
韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(91)
スンジャは首を振る。
「いやいや、ありえない。そんなに早くやるなんて考えられない」
しかし、やるかもしれない。彼女の気持ちは不安で揺れる。
どうしたらいいか分からず、悲嘆に暮れる。家の前で一歩も動けない。
「今からでもお義母さんに話す?」
そう考えると、すかさず否定する自分もいる。
「ダメダメ、それじゃ殺されるわ」
ため息をつき、クムスンからもらった封筒をバッグにしまう。
それからまた大きなため息をついて家のドアを開けた。
「ただいま」
「お帰り」
「何をしてるの? また皮むき?」
円卓の前に腰をおろす。
「暇なんだもの。フィソンは来ないし――暑いから商売は大変でしょ」
「だったら、休んでくださいよ。そんなんでいくらになるやら・・・」
「そんなこというとにんにくが気分を害するでしょ。身体にいい食べ物なのに。にんにくのおかげで韓国人の祖先が生まれたのよ」
クマが感心する。
「おばあちゃん、”檀君神話”を知ってるの?」
ジョムスンはギロっとクマを見る。
「大抵のことは知ってるだから」
「分かってますよ。ママ、暑いでしょ。冷たい物出してあげようか?」
「いいよ。今日、主人の所へ行きました?」
「明日にするわ。一緒に行く?」
「行けないわ。明日は昼勤務です」
スンジャはクマを見る。
「服は買った?」
「いいのがないから、明日また行く」
スンジャは立ち上がる。
ジョムスンが聞く。
「絆創膏を買った?」
「ええ、カバンの中に」
そう言って土間に立った。ジョムスンはカバンを手にし、チャックを開けようとする。
その時、スンジャが叫ぶ。
「お義母さん、ダメです」
物凄い勢いで突進し、二人からカバンを取り戻そうとする。
ジョムスンはドアに背中と頭をぶつけ、クマもスンジャに押し倒された。
「ママ、何するのよ」
「ごめんごめん」
謝るスンジャにジョムスンは起き上がって訊ねる。
「ちょっとどういうことよ」
「怪我はない?」
「何なのよ?」
「中に見られたくないものが・・・大丈夫だった?」
「そこに何が隠してあるのよ。出しなさい」
「別に何でもありませんから」
スンジャはカバンを手放さない。
ジョムスンはそれを怪しんだ。
「姑を殴るような勢いだわ。何があるのよ」
「お義母さんには関係ない物ですよ」
スンジャは必死に弁解した。
円卓の上にテキスト本とノートを広げ、ボールペンを持ったままピルトはこっくりこっくりをやりだす。
ジョンシムが肩を叩いた。
「部屋で寝なさいな」
「眠くない、眠くない」
ピルトはまた始めようとする。
ジョンシムは呆れる。
「ずっとうとうとしていたくせに。眠気を我慢して勉強するなんてまるで受験生だわ」
「最後まで頑張らないと。だけど最近はすぐ眠くなるな」
「マッチ棒で目をこじ開けておいたらどう?」
「おう、それがいいな。マッチ棒はどこだ?」
ジョンシムの冗談にのってマッチ棒を探していたらクムスンの声がした。
何か歌っている。
二人はびっくりする。
「何かしら?」
「クムスンじゃないか」
ピルトは立ち上がる。
テワンに介抱され、クムスンは歌いながら部屋に入ってくる。
クムスンの歌声を聴きつけてシワン夫妻も顔を出す。
クムスンは自分の歌を歌っている。
――クムスンよ どこへ行ったんだ♪
テワンが叫ぶ。
「静かにしろって」
「クムスン、どうしたの?」とジョンシム。
クムスンは酔った目を義父母たちに向ける。
「お義母さん――お義父さん――」
「飲んだの?」
身体をふらふらさせながらクムスンは答える。
「はい。遅くなりましてすみません」
二人にお辞儀した反動で後ろにひっくり返りそうになる。
テワンとシワンがあわててクムスンを支える。
「ちょっと、しっかりしなさい」
「大虎になっちまったな」とピルト。
「違いますよ、お義父さん。虎じゃなくてクムスンです」
「分かってるのか。意識はあるんだな」
クムスンは酔った顔で笑う。
「ええ、そうです。お義父さん、愛してます」
ピルトの手を握る。
「おお、わしも愛してるぞ、クムスン」
ジョンシムはピルトの腕を叩く。
「クムスンさん」とシワン。
「あらお義兄さま、愛してます」
クムスンはシワンの胸に身を預ける。
「ああ、クムスンさん俺も愛してるよ」
「あきれたわ、もう」
ジョンシムはテワンを叱った。
「どうして飲ませたのよ」
「自分で飲んだんだよ」
「ええ、自分で飲みました。もう成人なんですから」
「しっかりしなさい」とジョンシム。
「すみません」
深々と頭を下げるクムスン。
「なら正気になりなさい。蜂蜜水を飲ませてあげて」
ソンランに指示を出す。
クムスンはジョンシムに抱きついていく。
「ねえ、お義母さん、大好きです」
「ちょっとやめなさい」
しかし、クムスンは腰に抱きついて離れない。
「お義母さん、私がどれだけお義母さんのことを思ってるかご存じないでしょ。すごく愛してるんです。空より高く、大地よりも広く・・・」
「この子ったらもう何の真似よ・・・!」
「お義母さん、大好き・・・」
「離しなさいったら。分かったから座って。そこに座るのよ――義理の良心と暮らす嫁が酔っ払うなんて。ここに座りなさい」
ソンランがクムスンのところに蜂蜜水を持ってくる。
クムスンはきょとんとした目をソンランに向ける。
「お義姉さんがこれを? すごくうれしい。まさか作ってくれるなんて」
みんないつにないクムスンの毒気に当てられている。
「お義母さん」
「・・・」
「これをお義姉さんが作ってくれたので・・・お義母さんに」
「酔ってないわよ。早く飲んで正気に戻りなさい」
「私も酔ってませんよ、お義母さん」
「何を言ってるのよ。早く正気になりなさい」
「いつも私ばかり怒るんだから」
「自業自得でしょ」
「今じゃなく普段の話です」
「普段だって同じことよ」
ジョンシムの他は声も出なくなった。
「何が悪いんですか。お義母さん、最初から私が嫌いだったくせに」
「何を言うのやら」
「お義母さんには最初の頃から嫌われてました。3年前にあの人と結婚する時から――私は見下されてましたよ。家も貧乏だから・・・とにかく頭ごなしに嫌われました。私が何をしたってすべて憎まれるばかり。お義姉さんの家は教育者だと――私の前でも喜んで見せたりして」
「黙って聞いてれば・・・」
ジョンシムはカリカリする。
「酔っ払うと本音が出てくるものだ」と横でピルト。
「そうです」と笑顔でクムスン。「根に持ってはいないんですけど――お義母さんが勘違いなさってることが――私も最近知りました。お義母さん・・・驚かないでください。私にもいるんです。すごく裕福に暮らしてて――とても大きな家に住んでる人が・・・教育者ではないけど――かなりの美人でありながら、相当お金持ちな・・・」
ここでクムスンの身体はゆっくり崩れていく。そのまま頭を円卓にもたせかけ眠ってしまった。
「ママ・・・」
ジョンシムはクムスンの肩を揺さぶる。
「眠っちゃったみたい・・・」
家族らはしばらく寝入ったクムスンを見つめていた。
テワンがクムスンを抱いて部屋に運んだ。ジョンシムが布団を延べ、その上にクムスンを寝かせた。
「あきれたわ、ほんとに・・・2人の嫁に苦しめられ、その上、介抱までさせられて・・・」
「フィソンを連れてくるか?」
「無理よ。私たちの部屋で寝かせましょう。先に出てて」
「・・・」
「怒ったりなんかしないわよ。上着を脱がすだけだから」
ピルトとテワンは部屋を出ていった。
ジョンシムはクムスンを着ているものを脱がしていった。
靴下を脱がした時、ジョンシムはふと手を止めた。クムスンの足を見ながら物思いに耽った。
布団をかけてやり、クムスンを見ると彼女は目から涙を流しながら眠っていた。
この子にも親がいたのだとジョンシムはあらためて気付かされた。
ジョンシムは立ち上がろうとした。その時、ジョンワンとクムスンの記念写真が目に飛び込んできた。写真を見つめているうち、ジョンシムの目からも涙がにじみ出た。
ジョンシムは部屋に戻った。
「クムスンは?」
「完全に眠ってる。起きないわ」
「明日、怒ったりするな」
「・・・」
「それに・・・クムスンはお前が一番好きみたいだ。もたれていただろ」
「こじつけよ」
「とんでもない。母親に抱かれるようにお前に持たれてただろ」
「・・・」
「なあ、クムスンのことだけど・・・」
「何が言いたいか分かってる。聞きたくないから何も言わないで」
「そうだな。年老いた姑が酔っ払った嫁の世話まで・・・ご苦労さん。寝よう」
「・・・」
ピルトは布団にもぐりこんだ。
ヨンオクの付き添いをウンジュに任せてキジョンは引き揚げていった。
エレベーターに乗ろうとしたらそこにはジェヒが乗っている。他の乗員はおり、エレベーターの中は二人だけになった。
「お帰りに?」
「黙っててくれ」
「先生」
「黙れ」
「・・・」
キジョンは黙って先に降りていった。
ウンジュはジェヒのことを思っている。彼にキスして、撥ね退けられた悔しさと悲しさでいっぱいだった。それを追い出そうとすると涙がこみ上げてくる。
泣いているウンジュにヨンオクは気付く。
「どうしたのよ。暗闇で泣いてるなんて・・・?」
「ママ・・・ママ・・・」
ウンジュはヨンオクの胸に顔を埋めた。
「ウンジュ。ウンジュ、どうしたのよ」
ウンジュは泣きながら訴えた。
「ママ。私、ジェヒさんが憎い。殺したいほど憎い」
「・・・」
「二度と会いたくないほど憎いのに、私はジェヒさんが好き。ママ、私はどうしたらいいの」
クムスンは重い眠りから覚めた。
辺りを見回して彼女は驚く。どうやって部屋に戻って寝たのかまったく覚えていない。
顔をしかめ、額を押さえる。
その時、ふいに昨夜の自分を思い出した。
いろいろの醜態を思い出して嘆息する。
「まずかったわ・・・どうしよう。でも、なぜすべて思い出せないの? どうやって帰宅し、ここに寝たのかしら。フィソンは・・・」
クムスンはお腹をおさえ、ふらつきながら部屋を出た。
リビングには誰の姿もない。
円卓のそばで携帯を拾った。メールが入っている。
クマからテワンに送られたものだ。
――テワンさん、今日も忙しかった? 読んだら返信して。お休み
ジョンシムがトイレから出てきた。携帯を置いてクムスンは朝の挨拶をする。
「・・・」
「お義母さん、昨夜はすみませんでした」
ピルトも出てきた。
「起きたか?」
「お義父さん、すみませんでした」
「誰でも酔っ払うことはある。だが、2度は困るぞ」
「はい」
「お腹は大丈夫か?」
「覚えてるの?」とジョンシム。
「途切れ途切れですけど・・・酔っ払いの気持ちが分かりました」
「なら、なぜ謝るの?」
「少しは覚えてますから」
ピルトはニヤニヤしている。
「歌を歌った気もするし、お義兄さまにもたりたり・・・すみません。2度と飲みません。約束します」
「次は許さないわ。――早くシャワーを浴びて」
部屋に戻ったジョンシムはピルトに言った。
「あなたのやりたいようにやって構わないわ」
「・・・」
「完全に賛成ではないけど――昨夜、急に思ったの。万一の話よ。ジョンワンが生きてたら・・・優しいから何としても――クムスンにお金を工面したはず・・・」
「・・・」
「それとね。クムスンの靴下を脱がしてみたら、まだ足が幼いのよ。私の胸に抱かれた時も子供のようだったわ。まだまだ幼い子供のようなの。哀れだわ。どれだけ辛いのか。寝ながら泣いてるの。涙を流してた」
「・・・」
「その姿を見て・・・苦しかったわ。とても胸が痛んで、ふと前を見たら・・・ジョンワンの写真が・・・そうして――思ったの。助けてやれと・・・あの子が言ってるような気が」
ジョンシムは涙を浮かべてピルトを見た。
「そうか」
「あなた・・・どうしよう。ジョンワンに会いたい」
声をあげて泣きながら続ける。
「ジョンワンに会いたいのよ」
アイスコーヒーを持って来たミジャにジェヒは言った。
「頼むからウンジュとくっつけようとしないでくれ」
「・・・」
「頼むよ」
「・・・」
「わかったか」
「・・・」
「どうせ拒むけど――それでは俺たちの立場がなくなるぞ」
「ウンジュと何かあったの? 喧嘩した?」
ジェヒは話を切り替えた。
「店まで送っていく。支度して」
「どうやら喧嘩はしてないようね。喧嘩してたら気まずくて送ってくれないはず」
「乗りたくなければいいよ」
「・・・」
「着替えるから出て」
「分かったわよ。送ってちょうだい」
朝風呂から帰ってきたジョムスンはスンジャを相手に自分の死期が近づいたようだと言った。夢見がよくない。その理由が思いあたらない。息子のサンドの件も無事にカタがついたし、夜中に悪い夢でうなされるはずがない、自分の死期が近づいてるからだろう、と言うのだった。
スンジャはそんなジョムスンをなだめた。
スンジャはクムスン宅のそばにきてクムスンが出勤してくるのを待った。
「叔母さん」
「さっきから待ってたのよ」
「何か用事でも?」
「とにかくそこに座って」
顔を近づけてスンジャは驚く。
「酒を飲んだ? 臭うわよ」
クムスンは弁解せず口を押さえた。
「翌日に臭うなんてどれだけ飲んだのよ。お舅さんたちは留守?」
「いいえ」
「なのにいいの? おばあちゃんが知ったら怒るわ」
「もうこんなことはないし、初めてだから許された」
「やっぱり・・・あんな決心をするからよ。どんなにつらいか。死んだはずの母親が生きてただけでなく――腎臓を出せだなんて」
「・・・」
「決して許せないわよね。恨めしいもの。なのになぜ協力を? 返しに着て正解だったわ。どう考えてもダメよ」
封筒を出そうとするスンジャの手をクムスンは制した。
「叔母さん。もう決めたことよ」
「クムスン」
「もう、このことで苦しみたくないの。ずっと悩んだ末に決めたんだから。もう繰り返したくない。だから、今の段階で私が望むのは――もとの状態に戻ること。切にそれを願うわ。出来るなら腎臓を摘出し、手術がすんだら――記憶が消えててほしい」
「クムスン・・・」
「叔母さんから言われたとおり――あの人を許すことはできないわ」
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