
韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(120)
電話を何度かけてもクムスンに通じない。舌打ちする。ジェヒの苛立ちは募るばかりだ。
自分もジェヒに対し、好意を抱いている。彼からの電話を拒むことはクムスンにとっても辛い選択だった。
キジョンは自分の部屋にウンジュを呼んだ。
「今日、クムスンさんに会った。お前が知ってると話した」
「・・・」
「お前も驚いてるだろう。一緒に仕事もしづらいだろう」
ウンジュは横を向く。
「俺も以前から同じ美容室で働くのは気になっていた。だから――ウンジュ。美容室をやめたらどうだ」
「・・・」
「お前は他の店でも働けるが、彼女はまだ無理だろう。それに」
「パパ」
「そうしてほしい」
「・・・」
「でなければ、この機会に独立するのもいい」
「パパ」
「お前・・・ジェヒにまだ未練が?」
「・・・」
「そうなら――もう諦めろ。ジェヒには好きな人がいる」
「なぜ知ってるの? パパも知ってたの? 彼がクムスンを好きなのを――パパも知ってたというの?」
「・・・」
「どうして・・・パパも私を騙したの?」
ウンジュは立ち上がった。キジョンが止めるのも聞かず部屋を出ていった。
キジョンの部屋を出てきたウンジュは、悲しさや悔しさや怒りやもろもろの思いをぶつけるように泣きじゃくった。
ウンジュの言葉を思い返す。
――ジェヒさんの好きな人は・・・ナ・クムスンよ。
ヨンオクはウンジュとクムスンの板ばさみで悩みだしていた。
キジョンがやってきた。
「お前にも話すことがある。知るべきだと思う」
「さっきウンジュに聞いたわ――どうしてこんなことが・・・」
「ウンジュは気にするな。クムスンさんじゃなくても、ジェヒとは縁がなかった。ウンジュも辛いだろうが、現実を受け入れるしかない。クムスンのことは様子を見よう。ジェヒをどう思うかも分からないし、オ院長のことも予想はつくが――確実じゃないし、成り行きを信じよう」
ヨンオクはため息をついた。
ジョンシムは夜中に目が覚めた。
「1度起きたら寝られないわ。寝てる? まだでしょ?」
ピルトは反応しない。
「シワンと何の話を? 何で私だけ仲間はずれにしたの?」
「・・・」
「ねえ、あなた・・・寝てる?」
やっぱり反応はない。
ジョンシムはピルトを起こすのを諦めた。
「寝てくださいな」
ジョンシムは布団を抜け出した。リビングに出た。
ジョンシムが出ていくとピルとは目を開けた。
リビングに出ると食事用のテーブルでクムスンがパーマの練習に励んでいる。クムスンはジョンシムに気付いた。
「お義母さん・・・まだ寝てなかったんですか?」
「なかなか寝れなくて――少し見ててもいい? 邪魔なら行くけど」
「どうぞ座ってください。私も休憩します」
「そうね」
「お茶を入れましょうか?」
「いらないわ。ほら座って。あなたも休んで」
クムスンが座るとジョンシムはすぐクムスンの荒れた手に気付いた。
手を取って訊ねた。
「この手はどうしたの。なぜこんなことに?」
「染料の中和剤のせいです」
「手袋をしないでやるの?」
「シャンプーの時ははずすので。でも大丈夫です」
「なんてことよ。クスリを塗るのよ、必ず」
「はい。お義父さまは?」
「寝てるわ。さっきシワンが父さんだけ呼び出した。大事な話があったかと思ったの。そしたら男同士で一杯――飲んだみたいね」
クムスンは小さく笑った。
「それでいじけてたんですね?」
「いじけか・・・少しはいじけてたわね。よく見ると・・・息子たちは父親の世話をするわ」
「またまた――私はそうは思わないわ」
「でも、そうなのよ。違うようだけど、息子には気楽に話せないの。だから母親には娘が必要なの。それに息子に尽くしても、結婚すれば妻のことしか考えないわ」
「フィソンもでしょうか?」
「フィソンも息子だわ。それに誰の息子だと? ジョンワンもあなたに夢中だったわ。あなたたちは短い・・・」
ジョンシムはハッと思いとどまった。
「・・・」
「短い期間だったけど、口さえ開けば”クムスンが””クムスンが”とあなたのことばかりだった」
「・・・」
「なぜ、そんなに夢中だったのかと考えると、今は分かる気がするわ。こんなにかわいくて、優しくて、勤勉で――時々、驚かされるけどね」
「お義母さん・・・」
ジョンシムはテーブルに両肘をつき身を乗り出すようにする。笑顔をこめて言う。
「あなた――私の娘になる?」
クムスンは困惑する。
ジョンシムは吹きだした。
「眠れないから変な話をするわね」
夜中、ジョムスンは水を飲みに居間へやってきた。
するとスンジャとサンドのじゃれあう声がする。
ジョムスンは聞き耳を立てるが、スンジャがよがり声を出し始め、ジョムスンは耳をおさえて自分の部屋に退散した。
ノ家の朝食が始まった。
ピルトだけの姿がない。ジョンシムが呼ぶと、ピルトは出かける支度で部屋を出てきた。
「食欲もないし、早々に出かけることにする」
「食事もしないで?」とジョンシム。
「いらないよ」
「少しでも食べないと夏負けしちゃうわよ」
クムスンも同調する。
「いや、昨日の夜、酒を飲んできたせいだ。後で何か食べるさ。行ってくる」
試験の準備が進行する。ユン室長は時計を気にする。そこへウンジュが現れる。
「準備はできました?」
「院長が現れるのをまってるところです」
ウンジュはクムスンを見た。
――あなたがみんな知ってると?
院長が現れた。
「準備できた?」
「はい」と室長。「ではテストを始めます」
「待って」と院長。「クムスン。私の部屋に来て」
クムスンが何か訴えようとすると院長は言った。
「いいわ、テストを始めて」
「クムスンを加えずにですか?」
「ええ、はずして」院長はクムスンを見る。「来なさい」
院長は部屋に歩いて行く。クムスンは落胆している室長に言う。
「先生。待っててください。すぐに戻りますから少しだけ」
「分かった。まずは院長室へ行きなさい」
「ありがとうございます」
クムスンは院長のところへやってくる。
「クムスン。今日付けで解雇よ」
「院長」
「14日間、出勤したわ。その分の給与は副院長に指示しておくから。すぐに荷物を持って静かにここを去りなさい」
「院長」
「以上よ。出ていって」
「それは出来ません。私を解雇する理由を教えてください。でないと辞めません」
「何ですって? 理由が分からない?」
「・・・」
「何でl言わせないで。これ以上、あなたのために怒りたくないから――静かに出ていって」
「院長。ならテストだけでも、もしテストで落ちたら辞めます」
「出て行って」
「どうしても受けたいんです。テストのためにずっと練習してきたんです。それに――子供がいるんです。早く美容師として自立して自力で育てたいんです」
「・・・」
「院長。お願いします。テストを受けさせてください。落ちたら辞めると約束します」
ミジャはクムスンを見た。
「なら、約束して。今後、2度とジェヒに会わないと」
「・・・」
「約束出来る? あなたから連絡したりせず、ジェヒが来ても会わず、電話も受けない。出来る?」
「すでに・・・」クムスンは力ない声で切り出した。「会わないと言いました」
「誰が? あなたが?」
「はい」
「そう」
ミジャはクムスンから目を離して言った。
「出も私と約束しなさい。約束するなら――テストを許可するわ。答えて」
「・・・」
「そう約束出来る?」
「・・・」
「なぜ答えないの? 早く答えなさい。息子に会わないわね?」
「はい」
「さっきあなたの子の話をしたわね。その子に誓うのよ。その子に誓って答えて」
「はい」
「いいわ。行って。ユン・ソナにテストは10分後と伝えて。10分後に私も行くから」
クムスンは一礼して出ていった。
外に出たクムスンは悲しくて泣いた。自分の気持ちを裏切ってまで院長と約束したことが悔しかった。
携帯が鳴っている。ジェヒからだ。クムスンは涙をこらえて電源を切った。
しかし、クムスンは泣いてる場合じゃない。複雑な感情を気持ちの奥深く閉じ込め、彼女は試験に臨んだ。
「では始めましょう」
院長が宣言する。
受験するのはスタッフ4名。
「時間は20分よ」ユン室長が試験の骨子を述べる。「20分以内に10種類の染色を仕上げ、何より大事なのは――各々に正確で鮮明なカラーよ。それでは用意――スタート」
院長、副院長、ユン室長のそれぞれがくしくもクムスンの実技を注目することになった。
「それまで」
ストップウォッチが押され、試験は終了した。
「全体で19分45秒。全員、時間内にできたわ。では、カラーの審査をするから全員後ろへ下がって」
院長、副院長、ユン室長の三人によって審査が始まる。もちろん個人的感情を排したプロとしての公平な審査だ。
ウンジュはクムスンの前にきた。査定する時、驚きの表情を見せた。
採点は部屋でなされた。三人が受験者の前に戻ってくる。
「お待たせしました。発表します――彩度と明度を変え――鮮明で正確な色であるかを重点に採点し、80点で合格――それ以下は不合格です。アン・ヘミ――86点。キム・ウンジョン――78点。オ・ミジン――75点。ナ・クムスン――82点。よって、ヘミとクムスンは合格。残りの2人は再度テストを」
院長とウンジュはクムスンに対し、複雑な表情を見せた。
クムスンの嬉しさも複雑だった。
建設現場で指揮をとるピルトのところにヨンランがやってきた。
「お義父さま」
声をかけられたピルトはソンランをさけて行こうとする。ソンランはその前に立ちはだかった。
「お義父さま――」
「行け」
横を向いたままピルトは言った。
「なぜ、ここへ来る。帰れ」
「・・・」
ピルトはソンランを見た。
「行くんだ。俺には話すことはない」
そこに誰かの声がした。
「いやー、これはこれは――誰かと思ったらハ社長ですね」
「イ先輩」
「所長に会いに来たのか? やあ、所長のおかげでハさんに会えるな。元気か?」
「先輩もお変わりありません?」
「ああ。所長、有能な嫁をもらってうらやましいですね。はっははは」
「・・・」
「それではお話の続きを」
二人は顔を見合わせる。
「もう行け」
ピルトは言って背を向けた。
ジェヒは美容室に車を乗りつけた。クムスンに会うためだ。
しかし店は閉まっている。
ジェヒは携帯を取り出し、電話をかけた。しかし、クムスンの携帯は電源が入っていない。
家路を歩いてきたクムスンは立ち止まった。自宅の前に母親が立っている。
困惑していると母親はこっちを見る。
二人はカフェラウンジに出向いた。
「体調はどうですか?」
ヨンオクは嬉しそうに答える。
「私は良好よ。あなたは?」
「私もいいです」
「よかった。話は聞いてたのよ。ありがとう。こんなに早く回復してくれて」
「・・・」
「フィソンは元気なの?」
「はい」
「前にこの近くで見たことがあるわ。かわいかったわ。あなた似ね」
「違うの。私よりあの人に似てるわ」
「あなたの入院中に遠くから見たんだけど、義両親もいい人そうだった」
「ええ。よくしてくれます」
「出来れば挨拶でもしたいんだけど・・・厚かましいし遅くもなったけど、今からでも――機会をくれない?」
「・・・」
「今まで23年間――出来なかった母親の務めを少しでもできたら・・・」
「今はまだ・・・」
「・・・」
「そのためには――祖母から許可をもらってください。祖母が育ててくれたから今の私はいるの。おばあちゃんが許せば、私も後ろめたさを感じず、会えるようになると思うの」
「ええ。よくわかったわ」
ジョムスンはスンジャに昨夜のことで何だかんだとグチや嫌味を並べた。
クマは父親を伴いテワンがやってくるのを待っていた。
クマの連れを見るやテワンは顔をしかめた。
テワンは姿勢を正してクマの父親と向き合った。
テワンは逃げ腰でサンドと目を合わすこともできない。
「受けろ」
凄みをきかされて酒ビンを向けられるとテワンは恐縮した。両手でおそるおそる杯を受けた。杯を受けた後、酌を返そうとするとサンドはそれを無視する。
サンドは訊ねる。
「現在はモデルでゆくゆく俳優になりたいと?」
「はい」
「でも今は甲斐性なしな訳か?」
「パパったら」と心配そうなクマ。
「今はそうですが、近い未来は違います」
「そうか」
サンドは頷く。
「ほら、注げ」
テワンは喜んで酒ビンを握る。酌をする。
サンドはぎろりとテワンを睨む。
「兵役は終えたか?」
「はい。あらかじめ芸能活動に支障のないように」
「そうか。それはいいな。飲め」
酒を飲もうとするとサンドは訊ねる。
「クマを愛してるか?」
テワンは動転した。酒を噛みつけて飲んだ。
「答えろ。どうなんだ」
テヨンは少し考え、答えた。
「いいえ」
クマはびっくりする。唇を噛み、テワンを睨む。
サンドも睨みつけたが、サバサバした口調で言った。
「正直なのは、いい」
テワンは拍子抜けする。
「注げ」
笑みを浮かべ、テワンは酒ビンを握る。
サンドはテワンを睨みなおした。
「だからって許すわけじゃないぞ」
と肝を入れてくる。
テワンは目をパチクリさせる。
母親と別れて帰ってきたクムスンは前方にジェヒの車が止まっているのに気付いた。
クムスンが近づくとジェヒは車をおりた。ドアを思い切り閉めるとツカツカクムスンに歩み寄った。クムスンの手をつかんだ。
「帰るわ」
構わずにクムスンの手を引く。
「帰るから手を離して」
ジェヒは手を離した。
「俺を怒らせたいのか? なぜ携帯はオフだ」
「場所を移りましょ。話があるの」
クムスンは車の助手席に向かって歩いた。ジェヒがドアをあけ、座席のシートを前に倒した。
クムスンは後ろの席に乗り込んだ。
車のエンジンがかかった。
クムスンはジェヒの背に切ないまなざしを向けた。
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