平方録

人生の残り時間

いつものように午前4時に起きる。

ベッドの上にブラインド越しの月明かりが数条の束になって差し込んでいて、この光の帯が闇との間で作り出すコントラストが部屋の空気を切り裂いて見えるためか、余計に寒さが際立つ。
調べてみると月齢は13.9で満月に近い月だと言うことが分かった。
冴え冴えとした月光が降り注ぐ部屋ではぬくぬくとしたベッドから抜け出すのに強い決意を必要とするのは言うまでもない。
外気温は0.5度。寒いわけである。

今年は何と古希を迎えるのだ。
ハナタレ小僧だと思っていた60代はあっという間に通り過ぎた。
下り坂を転げ落ちるようにという表現があるが、想像を上回る速さで転がり落ちた気分である。
このデンで行くとこの先も決して緩いスピードと言うことはないのだろう。

現役時代の不摂生や途中で見舞われた大病のことを振り返ると、よく無事に生きてこられたものだと思う。
つくづく「思えば遠くに来たものだ」という気分である。
唖然とするしかない。
ならばボクの「人生の残り時間」はあとどれくらいなのか。

「平成27年簡易生命表」によると日本人の平均寿命は男性80.79歳で女性が87.05歳である。
この統計数字をもとにするとボクは後10.79年生きられる計算になる。
ふ~む、残り時間は10年か…

この辺りの受け止め方はさまざまだろう。
ビックリするくらいおいしいケーキを食べ始めた子供が半分食べ終えたところで「もう半分も食べてしまった」と思う子と「まだ半分も残っている」と考える子に分かれるようなものである。
しかし、指標はひとつではない。
平均余命というものに目を向けて見る。

同じ簡易生命表からの数字だが、それぞれの年代の平均余命というものが出ていて、70歳に到達した人の場合では男性が15.64年、女性は19.92年である。
平均寿命で見た残り時間は10年余りだが、平均余命で見ると1.5倍の15年余りの時間が残されていることになる。
ここまで生き延びてこられたことへのプレゼントという訳なのだろうか。

こうした数字を挙げてみたのは、残りの時間を勘案しつつ生きていこうなどと思っているのではなく、思いがけず遠くまで来てしまった道の来し方とこれからの道筋を俯瞰できるものなら見て見たいと思っただけの話だ。
藤沢周平は三屋清左衛門をして「日残りて昏るるに未だ遠し…」と日記に書かせた。

ボクたちは少なくとも享受できていた平和というものが今、足元からはっきりと揺らぎ始めている。
揺らぎはさらに度を増して、脅かされる寸前のところまで来ているかのような気配さえ漂う。
ボクの孫たちにもボクたちと同じように「平和」を味わい尽くす権利があるのだ。ボクたちはこの「平和」という2文字を次の世代に引き継いでいく責任を負っている。
こんな重大事をよそに残り時間など数えている暇はないのだ。




庭のスイセンの開花が正月に間に合って良い香りを漂わせている






稲村ケ崎から
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