派遣村ブログ

実行委員会解散後、「年越し派遣村の必要ないワンストップ・サービスをつくる会」からの情報発信を行っています。

ワンストップの会・中間総括 

2010-02-02 19:04:30 | 日記
                    2010年2月1日

1.「つなぐ・つながる総行動」として年末年始行動を実施
(1) 私たちは、昨年の「年越し派遣村」を一つの契機に、
その成果と教訓をひろげ、派遣切りや解雇等で仕事や住まいを
失った人々へのセーフティネットを構築しようと、共同したと
りくみをひろげてきました。貧困と格差のひろがり、弱肉強食
の「構造改革」路線への国民の強い怒りが自公政権を退場に追
いこみ、新たに誕生した鳩山政権は、「年越し派遣村を繰り返
さない」と、ワンストップ・サービスの構築に乗り出しました。
こうしたもとで、昨年の「年越し派遣村」に結集した実行委員
やボランティアを中心とした私たち有志は、「年越し派遣村が
必要ないワンストップ・サービスをつくる会」(略称「ワンス
トップの会」。)を2009年11月に結成し、活動をすすめてきま
した。

(2) 政府と東京都の「年末年始・生活総合相談」事業(以
下、「公設派遣村」という。)は、①年末年始にふたたび特別
対策が必要になったことは、派遣切りや解雇等で仕事や住まい
を失った人々への日常的な支援の遅れを示すものではあります
が、②公的機関(政府や自治体)が屋根と食事を提供し、生活
再建の場を確保したことは大きな前進だといえます。しかし、
③その内容についていえば、「生活総合相談」と銘打ったにも
かかわらず、相談態勢が極めて弱かったことをはじめ、後述
するとおり、いくつかの問題点を抱えています。④総括をきち
んとおこない、今後の恒久的なセーフティネット構築に活かし
ていくべきと考えるものです。

(3) 「公設派遣村」は当初、①500名という人数制限や、②
12月30日終了で12月31日以降の対策がなかったこと、③「求職
中の生活困窮者」という要件が場合によっては大量の受け入れ
拒否を招きかねないものだったことなどから、私たちは東京都
と折衝し、いくつかの要件緩和を実現しました。その到達点を
受け、私たちは①宣伝を徹底しておこない、「公設派遣村」に
多くの人々をつなげていくこと、②利用者とつながり、生活再
建の情報を提供・支援していくことを目的に、「つなぐ・つな
がる総行動」と銘打って、年末年始以降の活動をすすめてきま
した。現時点で振りかえれば、この方針は正しかったし、利用
者の生活再建に大きな役割を果たすことができたと評価するも
のです。

2.私たちの宣伝で、「公設派遣村」の利用者は900名を超える
(1) 東京都が「政府の特別対策の一環」という消極的な姿
勢を変えないなかで、ハローワークで受付票をもらい、実際の
受付はハイジアでおこなわれるという変則的な形態となったた
め、大久保公園に出現した私たちの「年越し大相談会」は中間
地点として、「ハローワーク→大久保公園→ハイジア」という
大きな流れがつくりだされました。大久保公園で相談・学習し
た利用者が「ノイエ本」(正式名称:「路上からできる生活保
護申請ガイド」、発行:ホームレス総合相談ネットワーク)を
持って次々と「公設派遣村」に入っていったのです。

(2) 私たちは新宿をはじめとした主要駅頭や繁華街、ネット
カフェや公園などで1万枚を超える宣伝チラシを配布し、「公設
派遣村」の利用を呼びかけました。この活動が900名を超える利
用者につながったと確信しています。ビラ配布や誘導などには、
チラシをみて駆けつけた若者を含め多くのボランティアが協力し
てくださいました。そうした草の根の力によって、今年の活動も
支えられたと感謝しています。

(3) 昨年と比較すればマスコミの取り上げ方も小さく、政府
や東京都が街頭宣伝等をおこなわなかったなかでも、900名を超え
る利用者があったことは、東京の主要駅頭が毎晩、「派遣村」的
な様相となっていることに示されるように、一昨年秋以来の雇用
破壊がいっそう深刻化している現実の一端を物語るものです。宣
伝が行き渡れば、数倍の利用者があっても不思議ではない厳しい
状況がひろがっているのです。

3.実数650名近い相談を受け、生活再建の方途決定を支援
(1) 私たちワンストップの会が実施した相談活動には、オリ
ンピックセンターを出た1月4日午前までに実数で550名強、今日
までに約650名の利用者が相談しています。900名超の利用者のう
ち、東京都の運営のまずさや年明けの臨時的仕事の関係から大田
区の宿泊施設に移動・宿泊しなかった約270名(うち100名超がワ
ンストップの会の相談利用者)を除くと、85%程度が私たちワン
ストップの会の相談に頼ったことは重要な到達点です。

(2) 私たちは当初から、「公設派遣村」への協力を東京都に
申し出ました。しかし、東京都は受け入れず、年末の大久保公園
の大相談会に続いて、1月1~4日にはオリンピックセンター前に
バスを配車し、移動バスでの学習・相談活動という変則的な対応
を取らざるを得ませんでした。ところが、東京都の運営のまずさ
への怒りが高まるなかで、1月4日午前になってオリンピックセン
ター内への立ち入りが認められ、3回に分けた利用者集会では「生
活再建のために、耐えて移動しよう」という呼びかけをおこない
ました。その後は様々な制限を受けながらも、大田区の宿泊施設
内で相談活動を積極的に実施しました。相談員の人数や時間の制
限から近隣ホテルの会議室での相談活動もおこないました。こう
したなかで、「ワンストップの会の援助があったから、私たちは
生活保護を受給するなど、生活再建のメドがついた」と、多くの
「公設派遣村」利用者から感謝の声が寄せられています。普段か
らこうした相談活動にかかわっている法律家や労組、市民団体役
員などが結集して、生活・労働相談に止まらず、女性や医療、障
害など各種相談体制を敷くなかで、利用者の生活再建の総合的な
支援に大きな役割を発揮できたと感じています。

(3) 一方、東京都の活動についていえば、「生活総合相談」
と銘打ったにもかかわらず、その内容は不十分だったといわざる
を得ません。「都の相談では、経歴などを聞かれたが、具体的な
生活再建策の指導は何もなかった」とか、「私の意思を無視して
、住宅手当へ誘導しよう、誘導しようという相談だった」などの
感想が寄せられています。相談体制の弱さに加え、①タテ割り行
政のもとで総合的な指導権限をもった相談員の制度的欠如、②
「第2のセーフティネット」の不十分さのもとでの生活再建策の
中途半端さという問題点を浮き彫りにするものです。東京都は「
政府の緊急対策の一環」という消極的姿勢を変えませんでしたが
、「屋根と食事は用意したから、あとはがんばれ」式の対応だっ
たといわざるを得ないことは残念の極みです。

4.生活保護の申請者は500名超、使い勝手の悪い第2のセーフティ
ネット
(1) 生活保護の申請は500名を超え、今回も生活再建の方途
として生活保護制度が大きな比重を占めました。これは、「第2
のセーフティネット」の不十分さを物語るものであり、その早急
な改善が求められます。例えば、①東京都における住宅手当と総
合支援資金に関していえば、窓口がいくつにも分かれることもあ
り※、日常的には、最初の申請時につなぎ資金10万円を借りても、
住宅手当支給決定と総合支援資金住宅入居費(敷金・礼金等)の
融資が1ヶ月後、総合支援資金生活支援費の貸し付けがさらにその
1ヶ月後という運営が一般的です。そのため、迅速な手続きを強
く求めましたが、それでも途中で生活保護に切り替える事例が続
出しました。また、②そもそも仕事だけでなく、住居まで喪失し
た(またはそのおそれのある)人々への支援にもかかわらず、貸
付が大きな比重を占める制度となっていることから、雇用情勢が
厳しいもとでは利用そのものに二の足を踏まざるを得ないのが実
態です。政府と東京都は今回の状況を教訓に、「第2のセーフティ
ネット」の制度と運用を抜本的に見直し、給付制を基本とした恒
久的な求職者支援制度を早急に構築すべきです。また、融資制度
についてはその要件を大幅に緩和し、たとえばローン返済中であ
ってもマイホームを手放すことなく生活再建が可能となる低利(
無利子)融資制度の創設など、使い勝手の良いものとすべきです。

(2) ワンストップの会では、年末の大久保公園の大相談会の
時から、申請書の提出を呼びかけ、毎晩ファックス申請し、その
大半を渋谷区に提出しました。これに対して、さまざまな意見が
寄せられています。しかし、現在地保護という法の原則に基づけ
ば、オリンピックセンターに宿泊する現実を踏まえた当然の措置
です。ただし、年明けの迅速な事務処理の関係から、東京都の要
請を受けて、私たちは利用者の合意を前提に、実際の手続きを各
市区に分散させることに同意しました。私たちは同意に際して、
各自治体でまちまちの対応にならないよう、東京都に統一的な対
応を求めましたが、①一部自治体でアパート入居を制限するなど
の不適切な対応があり、対策に追われたことは残念です。②そも
そも生活保護制度の実施主体は市区であるとはいえ、支給する額
や範囲に違いがあることは大きな問題であり、運用の統一が求め
られます。③また、ワンストップの会の相談を通した申請が比較
的スムーズにすすんでいる横で、一般の希望者の申請を制限して
いる福祉事務所がみられたことは重大な問題です。政府と東京都
は、今日の雇用破壊と不況の実態を踏まえて、最後のセーフティ
ネットとしての生活保護制度の適切な運用と、そのための財政措
置と人員配置を早急に改善すべきです。

5.東京都の運営の二重のまずさ
(1) 「公設派遣村」を利用した900名超のうち、100名超が年
明けに派遣などの臨時的仕事がはいり出ていったほか、150名超
(どちらも推計だが、数の上では計270名程度が出ていったこと
は確か。)が東京都の対応のまずさから出ていったことが残念で
なりません。

(2) オリンピックセンターの運営などをみていると、住まい
まで失い、やっとたどり着いた利用者に対する温かみに欠ける対
応が色濃くありました。また、連絡体制も不十分で、次の予定が
一向にアナウンスされないとか、利用者各自の担当がどの自治体
になったかということが当人に伝わらないというような事態が最
後まで続きました。「やっとたどり着いたのに、また路上に放り
出されるのか」という焦りと怒りが「公設派遣村」から150名余
りが出ていく原因となったのであり、東京都は真剣な総括をして
今後に生かすべきです。なお、東京都が直接運営するのではなく
、外郭団体に「丸投げ」したことも対応の不十分さの一因です。
また、東京都が用意した不動産業者が高額物件を案内し、保護基
準額を上回る家賃分を共益費に上積みするなどの不適切な事例も
見られました。

(3) 今回の事業は「生活総合相談」と銘打って実施されまし
たが、相談活動の実際は極めて不十分なものでした。利用者の状
況の聞き取りが大半で、各種制度の説明も不十分でした。当事者
の意向や生活再建の方途を把握できていなかったことは重大な問
題です。また、オリンピックセンターでは、東京都の要請によっ
て労働行政職員が派遣されていながら、大田区の施設に移る段階
では、東京都は東京労働局に派遣要請を行いませんでした。生活
保護の見通しが立ち、アパートが見つかり生活再建がすすむ段階
こそ、今後の再就職に関する支援が必要であったと考えます。こ
うしたタテ割り行政の問題点とともに、東京都の意向や判断が基
礎自治体である市区町村に伝わらない「ヨコ割り行政」の弊害も
多々見受けられました。今後のワンストップ・サービス構築の上
で、総合相談機能の確立は決定的に重要であり、体制改善を早急
におこなうべきです。利用者の大半は私たちワンストップの会の
相談活動を通して、生活再建の方途を決定したというのが実態で
あり、「つながる」活動の重要な成果といえます。政府や自治体
は体制整備と同時に、こうした支援活動に日常的に関わっている
民間団体や法律家の積極的な活用をおこなうという観点も必要で
す。

6.虚偽情報の流布と自己責任論の克服の必要性
(1) 「公設派遣村」に関して、「無断外泊200名」とか「2万
円を持って逃亡」、飲酒事件など、利用者の不祥事に関する誇張
もしくは誤った情報が広範に流布されたことは重大な問題です。
一部の心ない利用者が飲酒などで貴重な生活費を費消したことは
問題ですが、それを誇張して伝え、生活再建に真剣に努力する大
多数の利用者の心を深く傷つけるとともに、アパート契約がダメ
になるなどの被害もありました。正しい情報の発信を怠り、誤り
を是正できなかった東京都の責任は極めて重大といわざるを得ま
せん。中には、見出しに「?」マークをつけるとか、今回の「公
設派遣村」とは関係のない昨年の「年越し派遣村」の写真を掲載
して無関係の脚注をつけるなどの報道もありました。マスコミ各
社には事実を正確に取材した冷静な報道を求めるものです。

(2) 今回誤った報道が続いたのは、宿泊施設における東京都
の管理体制の不備が大きな原因です。「無断外泊200名」との報
道についていえば、東京都は「その数字のもとは朝食と夕食を食
べた人数の差ではないか」と言っていました。宿泊施設が辺鄙な
ところにあり、夕食時間が17時半であることから帰れず、食べら
れなかった人が続出したことが、無断外泊と伝えられたというの
が真相のようです。実際に利用者らに聞くと、「夜にはほとんど
の布団が埋まっている」というのが実態でした。また、福祉事務
所で「2日ぐらいでアパートを探すように」と言われ、遅くまで
探し回ったため帰ることができなくなったが、連絡先がわからな
かったなどの報告も寄せられています。大田区の施設は、施設の
性格から電話番号が公表されておらず、連絡できなかった人が続
出しました。私たちの指摘に東京都もあわてて施設内に東京都本
部の携帯電話を設置しましたが、その番号の周知徹底も最後まで
おろそかでした。

(3) こうした誤った報道がひろがった背景には、弱肉強食の
新自由主義に基づく「自己責任」論の影響が否定できません。し
かし、「公設派遣村」にたどり着いた利用者についていえば、ま
じめに働いてきたにもかかわらず、派遣切りや解雇等にあい、長
引く不況の中で失業状態が続き、制度的な支援もなくついには住
まいを失った人々であり、「自己責任」で片づけるわけにはいか
ない政治的な問題です。昨年の「年越し派遣村」と比較して、今
回は20代の利用者が大幅に増えましたが、それも不況の長期化と
雇用破壊の反映です。今や若者も、雇用破壊のもとで職にありつ
けない状況がひろがっています。また、生活再建の早さも昨年の
年越し派遣村と比較した際の大きな特徴です。1ヵ月前にはホーム
レス状態にあった人が、今ではアパートに住み仕事に就いている
ケースも少なからず見受けられます。これは、強い働く意志と高
い能力を持っていても、何かのきっかけでホームレス状態に陥ら
ざるを得ない現代社会を反映したものであり、「求職者支援」と
「ホームレス支援」を区分する行政の姿勢が誤りであることを鋭
く示しています。私たちは今後、彼ら・彼女らの実相をまとめて
いく予定ですが、セーフティネットの構築とともに、何より大企
業の社会的責任を明確にし、雇用責任を果たさせ雇用破壊に歯止
めをかけること、そして仕事づくりの国民的大運動が求められて
います。

(4) なお、今回の施設環境にはさまざまな問題がありました。
大田区の宿泊施設において、IDカードに加えて「荷札」が識別に
使われたことは、人間味にかける東京都の運営の象徴といえます。
ワンストップの会が指摘するまで貴重品を管理するロッカーが置
かれず、ようやく設置されたロッカーの鍵は、入浴中手首に撒い
ておけるような工夫は一切されておらず、安全対策の不十分さも
指摘できます。特に、医療体制の不備は深刻な問題でした。雑魚
寝の集団生活にもかかわらず、健康チェックがなかったこと、急
な高熱等で腕医療機関を受診したくても、なかなか救急車を呼ん
でもらえなかったなど問題が続きました。また、女性や障害者、
病弱者については後半から別施設での対応がひろがりましたが、
大田区の宿泊施設にも劣る支援体制、半ば放置の状況が続くなど
問題でした。こうした点についても十分に総括をおこない、今後
に活かすべきです。

7.真のワンストップ・サービスの構築に向けて
(1) 今回の「公設派遣村」でもう一つ教訓とすべきことは、
年末年始対策の限界です。本年末こそはイベント的な年末年始の
特別対策が必要ないよう、制度の改善と日常的な体制の整備が不
可欠といえます。政府と東京都は、今回の教訓を活かして改善を
すすめ、日常的なワンストップ・サービスの構築をおこなうべき
です。

(2) 今回の公設派遣村の利用者はまだ生活再建の途上ですが、
私たちワンストップの会は引き続き支援を強めるとともに、各団
体・個人の共同をいっそう強化して、真のセーフティネットとワ
ンストップ・サービスの実現のために努力していくものです。

                                  以 上