「そんな人でよかったら、いつでもくれてやるわよ」
そんな電話がかかって来たのはその男と出会って間もない頃

電話の主は隣にいた男の妻だった
電話口でかなり興奮していた彼女の言葉にあっけにとられた私は
横にいた達也に無言で電話を渡し
夜風に当たるためベランダへと出た
達也は相手と何やら話しこんでいたが
やがて申し訳なさそうにベランダへと出てきた
「すまん・・・こんなことになるなんて」
「情けない顔は見たくないわ、私はどちらでもいいのよ
別にあなたでなきゃいけない理由もないし
面倒なのはごめんだわ、それにしても早いわね
あなたって嘘がつけないタイプでしょう?
それとも、よほど愛されているかのどちらかだわ・・・」
「おいおい・・・そんな冷たいことを言うなよ、
オレはあいつといると息がつまりそうなんだ
こうしてお前といると癒される
あいつもあいつだ、オレがなんにも知らないと思ってやがる
あいつ・・・男がいるんだぜ しかも学生の時に付き合っていた元彼さ
少し前の同窓会で久しぶりに出会って 焼けぼっ杭に・・・ってやつさ」
「へぇ~面白い人ね、あなたの奥さまって でも元彼にだって家庭はあるんでしょう?
あなたもこうして好きなことをしているし
夫婦って、私にはわからないわ
夫婦が一緒にいるメリットって、なにかしら? 体裁だけ?」
「まぁな・・・長く一緒にいると夜の方もな・・・なんだか面倒になるし」
「まぁ、私とは身体だけの付き合いってことでもよくってよ
とにかく、面倒になるくらいなら私のところへは今日限り来ないでちょうだい」
達也はため息をつくと
「まぁとにかく今夜は帰るけど、機嫌直してくれよ
じゃあまた・・・」と言って帰って行った。
今夜は修羅場か・・・・?
達也に出会ってまだ1ヵ月ほどなのに・・・
きっと携帯チェックとかするタイプの人なのね
“おぉ怖っ”と自然に声が出たと同時に
私はなんだか楽しくなって夜空に向かってグラスを傾けたのだった