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『わたしたちは子どもを産めますか』と福島の高校生に聞かれたら

2012-03-26 16:40:24 | 原発、福島、放射能
O大学のK教授先生が、「『女性が被曝すると、奇形の子どもが生まれる』『わたしたちは子どもを産めますか』と福島の高校生に聞かれたら、子どもを絶望から救うために『心配ない』と答えるのは大人としてのつとめでしょう。」といって議論になっていました。

K先生の処方箋は正しい知識を伝えること。「放射能汚染があろうがなかろうが、一定率であるのだという事実」⇒日本産婦人科医会先天異常モニタリングでは、画像診断等による内臓奇形も加わった1997年以降は数値が上がって、近年の先天異常率は約1.7~2%。




「チェルノブイリの影響については、奇形率が上がるという研究もあるのだけど、それはかなりおかしなデータで、WHOの総合報告では『被曝の影響による奇形や死産の増加は見られない』となっています 。」⇒国際放射線防護委員会(ICRP)は妊婦さんの被爆1000mSvで割合として100%増加、約1.7~2%が約3.4~4%になるとしています。線形性(比例計算)を仮定すると10mSvで1%増加です
日本政府は外部被曝、遮蔽効果のある室内16時間、戸外8時間で年間20mSv以内の福島県地域には、帰還、定住を勧めていますから、2%増加で約1.734~2.04%。これ位の変動では統計的には見逃される、見出されないです。
K先生は福島の女子高校生が子供だから無知で、大人がこの正しい知識を伝授して「心配ない」と絶望から救うのが大人としてのつとめと呼びかけたのです。

一般市民は無知との「欠如モデル」

チェルノブイリ事故で、こうした不安を科学知識の不足から「正しく怖がる」ことができず起こしたあり得ない反応として放射線恐怖症(ラジオフォビアradiophobia)とソ連政府は名づけ専門家の講話などで沈静化をはかりました。K先生も無知による不安という点は、ソ連政府とかわりません。正しい知識が無いので不安になる。専門家が正しい知識を伝えれば良いというリスク・コミニュケーションの考え方を「欠如モデル」といいますが、ソ連は一般市民=非専門家=無知、K先生は高校生=子供=無知と決め付けて「欠如モデル」で「正しく怖がる」ことを伝授すれば、不安が解消するというのです。

しかし市民や高校生を話をする前から無知と断定できるのでしょうか。特に今はインターネットで知識は入手できます。K先生の伝えたい知識を持った上で、なおも不安な人であったら?




1950年代に英国でアリス・スチュワート博士が全土の小児白血病とがんの大規模な疫学調査をおこないました。当時の英国では、出産間際の妊婦さんにレントゲン撮影で骨盤の大きさを測って出産の安全性を確認するというような診断が、普通に行われていたのです。 結果、小児白血病と小児がんの発症は、母親が妊娠中に受けた骨盤のレントゲン撮影との間に有意な関係、 1回のレントゲン撮影(平均10mSv位の被曝)で小児白血病の発症頻度は1.3~1.5倍位に増えるです。この研究が、現在の妊婦さんへのレントゲン撮影の指針の基礎になっています。

ICRPが1000mSv被曝で奇形率が100%増加という知見をもとにだしている勧告を、日本政府は取り入れて女性の放射線業務従事者(職業的被爆者)に規制をかけています。電離放射線障害防止規則では、「女性の放射線業務従事者(妊娠する可能性がないと診断されたもの及び妊娠中の者を除く)の受ける実効線量については、3月間につき5mSvを超えないようにしなければならない。」

「妊娠と診断された女性の放射線業務従事者の受ける線量が、妊娠と診断されたときから出産までの間につき次の各号に掲げる線量の区分に応じて、それぞれ当該各号に定める値(内部被曝実効線量1mSv 腹部表面等価線量2mSv)を超えないようにしなければならない」

 こうした「正しい知識」から、自分は何も悪いことをしていないのに、福島県に住むだけで、女性の放射線業務従事者(職業的被爆者)の給与と引き換えなみの被爆するの?不公平?差別?大丈夫?こうした疑問、不安を持つ人は、どの「正しい知識」が不足しているのでしょう。

不公平、差別は社会的文脈での扱いの問題です。政府の政策をそのように感じる、評価することは、放射線被爆の影響の「正しい知識」の有無と関係するでしょうか。

K先生らの「欠如モデル」は、人間に「正しい知識」を入力すると「安心して年間20mSv以内の地域に住む」といったK先生らが「正しく怖がる」と評価する反応・出力を返すという人間観があります。K先生は物理学者で、ある力を入れれば同じ反応をおこす物理的な普遍法則を探す仕事ですから、人間も同じと思っているのかもしれませんが、人間の返す反応は種々雑多です。それが、人間の多様性です。「欠如モデル」は人間の多様性を制限・否定するものです。

先天異常・障害は絶対に嫌!という人には?

身体でも車椅子で移動する人、ベビーカーで連れられていく赤ちゃんなど様々な多様性があります。50人に一人の先天異常など障害も人間の多様性の一つです。以前は、車椅子の人を排除する町の作りが普通でした。日本社会は人間の身体の多様性を、制限・否定してきました。



1948年から96年まで「優生保護法」で、日本は優生思想にもとづいて劣った生である「胎児の障害」を理由に人工妊娠中絶ができました。障害児を産む可能性のある人に、中絶や不妊手術を強制することができました。障害女性の子宮を摘出手術が妊娠をさせない目的で行われ、黙認されていました。優生保護法は廃止され「母体保護法」になりました。



それが人間の多様性を認め容認する、障害があってもなくても、そういった身体的に多様な生まれた全ての子を歓迎することなら、車椅子でも不自由がないバリアフリーに財政的支出が必要なように、子が育つ上で格差がないようにする社会的支援、財政的支出が必要です。日本政府の子供に対する財政支出は、OECD諸国の中で最低です。

「胎児の障害」で中絶ができるように「母体保護法」を変えようという動きがあり、実態的には出生前の胎児診断で先天異常や障害の可能性が告げられて中絶する数が増えています。人工妊娠中絶の全体数は減っていますが、胎児診断での中絶は1.6倍に増えています。




文化功労者の中西準子氏が樹立した環境リスク管理学では、質調整生存年(QALYs)という考えあります。化学物質や放射線などによる「弱い影響を評価する、しかも共通の尺度はないかということで注目した考え方がクオリティ・オブ・ライフ(QOL)・・・QOL を完全な健康なら1、死の場合0として、ある症状の性質の生活の質を1と0の間のどの値かで定義し、QOL の低下、すなわち(1-QOL)がその時における影響の大きさと定義」例えば車椅子生活はQOL が0.7と一般や医療関係者が決め、5年生存なら、
5×0.7=3.5年が質調整生存年(QALYs)で5-3.5=1.5年がリスクというものです。

環境リスク管理学は、ある症状・障害の生活の質 QOLを完全な健康からの欠落とし、大小を本人ではなく一般や医療関係者という他者が決めるとしています。化学物質や放射能の環境汚染の影響でQCLが変化したら、影響を受けていない「健康」な人から被害者は「質の低い人生とみなされる」という蔑視を構造的に含み強化します。

「正しい知識」で「正しく怖がる」という欠落モデルは、人間の多様性を認めず「正しくない怖がり」を排除します。東電核事故の放射能汚染で、QCLが変化した人が多く出てくるでしょう。その多様な人々を、欠落モデルや環境リスク管理学は、学問的に「ありえない症状」「質の低い人」と排除・差別・蔑視し、政府が支援を行わずにすむ下地を作るのではないでしょうか。蔑視や差別する心をなくすことは困難ですが、人間の多様性を制限・否定する文化やそれが強化する蔑視や差別を利用する制度は変えられます。


放射線審議会・丹羽会長や文化功労者のリスク管理専門家が食品放射能検査の強化に反対するワケ

2012-03-19 15:44:31 | 原発、福島、放射能
16日に新潟県が日常食に含まれる放射性セシウムの量の調査データを公表しました。(下図)
1977年・昭和47年度から文科省の「環境放射能水準調査」で、陰膳方式、西蒲区と柏崎市の家庭から一人1日分の食事を提供いただき調べています。今日、チェルノブイリ事故時の水準の汚染があることがわかります。これを3.11前の水準に如何に早く戻すかが課題です。



そのための対策の大筋は
(1) 東電フクイチからの放射能放出を停める
(2) 高濃度の放射能、放射生セシウムを含んだ食品の生産を予防する
(3) 検査で生産予防の効果の確認と高濃度汚染食品の食卓からの遮断

その検査強化に反対する専門家がいます。文科省の放射線審議会の丹羽太貫会長は、「100ベクレルでも十分安全なレベルで、(赤ちゃんも)健康被害を心配する必要はない。赤ちゃんのいる家庭で食膳を2つに分ける必要もない」「コストが掛かるのは、精密な検査機器だけではない。ビルの中でさえ放射性セシウムは入り込む。きちんとしたデータを取るには、汚染されていないコンクリートで厚さ1メートルの壁を作り、(放射線を10万分の一まで遮蔽した)検査室を設置するところから始めないといけない。膨大なコストが掛かり、(私たち当事者世代は払うつもりがないから、)そのつけを払うのは次世代、次々世代の子どもたちだ。」と反対しています。

 環境リスク管理学の学識で国から年金を支給される文化功労者の中西準子氏は
「 (30kg・1袋のコメの生産者からの)買い取り価格=5,500円、
(スーパーでの)販売価格=15,000円、
(Ge半導体検出器で)セシウム分析費用=20,000円。
この数字をじっと見てください。全袋検査というのが如何に、愚かな政策かということが分かると思います。」
中西准子氏は「100 Bq/kgのコメを3年間毎日食べた時:0.24 mSv (別の表現にすれば、10万分の1.6のがん確率または、損失余命で1.8時間)」とリスク評価をしています。詳し

このコメ摂取の条件は、1日に17Bqの放射性セシウムを摂取し内部被曝するということです。氏はガンの生起確率は丹羽太貫氏が委員を務めるICRPの考えを採用しています。

 中西氏の環境リスク管理学では、化学物質や放射能など様々な環境リスクの大きさを、そのリスクで短縮される寿命・損失余命で数値化します。そのリスクへの対応策の効果も短縮される寿命で数値化します。ある環境リスク(あ)の大きさは損失余命で2日。対策Aをとるとリスクでの損失余命が1日と減るが、別のリスク(い)が顕在化して損失余命で1.5日で対策Aは損失余命で2.5日だから対策Aを採らないほうがよいといった使い方をします。氏の環境リスク管理学は、こうした手法を体系化したものです。

 中西氏は「がんになったことにより寿命が短縮される影響は平均で12.6年である」。1日に17Bqの放射性セシウム摂取を3年間続けると、12.6(年)×1.6(ガン死)÷10万(人)で、一人当たりで1.8時間の寿命短縮と評価し、全袋検査で1袋2万円の検査費用を費やしてリスク管理するほどではないと反対してるのです。新検査器では数百円ですが、それならどうなのでしょう?




中西氏の専門分野の科学的リスク評価や管理での「リスク」は、病死といった望ましくない出来事(ハザード・hazard)にその生起確率(occurrence probability)を掛け算した積です。数学的には期待値といわれる値です。
しかしハザードは知られているが、生起確率が不明、未知な場合「不確実性・Uncertainty」、ハザードも生起確率も未知である場合「無知・ignorance」という知の水準があります。
中西氏の損失余命では、ガン死といった死亡にいたるハザードとリスクしか扱えません。ICRPもガン死だけに着目しているので同じです。「不確実性」「無知」にある被曝影響は視野から捨てられています。

ガン死以外の「不確実性・Uncertainty」や「無知・ignorance」の知的水準の放射の汚染の影響はどうなのでしょうか?

放射能の放射線の身体への影響を遺伝子損傷で考えると、放射線によって遺伝子の載っているDNAが物理的に切れるのです。放射線照射では、修復が難しい二本鎖切断が起き易い。




それで、損傷した遺伝子とその遺伝子損傷をなおす修復遺伝子群の損傷、その2段構えの損傷があるとガン細胞化して、そのガン細胞が増殖して発癌し、発癌のした人の約半分の方が病死する。それでは、修復遺伝子以外の遺伝子だけが損傷した場合はどうなるのでしょう。

大概は修復されますが、失敗もでます。遺伝子が欠落状態になったり、突然変異します。突然変異が1個の体細胞に生じても、身体の具合に取り立てた変異は起きないと思いますが、幹細胞、組織や臓器に成長する(分化する)元となる幹胞でおきたら、それも乳幼児や胎児という段階で起きたら、組織や臓器レベルでの変異になります。卵子、精子なら遺伝します。




突然変異は進化の原動力ですが、現在の進化論では突然変異の大半は適応度(生存率=死亡率や繁殖率)を左右しない中立的な変化(中立説)とされています。

具体的にアルコール代謝の酵素ALDH2の遺伝子で見てみます。中国で約2万年ほど前に突然変異(不活性型・AAタイプ)をもつ人が現れ、その遺伝子が子孫に受け継がれ、中国、朝鮮、日本に広がっています。日本人の約5%で「一滴もダメ」です。変異していない100%活性型・GGタイプの遺伝子は「酒飲み」で黒人・ネグロイドや白人・コーカソイドの人々、日本人の約55%です。片親からを不活性型を片親から活性型を受け継いだ場合はAGタイプ。活性型・GGタイプの約1/16の代謝能力のタイプがあり、日本人の約40%で「下戸」です。



 突然変異(不活性型・AAタイプ)は、適応度(生存率=死亡率や繁殖率)を左右していません。 消毒用アルコールや栄養ドリンクなどに含まれる少量のアルコール分でも赤くなるなど敏感に反応したり、宴席で「俺の酒が飲めないか」に出会うと難儀する不都合です。仮に全ての食品にアルコールが含まれる環境激変がおきれば自然淘汰されるでしょうが、・・

日本人の約40%のAGタイプの遺伝子で飲酒の生活習慣の方は、アルコール代謝で生じるアセトアルデヒドに由来する疾患をわずらう事が多いことが知られています。このように大半の突然変異は、QOL(Quality of Life、クオリティ・オブ・ライフ)の変化で顕れ、環境条件、生活習慣などで影響の出方が違うと考えられます。

チェルノブイリ事故でQOLの変化「食事、喫煙習慣、飲酒、その他の生活スタイル要因のような行動に重要な影響」があったが、診断基準を満たさない「医学的に説明できない身体症状」などが多く見られたとUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は2008年報告で述べています。

これは今は医学的に説明できないから放射線被曝と直接に関係付けられないが、「チェルノブイリ事故に原因帰属させることができるのは明らかである。」、「放射線への恐怖、政府不信の問題、不適切なコミュニケーション、ソ連邦解体、経済問題およびその他の要因に原因帰属できないと結論」しています。

こうした人々をソ連政府は放射線恐怖症(ラジオフォビアradiophobia)とし、気の迷いや科学知識の不足から「正しく怖がる」ことができず起こしたあり得ない反応などと扱いました。現実の被曝影響と受け入れませんでした。社会的拒絶の環境ストレスが加わり、症状が強化されました。

被曝した人々の、現時点では医学的には説明がつかないかもしれない身体症状や不安を現実のもの「無知」「不確実性」の放射能影響としてケアし解明すべきです。こうした非発がん影響をガン死リスクだけを問題にする人々、丹羽会長や中西準子氏は認知していません。放射能汚染を過小にリスク評価しており、その食品検査強化不要というリスク管理判断は間違っています。

次に、「無知」「不確実性」の放射能影響を取り入れたリスク管理とケア、中西準子氏らのリスク管理論では「無知」「不確実性」の影響が入れない理由を考えて見ます。


放射能検査器の進化、検査体制の再編を

2012-03-11 21:14:55 | 原発、福島、放射能
食品の放射能の検査器で使われているのは、主に2種類。(1)据え置き型のゲルマニウム(Ge)半導体検査器(2)据え置き型のヨウ化ナトリウム(NaI)シンチレーション検査器の2種類。この2種の検出器は、調べる食品をフードプロセッサーなどで細かく切り刻み測定用容器に隙間なく入れます。重さは秤で壊すことなく測れますが、放射能は野菜、魚などを粉砕してから測ります。ですから、貴方が粉砕された野菜や魚を食べるのでなければ、口にする野菜や魚を直接測ることはできず、抽出されたサンプルで検査するしかありません。



食品を粉砕しないで放射能を測る

原子力災害マニュアルでは、放射性ヨウ素の食品検査で携帯型のヨウ化ナトリウム(NaI)検査器、サーベイメーターという種類の検出器をつかい遮蔽無しで測る手順が定められています。過大評価しやすいのですが、短時間に数多く検査できます。これをまねた手順で、次のようなやり方で牛舎で出荷前の生きた牛の汚染レベルを計測する方法を、農研機構・畜産草地研究所と福島県畜産研究所などが開発しています。

道具は携帯型の「NaI」と約7kgのリング状の鉛。牛の腰角後方に約7kgのリング状の鉛を載せて、鉛で囲いの中に検出部をいれ環境からの放射線を遮蔽します。5分の計測を3回繰り返します。1キロ当たりでほぼ50ベクレル以上の放射性セシウムが含まれていればわかるそうです。この計測法のポイントは、約7kgのリング状の鉛による遮蔽です。




検出器には、宇宙線や自然界にもともと存在するカリウム40などの自然放射線と、地面や土壌など環境中の放射性セシウムから発生する放射線という2つのバックグラウンド放射線が降り注いできます。これは“計測の雑音”、低くするほど、低濃度、短時間で測れます。牛も、もっと遮蔽すれば検出の下限の値を下げたり短時間にできますが、牛の腰が鉛の重さに耐えられない。食品検査に使うゲルマニウム(Ge)やヨウ化ナトリウム(NaI)の検査器は、鉛の容器内部に検出部を設置してあります。

精密型のWBC

人体内の放射性物質・死の灰を、人体の外部に置いた検出器で検出して体内量を測定する装置(全身カウンター、ホールボディカウンターWBC)でも遮蔽は重要です。放出されるγ線の検出器とその放射線数の計測部、放射能量を計算する処理部と遮蔽から構成されます。簡易型は遮蔽した椅子、寝台と、遮蔽を施した検出器(直径20cm厚さ10cmのNaI検出器など)と計測部で、10分間の測定時間で400Bq程度のセシウム137体内量を検出可能です。(検出器の種類と大きさ、遮蔽の程度によって変ります)

精密型は、17分弱・千秒でセシウム137の20Bq以程度の体内量を検出することができます。厚さ10~36cmの鉛、鉄で遮蔽された室に寝台と検出器(直径20cm厚さ10cmのNaI検出器が標準)を使用しています。厚さ10cmの鉛はセシウム137の放射線を約100分の一遮蔽するので精密に計測できるのです。




3.11後、福島県に新たに設置されたホールボディカウンターWBCは簡易型の椅子型です。精密型が遮蔽室だけで30~60トンで設置場所が限定されること、短時間に緊急で内部被曝量をスクリーニング(篩い分け)する必要があったためです。簡易型は検出の下限が高いのに、東電核事故でバックグラウンドの放射線量が高くなっているため、さらに下限が高くなっています。それで、福島市の市民測定所では2月にレントゲン室用の鉛合板で測定室の遮蔽工事を行ってバックグラウンド放射線量を下げています。

検査器の進化、検査体制の再編

精密機器、計測器、医療機器の島津製作所は、30kgの米袋に含まれる放射性セシウムを高速・高精度で測定できる「食品放射能検査装置FOODSEYE(フーズアイ)」を昨年から開発しました。これは、ガンの検診などに用いられる医用画像診断用PET装置の技術を応用したもの。PET装置に用いられるゲルマニウム酸ビスマス(BGO)シンチレータと光電子増倍管を組み合わせた高感度の検出器を用いてます。
検出器の周りを鉛で遮蔽して環境からの放射線の影響を最小限に抑えています。それで、本体で約1.4トンもあります。大量の米袋をそのままベルトコンベアーに載せて、検査器を通し流れ作業で検査します。



4/1からの新基準値では一般食品の100 Bq/kg用のスクリーニング検査法の測定下限値25 Bq/kg以下、乳幼児用食品の50Bq/kgでは10を検査器の性能要件としています。二本松市で行われた実証実験からベルトコンベアに米袋を載せて下ろす手間をいれても、一袋あたり5秒で測定下限値20 Bq/kg以下、15秒では測定下限値10 Bq/kg以下の測定が可能。実用的には、1日8時間の作業で5秒で測定で約2000袋以上、15秒の測定で約1200袋以上を検査できるとしています。

このスクリーニング検査で高濃度汚染を摘発、排除し、さらに合格品から抽出で1ベクレル単位での汚染量を測定します。その細密測定データから、スクリーニングで検出の下限以下の品物の汚染度の見当がつけられます。



ND(Not Detected)とか<25Bqと表記される下限以下は、学術的な扱いは3通りあります。一つは、「0」とみなす、一つは下限値のぎりぎり下の値、<25Bqなら24Bqとみなす、一つは中間の値、<25Bqなら12Bqとみなす。細密測定データからスクリーニングで下限以下の場合を客観的に解釈できます。例えば、○○JAは5Bq程度とか××村は限界値ギリギリだから農法を改善しようとかできます。

二本松市での実証実験からの数値は、測定室内でバックグラウンド値が0.4μSv/h以下です。これが4分の一の0.1μSv/h以下なら5秒で測定下限値10 Bq/kg以下、15秒では5 Bq/kg以下、16分の一なら5秒で測定下限値5 Bq/kg以下に、15秒では2.5 Bq/kg以下にできます。規制値を下げたり、検査数を増やせます。

環境中の放射性セシウムからの放射線は、半減期・約2年のセシウム134の崩壊で減衰しますが、精密型WBCと同様に測定室に遮蔽を施せば直ぐに大幅に下げられます。約20cmの厚さの普通コンクリートで10分の一、重量コンクリートで15分の一が遮蔽効果とされています。

セシウム134の崩壊減少で汚染レベルは下がります。また将来的に検査で撥ね出す汚染レベル・規制値を下げて、日本人の摂取量・内部被曝を減らしていくことを考えれば、最初に測定室自体に遮蔽を施した方がよいと思います。

この検査装置・フーズアイの予定価格は、2000万円。この機器での米以外の食品での検査法は“今後の検討課題”、品目が増えると検査数が劇的に増え、検体当り費用が減少します。こうした検査機器、体制の整備に反対の専門家もいます。放射線審議会長の丹羽太貫氏もその一人です。反対の理由は? 続く


牛から魚へ、放射能検査の重点を移そう

2012-03-05 15:22:02 | 原発、福島、放射能
放射能の検出・検査は、検査器に検体を入れたら直ぐにはわかりません。放射能の濃度の単位は1kg(単位重量)に何Bqベクレルあると示されます。1ベクレルは、1秒間に放射線を出して核崩壊する放射能が一つあることです。核崩壊が何時起こるかわかりませんし、変動します。25、32、21、39・・と変動します。それで一定時間計って、例えば5分300秒で出た放射線の数が9000回なら9000÷300で30ベクレル。体重計とは違い直ぐにはわかりません。

 体重でも、服を着て乗ったら正しい体重は分かりませんが、放射能の検査では衣服になるのが環境中の放射線です。宇宙から太陽からやってくる宇宙線やそれが大気に当たって出る放射線、地球の誕生時から残っている放射性カリウムなどの放射能の出す放射線、大気内核実験で降下した人工の放射能・死の灰からの放射線などです。測定のバックグラウンドといわれますが、真の体重が衣服の重さを引いて出すように、計測値からバックグラウンドを引かなければ、知りたい食品の放射線量は分かりません。

バックグラウンドも変動します。950、1100、860、1150・・ 。食品などの汚染検査では、週一で24時間バックグランドを測っています。調べる食品など検体からの放射線とバックグラウンドの放射線の合わさった放射線の数、量が測られます。975、1132、881、1189・・。

汚染が数ベクレルとバックグラウンドに比べて小さいと、バックグラウンドの変動に隠されてしまい見つけにくいことがわかります。対策は、堅牢な建物に設置するとか鉛などで環境中から放射線の計測部への入量を減らす遮蔽を施してバックグラウンドの水準を低くする。測定時間を長くして、バックグランドの変動の中に隠れないようにして分かれて見れるようにします。






 放射能検査では、検査時間を概ね4倍にすると、検査の下限値、検出限界・定量下限を半分にできます。厚労省の緊急時測定マニュアルではセシウム137の定量可能レベルは、野菜では10分では80Bq/kgで、30分間では48となっています。海草・魚・穀物・肉・卵では10分間では40で30分では24です。

役にたったのか?緊急時測定マニュアル

 この測定マニュアルは、3.11東電フクイチ核事故では余り役に立っていません。原子力災害対策特別措置法(原災法)に基づき事前に策定されていた事故対策マニュアルでは、原発の核事故で出て問題とされているのは希ガスと放射性ヨウ素です。放射性セシウムなどは出ても微量とされ重要視されていません。これが大量に出るメルトダウン・核燃料溶融になるシビアアクシデントは、日本の原発では起こり得ない、隕石に当たって死ぬよりも確率が低いとされていたからです。

メルトダウンで発生した水素による1号機の爆発を聞き茫然自失した班目(まだらめ)原子力安全委員会委員長が象徴するように、原災法の事故対処体制はメルトダウンで機能を喪失しました。事前に危機を想定して繰り返し対処法をシュミレーションすることが個人がパニックを防ぐ最良の方法ですが、組織でも同じです。メルトダウンを想定してこなかった官僚の事故対処体制は機能喪失、それで官邸もパニック。対策が場当たり的で後手後手になります。


原子力災害マニュアルの食品放射能検査では、希ガスは大気中に拡散し食品には付着しませんから対象外。放射性ヨウ素は、乳児、子供、妊婦の方は厳重に対処する必要がありますが、半減期8日で崩壊しますから3ヶ月で千分の一、半年で420万分の一になりますから、検査期間は長くて半年。携帯用のヨウ化ナトリウム(NaI)検査器をつかう手順です。遮蔽がないし過大評価しやすいのですが、短時間に数多く検査できます。何よりも検査器が安価で入手し易く数がそろえられる。



放射性セシウムは半減期30年で長期に検査・規制が必要ですが、微量しか出ない想定ですから、検査の対象数や汚染量は少ないので、計測時間が長い=検査数が少ないが精度のよい据え置き型のゲルマニウム(Ge)半導体検出器を使う手順です。稲ワラや砕石などの放射能汚染は、事故対策マニュアルでは眼中に入っていません。



ところが3.11ではメルトダウンして大量の放射性セシウムが広範囲に降下しました。ですから降下した地域の汚染を測り、産物を検査すべきでした。調べる数が膨大になりますから、マニュアルにはない迅速に多数調べられる検査方法とそれによる検査体制の構築が必要になります。実際には汚染された稲ワラを食べた牛から高濃度の汚染が7月に見つかってからです。場当たり的で後手後手。



 この検査は遮蔽のついた据え置き型「NaI」(測定の下限値を50Bq/kg)でスクリーニング(篩い分け)をして、250を超えると「Ge」で検査です。そして狂牛病BSEの全頭検査体制に便乗して全頭検査を始めたました。本当は、降下した地域の産物をもれなく検査すべきを牛だけ全頭にすりかえました。
それで昨年12月時点で、国と都道府県が使っている検査機器は「Ge」216台で「NaI」227台。例えば、茨城県生活衛生課は今、「Ge」1台で週15~20検体の水道水、「NaI」5台で週500~600頭の牛肉を検査するといった使い方がされています。



 昨年3月から今年1月までに飲料水をのぞき全国で10万738件の検査が実施され、内訳は「Ge」5万7381件、「NaI」4万3357件。品目では牛肉が6万5964件(65%)、野菜類1万7012件(17%)、水産物6156件(6%)、コメなど穀類5379件(5%)など。暫定基準を超えたものは1087件、うち牛肉は147件で13%。牛肉の検査能力を使いすぎたことが一目瞭然です。汚染稲ワラを食べた牛は全頭、ほかはサンプル検査にしていれば「NaI」を野菜や海産物の検査に使え、もっと多くの濃厚汚染食品を摘発・排除できたと思います。

 汚染稲ワラを排除し、飼育法や餌を管理している現在の値は検出限界の50以下です。内部被曝を下げるために濃厚汚染食品を摘発、排除が検査の目的なら、生産段階での規制で50以上の汚染が滅多に出ないだろう牛を全頭検査する必要が食生活での牛肉の比重からあるでしょうか?海産物は、食物連鎖でこれから大型の食用魚の汚染が顕在化します。牛から魚へ検査の重点を移すべきだと思います。



このような汚染の拡大や生産段階での規制とその効果をふまえ、高濃度汚染食品の摘発・排除という検査の目的にあう検査体制を放射線審議会では余り論議されませんでした。規制値を下げると「測定できるサンプル数が少なくなり、つまりは、高い数値の食品を見逃す恐れが上がるのでは」との論議が行われています。規制値下げに連動して厚労省は、測定の下限値を50Bq/kgから25に下げる予定です。そうなると検査時間は4倍になり、検査する数が減り、ザルになるというのです。

しかし求められてるのは内部被曝を下げるための汚染食品の摘発・排除できる検査体制と基準の論議、例えば牛も抽出検査、「NaI」を使い50Bq/kgでスクリーニングで検査総数を確保、超えたら「Ge」で検査し摘発・排除、50以下から点検のため抽出で「Ge」検査で実数を出すで有効か?といった論議ではないでしょうか。