと恋愛するから? ムリだ」
「・・・」
「さっき庇ったのは――クムスンさんのためじゃない。兄さんのことで参ってる両親を思ってのことだ」
「違うんです」
「違う? なら何だ?」
「その問題が解決したら話すつもりで・・・私から・・・お二人に話すつもりだったの」
「何を? 何をだ? あいつと結婚でもするつもりか?」
クムスンは否定しない。
テワンはふとクムスンの手に光るものを見た。
「・・・手の、その指環は何だ? 求婚でもされた?」
クムスンは否定せず、テワンを見つめる。
「話はもう済んでるのか?」
否定せず、クムスンは悲しげな顔をする。
テワンはそこにクムスンの意志を感じた。
「出てけ――できるだけ早く、ジョンワンの家から出ろ。今すぐ、この部屋からも出ろ」
テワンは部屋のドアを引いた。クムスンが外に出ると、ドアはすぐ大きな音を立てて閉まった。
鏡の前でバラの赤が映えている。
「いいなあ」
と嘆息した後、ピルトはジョンシムに切り出した。
「帰り道に・・・」
「何?」
「あっ・・・いや、何でもない」
「何よ、言いかけといて」
「大した話じゃなくて――帰り道に新しい屋台が出来てたんだ。行ってみるか?」
「・・・けっこうよ」
「昨日はどこに?」
シワンの質問にソンランは答える。
「事務所にいたわ」
「なのに無視を?」
「昨日、離婚しようと言ったことは――本心だったわ」
「俺の答えも聞かずに?」
「沈黙が同意だと思った」
「・・・」
「なのになぜ気持ちを変えたの? 昼間、お義父さまが来て――ウジュを預かると言ったそうね」
「ああ、そうだ」
「どうして? 突然、息子に愛情が湧くはずもないし」
「お前を愛してる。失いたくない」
「それで渋々と?」
「お前は、また・・・ああ、お前が怒ってるのは十分理解できる。だけど――待てなかったのか?」
「・・・」
「お前みたいに結論から出せないし、何事にも時間が必要だ。それが、そんなに怒ることか?」
「・・・」
「だから返事も聞かずに、怒って両親に離婚すると言ったのか?」
「それで私が怒ってると思うの?」
「・・・」
「あなたの気持ちは分かるわ。逆の立場なら嫌だわ」
「・・・」
「私が怒ったのは――わずかだけど、あなたもご両親と一緒に私を責めたからよ」
「そんなことはない」
「そうしたわ。私に離婚歴があって、突然、子供が来ることにあなたは苛立っていた。ご両親の陰に隠れて――私を責めるお二人の後ろで露骨に同調したわ」
「そうだ、確かに苛立ってた。苛立ったさ。こんな状況で子供を引き取ると言われ、お前なら腹が立たないか?」
「・・・」
「だから、両親の後ろで同調したというのは誤解だよ。本当にそれは違う。そうでないなら、お前と結婚しなかった」
「・・・」
「信じてくれよ。そうじゃなく――俺は、父親になる準備ができない。簡単に受け入れられる問題じゃない。1度も会ったことないんだ。ソンラン俺は、ふつうの男なんだ。いい男になろうと努力してる平凡な男なんだよ」
ソンランはうつむく。涙ぐむ。
「状況はいい男になれと促してくるが、俺はまだ準備不足なんだ。そんな自分と戦うお前に無関心だったよ。それでお前を苦しめたなら悪かった」
「・・・」
「ソンラン、一緒にウジュを育てよう」
「・・・」
「俺も頑張るよ――最初からいい親はいないだろ。努力すればいい父親になるかもしれない」
「約束する――努力するよ」
ソンランの目から涙が溢れた。
「あなたの言葉に感動して涙が出るのはどうしようもないわ――子持ちの離婚歴は罪だということね」
シワンは笑みを返す。
「私は・・・愛する人をこんなに苦しめてるわ」
ソンランは涙を手でぬぐった。
「ありがとう。本当にありがとう」
「・・・」
「死力を尽くし、ご両親に許しを請うわ」
クムスンが帰りを心配して外に出ると、シワンたちの姿が門にある。
「お義姉さん」
「クムスンさん――心配したでしょ?」
クムスンはソンランに歩み寄る。
「もちろんです。本当に心配しました」
クムスンはソンランに抱きついた。
「よかったです。すごく心配したんです。出て行ったきり戻らず、電話にも出ないし」
ソンランはクムスンの背を軽く叩いた。
「そうなの? ごめんね」
二人は手をつないだ。
「シワンさん、本当にうれしいわ。私を迎えてくれる人もいる」
シワンは頷く。
「元気が出るだろ」
「うん、元気になった」
「フィソンもお義姉さんを探してましたよ」
「ほんとに? 親子で? 嬉しいわ」
三人は和気藹々家に入った。
朝、ソンランが炊事をしているとジョンシムが部屋から出てきた。苛立った声をあげた。
「何をしてるの?」
ソンランは手を止めた。
「お義母さん、おはようございます」
「なぜここに? 勝手に入らないで」
「すみませんでした。もう二度としません」
ソンランは跪く。
「お義母さん――私たちを許してください。1年だけ、子供を預かります」
ジョンシムはソンランをジロリと見下ろす。
「本当に厚かましいですが、他に方法がないんです」
「だから出てって。この家を出て、何でも勝手にすればいいのよ」
「お義母さん・・・シワンさんはお二人を愛し、本当に尊敬しています」
「・・・」
「私のせいで彼が親不孝をして、親に背を向けさせ申し訳ありません」
ジョンシムはソッポを向く。
「なら別れなさい」
「お義母さん・・・お義母さん1度だけ許してください。シワンさんと幸せに暮らします」
「・・・」
「努力します。いい嫁になるように本当に頑張ります」
「・・・」
「それに今日から4日間の休暇なんです。その間、家事をすべてこなして努力します」
「その必要ないわ。あなたみたいな嫁が、慣れない事までして私に媚びるの?」
「・・・」
ジョンシムの後ろからクムスンが言った。
「お義母さん、どうかお義姉さんを許してください」
ジョンシムはクムスンを睨みつける。
「わざと騙したわけでもないんですし、子供も行き場がないから仕方がないわ」
「あなたは黙ってて」
そう言ってソンランを見る。
「立って。今すぐ立つの」
「お義母さん・・・」
「すぐに立ちなさい。聞こえないの? 早く立ちなさい!」
そこにシワンが出てきた。ソンランの横で正座した。
「母さん、1度だけです。本当に親不孝をしました。でも俺たちは別れられません。1年だけ預かるんです。行き場がないんです。どうか許可してください」
シワンの情熱にジョンシムは目をつぶった。目を背けた。
「母さん」
横で聞いていたテワンも口をはさんだ。
「もう許してやってよ」
「あなた―!」
「俺も義姉さんは嫌いだ。嫌だけど、それでも離婚はありえない」
「そうですよ」とクムスン」
ジョンシムは左を見た。クムスンを睨んだ。テワンを向き直った。
「あなたたち何なの? 出てって。みんなすぐ出てって」
吐き捨てるように言って、ジョンシムは自分の部屋に戻った。
シワンはソンランの肩を抱いた。
円卓の上に野菜を並べ、扱いながらスンジャが訊ねた。
「昨日は、ヨンオクさんに会いました?」
「ああ、そうだ」
スンジャは身を乗り出すようにする。
「じゃあ、許すんですね?」
「・・・」
「喜ばしいわ。ずっと恨んでいてもよくないもの。そういえば」
「・・・」
「5000とか言ってたのはもしかして・・・」
「そうだよ。お金を借りることにした」
「・・・」
「そうよ。助けてもらうから許した。自分の子供のためにそれくらいできるわ」
「何も言ってませんよ。それで用意すると?」
「うん。貸すというからあなたか私が行って、とにかく婚家から返すのよ」
「どうして急に? もしかしてクムスンが再婚をすると? あの医師と?」
「いや、まだ分からないわ。ただ、どうせ返すお金だから」
「クムスン、再婚を決意したんですね?」
「違うってば」
ジョムスンはさっと話題を変えた。
「あなた、妊娠の話はいつするの?」
飲み物を取りにおりてきたウンジンにウンジュが言った。
「ウンジン、こっちに座りなさい。食事をしよう」
「食べたくない」
「早く座って食べなさい」とヨンオク。「昨日も食べてないのに」
ウンジンは何も手にしないで戻っていった。
「ウンジン」
「ウンジン」
キジョンの声もヨンオクの声もウンジンに届かない。
「ウンジン」
怒ってヨンオクは立ち上がる」
「ほっておいて」とウンジュ。「今はほっておく方がいいかも。私があとで話してみるわ」
「ああ、それがいいな。今は俺たちと顔を合わせるのも嫌だろうし、叱るのは逆効果かもしれない」
「・・・」
「ウンジュが話してくれ」
「はい。どう思っているか私が先に聞いてみるわ」
「ええ、そうね――召し上がって」
この時、携帯が鳴った。
ヨンオクは立ち上がり、携帯を握った。
「クムスンです」
「クムスン・・・ちょっと待って」
ヨンオクは食堂を離れた。
「クムスン、もう話していいわ」
「大したことじゃないわ。不在着信があったのでかけたの。私に電話を? はい、明日なら大丈夫です。そうします」
クムスンは花束を買った。
スンジャの検査の結果が出た。
「おめでとうございます。妊娠8週目で問題ありません。あちらで血液検査を」
スンジャは、まだ産むかどうか決めてないので血液検査は今度にする、と答えて診察室を出た。
すると待合室でジョンシムが座っていた。スンジャは驚いた。素知らぬ顔で脱け出ようとしたが、すぐにジョンシムの愛想のよい声が響いた。
「こんにちは」
スンジャは顔をしかめる。しかし、見つかってはやむをえない。愛想笑いを返す。
「まあ、どうも」
「ここには何で? 私は検査をする日でして」
「私も検査を受けに・・・それで、お変わりありませんか?」
「ええ、お宅もお変わりなく?」
「ええ、それじゃ私は急用がありますので、これで」
挨拶しあい、行こうとしたスンジャに後ろから声がかかった。
「アン・産婦さん」
スンジャは目をつぶった。ジョンシムは目を丸くした。
「母子手帳をどうぞ」
スンジャは目を引きつらせ、後ろを振り返った。
母子手帳を持たされるスンジャを見て、ジョンシムの表情は驚きまじりの微笑ましさに変わった。
スンジャは逃げるように産院を後にした。
ジェヒはすぐクムスンを迎えに出てくる。
「来たな」
笑顔を返すクムスン。
「迎えに行けなくてごめん」
「私、どう?」
「・・・初対面じゃないのに」
「でも、正式なご挨拶は初めてだから」
クムスンは衣服の襟元などを気にしてみせる。
ジェヒはクムスンを観察して答える。
「まあ、いいね。それなりだよ」
うんとよい評価がほしかったのかクムスンはちょっぴりいじける。
「院長はご存知ないの?」
「ああ――話したらきっと嫌だと言って出かけてしまうから」
「・・・」
「入ろう」
「はい」
試練は続く――クムスンは大きなため息をつき、ジェヒの恋人としてク家の敷居をまたいだ。
リビングに出てきたミジャはクムスンとジェヒを睨みつける。
クムスンはペコリと頭をさげる。
「院長・・・」
「あなた」
ジェヒがすかさず言った。
「正式に挨拶したくて俺が呼んだんだ」
ジェヒに習ってクムスンはミジャの前で正座した。
「母さん」
「・・・何のつもり?」
ジェヒはクムスンを見る。
「許可してください。クムスンさんと結婚したいんです」
クムスンの左手、薬指に光る指輪がミジャの目に飛び込む
「母さん――許してください。俺たち、本当に幸せになりますから」
「院長、私も頑張ります。決して失望させません」
「何を? 何が出来るの?」
鬼の形相でミジャは言う。
「ああ――素麺を作ること?」
「母さん・・・」
「はい、院長。素麺も作りますし・・・」
「ナ・クムスン!」
「・・・」
「そんなことは家政婦にも出来る。他には何ができるの?」
「・・・」
「それじゃたとえば――ジェヒと夫婦同伴の集まりに行けるの? 息子の周りは――優秀な学歴の人ばかりで恥ずかしくないの?」
「母さん」
「最後まで聞きなさい。これが現実なの」
「堂々とついて行きます。知らないことばかりだとは思います。でも知らなければ聞いて、それでも無視されるなら――私の方から無視します」
「あなた、口は達者よね――そう、知らなければ聞くのね? サージャンは知ってる?」
「・・・」
「エマージェンシーは? フェローは?」
「母さん!」
「1つもわからないでしょ?」
ジェヒは立ち上がる。
「息子の周辺ではこれが日常会話なのに、分からない度に――”それはどういう意味?”と聞くつもりなの?」
「母さん」
「あなたは黙ってて。これがクムスンの現実なの」
「・・・」
「それにあなたは――」
クムスンはミジャを見上げる。
「子持ちでしょ。子供の母親なのよ。子持ちの分際で何を・・・!」
ジェヒはクムスンの手を取った。立たそうとする。
「立って」
「先生」
「早く立って」
ジェヒは無理やりクムスンを立たせる。
「母さん――知らないの? 俺たちは許可なく結婚できる成人男女だ」
「先生――!」
「だから?」
「母さんがそのつもりなら、家を出て結婚する。いいですか?」
「・・・」
「1人息子をこんな形で失いたいの?」
「何ですって?」
「勝手にしてくれ。母さんの好きにして」
ジェヒはクムスンを見た。
「行くぞ」
ジェヒはクムスンの手を引いて外へ出ていく。
手を引かれながら、クムスンはミジャに頭を下げた。
ジェヒの強い反発にミジャは落胆と怒りの気分に包まれた。
「離してよ」
嫌々外へついて出たクムスンは手を引っ張った。
「まったく悪い息子ね。母親に何を言うのよ」
「我慢できないだろ。お前を侮辱するのは耐えられない」
「院長が最初から喜んで許可してくれるとでも?」
ジェヒは横を向いた。
「サージャンは外科医でしょ?」
ジェヒはクムスンを見る。
「・・・ああ」
「エマージェンシーは緊急では?」
「そうだ。緊急の状況で使う。知ってるのに――なのになぜ黙ってた?」
「さっきはサージャンが思い出せなかったの。ならフェローは?」
「それは知らなくて当然だ。研修医の終わった専任医だ」
「ああ・・・大したことないわ。でも、調べておけばよかった」
クムスンは笑い、先に歩いてク家を出る。ジェヒも一緒に出てくる。
「いい天気ね」
クムスンは晴れやかな声で言う。ミジャに嘲笑を浴びてもそれほどこたえてはいない顔だ。
「もう秋なのね」
「クムスン――俺に俺に怒ってもいいよ」
クムスンは笑顔で答えた。
「院長には申し訳ないけど私は大丈夫よ。1つでも取り得があればよかったのだけど」
状況に落ち込んでいるのはクムスンでなく、ジェヒの方だった。
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