ハナウマ・ブログ

'00年代「ハワイ、ガイドブックに載らない情報」で一世を風靡した?花馬米(はなうま・べい)のブログです。

ドブに捨てられる燃油サーチャージ?

2011年06月07日 | ハワイ

「燃油サーチャージ」という言葉は、海外旅行に関心のある方などには、もうおなじみの言葉ですね。要するに、飛行機の燃料仕入代金が急激に高くなってしまい、前もって発表した運賃では商売にならなくなった場合、直接旅客から割増しのお金を取ることができるしくみです(航空貨物、海運業界、陸運業界にも存在します)。

2011 年 6 月に入ってまもない今、JAL も ANA も、ハワイまでの燃油サーチャージは 16,000 円です。大人だろうが子どもだろうが、また特典航空券を使っていようが、座席を使用する旅客全員に適用されます。それも片道の金額ですから往復で 2 倍になります。もちろんパッケージツアーにも適用されています。
つまり両親と子ども二人でハワイを往復すると、通常なら不要な燃油サーチャージだけで、じつに 128,000 円にものぼります。

さて、この「余計な」燃油サーチャージが、じつは単に世界のマネーゲームがヒートアップしている結果なのであって、決して原油が不足しているとか、需要がひっ迫しているからではないのだとしたら、あなたはどう感じますか。

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燃油サーチャージの金額を決めるときの指標となっているのは、シンガポールケロシン市場の価格ですが、きょうはマクロ的というか、もう少し引いた観点で考えてみたいと思うのです。

タンカーで運ばれてくる原油が、日本の港にいくらの値段でたどり着いているのか。これを「原油入着価格」といいます。つまりこの値段が、電力やら産業やらのエネルギーコストを考えるときの出発点といってよいと思います。
少々古いデータですが、その昔 1999 年ころは、1 バレル(約 159 リットル)あたり 17.20 ドル、当時の円ドル換算レートで 1,928 円でした。ところが 2007 年末になるとこれが 89.09 ドル、当時の円ドル換算レートで 10,008 円です。翌 2008 年 1 月には 93.40 ドル(10,056 円)。
日本において航空旅客に対する燃油サーチャージの徴収が始まったのは 2005 年ですが、1999 年から 2008 年末の間に、原油入着価格が 5 倍以上も上昇しているというのは、驚きではないでしょうか。
ではなぜ、この短い期間で 5 倍にも上昇してしまったのでしょうか。

理解の前提として、まず先物取引という仕組みをザッと知っておきましょう。
たとえば秋に実るお米を、春先に、または 1 年前に価格を決めて売買してしまう、というのが先物取引の仕組みです。ようするに現物はまだどこにもないのに、取引をしてしまうのです。そして実りの秋が来て、豊作だろうが凶作だろうが、決めていた価格で現物を引き渡さねばなりません。
ということは、ウマくやれば米を安く買って高く売ることができるわけで(もちろん損する場合もありますが)、ここに先物取引という市場ができるわけです。

原油もやはり原油先物市場というのがあるのだそうで(日経新聞を正確に読み込めない拙者としては、正直そういう感覚であります)、世界中の投資家たちが、いわば虎視眈々と原油先物市場をにらんでいるわけです。
そして、そんな人々が気にするモノサシが、WTI (West Texas Intermediate) です。
http://www.nomura.co.jp/terms/english/w/wti.html

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West Texas は要するにヒューストン地域のことであり、つまりそんなローカルな場所での価格が世界の原油価格のモノサシとなっているわけです。

それで、この街が 1 日に必要とする原油量は約 70 万 BD といわれています(BD はバレル・パー・デイ。一般的には「b/d」「B.D.」と表記)。ところがここで 2008 年の初めに取引された原油量は、なんと 3 億バレルを超えていました。なんかヘンですね。
世界中で生産されている原油をすべてかき集めても、8,600 万 BD だそうですから、世の中のどこにもない原油の価格をめぐって投機的なお金が飛び交い、その結果ぐんぐんと「入着価格」が上昇し、結果...
「親子 4 名さまで燃油サーチャージが往復 128,000 円になりますぅ」ということになるのです。

いかがでしょう。
モノの値段は決して、需要曲線と供給曲線だけで決まるのではありません。そのモノが投機の対象となった瞬間、世の中には存在しないモノに価値が宿り、それが売買され、乱高下し、最終的に、いまを生きている我々の、生活経済の基礎体力とでもいうようなものを、知らないうちに弱らせているとも考えられるのです。
ICT(情報と通信に関する技術)が進んだ結果、世界中のお金が短時間に、一気に、渦巻きだしているというのが、今の金融世界のイメージです。

つまり、純粋にそのモノに対する需要と供給ではなく、マネーゲームの副作用で価格が高騰し、燃油サーチャージが上がり、ハワイ旅行という人生の上での大きな楽しみが、ひそかに蝕(むしば)まれているのです。
「燃油サーチャージ」。なんだか大切なお金をドブに捨てているように思えてしまうのは、私だけでしょうか。

【参考になるかもしれないデータ】

2011 年 6 月 2 日 国際線「燃油特別付加運賃」「航空保険特別料金」のご案内(JAL)

2011 年 6 月 3 日 燃油特別付加運賃 / 航空保険特別料金について(ANA)

2008 年 2月 28 日 みずほマーケットインサイト

2006 年 8 月 2 日 みずほ日本経済インサイト

エネルギー関連資料(経済産業省 / 三井物産戦略研究所)

2008 年(平成 20 年)航空会社が賦課する燃油サーチャージの旅行取引における取扱いに関する通達の改定について

きょうのお写真は、かつて石川県金沢市の片町交差点近くに存在した、喫茶店「ぼたん」のようす。初めてでも帰ってきたような感覚にとらわれる落ち着きが、有名人もひそかに訪れていた理由だと思います。
2006 年 2 月 11 日、この写真の撮影日を最後に、多くの老若男女に惜しまれながら閉店しました。
現在はコンビニエンスストアとなっています。

 

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