雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「朱蒙」第37話(1)



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 金蛙王は宮を掌握した諸加の将軍らに取り囲まれた。捕まったソンジュは目の前に引っ張り出されている。
「陛下。もう終わりました。宮の外では城門に入れなかった大将軍が血の涙を流しています」
 金蛙王は無念そうにした。
 諸加に後押しされた帯素は金蛙王の前に跪いた。
「父上。私を本当に殺すつもりですか。私と母上を殺してまで、父上が得ようとしているのはいったい何ですか。私がどうして父上に剣を向けなければなりませんか」
「・・・」
「何とか仰ってみていただけませんか」
「・・・わしの病気を利用して権力を握ろうとしたのはお前だ。狡猾なやつだ。万全の準備をしてわしを口実にするとはな。何が望みなのだ。わしの命がほしいか」
 帯素は薄ら笑いを浮かべた。
「どうして私がそんなことをするのです。父上はまだ国事を行うほど気力が回復していません。気力が回復なさるまで、私に代理統治をさせてください」
 柳花夫人が口を荒げた。
「代理統治だなんて・・・陛下がご無事なのに代理統治を云々するのはどういうことですか!」
「黙れ!」
 王妃の叔父が叫んだ。金蛙王に向かって言った。
「陛下。陛下は四出道との関係をあまりにも悪化させました。帯素王子の代理統治をさせなければ、陛下と四出道の関係は永遠に回復できません。夫余の将来を考えてください」
「陛下。許してはいけません」
 柳花夫人もすかさず訴えようとするが、王妃の叔父は命令した。
「夫人を外へ引っ張り出せ!」
 柳花夫人を引っ張っていこうとする兵に金蛙王は叫んだ。
「その手を離せ!」
 兵は柳花夫人の手を離した。
 金蛙王の言葉にひるんでみなの動きが止まった。言葉も止まった。
 しばしの沈黙の後、帯素が言った。
「夫人を連れて行け」
 柳花夫人は外へ連れ出されて行った。
「ふっふふふふ。ふっふふふふふ」
 金蛙王は不気味な声で笑い出した。
「お前の思うようにやってみろ。ふあっはははは。あっははははは・・・」

 捕らえられている朱蒙をソンタクの部下が連れにやってきた。連れて来られた館の前ではイエソナも縄をかけられて待っていた。二人は見つめあった。
 ソンタクはひざまづかされた朱蒙に向けて言った。
「お前が夫余国の王子、朱蒙か」
「・・・」
 ソンタクは笑い声を響かせた。
「思いがけなく幸運が訪れた。お前の正体を知らなかったら、首を斬って殺していただろう。夫余の王子である以上、簡単には殺せない。こいつをヒョント城に連れて行け!」
(第36話より)

 
 帯素は諸臣下を集めた。帯素を挟んで向って右側前列に王妃の叔父を始め、弟のヨンポなど親族が並び、以下臣下が並ぶ。左側は大使者のプドウクブルなど臣下が並ぶ。
 プドウクブルはうやうやしく中央、帯素の前に進み出た。
「天地神明の加護によって陛下は意識を回復されましたが、気力はまだ完全には回復されておられません。よって、陛下は自ら帯素王子様をお呼びになり、代理統治を命じられたので諸臣下と民にこれを宣布する」
 帯素はこれを受けて、壇上に上がり、王妃の叔父が今度は臣下の前に進み出た。
帯素の権力掌握を支えたのはこの男である。
「諸臣下は今後、王子様を副君殿下として仕えるように」
 帯素は席に腰をおろした。帯素の方を向いて王妃の叔父は言った。
「殿下。代理統治をなさるには国事を導く人材が必要でしょう。優れた人材を登用し、国政を刷新すべきだと思います」
「よく考えた上で私もそれを決めたい」
帯素は答えた。
「責任の重さを痛感する。みなも私を助けてほしい」
 臣下たちは声を揃えて頭を下げた。

 帯素はフクチ将軍のもとへナロを使いで出した。
 馬を走らせて来たナロはフクチ将軍の前に立った。
「副君殿下は大将軍の忠誠心をよくご存知です。今からでも遅くないので協力してほしいとのことです」
「帰れ」フクチ将軍は相手にしない姿勢を見せた。「私は陛下と夫余にしか仕えない」
「大将軍!」ナロは叫んだ。「陛下はすでに殿下の代理統治を許されました。最後の機会です。殿下の頼みを断われば大将軍に従う諸将やその家族たちの命の保証はないと考えてください」
 フクチ将軍の顔に苦悩の色が表れた。
 マリたちもため息をついた。入宮を逸して金蛙王をいただく機会もなく、帯素が代理統治を行うとあってはこちらが反乱軍扱いされるのは明白だった。
「投降すれば、殿下はこれまでのことをすべて目をつぶると仰っています」
 ナロの言葉は威圧的だった。フクチ将軍の部下たちに動揺が走った。
 その様子を尻目にナロは馬で去った。
「俺はいやだ!」オイは叫んだ。「たとえ死んでも、あいつらを殺してやる」
 ヒョッポがそれをなだめた。
「俺たちはそれでもかまわない。だが、兵士たちには何の罪もない。何の罪もない家族まで犠牲にはできないではないか」
 マリも同調した。
「ヒョッポのいうとおりだ。今は頭を下げてでも時が来るのを待つしかない」

 フクチ将軍以下、マリらは帯素のもとに帰順の許しを請いに入宮した。
 帯素は自信たっぷりの表情でフクチ将軍に問いかけた。
「大将軍、私に協力してくれるか」
「私に従う武官たちには何の罪もありません。彼らの安全を約束していただけますか」
「もちろん、約束してやろう。私に忠誠を誓うなら罰を与える理由もない。大将軍と諸将軍たちは夫余と私のために忠誠を尽くしてくれ」
 フクチ将軍は帯素の前に跪いた。マリたちもそうした。帯素はそれを見てしたり顔になった。
 三人だけになったところでオイは言った。
「俺はあいつに屈服するのはいやだ」
「柳花夫人はどうするのだ。守ってやる者がいなくなるではないか」
「出て行こう」リーダー格のマリはオイの無念の気持ちを汲んだ。「金蛙王も回復された。帯素王子もおいそれとは柳花様に手出しできないだろう。俺たちは十分に我慢してきた。もう十分だ。ここを出て行こう」

 マリたちは夫余の軍服を捨て町に出た。解放感もあるが、空しさもあった。オイの口から愚痴が出た。
「朱蒙王子が生きていたらこんな侮辱は受けなかっただろうに」
「大使者も大将軍もいらないさ。王子様さえ生きていればそれでよかった」 
「マリよ。これからどうしたらいいんだ」
 ヒョッポの言葉に二人はため息をついた。
 そこへ路地から誰かが飛び出してきた。
「おい、何してる」
 振り向くとムソンが景気よく笑い声を立てている。
「どうして夫余に? 見つかったらどうするのです。今、夫余は帯素王子の天下ですよ」
「そんなことはわかってるさ。黙ってついてこい」
 ムソンはモパルモやヤンタクを伴って夫余へやってきていた。話を聞いてマリらは驚いた。
「朱蒙総官が生きてるって本当ですか?」
「総官が生きておられるって・・・詳しく話を聞かせてください」
「いや、はっきりはわからないんだが・・・」 
 ヤンタクが横から説明した。
「ヨミウル神女が生きていると言ったんです。神女の目に消え去った三足烏が見えたのだと」
 ヒョッポが言った。
「三足烏なら総官のことではないですか」
 オイらは喜色騒然となった。
「そ、総官はどこにいるのですか!」
「まあ、落ち着けって。だから一緒に探しに行こうと思って会いに来たのだ」
 なだめるモパルモにヒョッポは叫んだ。
「これ以上話す必要はない。早く行きましょう」
 マリも同調した。
「どっちみち、護衛武官を辞めて出て行くところでした。さあ、行きましょう」
 ヤンタクは頷いて言った。
「私は商団に報告に行く。それまで待っていてください」

 ヤンタクは商団に顔を出した。
 召西奴とウテが応接に出てきた。
「ゲルに何か問題でもありましたか?」
 召西奴に訊かれヤンタクは戸惑いを見せた。
「いいえ、お嬢様。問題などありません。お二人の婚礼に出席できなかったですし、夫余の情勢も緊迫しているようなので、その動きもさぐるついででやってきました。挨拶が遅れました。おめでとうございます」
 ヤンタクの言葉に召西奴は怪訝そうにした。
「では、首長に会ってきます」
 ヤンタクは一礼して屋敷に入って行った。
「何か話があってきたみたいですね」
 召西奴の言葉にウテは言った。
「ヤンタク首長は本音が分らない人です。夫人も彼には心して接した方がいいでしょう」

 帯素は四出道の将軍らと会食した。
「四出道の方々のお力添えがなければ、ここまでやってこれなかったでしょう」
「何を仰りますか」
 王妃の叔父が言った。
「もっと早く行動に出るべきでしたが、私たちの力が及びませんでした。ようやくお役に立てた次第です」
 帯素は笑いを響かせた。
「これから三年は夫余宮に送る家畜と穀物の租税を半分に減らし、残りは四出道の財政に使ってください」
「ありがとうございます」
 将軍たちは頭を下げた。 
「夫余の重要な国事は四出道の諸加と相談します。また諸加の子孫をはじめ、諸加が推薦する人材ならいつでも中央の要職を任せるようにします」
 将軍らは顔を見合わせ、喜びを表した。
 帯素はナロに言った。
「護衛総官。四出道の兵士に酒と肉を振舞い、諸加に与える金と絹を準備しろ」

 
 ヨンポは兄帯素の自分への扱いが軽いことに怒り心頭だった。
「馬鹿にするのもいい加減にしろと言いたい。兵官部の責任者は私なのに一言の相談もなく四出道の兵士を集めたりして、それが代理統治ですか。横暴きわまりない話だ。宮中を騒然とさせて、私がどれほど気まずい思いをしたか伯父さんにわかりますか」
「終わったことじゃないですか。今更どうするというのですか」
 宮廷使者が訊ねた。
「いいえ、私も夫余の王子です。ないがしろにされてもいい存在でないところを見せつけてやります」
 宮廷使者は嘆息した。
「気の毒な人だ・・・」
 ヨンポは反発した。
「気の毒って何ですか?」
「帯素殿下は陛下と命をかけて覇権を争い、夫余を掌握しました。死を覚悟した勝負をしたのです。ヨンポ王子様は帯素殿下に歯向かう覚悟は出来ていますか? 歯向かって死ぬ覚悟が出来ていますか?」
「うむむむっ・・・」
 ヨンポは考えに沈んだ。宮廷使者は続けた。
「帯素殿下を妨げるものは何もありません。下手に自尊心を守ろうとすれば王子様が先にやられてしまうでしょう」
 強い忠告にヨンポはうろたえた。
「わ、わたしは兄上と戦う気はありませんよ。兄上と私の関係を誤解しないでください。助力を求められれば素直に協力するつもりでいます。私をのけ者にした兄上がただうらめしいだけなのです。たまたま成功したからよかったものの・・・まったく・・・」
 不満を吐き捨ててヨンポは立ち去った。

 ヨンポは金蛙王のもとに顔を出した。床に伏している金蛙王の寝床にすがりついて愚痴を並べた。
「父上。兄上はひどいです。父上がこうしてご存命なのに代理統治だなんて・・・。父上はそれを許せますか?」
「・・・」
「兄上は権力に目が眩んで今は何も見えていません。これからは私が父上のそばでお守りするので、どんな命令でも下してください」
「・・・ヨンポよ」
 金蛙王は横になったまま言った。
「帯素と反目しあうんじゃない」
「父上・・・」

 マウリョン神女は王妃のもとを訪れた。
 社交辞令の挨拶を交し合った後、王妃はマウリョン神女の表情が優れぬのを感じ取った。
「マウリョン様、何か心配事でもおありに?」
「王妃様・・・朱蒙王子が死んだというのは確かなことですか」
「何を言い出すんです。朱蒙が生きているとでも言われるんですか」
 マウリョン神女はため息をついた。
「どう考えても不吉です。生きているかもしれません」
 王妃は表情を変えた。
「祭祀を行う間、神宮を押さえるような気運が感じられ、胸が重苦しくてなりませんでした。正体はわかりませんが、帯素王子を照らしていた光が暗くなりました」
 王妃はすぐに訊ねた。
「この事を誰か知っていますか?」 
「知っているのは神宮の者だけです」
「それなら、絶対に口外してはなりません」

 帯素と大使者のプドゥクブルは権力体制の保持について話し合った。
「今回の大事で主翼をなした四出道の諸加は、自分たちの力を広げてこようとするでしょう」
「私も心配していた」
「権力を与えても牽制できるようにしないと・・・特に兵権が一ヶ所に集中してはなりません。そのためには、四出道の諸加の息子を重用して形式的には冷遇しながら、何かあった場合、人質にするのがいいでしょう」
「わかった」
「それより大事なことがあります」
「何だ」
「命がけで手に入れた座。また過去に逆戻りしないためにも、どの先王もできなかった善政をおこなうべきでしょう」
「・・・」
「国家間の戦も国内の戦もあってはいけません。ささいなし返しは忘れるべきです」
「・・・」
「帝王とは太陽の光のようなもの。過去の暗闇や影をすべて暖かく抱擁し、民を感服させてください。そうすれば夫余は万歳の安定と平和が得られ、殿下は聖君として後世に名を刻むでしょう」
 帯素は神妙に話を聞いていた。
「大使者の話を肝に銘じておこう」

 王妃はマウリョン神女の言葉が気になってならなかった。 
 そこへ帯素がやってきた。
「国事はうまくいっていますか?」
「はい」
「それはよかった」
 笑顔を見せた後、王妃の表情は沈んだ。それを見て帯素は訊ねた。
「何か心配事でもありますか」
 何でもない、と王妃は首を振ったが、帯素はさらに訊ねた。
「仰ってください。私に隠す必要はありません」
 王妃は頷いて言った。
「マウリョン神女は朱蒙が生きているというのです」
「そんなはずはありません」帯素は強く否定した。「生きているなら宮に戻ってくるはずではありませんか」
「私も信じがたいが、マウリョン神女が不吉だというのを無視はできない。もしも朱蒙が生きているなら、その対策も考えておかないと・・・」

 帯素はナロを呼んだ。
「朱蒙がどこで行方不明になったか知っているか?」
「はい」
「今すぐ兵士を送って、その一帯を隅々まで捜索させろ」
「どうしたのですか」
「朱蒙の死体を私の目で確認したい。内々で進めろ」

 マリたちは朱蒙が行方知れずになったあたりに達していた。近辺の村などに入り、少しずつ朱蒙の所在に近づきつつあった。しかし、誰に訊ねても手がかりは得られない。苛立ちもつのってきていた。

 朱蒙は牢獄内でソンタクの不遜な言葉を思い起こしていた。
「はっははは。これは思いがけない幸運だ。お前の正体を知らなかったら首を斬って殺していただろう。夫余の王子なら殺せない。こいつをヒョント城に連れて行け!」
 
 
 部下に案内されてきたイエソヤはソンタクの横に立った。
「座れ」
 イエソヤは言われた通りにした。
「話があるそうだな」
 イエソヤはソンタクを見た。
「朱蒙王子をヒョント城に売って利得を得るつもりなら、夫余に戻しても謝礼をたっぷりもらえるでしょう。朱蒙王子を夫余へ帰してやってください」
「・・・」
「帰してやって」
 ソンタクはイエソヤを睨みつけて言った。
「もう、あいつが好きになったのか」
「・・・」
「お前が言う通り、夫余へ帰してもいい。しかし、俺には冷たいお前があいつに関心を見せていることが気に入らない。夫余には帰さない」
「父がどうして漢との取引を反対したが分りませんか? 朱蒙王子を漢に売ることは我が部族の自尊心を売ることです」
「部族の自尊心? 族長を殺した俺だ。自尊心より大事なものだって売ることができる。俺がこの座を奪ったのはお前を得るためだった。お前があいつに興味を示すほどあいつを苦しめてやる」
 イエソヤは憎しみをこめてソンタクを睨んだ。
「俺の女になると哀願してみろ。そしたら、お前は生かしてやる」


イエソヤは牢番の忠告も聞かず、強引に朱蒙の牢へやってきた。牢の前に立ったところで彼女は言った。
「少し、話があるの。二人だけにしてください」
「族長にばれたら大変ですよ」
 牢番はやむなく言った。
「それでは早く終わらせてください」
 牢番が消えた後、イエソヤは朱蒙のそばに歩み寄り、軽く頭を下げた。
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