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残業代請求

2009-05-30 13:22:32 | 残業代請求
今回は、残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

(7)亡太郎の死亡に関する医師等の意見
ア F医師の意見等(〈証拠略〉)
 亡太郎は,平成14年6月23日10時4分,来院時心肺停止状態にあり,瞳孔反射も消失していたので,人工呼吸(挿管)を開始し,点滴,強心剤の使用を試みるも反応なく,同日10時25分死亡が確認された。傷病名は「心臓疾患の疑い」であり,これ以上の特定はできない。
 確率的には,脳,心臓の病気のため死亡したと考えるのがいちばん考えやすい。
イ 東京労働局地方労災医員の宗像一雄医師の意見(〈証拠略〉)
 本件では剖検が実施されず,死亡の詳細は必ずしも明確ではないが,発症状況,様式より推定して,心停止(急性心筋梗塞による可能性が高い。)による死亡と考えられる。
 本件での心停止発症と就労との因果関係を考えるに,就労状況に相当過重が存在したとは考えがたく,高血圧,肥満,高脂血症等の冠危険因子に基づく冠動脈硬化症の自然歴と考えるのが妥当と思われる。
ウ 杏林大学保健学部臨床工学科の四倉正之教授の意見(〈証拠略〉)
(ア)亡太郎は,4回の健康診断の結果,視力,肥満度,血圧,尿酸,血糖,GPT,γ―GTP,中性脂肪,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット,胸部X線写真,胃透視,腹部超音波について異常所見が示されている。
 このうち,肥満度は,4回の健康診断すべてにおいて,高度肥満とされているBMI30以上に近い数値を示し,BMIが25以上であることから,肥満体であることを示している。
 血圧は,4回の健康診断すべてにおいて,高血圧治療ガイドライン2004による重症高血圧の範疇に入る。
 尿酸は,4回の健康診断すべてにおいて,高尿酸血症の診断基準の7.0mg/dlを越えており,高尿酸血症といえる(健康診断のコメントから飲酒習慣があると推測され,飲酒が原因のひとつと思われる。)。
 GPTは平成11年のみが軽度高値であるが,γ―GTPはすべてが軽度高値を示している。これも飲酒が原因と思われる。
 血糖は,4回の健康診断すべてにおいて,糖尿病の診断基準である空腹時血糖120mg/dl以上を下回っているが正常上限の110mg/dlを越えており,境界型である。
 中性脂肪は,4回の健康診断すべてにおいて,いずれも正常値を大きく上回っており高中性脂肪血症である。原発性ないし肥満が原因と思われる。なお,総コレステロール,HDLコレステロールは正常値である。
 心電図検査では,平成11年と平成12年は正常,平成13年と平成14年は正常境界と診断されている。特に平成14年の心電図検査では,軽度の心肥大でみられる所見(V6誘導で軽度のT波の平低化)がある。この心肥大の原因は重症の高血圧と思われる。
 腹部超音波検査は,平成12年,平成13年,平成14年の3回実施されており,すべて脂肪肝(中等度)を指摘されている。肥満及び高中性脂肪血症が原因と思われる。
 これらのうち,治療が必要なものは,肥満,高血圧,高尿酸血症,高中性脂肪血症,脂肪肝である。特に高血圧は重症であり,速やかな薬物療法が必要である。
(イ)亡太郎は,高血圧治療ガイドライン2004での重症高血圧(収縮期血圧180mmHg以上ないしは拡張期血圧110mmHg以上)であり,また肥満,喫煙の心血管病の危険因子が存在する高リスク群に属するから,治療をせずに放置していた場合,高血圧の合併症である脳血管障害,虚血性心疾患,高血圧性心不全,高血圧性腎障害,大動脈瘤などを発症する可能性が高い。
 しかしながら,血圧が変動している場合には,血圧上昇時には頭痛,頭部重圧感,ふらつき,のぼせ症状などが出現するのが普通であるが,変動があまりない場合には高値でも無症状のことが多い。
 亡太郎も,血圧が非常に高値であったが,4回の健康診断時のいずれもほぼ同程度に高値であり慢性化しているため自覚症状はほとんどなかったと思われる。
(ウ)死亡の原因となった本件疾病(心臓疾患)を急性心筋梗塞とした場合と,急性心筋梗塞とは無関係の致死的不整脈とした場合では,健康診断結果と本件「心臓疾患」発症との関係は異なる。
 前者の場合,健康診断結果では,急性心筋梗塞などの虚血性心疾患の危険因子である肥満,高血圧,喫煙などの存在が示され,急性心筋梗塞を発症するリスクが高いことが判明しているから,健康診断結果と本件疾病の関連性は大である。
 後者の場合は,健康診断結果では,心電図で急性心筋梗塞とは無関係の致死的不整脈に特徴的な所見(QT延長,ブルガダ様波形など)や心筋症を示唆する所見がみられないから,健康診断時果から「心臓疾患」を予測することはできない。逆にいえば,後者(急性心筋梗塞とは無関係の致死的不整脈)が存在した可能性は低く,本件疾病が前者である可能性が高い。
(エ)亡太郎の死亡原因は,病理解剖が実施されていないことから,確定することは不可能であるが,心臓疾患以外の可能性も検討する必要がある。本件の突然死の原因としては,急性心筋梗塞,不整脈,脳卒中,大動脈瘤破裂,急性肺血栓塞栓症などが考えられる。このうち不整脈,急性肺血栓塞栓症は発症状況及び健康診断結果から可能性は低いと思われる。
 入浴中の死因は心血管系疾患が半数以上を占め,次いで脳血管疾患である。この発生頻度から推測すると心血管系疾患である急性心筋梗塞ないしは大動脈瘤破裂の可能性が高い。しかし,健康診断の結果をみると最も重症で速やかに治療が必要なのは高血圧である。この高血圧と最も関連が強いのは脳卒中であり,高血圧と心疾患の関連性は高血圧と脳卒中の関連性よりも低い。
 したがって,亡太郎の死亡原因として脳卒中を無視することはできない。発症直後に意識を失い死亡に至ったことを考えると,脳卒中のうちでも脳出血ないしはクモ膜下出血のどちらかが考えられる。
(オ)以上のことから,本件の死亡原因としては急性心筋梗塞と脳卒中を同程度の可能性とするのが妥当と思われる。
2 以上の認定事実に基づき,争点について判断する。
(1)労災保険法7条1項1号の業務災害の判断
 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡について行われるが,業務上死亡した場合とは,労働者が業務に起因して死亡した場合をいい,業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される。
 また,労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は,業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に,使用者等に過失がなくとも,その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから,上記にいう,業務と死亡との相当因果関係の有無は,その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。
 そして,脳・心臓疾患発症の基礎となり得る素因又は疾病(以下「素因等」という。)を有していた労働者が,脳・心臓疾患を発症する場合,様々な要因が上記素因等に作用してこれを悪化させ,発症に至るという経過をたどるといえるから,その素因等の程度及び他の危険因子との関係を踏まえ,医学的知見に照らし,労働者が業務に従事することによって,その労働者の有する素因等を自然の経過を超えて増悪させたと認められる場合には,その増悪は当該業務に内在する危険が現実化したものとして業務との相当因果関係を肯定するのが相当である。
(2)条件関係
ア 前記のとおり,業務上死亡した場合とは,労働者が業務に起因して死亡した場合をいい,業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解されるところ,相当因果関係が認められる前提として,条件関係が認められることが必要である。
 もっとも,訴訟上の因果関係の立証は,自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである。
イ そこで,亡太郎が従事した業務と死亡との間に条件関係が認められるかどうかについて検討する。
(ア)前記第2の1の事実,前記第3の1(6)の医学的知見,同(7)の医師の意見等によれば,亡太郎は本件宿舎の浴室で倒れているところを発見されたこと,亡太郎は喫煙を再開していたこと,亡太郎の健康診断結果(別紙「健康診断表」)で,肥満,高血圧,高尿酸血症,高中性脂肪血症,軽度の心肥大,脂肪肝が指摘されていること,高血圧は重症であり,速やかな薬物療法が必要であるとされる程度であること,心電図で急性心筋梗塞とは無関係の致死的不整脈に特徴的な所見や心筋症を示唆する所見がみられないことが認められる。
 そして,前記第3の1(6)の医学的知見と同(7)の医師の意見等によれば,肥満,高血圧,喫煙は急性心筋梗塞等の虚血性心疾患を発症する危険因子であること,F医師は亡太郎の死因については心臓疾患の疑いという以上には特定できないとしていること,宗像医師が亡太郎の死因については急性心筋梗塞による心停止の可能性が高いとしていること,四倉教授が亡太郎の死因については,健康診断の結果からうかがえる危険因子との関連性が強い急性心筋梗塞と脳卒中を同程度の可能性とするのが妥当と思われるとしていることが認められる。
 これらの事実及び医学的知見等を総合考慮すると,亡太郎の死亡原因である本件疾病(心臓疾患)は急性心筋梗塞による心停止であったと推認するのが相当である。
(イ)前記1(6)ウのとおり,過度の肉体労働,精神的緊張の持続,急性ないし慢性の心身への負荷(ストレス)は,急性心筋梗塞を含む虚血性心疾患の危険因子となり得るとされており,精神的要求度が高い職務,孤立感が周囲からの支援が少ない場合には,心血管の障害を来しやすいという報告例があることが認められる。
 そして,亡太郎の業務は,後記(3)ア,イのとおり,相当量の時間外労働(残業)を行っており,草津チームのリーダー(平成14年6月の死亡時には,営業担当の部下が新人1名だけであった。)として,身体的・精神的負担を相当程度伴うものであったと認めることができる。
 したがって,亡太郎の従事した業務及びこれによるストレス等と本件疾病(心臓疾患である急性心筋梗塞による心停止)の発症との間には,前記医学的知見等を踏まえた社会通念に照らし,業務がなければ本件疾病は発症しなかったという関係を是認し得る程度の高度の蓋然性があるものと認めるのが相当である。
(3)相当因果関係
ア 業務の量的過重性について
(ア)亡太郎の死亡前6か月間の出勤日については、当事者間に争いがない。
(イ)亡太郎の死亡前6か月間の各出勤日の就労内容については,平成14年1月14日,同月23日,同年2月10日,同月12日及び同年5月17日以外には,当事者間に争いがない。 
 そして,証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば,訴外会社は従業員の出退勤を勤務管理表(甲16)によって管理していたが,亡太郎は時間外労働(残業)手当(残業代)の対象外と扱われていたことから,同表では出退勤と自宅から現場に直接出張するかどうか(直接出向く場合には「出勤印」欄に「廻り」と記載し,「時間外・休日出勤・休暇・欠勤事由等」欄に出張先が記載されている。)を把握し,旅費の請求をするかどうかを確認する限度で使用され,出退勤時刻の厳格な時間管理には使用されていなかったこと(1(2)イ)が認められる。一方,証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば,亡太郎は几帳面な性格で(1(1)ウ(ア)),手帳に行動記録をつけていたことが認められる(原告は手帳には「予定」が記載されている旨主張するが,手帳の記載は詳細で,1時間の目盛を細かく区分けして終業時刻を特定している部分もあるところ,そのような記載を予定の段階で行うことは不自然である上,死亡した日の平成14年6月23日には何らの記載がないことから,手帳の記載は事後に時刻を記録したものとみるのが自然であり,原告の前記主張は採用しない。)。したがって,各日の実際の就労内容については,亡太郎の手帳(甲13)の記載を優先し,勤務管理表(甲16)の記載は手帳の記載に反しない限りで用いるのが相当である。
 そうすると,亡太郎の就労内容は,平成14年1月14日については,10時30分ころから投げ込み業務に従事し,12時ころには狭山市の顧客先をまわり,14時ころには所沢市の顧客先をまわって自宅に帰ったものと,同月23日については,10時に草津販売事務所に到着し,その後,草津販売事務所を出て14時30分に前橋地方法務局中之条支局に立ち寄った後,自宅に帰ったものと,同年2月10日については,草津販売事務所を出た後,12時に埼玉県狭山市の顧客先を訪れ,その後に本社に戻ったものと,同月12日については,15時30分に草津販売事務所を出て前橋地方法務局中之条支局に立ち寄った後,自宅に帰ったものと,同年5月17日については,9時に本社に出勤したものと(午前の半日休暇はとっていない。),それぞれ認めるのが相当である。
(ウ)亡太郎の死亡前6か月間の各出勤日の始業時刻,終業時刻については,以下のとおりである。
a 各日の始業時刻,終業時刻について,当事者間に争いがない場合には,それによる。
 争いがある場合は,以下のbないしeのとおりである。

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