さて、昨日の続きを。
【問題】
第26問
次の文章は、判決とともに承継執行文の付与を受けてする登記に関する考え方を示したものである。
「AからBへの所有権の移転の登記の抹消手続を命ずる判決が確定したが、判決確定後、Aがその抹消を申請しない間に、BからCへの所有権の移転の登記が経由された場合、Cへの所有権の移転が売買等の特定承継によるものであるときは、Aがその所有権を第三者Cに対抗することができる場合に限り、承継執行を肯定することができる。」
次のアからオまでの記述のうち、この考え方と矛盾しない記述として最も適切なものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
ア 判決が確定すれば、登記申請の意思表示は直ちに効力を生じており、強制執行は終了し、その目的を達成している。
イ AからBへの所有権の移転の登記が錯誤により無効であった場合には、登記に公信力がない以上、AはCに対してBの無権利を対抗することができるから、Cは判決の効力を受けることになる。
ウ Aは、直ちに登記をすることも可能であったし、処分禁止の仮処分の制度を利用することも可能であった。
エ 執行文の付与機関が、第三者の善意・悪意を判断することは困難だが、客観的に明確な場合もあり、執行文付与の訴えにより最終的な判断を得ることもできる。
オ CがAからBへの登記の抹消義務を承継するとしても、AからBへの登記の抹消手続を命ずる判決が、当然にBからCへの登記の抹消手続を命じていると解することは困難である。
1 アウ 2 アオ 3 イエ 4 イオ 5 ウエ
【感想】
承継執行文による登記申請についての推論問題。「この考え方と矛盾しない記述として最も適切なもの」とあるように、機械的に取捨選択するタイプの問題ではないので、少しずつ疑問符が入るけども、結果的にはこれかな、というような感じではないでしょうか。
【考察】
まず、前提として、承継執行文による登記について。
簡単に場合分けをすると(いずれも口頭弁論終結後)、
①登記権利者側に一般承継があった場合 → 一般承継があったことを証する情報を提供して、
②登記権利者側に特定承継があった場合 → 債権者代位によって、
申請すればよいので承継執行文の付与は不要。
③登記義務者側に一般承継があった場合 → 承継執行文の付与を受けて登記をすることが可能。
④登記義務者側に特定承継があった場合
→ 「移転」の登記を命じる判決であった場合には、民法177条により特定承継人に対抗できないので登記不可。
→ 「抹消」の登記を命じる判決であったときは、その理由となる規定により異なり、不存在・絶対的無効ならば承継執行文による抹消の登記は可能(いつでも、何人に対しても無効を主張できるため)。詐欺取消や解除によるときは、承継執行文による抹消の登記は基本的にはできない。
となります。
今回は、A→Bの登記の抹消を命じる判決の確定後(当然、口頭弁論終結後)、B→Cへの所有権移転の登記がなされた場合に、「Aがその所有権を第三者Cに対抗することができる場合に限り、承継執行を肯定することができる。」という考えと対比してくださいと言っていることになります。場合分けでいうと、④の抹消のパターン。
肢アは、「強制執行は終了し、その目的を達成している。」と、そもそも承継なんて考えていないので「矛盾する」。
肢イは、まさにコア。Aは、錯誤無効によるBの無権利をCにも主張できるので、「Aがその所有権を第三者Cに対抗することができる場合」にあたり、「矛盾しない」。
肢ウは、Aは、登記をしたり、仮処分をもらったりして自分の権利を主張できたはずなのに怠っているじゃないか、という批判なんですが「矛盾している」といえるほどではないように個人的には思います。真っ向から対立はしていない主張ですよね。ただし、他の選択肢から見てもやはり「矛盾する」という方に傾くかと。
肢エは、前半の「執行文の付与機関が、第三者の善意・悪意を判断することは困難だが」と前置きしながらも、「客観的に明確な場合もあり、執行文付与の訴えにより最終的な判断を得ることもできる。」と最終的には承継執行を肯定しているので「矛盾しない」。
肢オは、ちょっと難しい。おそらく、「AからBへの登記の抹消手続を命ずる判決が、当然にBからCへの登記の抹消手続を命じていると解することは困難」というところが、承継人に判決の効力が及ぶと考えることが困難だということで承継執行を否定する立場、ということなんでしょうが、「矛盾するかどうか」でいうと、これも相対的に「矛盾する」という程度ではないかと思います。
正解は、3です。
【条文】
〔民事執行法〕
(意思表示の擬制)
第百七十四条 意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停若しくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。ただし、債務者の意思表示が、債権者の証明すべき事実の到来に係るときは第二十七条第一項の規定により執行文が付与された時に、反対給付との引換え又は債務の履行その他の債務者の証明すべき事実のないことに係るときは次項又は第三項の規定により執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなす。
2 債務者の意思表示が反対給付との引換えに係る場合においては、執行文は、債権者が反対給付又はその提供のあつたことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
3 債務者の意思表示が債務者の証明すべき事実のないことに係る場合において、執行文の付与の申立てがあつたときは、裁判所書記官は、債務者に対し一定の期間を定めてその事実を証明する文書を提出すべき旨を催告し、債務者がその期間内にその文書を提出しないときに限り、執行文を付与することができる。
〔民事訴訟法〕
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
2 前項の規定は、仮執行の宣言について準用する。
【先例】
被告に対して所有権移転登記の抹消登記手続を命じた判決の効力が、被告の承継人に及ぶ場合には、原告は、その承継人に対する承継執行文の付与を得て、被告名義の所有権移転登記の抹消を前提として、債権者代位により、被告を登記権利者、その承継人を登記義務者として、単独で承継人名義の所有権移転登記の抹消を申請することができる(先昭32.5.6民甲738号)。
【問題】
第26問
次の文章は、判決とともに承継執行文の付与を受けてする登記に関する考え方を示したものである。
「AからBへの所有権の移転の登記の抹消手続を命ずる判決が確定したが、判決確定後、Aがその抹消を申請しない間に、BからCへの所有権の移転の登記が経由された場合、Cへの所有権の移転が売買等の特定承継によるものであるときは、Aがその所有権を第三者Cに対抗することができる場合に限り、承継執行を肯定することができる。」
次のアからオまでの記述のうち、この考え方と矛盾しない記述として最も適切なものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
ア 判決が確定すれば、登記申請の意思表示は直ちに効力を生じており、強制執行は終了し、その目的を達成している。
イ AからBへの所有権の移転の登記が錯誤により無効であった場合には、登記に公信力がない以上、AはCに対してBの無権利を対抗することができるから、Cは判決の効力を受けることになる。
ウ Aは、直ちに登記をすることも可能であったし、処分禁止の仮処分の制度を利用することも可能であった。
エ 執行文の付与機関が、第三者の善意・悪意を判断することは困難だが、客観的に明確な場合もあり、執行文付与の訴えにより最終的な判断を得ることもできる。
オ CがAからBへの登記の抹消義務を承継するとしても、AからBへの登記の抹消手続を命ずる判決が、当然にBからCへの登記の抹消手続を命じていると解することは困難である。
1 アウ 2 アオ 3 イエ 4 イオ 5 ウエ
【感想】
承継執行文による登記申請についての推論問題。「この考え方と矛盾しない記述として最も適切なもの」とあるように、機械的に取捨選択するタイプの問題ではないので、少しずつ疑問符が入るけども、結果的にはこれかな、というような感じではないでしょうか。
【考察】
まず、前提として、承継執行文による登記について。
簡単に場合分けをすると(いずれも口頭弁論終結後)、
①登記権利者側に一般承継があった場合 → 一般承継があったことを証する情報を提供して、
②登記権利者側に特定承継があった場合 → 債権者代位によって、
申請すればよいので承継執行文の付与は不要。
③登記義務者側に一般承継があった場合 → 承継執行文の付与を受けて登記をすることが可能。
④登記義務者側に特定承継があった場合
→ 「移転」の登記を命じる判決であった場合には、民法177条により特定承継人に対抗できないので登記不可。
→ 「抹消」の登記を命じる判決であったときは、その理由となる規定により異なり、不存在・絶対的無効ならば承継執行文による抹消の登記は可能(いつでも、何人に対しても無効を主張できるため)。詐欺取消や解除によるときは、承継執行文による抹消の登記は基本的にはできない。
となります。
今回は、A→Bの登記の抹消を命じる判決の確定後(当然、口頭弁論終結後)、B→Cへの所有権移転の登記がなされた場合に、「Aがその所有権を第三者Cに対抗することができる場合に限り、承継執行を肯定することができる。」という考えと対比してくださいと言っていることになります。場合分けでいうと、④の抹消のパターン。
肢アは、「強制執行は終了し、その目的を達成している。」と、そもそも承継なんて考えていないので「矛盾する」。
肢イは、まさにコア。Aは、錯誤無効によるBの無権利をCにも主張できるので、「Aがその所有権を第三者Cに対抗することができる場合」にあたり、「矛盾しない」。
肢ウは、Aは、登記をしたり、仮処分をもらったりして自分の権利を主張できたはずなのに怠っているじゃないか、という批判なんですが「矛盾している」といえるほどではないように個人的には思います。真っ向から対立はしていない主張ですよね。ただし、他の選択肢から見てもやはり「矛盾する」という方に傾くかと。
肢エは、前半の「執行文の付与機関が、第三者の善意・悪意を判断することは困難だが」と前置きしながらも、「客観的に明確な場合もあり、執行文付与の訴えにより最終的な判断を得ることもできる。」と最終的には承継執行を肯定しているので「矛盾しない」。
肢オは、ちょっと難しい。おそらく、「AからBへの登記の抹消手続を命ずる判決が、当然にBからCへの登記の抹消手続を命じていると解することは困難」というところが、承継人に判決の効力が及ぶと考えることが困難だということで承継執行を否定する立場、ということなんでしょうが、「矛盾するかどうか」でいうと、これも相対的に「矛盾する」という程度ではないかと思います。
正解は、3です。
【条文】
〔民事執行法〕
(意思表示の擬制)
第百七十四条 意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停若しくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。ただし、債務者の意思表示が、債権者の証明すべき事実の到来に係るときは第二十七条第一項の規定により執行文が付与された時に、反対給付との引換え又は債務の履行その他の債務者の証明すべき事実のないことに係るときは次項又は第三項の規定により執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなす。
2 債務者の意思表示が反対給付との引換えに係る場合においては、執行文は、債権者が反対給付又はその提供のあつたことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
3 債務者の意思表示が債務者の証明すべき事実のないことに係る場合において、執行文の付与の申立てがあつたときは、裁判所書記官は、債務者に対し一定の期間を定めてその事実を証明する文書を提出すべき旨を催告し、債務者がその期間内にその文書を提出しないときに限り、執行文を付与することができる。
〔民事訴訟法〕
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
2 前項の規定は、仮執行の宣言について準用する。
【先例】
被告に対して所有権移転登記の抹消登記手続を命じた判決の効力が、被告の承継人に及ぶ場合には、原告は、その承継人に対する承継執行文の付与を得て、被告名義の所有権移転登記の抹消を前提として、債権者代位により、被告を登記権利者、その承継人を登記義務者として、単独で承継人名義の所有権移転登記の抹消を申請することができる(先昭32.5.6民甲738号)。