はな to つき

花鳥風月

世界旅行の世界(30)

2019-09-02 22:41:22 | 【世界旅行の世界】
「それはね、そうして生まれてきた言葉が、脈々と生き続けていること」
「なるほど、生み出した人に頼まれたわけでもないのに、ずうっと生き続けているということだね?」

 女の子の関心は、先生の一歩先を行っていたようです。
 生まれたことではなくて、生き続けてきたことに、興味が湧いたようです。

「そう。仕事や義務で受け継がれるものはたくさんあるかもしれないけど、言葉はそういうものではないでしょう?」
「そうだね。誰にも強制されるものではないね」
「それなのに、ちゃんと埋もれずに生き続けている。ね?すごいと思うでしょう?」
「たしかに、すごいことだね。そして、それに気づくるみちゃんも、すごいと思うよ」
「えへへ、そうかなあ」
「ああ、本当に、いつもながらに感心するセンスだよ」
「先生は、褒め上手だから、照れるなあ」
「別におだてているわけではなくて、素直にそう思っているだけだよ?」
「そうなの?」
「そうだよ?」

 先生が尊敬と信頼を置く女の子。
 先生から安心をもらえる女の子。
 その関係が、この旅で、女の子の感性を飛躍的に研ぎ澄ますことにつながっているのは、間違いがなさそうです。

「じゃあ、ここで問題です」
「え、なに、先生、突然。むずかしい問題はなしだからね?」
「おやおや、いつもオープンな問題を出して来るのに、弱気だねえ?」
「先生、いじわるだなあ」
「あはは、いじわるだったね」
「あはは、じゃない」
「えへへ」
「えへへ、じゃない」

 いつもと、立場も言い回しも反対のようです。
 ちょっとだけ、今日の先生はペーターに似ているかもしれません。

「いいよ、先生。受けて立ちましょう」
「お、腹をくくったね?」
「はい。では、問題をどうぞ」
「はい。では、いきます」

 リスボンのときのお返しのような、オープンな問題が来るのでしょうか。
 女の子は、ドキドキして、先生の口元をのぞき込みます。

「仕事や義務でもないのに、誰に頼まれたわけでもないのに、どうして言葉は生き延びてこられたのでしょうか?」
「えーー」
「あはは」
「あはは、じゃない」
「えへへ」
「えへへ、じゃない。それ、先生、ちゃんと答え知ってる?答えを分かっていて、問題出してる?」
「あくまでも、わたしのなかでの答えだけれどね」
「えーーー、それだと、ちゃんと答え合わせができないじゃない」
「たしか、リスボンで、同じような問題を出してきましたよね?忘れたとは言わせませんよ?」
「そうだけどお・・・」

 女の子は、グーの音も出ないようです。
 けれど、果たして本当にそうなのでしょうか。
 待ってましたとばかりの思いが隠されているような、そんな眼の光にも見えます。

「なんてね。先生、ひとときの王様気分を味わえた?」
「は?」

 先生は虚を突かれます。
 難儀している女の子に、少し助け舟を出そうと思っていたくらいです。
 形勢逆転です。

「リスボンのとき、私は王様だった。問題を出す側は、いつでもそう。だって、答えを知っているから。どうやったって、主導権は出題者側にある。だから、今先生は、きっとそう思って、ちょっといい気分だったでしょう?」
「そうだね。間違いなく、王様だった。怖いもの無しの王様だった」
「あはは、残念でした。問題を出された私は、王様にはなれないけれど、どういう問題が来るのかを予想していた私は、従者ではないよ?」
「くうう、予想されていたのかあ」
「うふふ、なんだか、やっぱり、私がまた王様になっちゃったみたい」
「ーーーかもしれない。くやしいなあ」

 いつでも先生は、女の子の従者のようです。
 いつでも女の子は、先生の先にいるようです。
 その関係が、女の子の成長に拍車をかけているようです。

(つづく)

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