
(爆発を起こし炎上するコスモ石油製油所→蘇我駅陸橋から)
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住宅地に帰り着く。いつもは静かな住宅団地だが、路地のところどころに人が出てきて深刻そうに辺りの様子を窺い、ひそひそ言葉を交わしている。
知り合いの女性と目が合ったので会釈しあってそこを通り過ぎた。
車を入れようとしていたら、隣のおばあちゃんが出てきた。
僕は車の中からおばあちゃんに挨拶した。
「大変なことになりましたねえ」
「そうなの。私はひとりなので、ほんと怖かった」
「よくわかります、それ。僕も一人なので」
「余震もあるから注意しなくてはね」
おばあちゃんは笑みを残してどこかへ出かけた。
車を入れ終えたところに隣人のトビが帰ってきた。
海岸沿い一帯は液状化現象で地盤の異変が心配されているらしい。ここも埋立地だ。その心配がある。
僕らはいつでも逃げ出せるようにして彼の部屋に落ち着いた。
「一人よりは二人の方が心強いからね」
僕は言った。
「俺は一人でも大丈夫だがな。まあ、頼むから足手まといにだけはならないでくれ」
「何言ってる。それは僕のセリフだ。ところでヘルメットは二つあるか?」
「二つ? あるわけないじゃないか。口のわりに緊急時のそなえはなってないね。そこのざぶとん提供してやるからそれでも握って出ることだな」
テレビは地震の緊急情報を流し続けている。
「ライフラインの確保か。この辺りの高台となるとどっちになるだろうね」
僕は背後を振り返った。
「こっちの方角になるかな」
「そっち? 高校のある辺りか? 」
「うむ、千葉市は百メートの高地はどこにもないくらいだ。十メートルの津波が来ればここはむろんのこと、市街地はほとんど水没するよ。市内では、港のポートタワーの屋上が一番高い地点らしいから」
「東北の海岸地帯は軒並みやられているみたいだぞ。東北に家族や親戚はないのか?」
「いるけど、いくら電話しても通じないんだ。あとでまた電話してみるけど、無事なら向こうから電話よこしてくると思うんだ」
その時、ものすごい爆発音が家を揺さぶった。ぎょっと身をすくませる。
「な、なんだ、このすごい爆発音は・・・! さっきも聞いたが」
「蘇我のJFEスチールだ。火事が発生したみたいだ。地震の影響だろう。あそこは近くにショッピングセンターのあるところだ。ほら、いつか出向いて寿司を食べただろう。あの隣りだよ。マグニチュード8以上の地震だ。福島原発の事故といい思いがけない事態が頻発している。ここもいったい何が襲ってくるかわからないぞ」
僕らはじっとテレビ放送に見入った。
(家を揺るがすような爆発音はコスモ石油製油所からだったかもしれない)