環境の世紀

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すでにフェーズ6相当、水際でのウイルス侵入阻止は不可能

2009年04月30日 | 鳥/新型インフルエンザ

 豚・鳥インフルエンザ等の混合した複雑なウイルスとされる今回の新型インフルエンザだが、私の予想通りの展開を辿って世界を席巻しそうである。北米型とユーラシア型の豚インフルエンザウイルスに、人と鳥のインフルエンザウイルスを加えた4種類の遺伝子が混合された複雑さに、バイオテロの可能性も囁かれる今回の新型インフルエンザを我々は、どう受け止めればいいのだろうか。30日の読売オンラインによれば、

・・・30日午後3時半過ぎに成田空港に到着した米ロサンゼルス発のノースウエスト便の機内検疫で、発熱を訴えた日本人女性が簡易検査で陽性反応を示した。 女性は新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)を含むA型インフルエンザに感染している疑いがあり、午後7時ごろから遺伝子検査を開始。同検査は最大8時間かかる見通しで、周辺座席にいた乗客ら約20人は空港近くに留め置かれた。28日に機内検疫が始まってから、簡易検査の陽性反応は初めて。新型インフルエンザ上陸阻止に全力を挙げる同省や空港などの関係者に緊張が走った。 成田国際空港会社によると、同機は到着後、21番スポットにとどまり、発熱した女性と周囲の席の客が機内に残された。午後7時半過ぎ、成田空港第1ターミナル21番ゲートから、青い防護服にマスクとゴーグル姿の検疫官2人が機内から出てきた。同8時ごろ、救急車がノースウエスト機に横付けされ、布を頭からかぶった乗客1人が検疫官に付き添われてタラップを降り、救急車に乗り込んだ。救急車は赤色灯をつけ、サイレンは鳴らさずに走り、病院に着くと、女性は検疫官に支えられ、新型インフルエンザ患者の専用口から歩いて・・・

という。むろんこの女性が今回の新型インフルエンザかどうかはまだわからない。実際私の周りには、5月になろうとしているのにインフルエンザに感染した者が多くいるのだから・・・。

 ところで、日本の首相は、「水際対策の徹底でウイルスを日本に持ち込まないよう万全の努力を行う」としているが、実際には不可能と言ってよいだろう。数万人にも及ぶ海外から流入する入国者すべてを検査することはできない。検査を行う人もモノも足りないのだ。しかも、症状があるかないかを入国の際に申告することになっているが、海外旅行に行ったことのある人ならば、「下痢とか発熱とかいった所には、絶対に記入しないように。もし発熱や下痢があったとしても、書いたら家に帰れませんよ。」と添乗員に諭された覚えがあるだろう。自己申告や聞き取り調査は、相手が証言によって不利益となることを知っていれば、正確な情報を得られない。効果はないのだ。ということは、水際作戦のみで次の手を持たなければ、とんでもないことになるということだ。

 WHOの勧告も、必ずしも役に立たない。フェーズ3から4への移行も政治的な理由から遅れた。経済や観光に対する影響が懸念されたからだ。つまり、WHOの勧告後に行動していたら遅れを取る可能性があるのだ。30日のサーチナは、この6段階を次のように説明している。

 WHOは、新型インフルエンザの世界的流行に備えて2006年、警戒レベルを設定した。・・・
 警戒レベルは「フェーズ1(第1相)」から「フェーズ6(第6相)」の6段階。日本では「警戒レベル1」などと紹介されることが多い。各レベルがあらわす状況は以下の通り。
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●フェーズ1
 ウイルスは動物間で感染を繰り返しているが、人への感染は報告されていない。人に感染するウイルスが発生している可能性はあるが、リスクは少ないと考えられる段階。
●フェーズ2
 家畜または野生動物間で感染を繰り返していたウイルスが、人にも感染したケースが発生。世界的流行の潜在的脅威と考えられる段階。亜種(変種、新種)のウイルスそのものは確認されていない。
●フェーズ3
 動物間または動物から人に感染するウイルスにより、小さな人コミュニティーでの感染が確認された段階。ただし、人から人への感染は、患者との密接な接触など、特別な状況にかぎられている。この段階では、ウイルスが世界的な流行を引き起こすに必要な、人間への伝染性を獲得したとみなされる。
●フェーズ4
 共同体レベルの大流行が発生。ただし感染の範囲は限られている。世界的流行へのリスクがかなり増えたと考えられるが、決定づけられたわけではない。ウイルスの人-人感染能力が、まだそれほど強くない段階との見方もできる。
●フェーズ5
 複数の国または地域に感染が拡大。感染の影響をあまり受けていない国と地域が大部分だったとしても、世界的な流行が差し迫っていると考えられる。流行低減のための、組織的、計画的な対策、意思疎通を、迅速に行なうべき段階。
●フェーズ6
 複数の国と地域内で、大流行が発生している状態。世界的な大流行が進行中と言っもよい。
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 フェーズ5や6の後には「ポスト・ピーク期」、「ポスト・パンデミック期」が続くと想定されている。
 「ポスト・ピーク期」では、世界全体の爆発的感染はピークを過ぎたとしても、個別の国では、改めて感染のピークが発生する可能性があるので、「安心」することはできない。・・・

これを見れば、すでに勧告を待つまでもなくフェーズ6が差し迫っていることがわかるだろう。29日の産経新聞は、こういった段階に入った時に起こるであろうことを次のようにまとめている。

・・・実際に、感染が確認された場合の対応状況をシミュレーションしてみた。 ■ケース1 水際で確認
 ウイルスの侵入が懸念されるのは、外国からの帰国者らが乗り込む航空機や船舶が到着する空港や港湾。政府の行動計画では、感染地域からの到着地を、空港の場合は成田、関西、中部、福岡の4空港に、港は横浜、神戸、関門の3カ所にまとめる。これらの検疫で、発症の疑いがある患者の隔離を想定している。・・・ 感染の疑いがある乗客が確認された場合は、患者搬送車を使って対岸にある感染症指定医療機関、市立泉佐野病院(大阪府泉佐野市)に搬送する・・・■ケース2 病院で発覚 水際での侵入阻止に失敗し、患者が体調不良などで病院を診察したことなどをきっかけに、感染が発覚するケースも考えられる。 こうした場合、感染の拡大を防ぐため、患者が出た都道府県は学校などの臨時休校を要請。企業には職場感染を防ぐために業務の縮小が求められる。・・・ このほか、多くの人が集まる可能性がある集会やコンサートの中止や外出自粛も求められる。 公共交通機関の利用もできるだけ控えるよう、呼びかけられることになるが、鉄道会社などでは対応に苦慮している様子だ・・・ ■ケース3 感染が拡大
 国内で感染が急激に広がった場合の対策はどうだろうか。感染した患者は国や自治体が指定する医療機関への入院措置がとられる。治療には抗インフルエンザウイルス薬「タミフル」などの投与が必要だが、厚生労働省は「3500万人分の治療薬が蓄えられている」としている。 しかし、感染者が医療機関に殺到するなどした際に、医師らの医療従事者が診療拒否する可能性も否定できない・・・

医者も、人の子。免疫を持たない新型インフルエンザに接することは避けたいはずだ。医師による治療拒否も起こりうるだろう。メキシコへの搭乗を拒否したパイロットも出たらしい。30日の毎日新聞によれば、

埼玉県が第2種感染症指定医療機関に指定している東松山市立市民病院が、新型インフルエンザ対策として県が要請した「発熱外来」の設置を断っていたことが30日、分かった。理由は医師不足という。 発熱外来は厚生労働省が策定した行動計画に基づいて設置される。・・・同省新型インフルエンザ対策推進室の高山義浩室長補佐は「発熱外来の病院数が少ない感染拡大期は患者が1日に何十人も押し寄せることはない。夜間救急はしていなくても、当直医師などで十分対応できるのではないか」と指摘・・・

29日の毎日JPによれば、今回の新型インフルエンザがほんの序章に過ぎないことが分かる。

・・・世界保健機関(WHO)緊急委員会委員の田代真人・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長は28日、記者会見し・・・田代氏は毒性について「今後、遺伝子の突然変異で病原性を獲得しないという保証はない」としたうえで、遺伝子解析の「予備的データ」の結果として、現段階で「強い病原性を示唆するような遺伝子はない」と「弱毒性」との認識を示した。・・・日本の対策については「少しナーバスになり過ぎているところがあるかもしれないが、後手後手になって大きな被害が出るよりは、やり過ぎの方がいいかもしれない」とした。・・・ 「H5N1型による大流行のリスクが減ったわけではない」と、警戒を怠ることは危険だと警告・・・

という。パニックになる必要はないが、耳を澄まして状況を把握し、できる対策は個人レベルでもしておくべきだということだろう。今回は、メキシコ発だが、29日の読売オンラインによれば、インドネシアの豚たちは、強毒性のH5N1型の鳥インフルエンザウイルスのキャリアだという。

インドネシアの豚が高い確率で、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)を持っていることが、神戸大感染症センターの調査でわかった。・・・豚の体内で変化し、人から人へ感染する能力を獲得すると、今回の豚インフルエンザを上回る大きな被害を人類に及ぼす危険がある。 同大は、インドネシアの4州で402頭の豚を調査。1割を超える52頭の豚からH5N1型を検出した 豚は、鳥と人のウイルスにも感染するのが特徴。世界保健機関(WHO)は、H5N1型が豚の体内で変化するパターンを、人から人へ大流行する新型インフルエンザ出現の有力な筋書きとして警戒している。 実際に、52頭の豚から検出されたH5N1型ウイルスを詳しく調べると、人への感染力を一部獲得したタイプが1株見つかった。 理化学研究所感染症研究ネットワーク支援センターの永井美之センター長は「驚くべき結果だ。新型インフルエンザが感染力を獲得する過程を見ているのかもしれない。注視する必要がある」と指摘・・・

さて、新型インフルエンザの爆発的感染を阻止することは容易ではないが、今回のH1N1型への対応は、今後現われるであろうより強力なウイルスへの対処法を学ぶよい試金石となるかもしれない。

 話は元に戻るが、今我々に必要なことは、何だろうか。それは、適切な治療を受ければ治癒できるという今回の新型インフルエンザが相手であるということがヒントになる。つまり、不可能と分かっている感染拡大阻止やウイルスの侵入阻止を声高に叫ぶのではなく、治療体制の整備と感染スピードを抑える取り組みだろう。水際作戦や外出の自粛は、治療の機会をできるだけ多くの患者に提供するための手段なのだ。もし、感染・発病が一気に来ると病院では対応しきれなくなる。社会機能もマヒするだろう。感染を阻止するのでなく、できるだけ発病のピークをなだらかな山にし、治療不可能なほどの患者が病院に殺到することを防ぐのだ。各都道府県でも対策本部が立ちあげられている。感染阻止や封じ込めより感染後の対応を重視すべきだ。個人レベルでの手洗いやうがいといった対策を徹底して、発病のピークをずらし、学校や人の集まる場を閉めて感染スピードを抑えることが必要だ。

 そういう意味で、日本の総人口は、1億2769万人なのにタミフル備蓄が3500万人分とされている現状にまず手を打つことと、それがすべての人に行きわたる手段を検討するのは国の責任だろう。罹っても死に至らぬという安心感こそ大切である。新型インフルエンザは、適切な治療を受けられれば恐ろしくはない。恐ろしいのは、感染のスピードが速すぎて治療を受けられない不幸な患者が出ることなのだ。「水際!」などと叫ぶのではなく、「適切な治療が受けられる準備を!」と言ってほしかったなぁ。我が日本の対応は、的が外れている。


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1 コメント

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舛添もついに牟田口化…。 (都筑てんが)
2009-05-09 20:22:26
舛添もついに牟田口化…。

「諸君、担当医は、院長命に背き患者の診察を放棄した。受け入れ態勢がないから医療は出来んと言って患者の診察を勝手に断りよった。これが病院か。病院は受け入れ態勢がなくても受け入れをしなければならないのだ。検査キットがない、やれタミフルがない、リレンザがないなどは診察を放棄する理由にならぬ。

(中略)

担当医には応召義務があるということを忘れちゃいかん。病院は公立である。市長が守って下さる・・・」

以下、訓示は一時間以上も続いたため、当直明け通常勤務後の残業の連続で、抵抗力の落ちている医師がウイルスに罹り、病気で抵抗力の落ちた入院患者および外来患者に伝染する事態となった。

…。
……。
………。

…こうなりそうで怖いですね。

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