電脳住宅とは何か?
電脳住宅(でんのうじゅうたく)とは、TRONプロジェクトで試作した一般住宅のこと。電脳とは、コンピュータ(Computer)の漢文訳。計算機というのは、カリキュレータ(Caliculator)の漢文訳。コンピュータは、文字・計算などを同時に扱えるために、電脳の訳を当てた。
【概要】
TRONプロジェクトリーダである、坂村健が著書「TRONを創る」で、M-TRONを提唱。それを実現するためには、試作が必要であるということで、住宅メーカとの共同プロジェクトで試作を行った住宅のこと。もしくは、住宅内の各所に埋め込まれた、制御用マイクロコンピュータ間の協調分散によって、住宅に居住する住人の希望にあわせた環境調整が行える近未来型の住宅のこと。
以下では、M-TRON型の住宅、オフィス施設、都市環境について言及する。
【TRON電脳住宅】
1985年に、TRONの思想を生活の場に実現しようということで、住宅機器メーカ、住宅建材メーカ、住宅メーカの18社が集まりTRON電脳住宅研究会が発足。各メーカで、住宅建材や機器類の開発を進め、1989年にコンセプト住宅の建設を始める。1989年12月には、東京都港区西麻布にて、TRON電脳住宅が竣工。関係者のみで、環境試験等の実験を実施。1990年4月に一部一般公開を始める。非常に関心を集め、延べ入場者が10000人に達する(1993年3月に実験終了。現在は、無い)。実際に会員による入居実験を通して、居住性能などを調べたところ、おおむね高い評価が得られた。
近未来の住宅の在り様を模索した結果、M-TRONにあるような、各機器類に組み込み型マイクロプロセッサを搭載し、情報・セキュリティ・空調・照明などを自動管理することに成功。これによって、各住宅機器メーカでは、様々な商品が開発されることになった。
TRON電脳住宅では、1000個に達するマイクロプロセッサやセンサーが用いられているため、完全な形での協調分散システムとしての構築は、当時のマイクロプロセッサの性能では実現出来なかった(このため、一部公開となった。システム全体は、当時としてはかなり大型のスーパーミニコンクラスのコンピュータで制御)。
しかしながら、その後組み込み型マイクロプロセッサの高性能化(当時は、コアCPUは4ビット~8ビット。現在は、コアCPUは16ビットが主流。高性能組み込み型では、32ビットのものもある)やセンサー類の小型化、及び、ネットワーク接続(工業標準規格のネットワーク機能を搭載した組み込みマイクロプロセッサが増えた)が容易になったことで、今後、このような住宅の建設が行われると考えられている。
実際に、パナホームやトヨタホームなどでは、同様のコンセプトに基づいた住宅が提案されており、商品化に向けた実験研究として、かつまた、デモンストレーションとして注目を集めたプロジェクトだった。
【TRON電脳ビル】
1980年代より、パーソナルコンピュータの普及がビジネスの現場で始まった。これに答えるかのようにして、電脳ビルを建設することを目的にして、1985年より坂村研究室と間組との間で始まった研究活動のこと。
現在では、インテリジェントビルとして知られる基本コンセプトを目標として始まり、ビル入居者および企業等の機関の社員が保有する、スーパーIDカード、及び一人1台のワークステーション環境等からなり、書類の自動管理や情報管理システムを提案した。
計算機利用によって、客観的に評価された行動や利用分析を行い、働く場として、働き生活を行う場としてのビルを建設しようという研究であった。現在は、別の形でインテリジェントビルが建設され、働くものを保護するためのシステムとして、安全・安心、快適な環境を提供するビルとしての環境を追求したインテリジェントビルが出現している(1990年代以降に建設された、高層インテリジェント型オフィスビル等)。
現在は、以下に記述する電脳都市の構想実現に向けて研究が進められている。また、電脳都市と電脳都市を結ぶ交通網にも着目した、ITS型のトロン電脳交通網システムについても研究が行われている。
【TRON電脳都市】
住宅、そしてビル、その先にあるのは、電脳都市。有機的な連携によって、どこでもコンピュータ(ユビキダスシステム)を実現することを目的として、千葉県の中央部にあたる市原市周辺の300ヘクタールの丘陵地に、電脳都市は構想された。
情報インフラストラクチャーやヒューマンインターフェイス、更には制度等まで含めたガイドラインの設計を目指している。多様な人々が集い、多様な生き方や価値観を持つ人々に対して、デジタルデバイドなどの問題を与えないためには、人に優しいコンピュータを実現しなければならない。
その目的のためには、住宅・ビル・そして公共空間に至る隅々に、ネットワークを張り巡らし、コンピュータがアクティブに情報を獲得し、利用者である人間は、コンピュータを意識させない、様々な道具に指示を与えることによって、様々な施設の活用や双方向コミュニケーションが可能になるという事を目指している。
まだ研究は続いており、これからの実現が期待されている。
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