平方録

♪ 時にはぁ~ 海を見詰めていぃ~たぁ~ぃ~

午前4時。東の空は薄っすらと朝焼け気味である。
気味と表現したのは雲間に薄いところがあるようで、その辺りが周囲より明るく光って見えるからなのだ。
晴れた空に所々に雲がかかって朝日に光っているのとは違うのだ。つまり、はっきりしないんである。

夜は蒸し暑かった。いわゆる熱帯夜という奴だろう。
その証拠にパソコン前のデジタル温度計は29.2度を指している。
そんな夜でもシャッターを下ろしてガラス戸は開けたままにしておくと、何となく外気が忍び寄ってくるので、寝られないということはなく、へっちゃらなのだが、起きて窓を開け放してみても外気温はさして涼しくはない。

ベランダに出るとカツラの木の茂みできれいな声の鳥が囀り始めた。
オヤッと思う気持ちで梢の茂みに目を凝らしたら、多分鳴き始めた小鳥の目と目が合ってしまったのか、ピタリと鳴き止み羽音も聞こえないうちに何処へか飛び去ってしまった。
ガビチョウの鳴き声とは違って、もっと繊細でかわいらしい鳴き声である。時たま早朝に耳にすることがあるから、もしかして夜はここで過ごすこともあるのかもしれない。
驚かせてしまったようである。

外に出しておいたデジタル温度計を部屋に持ち帰ったら27.4度を示していた。
この2度少々の差というものはずいぶんと涼しく感じられるものである。
とはいえ梅雨前線がやや北に停滞し、しかも台風が近づいていて南寄りの湿った空気を呼び込んでいるがゆえの蒸し暑さというわけなのだ。
過ぎ去るのを待つしかない。台風一過の後は直ちに梅雨明けしてくれるんだろうな。そこが肝心である。

テレビで湘南海岸の片瀬東浜の72時間を追ったルポをビデオ録画していたのを見た。
ここの海にやってくる人々に、何で海を見ていたのか? とか、何しに来たのか? などと、大きなお世話としか思えないような質問を浴びせ、返ってきた答えの中から面白そうなものを選んで編集しているだけの番組である。

上下の背広をきちんと着て黒いカバンを下げた青年は不動産の仕事に就いたが成果が上がらず、上司からは性格を変えろと言われているがそれもできなくて、なんか嫌になってしまって……。そうこうするうちに立ち上がったのでどうしたのと聞くと、お腹が減ったので何かおいしいものでも食べようと、と言う。なんだよ、という気分である。
とっぷり暮れた海岸の石段にじっと座って遠く暗い海を見ている女子高生は時々来るんだという。建設業を営むという50代の男性はここで寝て朝日を見るんだと言って寝袋を広げ缶ビールをぐびぐびやり始める。挙句に朝日が昇りかけてもいびきをかいていて、揺り起こされても起きないんである。
夜の波打ち際にたたずむ老齢の女性3人は1人が盲人で80歳を超えている。少女時代を湘南海岸で過ごし、懐かしくてボランティア2人に頼んでここに連れてきてもらったんだという。風も波の音も全部あの頃と同じです、連れてきてもらってよかったとしみじみとしている。
水の中に入るわけでもなく、波が砂浜を濡らしていく範囲に身を投げ出して、傍目にはのたうち回っているようにしか見えない青年は都会のジャングルでの生活に疲れ切ってくるとここにきて身体を投げ出すんだという。そうしていると心が落ち着いてくるんですという。
エトセトラ、エトセトラ……

そういう場面を見ながら、うん分かる分かる、頑張れよ、とエールを送る気分になるのだ。海にぶっつけているそれらの気持ち、思いというものが、よぉ~っく分かるんである。
ボクもこういう何してるんだろう? と思えるような人物をちょくちょく見かける。
湘南海岸は都心からの交通の便も悪くないから、そうだ海を見よう! 海に行きたい! と思ったとき足を運びやすいのだ。

人が海を眺める思いはさまざまである。ボクにもじっと海を眺めていた記憶がいくつもある。
湘南の海の前は下駄をつっかけてミナトの突堤の先っぽで遠くを眺めていた。当時の横浜港は外国航路の船で大いににぎわっていたころである。
幼いころは母親の実家が海水浴場の目と鼻の先にあったので、海水浴場で育ったようなものなのだ。
いつも身近に海がある。だからだと思うのだが、今でもぼぉ~っと海を眺めているのが好きである。何しているんですか? と問われたらどう答えよう…

テレビ局のしたことは本当におせっかいで、ある意味では迷惑な話だが、海はどんな気持ちも受け入れてくれるものなのだ。好き勝手な理由でじっと眺めたり、波や砂や風と戯れることにはばかる必要はまったくないんである。

山は何かにつけ説教を垂れてくるようなところがあるので敬遠したくなるが、海は何事も黙って静かに受け入れてくれるのだ。それが海なのだ。















いずれも相模湾
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