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長編小説「大井田さくらのツアーコン日記」未完

2006-06-19 16:40:21 | 小説
地下鉄虎ノ門駅、おびただしい人の波が狭いホームから改札口に流れて行く。
近くに溜池駅があり虎ノ門駅も狭いホームを改装したとはいうものの周辺のビルは立ち並び高層ビルが出現したためホームは依然として許容量を超えている。
大井田さくらもその中の一人で改札口を出て階段を駆け上ると目の前に帝国観光商事ビルがある。
信号を横断して向かい側道路を歩くとさくらは立ち止まって目を留めた。
さくらのビルの二件前の中華料理店の袖看板を見つめた。
看板には、
「おかげさまで開店10周年・ランチサービス」
さくらは、
「う~ん、10周年かあ、あたしも10年目かあ、おかげさまじゃないよ,ずっとあねごやっててさ」」
独り言を言ってると
「さくら、お早うあなたなに一人ごと言ってんの」
といつもさくらの悩み事を聞いてくれる由香里に声を掛けられた。
二人は同期生で気心も知れていて、会社では上司の言うことを聞いてよく働いた。
そのため、男子社員から
あまり仕事に熱中してると嫁の行き遅れになるよと冷やかされていた。
さくらは
「あなた、朝からなに考えてんの」
「ああ、驚いたさくらお早う、うーん何でもないよ」
二人は
帝国商事ビルのドアを開けてエレベーター・ホールに行った。
エレベータを待ちながら、
さくらは、
「ゆかりはいいねえ、いつも海外に行けて。あたしなんか」
「でも、大変よ、ツアーだと、自分の時間なくて、あたしなんかまだルーブル美術館かじっただけ」
二人はエレベーターに乗った。
さくらは、
「でも、ルーブル美術館入口くぐったんでしょう」
「それはね、たしかに」
「でも、本物見ただけでいいじゃない」
とさくらはうらやましそうに言った。絵を描くことが大好きな彼女としては、本物ルノアール・セザンヌ・ゴッホなどの画家の絵を見たいといつも考えていたのだった。
6階を降りると帝国観光旅行海外旅客部のドアを開けて二人は入った。
「お早うございます」
「ああ、お早う」
「お早うございます」
たがいに挨拶を交わしながらさくらは新入社員大下の向かい側の席に座った。
「部長、おはようございます」
「おはよう、大井田君。例の件できた」
部長は、何かというとさくらを頼っていた。さくらもまた部長は私に仕事を任せてくれるし、頑張らなければと考えて、ほかの社員が休んでも彼女は会社に出てきてがむしゃらに働いた。そのため年休も消化しきれず、山ほど残っていた。
そんなさくらの働き振りを見ていて、人事の役員会で部長は、
「わが部の大井田さくら君は、女子社員ですが、仕事は正確で、語学も堪能ですし、私の出した課題を片っ端から片付けてくれます」
大川人事部長が、
「それは判るんだが、男性社員で候補者もいるしね」
「判ってます。課長にとお願いしているわけではありません、係長に、勤務評定も充分推薦するだけのものを持ってます」
「う~ん、君のいうこともわかるが、女性は結婚を控えてるしなあ」
杉田専務が
「じゃ、主任ということで、これで勘弁してくれないか」
ということでさくらは海外旅行第一部の主任となったのだった。
そんなさくらは、
「ええ、まとめました」
さくらはバッグから資料を取り出して、部長席に行った。
「部長、これです」
「君、短時間でよくまとめたね、イスラエルの食べ物とか情報なかなかなくてね」
さくらの叔父は東和通商に勤めていた。部長は大井田さくらを信用していた。入社10年の最古参でベテランの彼女は、いつも部長の片腕的な存在だった。
「あたしのこと信用してくれてるのはうれしいけどさ・・・・でも何かと言うと、
おおい、さくら君、これって便利屋さんなのかなあ」
そんなことを考えながら、最後には部長の言うことは率先して仕事をした。
でも、いつもさくら一人の力ではどうにもならない難問題をぶつけられたのだった。今度も中近東、イスラエルの食事についてまとめてくれるように頼まれたのだった。
「お願いです、叔父様あたしを助けてください」
「さくら君からそういわれると僕も」
と現地の事務所に連絡してイスラエルの情報をあつめてくれた。旅行観光会社同士の競争はすさまじくツアー料金の引き下げとかツアー年代を高齢化社会時代の到来に合わせて新しい企画開発が必要だった。ヨーロッパやアメリカ・東南アジアの国々へのツアーは企画も出揃って、新しい販路としてトルコ・イスラエル・ギリシャなどの中近東諸国の旅行が帝国観光がこれから力を入れて他社にない特色作りを行うことだった。
トルコナイル川の旅・イスラエル巡礼の旅・ギリシャ地中海の旅・ギリシャ遺跡の旅など打ち出した企画は当たってなぜか中高年の人たちの人気を呼んだのだった。
そんな時、さくらは部長から信頼されて何よりも現地の食べ物・レストラン情報が集めにくいため部長からなにかというと情報収集を依頼されたのだった。
さくらは
「ルートがあるものですから、何とか、部長、失礼します」
席に戻って机上のパソコンのスイッチを入れて海外ツアーの集客状況を見ようと思った。
そのとき、大井田君ちょっとと部長が呼んだ。
「おおい、さくら君、君にお願いがあって」
今度はどんな難問題かしら、さくらはそう思いながら椅子を立ち上がって部長席に行った。
「はい」
「君に、今回・・・]
特に今回といわれたことにどこかツアーの添乗を頼まれるのかなあと推理した。
さくらはこの課でもう数年間も帝国観光のツアー企画を集めてきたパンフレット、現地資料、日本での収集資料を分析、具体化することには秀でていた。
「なんですか。今回って」
「君に、アメリカ・東・西海岸10日間のツアコンしてほしいんだ」
「はっ?、この私に・・ですか」
さくらは心の中でゆかりに言ったこと本物だなと思った。
「ええと、折角のお言葉で・・・・・ええと・・ありがたいんですが・・・
 でも未経験ですし。あたしよりほかに」
と手を前に置いてほかに適当な人はいないのかなあと考えていた。
部長はそんなさくらの心配をよそに
「大井田君は、たしかうちに来る前は企画部だっだよね」
部長にそう言われて、さくらは、
「ええ、そうですけど、それと、部長、なにか関係が」
とたずねた。
「企画部時代、現地視察で東南アジアとか、ヨーロッパとか」
「ああ、たしかに、あれはツアーの企画の資料集めで、企画課長と三人で」
「その・・・経験があれば、さくら君だったら大丈夫」
部長はさくらをすっかり信用しているようだった。
「お言葉返すようですが、部長、現地視察ってたった2回ですよ」と言うと、
「回数には関係ないよ、要は、やる気さへあれば」
「ええ、でも、あたし、まだお客様を連れて・・・・・っていうか
 お客様大勢いたらあがって、小心者なんです」
さくらは出来ることならこのツアーは断りたかった。
「ほかにだれも居ないしね、私を除いては来月皆出かけちゃうんだ。
 ベテランの山口君だけど、インフルエンザで急に入院しちゃうし」
「ちょっと、待って・・・・・・・そうですか?。それでは・・・・お引き受けしまなければいけませんよね」
さくらは、もう部長が言い出したら覆すことは出来ないことを知っていた。
それに、変なところに部長はいつもあたしを高く評価してくれているしと思った。
あたしのように入社一〇年選手になると結構会社に忠節なのよねと思いながら部長の返事を待っていた。
「行ってくれるかね。大井田君、いやあ、君のためにも、ツアコン経験してほしいんだ、出発はまだ10日間あるから準備して」
さくらは軽くお辞儀をして自分の席に戻った。
由佳里が
「さくらさん、おめでとうございます。いよいよあねごの出番ですね」
さくらになにかというと突っかかってくる大下が苦手だったが、あたしが一番古株だし仕方がないよと心の中で思いながら軽く受け流した。
「って云うか、遅い・・・出番だよね」
「わたし、大井田さんのこと尊敬しています」
と言った。
さくらの向かい側に座っていた大下が
「アネゴもいよいよツア・コンの洗礼か」
「大下君、人ごとのように行ってるけど、あんただって、いずれ」
「僕、アネゴを応援します。大丈夫です。アネゴはなんかあっても驚かないし」
「それって、ほめてるの、けなしてるの」
大きな声に仕事をしている皆がさくらのほうを振り向いた。思わず身を少し乗り出して顔は大下のパソコンを覗き込んでいた。
さくらは午後の会議に使う全国海外ツアー集客状況をパソコンでまとめていた。
入社10年海外旅客部全員からさくらは嘱望されていた。入社10年という長いキャリアからいつのまにか海外旅行の生き字引とさえ言われ部長の持田までもがさくらを頼りきっていた。
壁の時計は12時をとっくに過ぎていたのにさくらはエクセルで集計の計算を行っている。
「さくら、もう昼休みよ、社食いこうよ」
由香里がさくらの肩に手を置いて誘った。
「あっ、そっかそっか行こうか」
すでに海外旅客部は皆外に出ていた。自分は正午も気づかずに仕事をするなんて、明らかに最近の若い子たちと違っていた。由香里に声をかけられなければ、まだEXCELLの仕事をしているところだった。EXCELLの集計をファイルに保存してパソコンのスイッチを切った。
「あのねええ、由香里教えてほしいの」
「私でよければいつでも」
「じゃ、外のレストラン行こうよ、あたしおごるから」
さくらと由香里はエレベーターで1階ホールに下りて外のまぶしい光の中に吸い込まれて行った。
さくらと由香里はレストランの窓際に座った。
「部長から是非って言われて引き受けたけど・・・・・ああ困ったなあ。」
「困ることないよ。気を楽にしてやれば・・・・・どうって言うことないよ」
「あたし、ずっと前にヨーロッパのツアーの新しいパックの企画で、それも部長とか課長のお供で行っただけよ」
「大丈夫よ、さくらさん頭いいし、お客のクレームも機転利かせるし」
「いやだあ、あたしがカキフライ定食おごったからと言ってお世辞使わないでもいいよ」
「由佳里、で世界中お客様連れて・・・・・・・何回」
「う~んと百回位かなあ」
「どうっていうことないよ、さくらさん頭いいし、経験長いし」

翌日のことさくらが出勤すると、部内にさくらがはじめてツアーコンダクターとして外国に出かけることが知れ渡っていた。
「ああ、大井田君」
と部長に呼ばれた。さくらはまた何か部長の提案があるのではないかと心配しながら部長席に行った。
「はい、大井田 さくらです」
「実はね、さくら君が乗るアメリカン・ウエスト航空だけど、乗務員労働組合と会社側の交渉がうまくいかなくて、ストライキに入る公算大だそうだ」
「はっ、ストライキ、じゃ、あたしのツアコンもないんですね」
「いや、万一ストでも非組合員で運行するそうだ」
「わかりました」
といって席に戻りパソコンのスイッチを入れて頬ずえをつきながら
「こんなのあり」
ツアーのスケジュール表を眺め、ためいきをついた。

.翌日さくらは、4階の帝国観光旅行社 海外旅行部のドアを開けた。
「おはようございます」
「おはよう」
「さくらさん、おはようございます」
「ああ、おはよう、大下君」
「アネゴ、いよいよ明後日ですね、アメリカ・ツアコン?」
「いろいろ準備で忙しいだろうから大井田君、成田前日泊まっていいよ」
「ありがとうございます。ところでアメリカン・ウエストのストってあるんですか」
部長は机の上のファックスを眺めながら
「うちに入った情報では明日午前零時からスト突入だそうだ」
「はっ。スト・・・・・やっぱり」
初めて10年ぶりに仕事でしかもツアーコンダクターとして海外に出かける緊張感で大変なのに、しかも出発から搭乗する航空会社がストライキなんて、ああ私はついてないようと思った。
大下がまた意地悪をするなあ、あいつはいつも私に平気で言ってくるよ、そう思っていると、
「さくらさん、ストライキって、アネゴついてるよ」
「ストって、アネゴは」
「何なの、大下君」
「アネゴは嵐を呼ぶ女っていうわけ」
「大井田君、あたしが嵐を呼ぶってどういうことなの」
「さくらさん、明日は午後から天気が崩れて春の嵐が来るって天気予報言ってましたよ。それにあいにく飛行機はストでしょう?だからアネゴは嵐を呼ぶというわけ」
「あなた、もういい加減にしなさいよ」
さくらは向かい側のデスクの大下に少し身を乗り出してにらみつけた。
「大井田君、安心して、あの航空会社は今までもストやったけど、飛行機は飛んだということもあるし、安心した方が」
「ああ、安心してっていっても、なにもあたしがはじめてと言うのにストやらなくても」
その晩さくらは、一家で夕食を囲みながら、しかしこの日は、さくらは落ち着かなかった、気持ちもそわそわしていたし、まして自分がこれから搭乗するアメリカンウエストラインの002便を心配していたのだった。
「ねえ、ママ、明日の海外ツアコンだけど、あたしこれから成田に入ってホテルに泊まろうと思うの」
「さくら、出発はたしか夕方だろう、だったら今夜はゆっくりと家で泊まって、朝田午後からでもいいじゃないか」
「ありがとうパパ、でももしかして電車でも故障したら、あたし一人だし、それに35人のお客様連れて行かなきゃいけないし」
さくらは父と母に言った。
「さくらがそう言うんだったら仕方がないな、パパはお前がいないと十日間も顔見られないなんて」
側で弟が、
「なんて言うか、俺がどっか行っても父さん平気だし、アネキがたまに海外行くと子離れって言うか、アネキ離れが悪いよ、親父は」
「皆、ありがとう、私、頑張ってきます」
さくらは、そういって衣装ケースから会社の制服に着替えて、玄関においてあったカートを引いて成田に向かった。
京王線で新宿に着いたときはあたりは真っ暗く夜の帳が下りていたが、変わってビルの灯が彼女に降り注ぐように照らしていた。
上野からは、京成スカイライナーで成田国際空港に向かった。
夕方から深夜にかけてはアメリカ・ヨーロッパ線の長距離路線のラッシュアワーが始まるのだった。
スカイライナーは全席満席だったが運のいいことにさくらは入り口付近の座席が空いていたのだった。
いよいよ自分が明日35人のツアー客を連れて10日間の海外旅行を添乗すると思うと改めて身の引き締まる思いがした。

「ええ、でも、あたし、まだお客様を連れて・・・・・っていうか
 お客様大勢いたらあがって、小心者なんです」
「回数には関係ないよ、要は、やる気さへあれば」
さくらは思い出していた。

成田国際空港の傍のオリエンタル成田空港ホテルに入った。
「いらっしゃいませ」
「帝国観光商事の私、大井田さくらですが」
さくらは、少し緊張して自分の名前をいうと、
「ご予約承っておりますが、持田敦夫さまから」
早手回しに持田部長はホテルの予約を頼んで暮れてたのだった。


ホテルについてシャワーを浴びてバスローブに着替えて、備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲みながら旅行のスケジュール表を眺めた。
「ええと、第一日はサンフランシスコ市内観光で・・・・・ロスアンゼルスからニューヨーク市内・・・・ナイアガラ行って・・・・・九日目にハワイ・ホノルルかあ」
さくらは見終わった後、テレビも消して明日に備えて充分睡眠をしようと思った。
電気を消してベッドに横たわったものの容易に眠れなかった。
「ああ、寝れないよ」
「ああ、まだ一時かあ」

翌日、さくらは成田国際空港第二空港国際線ロビー構内のTV天気予報を見ていた。何よりも大下が言ったアネゴは嵐を呼ぶ男といわれたことが気になっていた。
国際線空港ロビーから見える晴れ渡った空を見て安心していたが、天気予報を見てこれからの天気を非常に気にしていたのだった。
「今日ははじめは晴れですが次第に雲に覆われて低気圧前線の関係で風速が強くなり、陸上で15メートル以上、海上では25メートル近い春の嵐が・・・・・」
見ながらさくらは、大下の言うことがいまさらのようによみがえる。
「えっ、大下の云うこと本当じゃない、大変だょ」
「まだ、早いよ、出発5時までまだ5時間あるよ」
腕時計を見つめながら少し早すぎたかなと考えた。
さくらはとても用心深く、高校時代も友達と旅行するときもいつも予定より30分も早くついて皆を待っていたので、深見洋介から「用心さん」とニックネームをつけられた。後ろから
「さくらさん、」
由佳里が大下を連れてきていた。さくらは振り向いて
「ああ、由佳里さんに、大下君どうしたの?。駄目じゃないの仕事しなくちゃ大下君、二人ともどうしたの」
思わず言った。
由香里は、
「部長から大井田君、初めてだからちょっと大下君連れて行って励ましてやってくれって」
それを聞いてやっぱり部長は、あたしがしかも30歳を越えてアメリカ10日間ツアーに行くことを心配してくれてるんだ。
「ありがとね。二人とも」
大下が
「アネゴ、飛行機飛ぶんですか?」
「まあ、飛ぶんじゃない」
ここでいまさら心配しても仕方がない。この航空会社は今までもストライキをやってきてると部長もいってることだし、ここであせっても落ち着いていないととさくらは思いなおしていた。
由香里が
「心配だったの、で、ホテル電話したら。居なくて」
「ありがとう、やはり後輩だわ」
「ツアコンやってると何が起きるかわかんないの、突然、予想しないことが起きて」
もう百回もツアー添乗をしている由香里の言葉は真実だった。
さくらは、はじめて部長からの命令で、しかも三十路を越えた私がいくのにいきなり予想もしない出来事に遭遇し、
「突然っていうか、あのさ行く前から、飛行機ストライキなのよ、でも飛ぶらしいけど、あんまりだよ。こんなのないよ」
と飛行機のストライキに、さらに天候異変で春の嵐まで吹くなんてと思わず口にした。
「そういうときこそ落ち着くの」
由香里は、さくらに助け舟を出そうとしていた。
「落ち着くって」
「あのね、うちの祖母が言ってたけど、手のひらに人っていう字を書いてそれを飲み込むの」
「ええと、こうやって」
と言って飲み込む
「どう、落ち着いた」
「う~んん、落ち着かないよ、ああお客様に説明してわかってくれるかなあ、ツアー料金返せって・・・・・・ああ困った」
自分で、さくら、そんなことでどうするの、やるっきゃないでしょう、頑張れさくら、暗示をかけるように頭の中で何度もことばを繰り返して見た。
「とにかく飛行機飛ぶって云ってるんだから、安心してくださいって何回も云うのよ」
「わかった」
「あと、時として、はじめてのお客様に多いんだけど、緊張してしまって具合が悪くなる方が」
「そういう時、緊張して酸素欠乏症になるの、ええと・・・・・・・・。」
「過呼吸酸素症候群でしょう?」
「、ああ、そうそうそのそれ、それ、でも必ずお医者様いらっしゃいませんかとアナウンスしてね。でビニール袋をお客様の口にあてて息を吐き出させるの。そうするとよくなることもあるの」
「うん」
くららのベテランツアコンの話を聞いていた大下が、くららの顔をしみじみと眺めながら、
「さすがですね、ベテランは、僕初添乗するときは由佳里さんについていこうかなあ」
「何言ってんの、大下君。二人って言うわけ行かないの」
「どうしてですか?」
「あのねえ、団体の海外ツアー添乗員は全部の費用から差し引いて一人分の費用が浮くの、二人行くと赤字なの」
「そんなに厳しいんだ」
「さくら、あと、両替はなるべくこっちで、アメリカって時間によっては開いていないし、フイルムもこっちが安いし、それからツアーの時間厳守はうるさく言って」
「日本人って時間ルーズな人がいるよね」
「バスで移動するとき、時間守らなくて遅い人いるじゃない?。皆も迷惑そうな顔するけど、ドライバーが大切な時間を返せって怒り出すの、気をつけてね」
「ありがとう」
「あと、ニューヨークからナイアガラ行くでしょう?。ホテルにパスポート忘れてしまう人がいるのよねえ」
「なるほど」
「ナイアガラ滝って対岸のカナダ滝がスケールが大きいじゃない。忘れるとカナダ領に絶対入れないの」
「そうだよね」
「そうするとお客様がなぜ教えてくれないんだって、自分が忘れているのにツアコンが悪いと怒り出すの、だから・・・・」
「由佳里、いろいろありがとね。大下君も留守中しっかり頼むわ」

さくらは、帝国観光旅行社の小さな旗を持って
「こんにちは、私は帝国観光旅行株式会社、エンパイア・ツアーの皆様をお世話します添乗員の大井田さくらと申します。これから搭乗券をお渡しいたします。」
と言って皆に搭乗券を配った。
「よろしいですか?搭乗券はパスポートと一緒にお持ちになってください。
では、次に出国手続きについ・・・・・」
さえぎるように、団体客から
「大井田さん、あなたは手続きって言っておられるが、あそこのカウンターにはただいま、48時間スト決行中と書いてあるじゃないか。」
「そうよ、私ははじめての海外旅行で楽しみにしていたのに・・・・
何なんですか、これは?」
「そうだ、そうだ」
「さくらさん、もし飛行機飛ばなかったら、旅行費用全額返してくださいよ」
「帝国観光旅行社さんならって信頼したんだけど」
「二日前に会社からは連絡あったんだけど・・大丈夫と思ってきたら。」
さくらは、ツアー客の異様な雰囲気を感じていた。でもこちらが落ち着かなければねえ、
「皆、皆様、あのおっしゃられることはよ~くわかりますが、どうぞ私の言うことをよくお聞きください。お願いします。」
「いくら、お願いしますって言われても」
「航空会社のカウンターにはスト決行中の表示がありますが、組合員以外の非組合員で運行するとの返事を得ていますので、どうかご安心ください」
「非組合員っておっしゃるが、部長とか課長が飛行機飛ばすんですか?」
さくらは、ツアー客の中年の紳士の思いがけない質問に戸惑うが、
「これは、アメリカの航空会社の組織になるので日本と事情が違うようなので、まあ、組合に加入していない非組合員が運行するという返事を得ておりますのでその点はどうぞご安心ください」
と言いながら
「あの、皆様アメリカン・ウエストのカウンターで出発時間の確認に行って参ります。」

カウンターで話しているさくらと航空会社係
さくら小走りで皆の居る場所へ帰る。
「皆様予定通りの時間に出発出来ることが確認されました。ストは行っておりますが非組合員で運行いたします」
「大井田さん、ああほっとしました、なにここにいる女房がもし中止だったら私は殺されるよ。」
「さくらさん、私はやっぱり帝国観光社さんに申し込んでよかったよ」
「さくらさんはたいした人だ、あそこにスト決行中と書いてあるのに飛行機飛ばさせるんだから」
(何いってんのよ、さっきまで皆あたしを責めまくって、これってあたしへのごますりっていうわけ)
と心の中で思いながら、
「皆様、本当にご心配、ご迷惑をおかけしました。それでは出国手続きのため向こうのゲートに参ります」

                                (続)

著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。この小説の文章の転用・引用は禁止します

鉄道小説「山手線」(未完)

2006-06-08 22:48:00 | 鉄道小説
東京の大動脈、一周45分の環状線「山手線」始発電車から終電車まで朝・昼・夜いろいろな人が利用している。そこに色々な人間模様が見えてくる。「山手線」は、運転士の歓呼・車掌・女性テープの案内・駅の案内などを忠実で究極の真面目な鉄道を再現させたい。一方それとは対照的に朝・昼・夜と時間でどんどん変化していく自由な乗客の回顧・独り言・複数以上の会話、それは断片的なものであるかも知れないがともかく「山手線」は今日も色々な人々を乗せて走る。
ここに出てくる山手線は実在しますが物語はドキュメントであり登場人物は実在しません。


冬の明け方、吐く息が白いそんな寒さを運転士の田崎祐司は大崎電車区のまだ眠りについている電車に今日の乗務をするためE231-090の点検に掛かった。
「皆E231に変わったなあ、僕がかわいがっていた205ー340は元気に働いているだろうか」
田崎が15年も運転していた205系も取り替え時期が来てかなりの車輌が仙石線に配属換えされたのだった。E231系は205系の次世代電車と云われているが山手線に配属されてまだ3年目だった。
低い声でつぶやきながら電車の足回り下を覗いた。1輌ずつ見回りながら11輌最終車輌にきたとき車掌の森下光男にあった。

「おっご苦労さま」
「田崎先輩よろしくお願いします」
「こちらこそ、今朝はやけに寒いが頑張っていこう」
田崎は最近白髪が目立つ髪の毛を気にしながら帽子を脱いでかぶり直し、あご紐をきりりとしめた。森下が乗務員室のドアの取っ手に手を掛けて鍵を回して戸を開けて田崎もそれに続いた。

森下がパンタグラフのスイッチを押してあげるとモーター音周りだし室内灯が点灯し張り詰めたような冷たい空気が流れる車内を歩いて11両目を歩き先頭車車輌E231ー030に戻り、乗務員室のドアを鍵で開けて運転士室に入った。
これから眠っている車輌に息を吹き込んで電車を走らせると思うと一瞬緊張するのだった。マスコンのスイッチを入れブレーキ、加速・減速がスムースに動くかをテストした。圧力計に次いでパンタグラフの昇降テストのあと、さらにATC作動テストと相次いで行った。

一方、車掌の森下は最後部車E231ー053の乗務員室の鍵を開けて車内に入り、ドア開閉のテストを行った。次いで案内放送のテープのスイッチを入れた。女性の声で「次は池袋です。埼京線・湘南新宿ライン・西武線、東武線、東京メトロ丸の内腺・有楽町線はお乗り換え・・・・・」
森下はスイッチを切った。
「大崎なのになぜ池袋」
そう思いながら駅名案内を品川になるように調節した。
すでに大崎駅では始発電車に備えて通り抜けの通路のシャッターを開けて、切符の自動販売機も作動するようにスイッチを入れられていた。

駅のホームでは、
「おはようございます、本日もJRをご利用くださいましてありがとうございます。間もなく始発電内周り、品川・新橋・東京・秋葉原・上野方面行きが2番線に入って参ります。危ないですから黄色い線までお下がりください」
時計は4時20分を過ぎていた。さすがにまだ電車を利用する乗客は少なく肩にかごを掛けた築地市場のせりに出かけるジャンパー姿の仲買人、職人が目立った。

その中にすし善の矢田純蔵もいた。始発電車はライトをつけてしずしずと大崎車輌区側から2番線に入線してきた。
「大崎、大崎です。2番線の電車は始発電車、4時29分発品川・新橋・東京・秋葉原・上野方面行きです」、
乗客が電車に乗り込んだ。冬の車内は暖房が入れられたとはいえ寒々としていた。矢田も座席に腰掛けたものの座席の下のパネルヒーターに足を寄せて暖を取ろうとしていた。

「おはようございます。本日もJR山手線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車は外周り品川・新橋・東京・秋葉原・上野方面です。なお運転士は大崎車輌区の田崎祐司・車掌は森下光男です」
とテープを使わないで乗客に放送した。ミュージックサイレンが鳴り、駅のホームの女性の案内放送が
「2番線のドアが閉まります」
と優しい声で案内した。
田崎は前方をじっと見つめていた。まだ、闇に包まれて3灯式信号機の表示が赤から注意、そして緑に変わった。
「大崎定発」
「信号よーし」
「出発進行」
「場内制限15」

電車は構内を過ぎると
「制限解除、速度60」
田崎は次々と喚呼してコントロールレバーをゆっくり手前に引いた。電車は早くなりVVVS方式の独特の音をさせながら走行した。そうそう、これも放送しなければ、車掌の森下はマイクを握ったまま
「お客様にお願いします。車内でのケータイ電話のご使用は優先席近くでは電源を切ってご使用はご遠慮ください。なおそのほかの車内でのご使用はマナーモードでご使用くださいますよう、みなさまのご協力お願いいたします」
森下はそう言い終えるとマイクのスイッチを切った

座席に腰掛けて居るすし職人は昨日のことを想いだして居た。というのは息子の大輝が勤めて居た会社を辞めて家業の寿司屋を継ぐというのだった。矢田は息子が自分の店のあとを継ぐと云ったことを喜んで居たのだった。中学を出て直ぐに寿司やに奉公して辛い寿司職人の修行をして35歳の時やっと独立してお客にも恵まれて寿司屋のほかに海鮮料理レストランを別に持って居た。

最初は息子の云うことを信じて居た。息子にしっかりした寿司職人になってほしっかったし、あとを継ぐと云うからには自分がさんざん苦労して覚えた技を息子大輝には苦労しないで覚えてほしいと大変な力の入れようだった。寿司のネタは築地市場に朝早く起きて出かけて誰よりも新鮮な材料を仕込んでくるのが一番大切だと考えていた。それで息子の真一を最初の朝に起こして築地の市場に連れて行った。

「真一、今から一緒に寿司ネタ仕入れに築地にいくからおまえも起きてついて来い」
と寝ている真一に声を掛けた。真一は、
「お父さん、今何時」
と云いながら隅の時計を見た。
「わっ、俺堪忍してよ、せっかく爆睡してんのに」
「何をいってんだ、真一今日から寿司やになるんだろう、さあ起きて起きて」
「わかったよ、起きるよ」
真一は不承不承起きて顔を洗い、歯を磨きブルゾンを羽織って父について行った。しかし、それ一回だった。母の桃子は、
「真一が会社を辞めてまで跡を継ぐと行っただけでも、なかなかお父さんの職を継ぐなんて云う子はいないよ、あまり厳しくすると真一が逃げるわよ」
と同情して云うのだった。
「まあ、しょうがないか」
矢田はそれ以上何も言わず寿司ネタの仕入れはしばらく一人ですることにした。

「次は品川です、東海道線・総武横須賀線・京浜東北線に京浜急行線それぞれ次の品川でお乗り換えです・・・Soon will be maked berief stoped Shinagawa toukaidou Line・・・・」田崎は
「制限60」
「制限50」
「品川停車」
そういってマスコンレバーを手前に少しずつ戻した。
電車は緩やかにスピードを落とし品川駅1番線ホームに滑り込んだ。

品川駅では今日一番の始発電車に乗り込もうとしていた人たちが待機していた。
島本秀夫もその一人だった。島本は昨日、遠藤部長が札幌支店長に転勤するために開発二課全員が出席して送別会をホテルで行ったあと、同僚4人と酒場で飲んで、つい山手線の最終電車に乗り遅れたのだった。やむを得ず駅前のビジネスホテルに宿泊し、そのまま会社に行こうと思ったのだが、いったん巣鴨の自分の家に帰って朝食たべてきちんと身支度をそろえて丸の内の会社に出勤しようと考えを変えた。妻にもケータイで
「今夜は遠藤部長の栄転の送別会があって、多分遅くなるから先に寝ていて、じゃあ」
とホテルの会場で話して以来交信しなかった。身を突き刺すような張り詰めた空気で遠藤は酔いが醒めて
「家ではさぞ心配してるだろうな」
と云った。時計を見ると4時25分だった。遠藤は鞄の中からケーターを取りだして電源を入れて局番を入れたが
「まだ、4時30分過ぎだし反って寝てる妻を早朝から起こしては逆効果だ」
そう考えながらケータイを元の鞄にしまった。電車は始発電車なのでほかのJRや私鉄の京浜急行の連絡待ちのせいか品川駅に止まっていた。そのとき地下の階段から人の塊が車内になだれ込んできた。田崎はじっと前方を見つめていた。前方彼方に一筋の光が見えたと思ったらヘッドライトを二基つけたE231の内回り電車だった。

「お待たせしました。1番線のドアが閉まります、次は田町です」
女性の駅アナウンスに促されるように
「品川4分延発」
「制限30」
「出発進行」
マスコンのレバーを手前に引くと再び電車が動き始めた。制限速度30キロを維持しながら構内を離れると
「制限解除」
「速度90」
田崎は思いきってマスコンの位置を5まで引いた。時速90キロ、山手線内で唯一の高速運転が出来る区間だった。

右側には広い品川車輌区があって、113系に変わって東海道線のE231系をはじめ 211系、ダブルデッカー車のE215系をはじめ遠くには九州・山陰の寝台特急がまだ構内の照明灯に照らされて眠りについていた。
品川から田町までのこの区間は山手線でも約2キロ以上の最長距離区間であるが京浜東北・山手・東海道腺に新幹線と列車が頻繁に走ってくるめまぐるしい区間ではあるがまだ午前5時前ではほとんどその列車の姿も見えなかった。
「あのラッシュアワーのすさまじさが嘘のように静かだ」
田崎はそう思った。

「間もなく田町です。都営三田線・浅草線・都営大江戸線、はお乗り換えです。この電車は次は浜松町に止まります」
5両目に乗っていた経営コンサルタントの石塚健一郎は、眠い目をこすりながら「次は浜松町だなあ、北海道の札幌日帰り出張はきついよな」
書類を鞄から出してページをめくりながら、
「何とかしてこの案で了解してもらわないと」
低い声でつぶやいた。彼は同僚の増本と空港で逢って、羽田発6時全日空102便札幌経由で千歳空港に向かうことになっていた。

「田町停車」
田崎はマスコンレバーを停車にブレーキを掛けながら徐々に減速させて停車位置に寸分の狂いもなく停車させた。
「田町です。ご乗車ありがとうございます」
「2番線の電車のドアが閉まります」
電車のドアが閉まると田崎は
「田町3分延発」
「制限60」
と歓呼してマスコンを手前に引いて電車は次第にスピードを増した。
「間もなく浜松町です。東京モノレール、羽田空港方面は次の浜松町でお乗り換えです」
「浜松町です。ご乗車ありがとうございます」
そのアナウンスを聞いてコンサルタントの石塚は鞄を右手に持ってドアが開くのを待ってホームの外に出て行った。田崎は運転表の時刻と実際の時間を時計を見ながら
「やれやれまだ2分延発か、遅れを戻すのは大変なんだよな」
低い声で言った。

「浜松町2分延発」
「出発進行」
「制限60」
「信号よ~し」
指査喚呼を行いながら電車は新橋に向かって走行した。
「間もなく新橋です。東京メトロ銀座線、都営地下鉄線、ゆりかもめ線においでの方はお乗り換えです。新橋の次は有楽町です・・・・・」 
新橋汐留口の高層ビルもまだ眠りについていた。

「おっと、新橋か」
座席で居眠りしていた寿司職人の矢田は眠そうな目をこすりながら、その放送に促されて「今日はいい寿司ねたが手に入るぞう」と心の中で思いながら立ち上がってドアの開くのを待ってホームに降りた。
「新橋です。ご乗車ありがとうございます」

さすがに新橋で降りる人は多かった。今まで車内のあちらこちらにぽつんと腰掛けて居た人が新たに乗ってきた人で座席がつながって人がこしかけるようになった
左の窓から見る霞ヶ関までのビルも暗く、ただ街路灯と自動車のテールライトだけが延々と続いていた。
「1番線のドアが閉まります。次は有楽町に止まります」
ドアがプッシュと言って閉まった。
ピンポン・ピンポン・ピンポンと3点のチャイムが鳴ると
田崎は
「新橋2分延発」
「出発進行」
「制限60」
マスコンを手前に引くとたちまち60キロになったが前方に有楽町駅がもう見えてき
た。

わずか1,1キロの区間なのでマスコンを元の位置に戻し直ぐにブレーキを掛けて減速していくらかカーブした有楽町駅に入らねばならずベテラン運転手でも難しいといえる区間なのだ。
山手線は全32駅ありどこの区間も駅間距離が短く、一駅平均1,08キロと中央線31駅平均1,8キロ、総武線21駅、2,8キロに比べても短かった。
「有楽町ご乗車ありがとうございました」
田崎はマスコンをニュートラルの位置に戻し外を眺めた。

かってのデートの場所であり、有楽町で会いましょうといった有楽町広場は大きな変貌を遂げたなと思った。
そごう百貨店が撤退し、そのあとに大型家電店が進出していた。
ここから丸の内に掛けてはオフィスビルが同じ高さで立っていたが再開発と土地の有効活用で最近は一部高層ビルに模様換えしようとしていた。
ドアが閉まり、田崎がマスコンを手前に引くと電車は加速しすぐに東京駅に到着するのだった。

東京駅ではそこでは、昨日東海道新幹線の関ヶ原付近で吹雪となり、相次いで列車が立ち往生し最終新大阪発ひかり号が夜中の12時30分頃到着し、列車ホテルに泊まった乗客が今日最初の始発電車に乗り込もうとする人が多かった。
時計は4時44分を指していてまだ闇のとばりに包まれていたが209系の京浜東北線が右側のホームに滑り込んできた。
「間もなく4番線に山手外回り、秋葉原・上野・田端・池袋方面 行きが到着します。危険ですから黄色い線までお下がりください」

中央線・京浜東北線・山手線・東海道線・東海道・東北・新潟・長野新幹線に地下には総武・横須賀線・300メートル離れて京葉線、さらに東京メトロ丸ノ内線と日本一過密な東京駅は1日105万人以上の利用客を擁していたがまだ冬の朝は遅く夜があけるためか静寂さを守っていた。
しかし、そろそろ九州からの寝台特急が到着する頃で今日も東京駅はまた活気を取り戻そうとしていた。

田崎の運転する電車が到着し、ドアが開くと
「昨日は東海道新幹線が雪のために大幅に遅れてご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます」
と特別に放送していた。
京都の岸谷涼子もその一人だった。
涼子は高校時代の友人が結婚するので久しぶりに実家に帰り、友達の結婚式に出たのだが、その帰徒、例の大雪で新幹線に閉じこめられ朝帰りになってしまったのだった。
涼子の東京の家は池袋からさらに30分の大泉学園にあった。
「主人と子供はどうしているかしら、あの人は無きっちょうだからご飯たべたかしら」
と心配だった。

考えたあげくバッグから赤いケータイを取り出してなにはともあれと電源を押したが充電が切れていた。
「あたしってどうしてこうどじなんだ、もう」
低い声でつぶやいた。
電車は神田を過ぎ・秋葉原に止まった。
「秋葉原です、京浜東北線、総武線・つくば鉄道線・地下鉄日比谷線ご利用の方は当駅でお乗り換えです。」
田崎は運転席から秋葉原の街を眺めた。
「ここも変わったなあ、」

戦後ラジオの部品屋として発足した通称ジャンク街がTV・AVの発展と共に世界でも珍しい総合電気街に発展したのだった。
「3番線のドアが閉まります、次は御徒町に止まります」
ドアが閉まると田崎は
「御徒町延発2分」
「出発進行」
ここまできても品川駅延発はまだ取り返せなかった。

田崎は
「2分の延発、仕方がないよなあ」
と思った。
御徒町を過ぎて上野に到着した。
「上野です。東北線・常磐線・東北・上越・長野新幹線は当駅でお乗り換えです。
3番線の電車は当駅で時間調整のためにしばらく停車いたします」
上野駅から乗ってくる客は少なかった。
かって上野駅は田舎から上京してくる人の出世駅と云われていた。
急行「津軽」「十和田」など、東京への集団就職といわれた夜行列車は新幹線開業と共に消えてしまい、夜行列車はわずか北陸からの特急「北陸」だけという寂しさになってしまった。田崎はそんなことを考えていた.
上野駅の発車のサインはミュージックサイレンでなく、昔風のベルだった。かって国鉄時代は発車ベルだったが、山手線内はベルはなく、今では東京駅の東海道線の普通電車7,8番ホームと快速、遠距離電車特急寝台特急が発着する9番、10番線のベルを除いてほかの駅はソフトな特徴を持ったミュージックサイレンだった。

「お待たせしました。2番線のドアが閉まります」
ホームの頭上から女性の案内テープが流れてドアが閉まった。
田崎はマスコンレバーを強く引いた。
「速度60」
京浜東北線・山手線・高崎・東北線・常磐線と幾重にもレールが走っていて暗闇の中からヘッドライトを点けた電車が不意に近づいてきて賑やかになった。
電車は鶯谷・日暮里・西日暮里を過ぎて田端に着いた。
「2番線のドアが閉まります」
「田端2分延発」
田崎は喚呼しながら2分の遅れがまだ回復していないことにストレスを感じていた。

「池袋までなんとかしないとなあ」
低い声でつぶやきながら
「信号よおし」
「速度60」
田端から左にカーブすると下り坂になっていてすぐに駒込駅が見えてきた。
「駒込停車」
田崎は、停止位置にブレーキレバーを引いて電車を止めた。
数人の乗り降りがあり、辺りはようやく闇の帳から空が白みかけてきた。
電車は鶯谷・日暮里・西日暮里を過ぎて田端に着いた。「2番線のドアが閉まります」「田端2分延発」田崎は歓呼しながら2分の遅れがまだ回復していないことにストレスを感じていた。「池袋までなんとかしないとなあ」低い声でつぶやきながら「信号よおし」「速度60」田端から左にカーブすると下り坂になっていてすぐに駒込駅が見えてきた。 「駒込停車」
田崎は、停止位置にブレーキレバーを引いて電車を止めた。数人の乗り降りがあり、辺りはようやく闇の帳から空が白みかけてきた。対向の内回り電車も少しずつすれ違いが増えて来た。数人の乗り降りがあり、辺りはようやく闇の帳から空が白みかけてきた。

東京から乗った岸谷涼子は昨日の新幹線の大幅遅延で列車ホテルに変貌した車内でよく寝れなかったのか、可愛い寝息を立てて熟睡していたが、「次は、池袋です。埼京線、湘南新宿ライン、西武線・・・・・という車内の案内で目を覚まして、「いけない、乗り過ごすと主人に・・」と低くつぶやき、座席を立って眠そうな目をこすってあくびをしてドアに立つ。

「池袋、池袋ご乗車ありがとうございます、埼京線・湘南新宿ライン・西武線・東武東上線・地下鉄丸の内線・半蔵門線はお乗換えです。ご乗車ありがとうございました。岸谷涼子は、コートの襟を立てての左手の黒い手袋で赤いバッグを抱えるようにして「早く家に帰らないと」とつぶやくようにして西武線のホームに向かって階段を早足で下りて行った。

池袋駅は1日乗降客約160万人という新宿駅と肩を並べるマンモス駅なのだが、今は各ホームに明かりが点いて電車がホームに止まっていた。
2時間後には喧騒と悲鳴の起きることは想像もできない。
                                (未完)

著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。この小説の文章の転用・引用は禁止します

長編小説「愛は時を越えて」第二章・第三章・第四章

2006-05-21 21:48:04 | 小説
第二章 ギャレーの仲間たち


ギャレーに七人のキャビン・アテンダントは集まって、亜理紗はてきぱきと指示した。
「いいこと、キャビンアテンダントって看護師とか保安員とか、またある時には主婦とかやさしい恋人とかその場の判断で臨機応変に果たさなければならないの」
今回は新人二人のトレーニングもしなければならずやさしく説明した。

「それ国内線のときに聞きました」
葉月が冷たい反応を見せる。
「このことはむづかしいのよね、つまりお客様の要望って世界各国によって習慣、生活が多種多様だし」
「あたしたち国際線の時にも聞きました」
いずみも同じような態度なのだ。

「香織と優子はお客様のチェックをして呉れる?特に酔っ払ってる方とか具合の悪い方がいないか注意してね」
二人は微笑んで指で〇を作りオーケーと答えた。
「それと不審な動きをする人がいるかも注意して。気をつけて、それとなく見張って」
香織が、
「任せて先輩、あたしたち例えゴキブリ1匹でも逃がしはしません。」
ギャレーに居た皆が笑いに包まれる。
「ゴキブリは、機内にはいないけど、その心構えでやって」

亜理紗は二人を送り出した。彼女は、免税品のカートを目の前にして、
「伊藤さん、後藤さん。今日はどちらも満席なの、それで・・・」
亜理紗は全部説明するのでなく仕事がわかってもらうようにいつも質問して新人の意識を高めるようにしていた。いずみが口を開いた。
「それでお客様のお買い物の際に、ドルだけでなく、ソビエトだとルーブル、ドイツだとマルク、中国だと元とか・・」
葉月がすかさず
「貨幣のレートに気をつけろといってるみたいな」
「ピンポン」
亜理紗の声で二人は笑った。

自分に比べて十五期生と言ったことを思い出して、急に歳をとったと思った。何やってんの、ここでひるむなんて
「言って置きますが、お金の換算にはくれぐれも気をつけてね。大変でしょうが」
ここは先輩らしさを見せなければと思った。
葉月が
「あのお、亜理紗先輩、私たち、キャビンアテンダントになってまだ直ぐだし、どうしてですか?、私たちにそんな難しいことを」
いずみも
「あたしもそう思います。なぜですか、貨幣レートの換算の・・・・もし間違えたら先輩責任取ってくれますか?」
(出た、やっぱり、どうしてですか、なぜですかが)

亜理紗は、
「あのねえ、言って置きますが、どんなことでも最初は難しいと思うの・・そんな・そんなこと言ってたらいつまでも仕事っておぼえられないわ」
いずみが
「わ、わかりました。先輩が責任持つならやってみます」
と、この場はもう逃れることができないと思ったようだ。亜理紗は新人の教育は厳しく叱るときには徹底的に叱ったが反面、和やかな親しみの雰囲気を醸し出すことは誰よりも優れていた。この二人問題意識があるようだし任せようと思った。機内では、キャビンアテンダントたちがいつも客席を廻って乗客の細かな要望に対処していた。

裕彦は、側を通りかかったキャビンアテンダントに
「あの、ニューヨークタイムスありますか」
「お客様今直ぐお持ちしますので」
今度の出張はニューヨークなのでなによりも現地の情報を知っておきたいと思った。英語は際立ってできるほどではなかったが、父が熱心に学生時代教えてくれたので何とか新聞を読んで大筋を理解できるのだった。現地での会話も頑張ってやってきたのだった。

「お客さまおしぼりでございます」
キャビンアテンダントが熱いお絞りを一人ひとりに配って廻る。
亜理紗は皆に仕事を与えた後、ギャレーで 一息ついていた。乗客の様子を巡回していた香織と優子がギャレーに帰ってきた。香織が
「亜理紗助けて」
「はっ、助けてってなに」
「お客様20Dのお子さんが機嫌が悪くて泣いていてお母さんがなだめてるんですが困っておられるようなので」
「それで私がその子を泣き止ませるって言うわけ」

香織は、困った顔をして、
「私たち、お子さんなだめたのですが泣きやまず、亜理紗先輩なら不可能なことはありません」
「香織が私を信頼してくれるのはうれしいわ、だけど無理なことも」
「いいえ、先輩はこれまでもお客様の難問を解決されてきましたし」
「わかった、じゃ行って来る」
亜理紗は、部下や上司に頼まれると決していやとはいえなかった。隅の引き出しから折り紙を取り出してギャレーを出て行った。

20の通路側の母親が
「何を言ってもこの子が言うこと聞かなくていやがったりして困ってるんです」
「わかりました、お子様のお名前は」
「隆夫といいます」
「隆夫ちゃん、あのね、お姉ちゃんがこの折り紙でなにか作ってあげましょう」
嫌がってる隆夫が亜理紗の優しい顔を見て、急ににこにこして
「お姉ちゃん、じゃキリンさん折ってくれる、象さんでもいいよ」
「ごめんなさい、お姉ちゃん両方ともわからないの、その代わり隆夫ちゃんに鶴を折ってあげるね」
亜理紗は隆夫の顔を見つめながら鶴を折り始めながら、はっとした。

「ありちゃん、僕、折れないよ」
「ひろちゃん、折ってあげるね、ええとこうして」
ふと、自分が幼稚園だったとき、裕彦に鶴を折っている姿が目に浮かんだ。鶴を折り終えると、亜理紗は、
「隆夫ちゃん、ほら、鶴さんが折れたでしょう」
「お姉ちゃん、どうもありがとう」
母親も軽く頭を下げた。
「本当にこの子のために、すみません」
亜理紗はこの時まさか、その裕彦と三十分後に運命の再会をするとは考えてもいなかった。


第三章  運命の出会い

離陸して二時間、すでに808便は太平洋上にあった。キャビンアテンダント山下はるかが聞いた。
「お客様お飲み物はいかがですか」
六人のキャビンアテンダントは休みなく乗客の機内サービスを行っていた。
「これからまだ十時間の旅か」

裕彦は、カップのコーヒーを飲み終えた時、
「コーヒーよろしいですか、お代わりしましょうか」
まだういういしい感じのはるかが話しかける。
「結構です」
裕彦は答えた。

「次のお客様にお飲み物を聞いてね」
新人に付き添ってる背の高いベテランキャビンアテンダントがいう。新人の機内の実習なのかなあ、裕彦は何気なく彼女の顔を見ると、胸のネームプレートには、FAL TAKANASI 高梨と記されている。
「あっ、似てる、亜理紗さんに」
 
裕彦は、驚きの声をあげようとしてあわてて口を抑えた。
「まさか、あの幼稚園の幼馴染で二十年間消息不明の亜理紗さんじゃないよ」
心の中でそう思う。その瞬間さっき配られた手に持っていたお絞りを床に落としてしまった。
彼女は同じように二十年間も頭の隅から離れない裕彦がこの国際線に乗ってるとは考えていなかった。裕彦に軽く会釈して次の座席でドリンクサービスをしてやがて裕彦の視界から消えた。

「まさか、戦争で行方不明の彼女が乗ってるはずはないよ」
無理に考えを打ち消そうとした。
「だめだ、記憶から消えない、抹消しようとしても、だめ」
あたりの乗客に聞こえない小さな声でつぶやく。
「よおし、今度のレポートでも見ておくか」
そう思って頭上の収納棚を空けてアタッシュケースを取り出して書類を取り出す。北米販売網確立に伴う予備調査、大きな活字が目に飛び込んできたが、さっきの高梨 亜理紗のことばかりだった。

ありちゃん、僕折り紙できないよう
あたしが折ってあげるから貸してごらんなさい
忘れていた幼稚園での想い出がよみがえってきた。

「書類も頭に入らないし」
機内のエアコンはよく効いて裕彦の周りには冷気が漂っている。足の周りが冷えてきたことに気がついて
「そうだ、亜理紗さんにブランケットを持ってきてもらおう、そして聞いてみよう」
そう考えただけで心臓がぱくぱく鼓動しているのを感じた。裕彦は、ちょうど通りかかったキャビンアテンダントに
「済みません、エアコン効きすぎて、ブランケットを」
「済みません、今お持ちします」
と絵里子がいうのを遮るように、
「あのお、高梨亜理紗さんにお願いしたいのですが」
「お客様、高梨亜理紗ですか?」
「ええ、お願いします、友人なので、僕の名前は錦小路裕彦といいます」
「わかりました、その旨伝えます、少々お待ちくださいませ」

皆にそれぞれ役割分担した後、亜理紗はギャレーで熱いコーヒーをポットに入れてコックピットの平井機長と福島機長、小林機関士に持っていこうと思った。その時だった。絵里子が客席から戻ってきて
「今客席17Cのお客様から空調がきついのでもう一枚ブランケットを持ってきてって。高梨亜理紗さんにお願いしたって」

亜理紗は熱いコーヒーを手にしながら
「私でないとだめなの?」
「ええ、どうしても亜理紗先輩でないとって、もしかしてお客様、先輩のことが好きかも」
「そりゃねえ、絵里子さんならわかるけど、あたしもうアネゴの歳よ」、
「とにかく、高梨さんをと言ってます」
「まさか、もう、で、お客様のお名前は?」
亜理紗はたずねた。絵里子は亜理紗の顔を意味ありげに見つめながら
「錦小路裕彦様とか」
「はあっ」
亜理紗は目を丸くして驚いて瞬間ふらついた。

「どうしたんですか、先輩?」
絵里子は心配し手を持って身体を支えるようにして手を掛ける。
「ありがとう、ううん、何でもないよ」
平静を装ったもののもう心臓の鼓動が音をたてて耳に聞こえるほどだった。まさか、人違いじゃないのか、でも錦小路っていう苗字は全国探してもほとんどなかった。二十年間、頭のどこかにあったあの裕彦さんがこの飛行機に乗っているなんて。信じられないと思った。

亜理紗はブランケットを取り出し
「行ってくる」
ブランケットを手に持って裕彦に届けに行った。客席17C、ここだわ、裕彦は書類に目を通している。亜理紗は身体を少し屈めて声を掛けた。
「お客様、ブランケット、お届けに参りました」
乗客は、
「どうもありがとう。少し空調強くって」
書類を見ていた裕彦は顔をあげ亜理紗をしげしげと眺めた。

「あっ」
亜理紗は小声で驚いた。幼かった頃の面影が顔ににじみ出ていて
「あ・・あなたは高梨亜理紗さんですね?。横浜の幼稚園時代で一緒だった、僕のこと覚えて・ニューヨークに仕事で行くところで」
そう裕彦から言われて驚いて声も出なかった。のどはからからに渇き思わず
「お、・・お客様、失礼ですが、人違いだと思います。どうも大変し・・失礼しました。」
とやっとのことで答えて、丁寧に頭を下げてギャレーに消えた。

裕彦は亜理紗に人違いと言われてひどく落胆した。自分からキャビンアテンダントのコーナーに行って高梨亜理紗に話をしようかとも思った。でもそれは仕事中の彼女を困らせたり傷つけてもよくないと思った。目の前に二十年間想い続けてきた初恋の人とやっとめぐり逢ったのに、その想いは目前で崩れ落ちる思いだった。亜理紗が去ったあと、膝に置いていた書類に目を通しはじめたが、彼女のことだけ考えていた。まだサンフランシスコ迄、随分時間があるし、また機会があるだろうと考えても落ち着かなかった。ギャレーでは仲間が待っていた。亜理紗はどきどきする心臓を手で押さえながらギャレーに入った。

「ああ、驚いた」、
「お帰りなさい、で、どうなの」
「それが、ねえ、、ねえ、ねえ。もう」とまだ気持ちが落ち着かなかった。
絵里子が、
「何なんです。亜理紗先輩」
亜理紗はまだ驚きを隠しえずに
「か、彼、幼稚園、小学校のときからあたしを好きで。」
葉月が
「超すごいっつ」
絵里子がすかさず
「それでデートの約束したの?」
「う~んん、お客様なにか人違いではないかって・・・・」

「亜理紗チーフ、どうしてそんなことを、最高のチャンスなのに」
「そうかもねえ、ああ、あたしって馬鹿じゃなかろうか」
絵里子が、
「私だったら」
「でも、今はフライト中だし、お客様に愛してるなんて言えないよ」

そこへ乗客の様子を見に行った香織と木綿子がギャレーに戻ってくる。
「何かあったんですか、亜理紗、なんだか元気ないし」
亜理紗は、この二人にもわかっちゃうのかなあ、香織とは一番親しいし知られたくないなあと心の中で考えていた。
亜理紗と香織は歳が二歳違いでいつも香織の相談に乗っていた。
「亜理紗、あなたならどうする?」
と恋人のこととか、両親のことからちょっとした仲間とのトラブルにいたるまで親身になって相談に乗るのだった。

香織は、本当に亜理紗を頼って心強い先輩と尊敬されている。それだけに香織にだけは自分の情けない姿だけは知られたくなかった。
その時葉月が
「亜理紗チーフの恋人が機内に」
「余計なことを言うんじゃないの」
亜理紗は、目をつりあげ葉月に怒って見せた。

気がつくと新人いずみも帰ってきていた。亜理紗は恥ずかしそうにして小さくなっていた。
舞衣子が、
「ねえ、亜理紗、ラブラブのようだけど、今は仕事中だから、ニューヨーク着いてから遭うのはいいけど」
葉月も、
「あのう、こんなこと亜理紗チーフに言ってわるいんですけど、彼の夕食にメモを書いてパンの下にそれを置くとか」
舞衣子も
「サンフランシスコ着いた時、デッキでそっとメモを上げるとか」

香織が、
「それとも亜理紗、私がお客さまのところに行って、錦小路裕彦さんをここに呼んできてあげようか」
「そんな」
「お客さまとの対応、会社の規則にあるけど、すでに亜理紗は昔からのお知り合いだから、チーフが行くと目立つし」
「香織、ありがとう、でも私」
「それでここで彼とここで話している間、少しくらいなら、住所とか電話聞くくらいなら、席はずしてもいいよ」

「香織さん、皆さん、お気持ちだけでいいの」
「なに、私たちその間、席はずしてお客さまのサービスだって出来るんだし」
「皆、本当にありがとね」
亜理紗は、私の彼のためにこんなに皆が親切にしてくれてと思うと、思わず目になみだが溜まりギャレーの仲間たちってなんと優しく思いやりがありあり素晴らしい仲間だろうと胸があつくなった。


第四章 揺れ動く心


亜理紗は、忘れていたコーヒーポットにコーヒーを入れ直してコックピットに向かった。
ドアを開けると平井機長、福島副操縦士、小林機関士がいた。
「ご苦労様です。コーヒーお届けに参りました」
と丁寧に敬礼した。機長には特に丁寧なお辞儀を持って望むことと決められていて、上司からいつも言われていたのでそれに従った。大勢の乗客を乗せて世界各地に雄飛し悪天候の時にも常に沈着冷静で生命の安全を委ねられている機長には尊敬しなければならない亜理紗の信念だった。

亜理紗は、ポットを置いてカップにコーヒーを注いだ。平井機長は亜理紗の方を振り向いて、
「高梨君の入れてくれるコーヒー飲むと元気が出てね」
左側にいる福島機長が亜理紗の顔を見つめながら
「今日はいいことがあったようだね。もしかして高校時代の恋人に逢ったとか」
 小林機関士も微笑んで亜理紗を見つめている。
「はっ、どうして福島副操縦士知ってるんですか」

亜理紗は、顔が赤くなって
(これ以上突っ込み入れられたらあたし沈没しちゃうよう」
話題を変えないと思い、
「機長、今日は飛行状況はどうですか?」
「順調だよ。このままだと予定よりサンフランシスコ早く着くかも、タービュランス(揺れ)の心配もなさそうだし」

「本当にご苦労様ですね、コーヒーとかお茶をお飲みになりたいときはいつでもどうぞお申しつけくださいませ」
と最高に亜理紗は頭を下げてお辞儀をしてギャレーに帰った。途中あの裕彦が乗っているのにと思うと気持ちはとても複雑だった。

亜理紗は好きな人の前でも控えめな態度しかできなかった。それと言うのも高梨家は祖母や祖父が口うるさく
「女の人は決してはしたないそぶりを見せてはならない、女性は品位を保ち貞淑であり続けなさい」
と小さいときから言われてきたのである。父や母からも先祖代々続いてきた高梨家の名前を汚してはなりませんといわれ続けてきた。決して大富豪ではなかったが、白い洋館建ての家にふさわしくとても上品で落ち着いていて優雅な女性だった。

そんな亜理紗が極東航空に入ってからは大きな変化を見せた。世間知らずのお嬢様がキャビンアテンダントになって国内線、国際線に乗務するようになってから亜理紗のまったく知らない世界がそこに広がっていた。大勢のお客様に機内で会い、会社で同僚、先輩に会ってそこで、いつまでも世間を知らないお嬢様であっちゃいけない。特にキャビンアテンダントとして後輩の教育をするなら、後輩の懐に飛び込んでいく必要があるわと考えた。

同時に長い間、父母の家から、いわゆる自宅通勤をしていたが、私はもういい歳だから、いつまでも父母の家にお世話になっていてはいけない。自分をもう一度見つめるために一人で自活した生活をしなければと思った。亜理紗はそのことを両親に話したら父から反対された。
「結婚するまでは家にいなさい。父さんは今のお前がキャビン・・・・・ええとなんとかになってるのも反対したのに、母さんが賛成するもんだから」
と少々不満げだった。

しかし、母は亜理紗に理解を見せ、
「亜理紗はしっかりしてます。将来のことも考えてマンション迄手に入れて、お父さん、娘がそうしたいっていってるんだから亜理紗を信用してあげなさい」
と応援してくれるのだった。いつでも結婚できるようにと山の手のマンションまで長期ローンで購入した。あとはお婿さんを探すだけといつも考えて十一年も経った。

ふとわれに返った亜理紗はこんなことではいけない、今は将来の極東航空を担う新人キャビンアテンダントの実習に集中しなければと大きく深呼吸をして気持ちを切り替えた。化粧室に行って髪をきちんとセットし、きりっとした表情を作り、ギャレー・ルームに戻った。亜理紗は、
「ところでねえ、今日はインド、中近東、イスラエル、エジプト、イランのベジタリアンのお客様が三人ほど搭乗されてるの。お食事をお出しする際、気をつけてください。それで五人分を用意しているからくれぐれも間違ってお出しすることのないようにしてください」

百七十七人のお客様に食事を提供するときはキャビン・アテンダント七人全員が当たっても凄く忙しい。亜理紗は新人二人をまた用いなければならないと思った。もちろん、チーフも加わってのことである。亜理紗は時計を見て、夕食サービスの案内を行った。

「お客様に申し上げます。ただいまよりお夕食のサービスをさせていただきます。なお、本日のスペシャルカレーメニューはタイ風グリーンカレーでございます」
極東航空では、東南アジア、マレー、インドネシアというように月変わりでエキゾチックカレーを提供する、乗客への新しいサービスだった。
エコノミークラスの乗客に配られる弱冷凍した料理をオーブンで温めるなど、狭いギャレーが活気づいている。肉、魚、二種類の料理をカートに積んで乗客の希望を聞いて狭い通路幅に合せた特性カートで食事を配ることは結構神経と肉体を使う仕事である。満面の笑みを浮かべて
「お客様、お夕食でございます。お肉とお魚がありますが」
「ああ、それならば肉がいいなあ」
客席の至るところでキャビンアテンダントと乗客のやりとりが続いた。、

亜理紗は、別に用意した夕食のトレーの二枚に急いで誰にも見られないよう急いで走り書きをメモに書き、ひそかにパンの下に隠した。裕彦の席のところに行き、
「お客様、錦小路裕彦様、お夕食お持ちしました。お肉とお魚どちらになさいますか?」
裕彦は 亜理紗を見上げてそれからトレーの夕食に目を移しながら
「どうもありがとう、じゃ肉を、おいしそうだなあ」
亜理紗はあのパンの下のメモに気がついてくれるかなあと思った。

裕彦の顔を見ながらそれ以上は言えなかった。やっと
「お客様どうぞごゆっくりお召し上がりください」
一人でカートを引いている香織と一緒に次のお客様に夕食を出すのだった。裕彦は、夕食のトレーを見つめていた。和風ビーフステーキおろし添え、玉ねぎとハムのマリーネ、シーフードグラタン、タイ風カレー、フルーツサラダ、信州蕎麦があり、デザートはバニラアイスクリーム、パンがあった。裕彦はパンをちぎって口に運ぼうとした。パンの下に小さい紙片があった。おや、これは何だろう、紙片を拡げると、
「先ほどは失礼しました。裕彦様、ニューヨークでお逢いしましょう。滞在先のホテル番号は212・755・4600です。高梨亜理紗」
と書かれていた。

メモを見て二十年間ずっと思い続けてきた初恋の人に逢えると思うとうれしくて微笑んだ。さっきまでもう亜理紗さんに永久に会えないという悲しみは消えていた。亜理紗は次々とトレーの食事をお客様に提供して皆が一生けんめい働いているのを確認してキャビン・ルームに戻って、コックピットの平井、福島、小林クルーにも食事を運んだ。

機長は亜理紗が夕食を持ってきたことを背中で感じて、振り向き
「高梨君にはいつも申し訳ないねえ」
と頭を下げた。既に日が暮れてコックピットから見る空は満天の星が輝いていて、亜理紗はこの例えようもない美しい眺めを見る度に荘重な面持ちさえして、きっと神様が私達への贈り物をしてくれているのだと思った。




















ドラマ「冬のソナタ」で覚える韓国語

2006-05-19 16:25:13 | 韓国語・コラム
韓国KBS放送が放映したドラマ「冬のソナタ」(主演ぺ・ヨンジュン、チェ・ジュウ)をNHKが放映したら平均視聴率が22%という高視聴率でたちまち韓流ブームが起きました。
特に40歳以降の中年女性に支えられていわゆるヨンさまブームが起きました。
これは最近の日本のドラマにものたりなさを感じていた純愛ドラマに魅力を持ったのだろうといわれています。

物語は春川の高校に転校して来たカンジュンサン(ペ・ヨンジュン)にチョン・ユジン(チェ・ジュウ)が恋をするのですがジュンサンが交通事故で亡くなり悲嘆にくれていたユジンが10年後ソウルでジュンサンそっくりのミニョンに逢うという話です。

私はユジンが初恋の人としてジュンサンと一緒に行動するのですが遅刻して担任の先生の目を避けて学校の塀を上るのを助け合ったり、島に行って自転車に乗ったり落ち葉の道を二人で歩いたり冬、初雪の日に二人が雪を投げ合ったりとそこには現代のようにケータイも喫茶店もレストランもなにもない自然を楽しむ素朴さと初恋が美しく皆自分の青春を思い出したのではないでしょうか。


僕は数年前、あるきっかけで韓国の人とお会いし、そのときの暖かな印象が韓国語を覚えようという動機につながりました。
昨年体調を壊し病院に入院して時間もあるのと韓流ブームの影響もあって韓国語を覚えようとと思いましたが、今、韓国語を覚えたいという人が多いようです。

病院で朝、看護師さんが「今朝は具合はどうですか?」と聞くので今朝は熱もなく本当にありがとう」「カノサシ、オヌルン・ナ・アン・アチム・チョンマル・コマオウヨ」看護師さん、今日は熱もなくて本当に調子がいいです。と言って看護師さんから「うまいわね」と言われました。

NETで度々「冬のソナタ」第一話を見てましたのでこれをノートに台詞を書いたらいつのまにか韓国語が想い出されるのです。それで「冬のソナタ」を素材にして韓国語を書いてみることにしました。

これで普段話せるわけではなくNHKの韓国語放送を聞いたりまた手元に韓国語教本(CD付き)を購入して文法やハングル文字を覚えることが大切です。
では最初のきっかけとしてどのようにして「冬のソナタ」第一話からとにかく韓国語を覚える最初の取りかかりについてお話しましょう。

なお、記事編集ではハングル文字も正確に出ますが投稿された段階では(・・・)としか表示されないので中断原因調査中です。

冬(キョウル)の朝の今日(オヌルン)오늘、春川の坂のある住宅の通りをユジンが駆け下りて来ます。サンヒョクが待っていてそこへバス(버스)が来ます。
ユジンがそれを見て「あっ、バスだ,バスだ、行こう」(야 바스다 바스 가자)「ヤ・ボスダ・ボス・カジャ」と言ってバスが来るとサンヒョクがユジンを詰め込んで遅刻常習犯のユジンに「先に行けよ、居眠りするな」「モンジョガ・チョルジマ」と注意します。

しかし座席に座り居眠りをして気がつくと見知らぬところを走っているので隣の見慣れない男子生徒と一緒に降ります。
ユジンは学生に「ここはドコなの、もう、起こしもしないでどういうこと」「ヨギガ・トデチェ・オデイエ?アンギョン・ムオハンゴエヨ」と文句を言います。学生は黙ってるので、「何年生?」「ミョンタンニエヨ?」、「二年生」「イハンニン」と答えます。

遅刻するのでタクシーを拾い引き返して学校の近くで二人は降ります。ユジンは気が急いていますが学生は立ち止まり壁に寄りかかりたばこを吸おうとするので「ちょっと、今何をしてるの?」「ヤ・ノチグム・ムオヘ」と言います。
高等学校「コドンハッキョ」の校門では先生「サムソンニン」ニックネームのゴリラ「カガメリ」が生徒を厳しくしかっています。

教室にソウルから転校してきた学生が入ってきますがさっきの学生でユジンは驚きます。先生が「今日、私たちのところに転校生が一人入ってくることになった」「オヌルン・ウリパネ・チョナクセンイ・ハンミョン・センギョッタ」と紹介されて名前を聞かれると学生は「カンジュンサンです」「カンジュンサン・イムニダ」と答えます。

女子学生の間でハンサムなカンジュンサンに関心が移り女子学生のオ・チェリンが「こんにちは、私、オ・チェリンよ、よろしく」「アンニョン・ナ・オチェリニア・パンガッタ」と挨拶しますが無視されます。

翌日再びバスで居眠りしているのをカンジュンさんにバスの外から窓をたたかれて目を覚ましてユジンもバスを降りますが遅刻であることには間違いありません。
ユジンが一計を案じてジュンさんのコートを引っ張って学校裏の塀を越えて中に入ろうと言います。

そこでユジンが「私が先に登ってから引っ張ってあげるね、早く伏せて」「ネガ・モンジョ・オルラゴソ・チャパジェルテニカ・パルリ」と言います。
じっとしているジュンサンに、ユジンが「相互扶助(お互いに助け合う)を知らないの?さあ早く、早くしてよ」「サンブサンジョ・モルラ・パルリ・パルリ」と急かせます。

ユジンのためにジュンサンは背を屈めて馬になって塀に登らせた後、ジュンサンは
手前の塀で勢い付けて塀に登り下に降りてしまいます。
塀から飛び降りれないユジンに手を差し伸べてユジンはジュンサンの腕に身体を抱かれるわけにも行かず「いいわよ、結構よ」「テッソ」と断ります。

ジュンサンはその答えを聞いて行ってしまおうとするのですが、ユジンもさすがに
困ってちょっと、ねえ、カンンジュンサン」「ヤッ・カンジュンサン」と手招きをして塀の上から降ろしてもらいます。

しかし、ユジンはジュンサンから抱かれるようにして降ろしてもらったのが恥ずかしくごまかすようにジュンサンに「今日、昼休みに放送しなければならないのをあなた知っているの?遅れないでね」「オヌル・チョシム・パンソン・ヘヤ・ハヌンゴ・アルジ?ヌッチ・マルゴワ」と言います。

とこのように物語を追いかけて短いせりふのところを覚えていくと韓国語も楽しく覚えられます。

なお、第一話で上で取り上げた以外の単語を若干載せます。

拍手「パクス」、ありがとう「コマオウヨ」ありがとうございました「カムサハムニダ」、野球「ヤグソン」、放送部「パンソンブ」、頭「モリ」、そこ「コギ」
学生「ハクセン」、父「アボジ」、日本「イルポン」、飛行機「ビヘンギ」
そう?「クレ」、母「オンマ」、韓国語「ハングルマル」、家族「カジョク」
好き「チョアヘヨ」、違う「アニャ」、音楽「ウマク」、初めて「チョウム」
影「クリム」、友達「チング」、はい「ネ」それで「クンデ」、数学「スハク」
高等学校生「コドゥンハクセン」、父「アボジ」、どうして「オットケ」、うるさい,「シックロ」、韓国語「ハングンマン」、家族「カジョク」、好き「チョアヘヨ」





長編小説「愛は時を越えて」第五章・第六章・第七章

2006-05-19 16:21:50 | 小説

短編鉄道小説「終電車」

2006-05-16 23:03:01 | 鉄道小説
その鉄道は明彦の住んでいる大都会から3時間ほど電車で山間に入った過疎の町を走っていた。井田明彦はなによりも鉄道が好きで鉄道雑誌を見てはカメラ片手に一人で出かけるのだった。
妻の真紀子は、
「あなたがデパートが好きだったらよかった」と思わず愚痴をこぼした。
「鉄道好きだとあなた一人で楽しむだけだし」
「ごめんよ、ときどき君を一人にさせて、この穴埋めはきっと・・・」
「あなた、結婚前にそんな話聞かなかったわ、もし聞いてたら・・・・」
妻は相当怒っているなと思った。
「それともたまにはどうだ、僕と一緒に来るか」
「いやよ、この前だってさ、あなたSL撮るからって言ってさ、1時間も帰ってこなくてさ」、
「あの、何も汽車みなくても、ほら・・・・ええと、あの何とか言った
麦とろのおいしい店、ごちそうしてあげるから」
「丸子庵」でしょう?」
妻はぶっきらぼうに答えた。
なだめてもすかしてもどうにもならないと悟った和彦は、書斎の引き出しから映画の鑑賞券を2枚出して、
「これ二人でと言われたんだけど君のお母さんと一緒に見てきたら」
「今日のところ許してあげるわ、行ってらっしゃい」
「久しぶりに映画のあと、君のお母さんの家に泊まったら」
「でも、あなたのお食事のこと気になるし」
「いいよ、コンビニもあるし、冷蔵庫にも残り物が」
「あなたの何ていうかそういうとこに負けちゃうのよね」
明彦は交渉成立してほっとして家を出た。
大東駅から都心に出て新幹線で2時間のところに過疎の鉄道があった。
新幹線ホームをエスカレーターで下りてビルの立ち並ぶ駅前の広い通りを300メートル歩くとと木造の不似合いな小さな駅舎があった。すでに鉄道廃止をどこから聞きつけたのか大勢の群衆に混じって鉄道ファンも詰め掛けていて駅はごった返しだった。
赤色の電車は15メートルの長さで玩具のように可愛かった。
明彦はやまと鉄道の廃線記念切符を手に入れて狭いホームで電車の来るのを待った。
間もなくして赤い車体を左右にゆらせて赤い四両編成の電車が到着した。
いつもは1時間おきの運転も今日が最後の日で乗客も裁ききれないほどの人たちのために20分おきに電車を運行していた。
車体には横断幕でやまと鉄道さようならと書かれていてホームの頭上のスピーカーは
「今日を持ちましてやまと鉄道は廃止となります。長い間のご愛顧ありがとうございました」
と繰り返し放送していた。
鈴なりの乗客を乗せて蛍の光の調べに乗って赤い電車はホームを離れた。
駅を離れ500メートルほど走り鉄橋を渡り大きく左に曲がり、5分ほど走り、最初の停車駅、北浜南駅を過ぎると家並みも少なくなってあたりは茶畑になった。
電車はすぐ側を併行して走る県道の自動車に何台も追い抜かれて古いモーター音をさせながら甲高い音をさせて走った。
点々と農家があり、柿が赤く色づいた実をつけていてのんびりした秋の光景を醸し出していた。屋敷田、久保塚、やまと高井、重原、平石を過ぎて、秋の木漏れ日に電車の陰が長くどこまでもついてきた。単線のこの鉄道は山中駅で対向電車といつもすれ違うのだった。
閑散としたこの駅も今日ばかりは鉄道ファンがカメラを電車にいっせいに向けて最後の電車を撮り続けていた。
上り電車が林の向こうから姿を現し鈴なりの乗客を乗せて到着した。
明彦の電車は山中駅を出ると上り勾配に差し掛かり鉄道に沿って流れている川幅も狭くなり渓谷と変わって行った。原沢を過ぎてトンネルを二つくぐり、川久保と無人駅にも今日が最後の運転とあって電車が近づくといっせいにカメラのフラッシュの攻撃が待ち構えていた。トンネルをくぐって鉄橋を渡ると左の車窓に見えていた渓谷が右側に変わってしばらく10分も走るとそこはやまと鉄道の過疎の町やまと追分駅だった。
人口8千人のこの町は主に林業で成り立っていた。
狭い車両からどっと人が吐き出されて改札口へと流れていく
明彦もまた、切符を出して駅舎から出て後戻りして小さな車庫に向かった
やまと鉄道の小さな車庫の前には黒山のような人だかりだった。
カメラを持った鉄道ファンを中心に地元の人たちが電車の周りを囲んでいた。
明彦ももう50年近く走り続けている赤いレトロな小さな電車を撮影しようとバッグからカメラを取り出し大きな望遠レンズを取り付けた。
やまと鉄道の制服を来た職員がやってきて電車を取り囲んでいる皆に説明しはじめた。
「皆さん、こんにちは、ようこそやまと鉄道にお出でくださいました。長い間皆様にご愛顧いただいた鉄道線浜南―やまと追分間21,3キロは本日を持ちまして廃止されることになりました」
と挨拶した。
明彦は大勢の見物客とともに職員の挨拶を聞いてたが、明彦のほうに目を向けた瞬間、明彦は思わず
「あっ」
と叫んだ。
それもそのはず何と中学時代の親友だったからである。
明彦は思わず見物客の人並みを掻き分けて前に出た。
挨拶をし終えた彼も明彦の顔を見て、
「おお、鶴見じゃないか」、
「井田しばらくだなあ」二人は駆け寄って思わず握手をした。
明彦は
「君に逢いたかったよ、いったいどこ行ってたんだ。?」
「ごめん、ごめん、僕もどうしているかと気になってたんだ」
と言いながら脇の職員に
「この電車の説明僕に代わってやってくれないか」
と頼んだ。
明彦は、
「いいのか、君が説明しないでも」
「大丈夫、こんなとこで逢おうとはなあ」
「いったいどこに雲隠れしてたんだよ」
「君には本当に済まなかったと思ってるよ。実は?」
「どうなったんだ」
「実は、親父のやってた工場が不況で不渡り出して倒産して・・・・」
「そうだったのか、あの頃、君の家は羽振りがよくて僕はうらやましく思ったんだけど」
「それで借金取りは来るわで、叔父が浜南市に住んでて、こっちに来たんだ。」
「そういうわけだったのか、大変だったなあ」
と明彦は言った。
「そういうわけで高校出て地元の工業大学何とか出て、やまと鉄道に入ったという訳」
「やまと鉄道って言えば、鉄道のほかに県内のバス・百貨店・スーパー・コンビ二・不動産までやってていいじゃないか」
「地元ではまあまあだけど君は?」
「僕は平凡だよ、サラリーマンで、今日はやまと鉄道が最後の運転をするというんで新幹線でここまで来たんだ。写真撮ろうと思って」
「今日はすごい見物客だなあ」
「いつもこんなだとな、鉄道廃線しなくてもなあ」
と鶴見はためいきをつきながら言った。
「それじゃ、僕から説明しようか」
と鶴見は車庫のすぐ側に陳列されているレトロな5つ窓の電車を指差しながら
「これはモハ10という形式で中部鉄道で、名古屋の岐阜を走っていたのを払い下げてもらった大正5年製造の一番古い電車なんだ」
「知ってる。何度か岐阜で乗ったけど、こいつが岐阜の市内の道路を走るときにはのろのろと左右に車体を揺らせて駅まで走ったよ」
「これは大正時代の古典的価値があって円形の窓が特徴あるんだよ。」
と鶴見が言うのを聞いてて
、明彦は、
「君もずいぶん詳しくなったなあ」
と言った。
鶴見は
「まあ、やまと鉄道に入ってからなあ、商売柄しょうがないよ」
と鶴見は、
「僕、鉄道部長なんだ」
と明彦に名詞を見せて笑った。
「この車両もうちが鉄道廃止になったらもう全国でも見られないんじゃないか」
と鶴見は電車を見上げながら言った。
「ところで、君の仕事の鉄道部が終わったら」
「今度は、やまと百貨店入りだよ」
 「いいじゃないか、百貨店なら地方で有名だし」
「わが社の電車はほら阪神地方を走っていた加速・減速の早いジェットカーか、これの屋根に冷房装置を取り付けて、やっとわが社にも冷房電車が走って皆に喜んでもらったと思ったら、3年で廃止だもんな」
と鶴見はしみじみと話した。
「記念に写真撮るか」
と明彦は、バッグからカメラを取り出し三脚を引き伸ばしてカメラを三脚に固定した。
明彦は、セルフタイマーを押して急いで鶴見の立っているところに戻り肩を組んで写真に納まった。
明彦は、鶴見に案内されて10系古典電車と右側の15メートルの短い車両と一番左に止まっているやま鉄ご自慢の1000系の冷房電車を見て廻った。
明彦は、要所要所で電車をカメラに収めた。
「うちの事務所に来るか。あげたいものがあるんだ」
鶴見は明彦の方に手を掛けて、
「さあ、行くか」
と言って駅に向かって歩きだした。
「ここがうちのやまと追分事務所だ。」
と鶴見は言って、観光案内センターの3階の建物脇の自販機にお金を入れて缶コーヒーを二つ買って2階に通じる狭い階段を登った。
「悪いなあ、仕事中に」
「狭いけどそこに座って」
鶴見はソファーに明彦を座らせて、左の壁のロッカーを開けてなにやら取り出した。
「これは、当社の鉄道の開業50周年を記念して作った写真集で」
「ええと電車の文鎮どこだっけなあ」
とロッカーの中を探した。
若い社員が、
「部長、ここの箱の中に・・・・・でも結構皆に配ったし」
と言いながら左の隅にある机の引き出しを捜した。
「部長、これでしょう」
と言ってほこりを被った金属の塊を取り出して、ほこりを払って鶴見に差し出した。
「こんなもので良かったら、さっき見た10系電車の文鎮だ」
と言って缶コーヒーを開けて鶴見の前に置いた。
「悪いなあ大切にするよ、これもらっていいの?」
「ああ」
明彦にとっては何にもましてかけがいのない物だった。
「ところで、君はさっきサラリーマンだって言ってたが、電車の好きな君のことだから」
井田は興味深く鶴見の返事を待っていた。
「ああ、僕のこと、大したことじゃないが武蔵鉄道なんだよ」
「大したもんだなあ、武蔵鉄道は電車も大きくVVVF方式の新車だしな」
「うちは、つり掛け方式で、いや走ってもうるさいしな」
「つりかけ方式は貴重だよ、もう全国でも貴重だよ」
「いや、君のところは、規模が違うもんな、安全なATC方式だから、事故も起きにくいし」
「ああ」
「でも併行して多摩鉄道も走っているし、結構大変だよ」
そんな話をしているうちに、秋の日差しも影って来て山並みが赤く染まっていた。
「そろそろ、今日の終電車の運転時間も迫ってきたしなあ、飯食いに行くとするか」
二人は事務所の階段を下りて駅前の道路を左折して歩いた。
鶴見は、
「ここのとろろは名物なんだ」と言って「丸子庵」と書かれた看板を見て中に入った。
「済まない、こんなとこで、運転があるんで酒はちょっと」
と明彦の顔をすまなさそうな顔で言った。
「いいんだ、僕は酒は全然飲めないんだよ」
と明彦は言った。
明彦は、以前妻と一緒にここへ来たんだよと危うく口にしそうになって、ご馳走してくれる鶴見に申し訳ないと思って
「こんな自然の特産物なんて口にできなくて」
と感謝して言った。
二人の前にお櫃に入った麦ご飯ととろろ汁が運ばれてきた。
外は、すっかり夜の帳が下りていて遠くのやまと追分駅の周りだけがこうこうと灯りがついていて明るかった。
「ところで、君にお願いがあるんだけど」
「僕が住民数人から花束受けるところを新聞社のカメラマンが写真撮ることになってるんだけど、そんな形式的なものでなく、君は僕の親友としてもっと自由な角度で写真撮ってほしんだけど」
「はっ。僕に、新聞社でもなく、ここの住民でないのに」
「僕の親しい親友っていうことで。君の自由なというか、きっとあたたかい、僕にとってたった一回の想い出になると思うんだけど」
「OK、わかった。僕でよければ」
駅に入ると最終電車はホームに入っていた。
電車は、ホームにはみ出る長い5両編成でご自慢の冷房電車1000系に混じってさっき見た大正時代の古典的な5つ窓、丸窓の10系電車も連結していた。
明彦はすでに新聞社のカメラマンより遠い場所に陣取って待っていた。
制服姿の鶴見が構内の詰め所から歩いてきて、
「当社はじまって以来の5両編成だよ、まあ、ファンと住民サービスかなあ」と笑いながら明彦に言った。
「皆様、やまと鉄道を長い間ご利用くださいまして本当にありがとうございました。いよいよこの列車を持ちまして当駅の営業を終わらせていただきます。明日からはバスが運行いたしますので今後ともご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます」
とアナウンスを繰り返した。
ホームのやまと追分駅の赤い電車の周りにはこの時間でも鉄道ファン、住民で一杯だった。
町の有力者の挨拶のあと、終電車を運転する鶴見に花束を送った。その光景を見ていた明彦は鶴見の一番にこやかな瞬間を狙って、連写した。
鶴見は、明彦の顔を見つめて
「すまないなあ、君まで借り出して」
と小さな声で言った。
制服を着た鶴見はきりっと帽子の紐を締めなおして運転室に入った。
明彦は一番前の窓から井田の後ろ姿を見ていた。
ホームの中学校のブラスバンドが「線路は続くよどこまでも」を演奏しはじめた。鉄道ファンが群がってカメラのシャッターを押した。フラッシュを受けてまばゆかった。
出発のベルが鳴り終わると、鶴見は正面の信号が緑に変わったのを確認して「出発進行、定時、制限15と立て続けに指差歓呼しながらコントローラーを白手袋でノッチ2の位置まで操作した。
「ファーン。」とタイフォンを鳴らして電車はホームを離れはじめた。
電車はやまと追分駅の構内を離れると町の家の軒並みが明るいほか闇に包まれ電車の前照灯だけが線路の先を照らしていた。
鶴見は前を見つめて
「制限解除、信号よおし、速度50」
と言ってコントローラーのノッチ5一杯まで持って行った。
電車は甲高いモーター音を出して速度を増して走った。
明彦は、鶴見の電車を運転する姿を見てなにか不思議なめぐりあわせを感じながら、親友のあたたかさを感じ、今日の感動の出来事そのままに妻にどう伝えたらいいかと心の中で迷っていた。



















長編小説「愛は時を超えて」第八章・第九章

2006-05-13 10:55:40 | 小説
第八章 想い出


裕彦は、脇においてあったバッグから大切そうに手帳を取り出した。そして手帳に挟んであった長い年月を耐えてきた一枚の色あせた古い写真を取り出しながら、
「亜理紗さん、何しろこの写真しかないので、わかるかなあ」
とテーブルの上に乗せた。
「何しろ二十年の空白でしたし、あの戦争さへなければ」
「僕はあなたのことをずっと忘れませんでした」
「私も」
裕彦はテーブルの前の写真を亜理紗の方に押しながら
「これ、僕の宝物です。一枚のこの写真」
亜理紗は
「これ、幼稚園の時の劇の写真じゃないですか?」
と聞きながらも裕彦がずっと写真を大切に持っていたことに胸の中にこみ上げてくるうれしさがあった。
「亜理紗さんは小さいときから美人でした。幼稚園で」
彼女は、一枚の古ぼけた写真を見つめた。二十年間の空白が、写真を見つめているうちに淡く、次第に焦点を結ぶかのように想い出が蘇ってきた。
「幼稚園、この写真見て思い出しました。こんな顔だったのね。私って」
「これは聖書劇と言うことで、生まれたイエスを守る羊と羊飼いで」
亜理紗が思い出してくれたことが何よりも嬉しさがあった。
「たしかに、これは劇の写真ですね。・・・・・・ああ思い出したわ」、
「亜理紗さんは、マリアをやって僕は羊の一匹でした」、
「あなたがユダヤの野辺で大きな鳴き声してるんで驚いて」
二人は写真を見て話し合っているうちに二十年の空白を越えて童心に帰って行った。、
「たしか、歌を歌ったっけ、♪ええと、私たちは羊です。ユダヤの野辺でバウ・バウ・バウ♪。と」
、亜理紗も
「よく覚えているのね、そう、♪私たちは、羊です。ユダヤの野辺でバウ・バウ・バウ。と♪」
二人は、顔を見合わせてにっこり笑った。、
「その後、あなたが野辺に来て僕を引っ張って行ったことも」、
「この写真見ていると、だんだん小さい頃に帰って行くわ。・・・・・・」

 二十年前の昭和十五年の横浜カソリック教会の出来事である。日米の真剣な外交努力にもかかわらず、段々戦争の足音が近づいて来ようとしていた。幼児の父兄たちは、フランクリン園長の話をかたずをのんで聞こうと集まっている。フランクリン園長は
「私は、日本を去って、カナダに帰ります」
父兄の間からどよめきがあがる。園長が帰ったらこの幼稚園はどうなるのだろうと皆心配した。
「ア、アメリカと、日本、戦争になるかも知れません。今は、日本も、皆さんとも私仲良しです」
「園長さん、どうして戦争に」
「戦争、始まると、日本、テキニ・・ナリマス」
園長は皆の顔を見回しながら尋ねた。父兄の一人が、
「えっ、あなたのような方が敵になるなんて、松岡外相も近衛首相もルーズベルト大統領とハル国務長官と外交交渉をやってるじゃないですか」。園長は、
「どうも・皆さんに・本当にお世話になりました。私・ずっと皆様のこと忘れません」・
と丁寧に頭を下げた。亜理紗は、後ろで聞いていたが、小さな身体を背伸びさせて、裕彦の方を向きながら、
「ひろちゃん、園長さんが帰るとさびしいよね」
裕彦も
「うん」
と亜理紗の顔を見てあいづちを打つ。
二人は、はっとわれに帰って、亜理紗が
「あの園長さん、とても優しかったよね」
裕彦も
「優しいよね、ありちゃん」
「あの時、園長さんがイエスの絵のある青い本をもらったっけ」と思い出していた。
「ねえ、園長さんからこの本もらったの」
「私もよ、青い本もらって」
「ねえ、もうやさしい園長さんいなくてさびしいね」
亜理紗は、当時の懐かしさに駆られていた。亜理紗の祖母が来て、僕にこういったよ、
「裕彦さん、いらっしゃい。二人とも仲がいいんだねえ」
 あの時、僕にたしか、
「大きくなったら、あたしひろちゃんと結婚する」
って言ったこと覚えているよ。亜理紗は
「はっ、あたしが、そんなこと言ったっけ」
「そういう裕彦さんも僕もありちゃんのことが好きって言ってたわよ」
亜理紗が逆襲すると、、
「えっ僕、そんなこと言った?」
裕彦は、とぼけて見せた。亜理紗が、
「ねえ、あなた、幼稚園の時に折り紙で鶴を折っていて、そのこと覚えている?」
「ああ、あのこと、恥ずかしいなあ」
と当時を思い出していた。
「たしか鶴を折ったとか公園に行ったこととか」
「あなた、鶴が折れないっていってたので」、・

裕彦、亜理紗の回想
幼稚園の先生が
「さあ、今日は折り紙を折って見ましょうね。これは鶴さんです。今から鶴さんを折りますからよく見ててね」
園児が、皆、
「はあい」
先生が
「皆、先生のように鶴を折ってください、そこにある折り紙で」
園児たちは一生懸命鶴を折っている。やがて、亜理紗の
「出来たあ」、
「出来た、先生」
裕彦はできずに泣きそうになる。
裕彦が
「僕、出来ないよう」
 隣に居た亜理紗が、
「あたしに貸して、折ってあげるから」
「いい、ここをこうして、ええと羽根は」
裕彦は亜理紗の手先を真剣に見ていたが、
「ほら、出来たでしょう」
「ありがとう、亜理紗ちゃん」
とほっとした表情を見せた。

二人はお互いに、幼稚園時代を思い出していたが、亜理紗の顔を見つめながら、
「亜理紗さんにはあの時、本当にいろいろお世話になりました」
「いやだあ、そんな裕彦さんにお礼言われて」、
亜理紗は
「あたしこそ、きれいな赤い紅葉をいただいて」
二人は、うなずきながら顔を見合わせて微笑んだ。
亜理紗は、何か一生懸命考えていたようだったが、
「あっ私、花いちもんめ、ほら私たち分かれて二組になって手をつないで向かい合って、勝ってうれしい花いちもんめ、負けて悔しい花いちもんめ、あの子がほしいって」」
「ああ、思い出した、この子がほしい、この子じゃわからん、相談しよう、それでなんとかさんがほしいって、でも亜理紗さんからひろちゃんがほしいと言われると何かどきどきして」
「それでじゃんけんして人数が少なくなって誰もいないと負けになるのよね」
「あと、そうそう亜理紗さんの家に遊びに行くと、幸子ちゃんとおはじきやってて、僕に気がついて一緒にやらないと誘われて」
「あなた、恥ずかしそうに下向いていたわ」
「あと、女の子だったらまりつき、お手玉、千代紙、縄跳びとか」
「そうだなあ、男の子だったら、メンコ、ベーごま、それに男女だとかくれんぼう、影ふみなんか」
テレビもなかった時代を振り返って二人は目をきらきら輝かせて過ぎし日の思い出を話すのだった。
二人は、幼子の時代に戻って話をしていた。今まで忘れていたことが連鎖的に思い浮かぶのだった。
「ねえ、私たちって変だと思いません」
裕彦が
「はっ変って」
「だって普通だったら小学校から中学、高校と進んで愛が深まるのにあたしたち、小学校四年で突然絶たれて、20年ぶりでお逢いして小さい時の想い出しかないんですもの」
「たしかに、言えていますね。空白がすごい多いのにこうしてお逢いするだけで」
裕彦は言葉を噛みしめていた。亜理紗が、
「ねえ、裕彦さん、あたしたちって、生まれる前からきっと赤い糸で結ばれていたのね」
としみじみと伝えた。
 









第九章 新人類の青春


亜理紗と裕彦がアストリアホテルで過ごしている間、葉月は紅緋色、いずみは山吹色のジャケットにジーンズのパンツを着て二人でマンハッタンの休日を楽しんでいた。遅い昼食を済ませてホテルを出た。二人にとってははじめてのニューヨークで、極東航空の五番街にある観光センターに立ち寄って観光地図をもらって世界一大きなMACYデパートを見て、その後、エンパイア・ステートビルでマンハッタンの超高層ビル群を見ながら感動した。
「ねえ、いずみ、見て、見て、あっ、きれい。すご~い」、
葉月の言葉にならない感動を聞いていずみは葉月の側に駆けつける。秋の日差しは短く、はるかかなたのセントラルパークの紅葉が黄色く超高層ビル群が長い影を落としていた。
「やっぱ、ニューヨークだよね」
「だって、日本は、東京タワーがあるだけだもんね」
五番街を歩きながら、葉月が
「ねえ、ねえ、今頃亜理紗チーフ、初恋の人に逢ってるかなあ、幼稚園からずっと愛し続けてるなんて、これって凄すぎだよねえ」
「ああ、信じらんない、この話出来すぎだよね」
といずみは驚いているようだった。葉月が、
「私たち、誰もいないし、ニューヨークはじめてだし、あんたと二人なんて、もう最悪」、
「何それ、葉月」
葉月は、
「ごめんね、いずみ」
と謝った。とにかく二人はキャビン・アテンダントとして同期生で、互いに喧嘩しながらもまるで一卵性双生児のようにきってもきれないほど仲が良かったのである。いずみが、
「だって、あたしたち二回目の国際線乗務でしょう。ニューヨークはじめてだし、居なくて当然じゃない?」
「高梨チーフって、航空会社入ってもう十年目よ、いつまでも一人じゃ」 
「あたしたちって、まだ二年目だし、若いんだし、これからってことよ」、
葉月が急に、
「ああ、あたしはこれから雲の上1万メートルでのどんなお方との出会いが待っているか、わくわくしてきた」
いずみは、
「あんたってすぐそれだからお調子者」
とあきれてしまいちょっとにらんだ。葉月が
「ところで折角ニューヨーク来たんだから自由の女神観光ってどう」
葉月のこの提案に対していずみが早速、
「あたし、ソーホーとかワシントンスクエアに行きたいし」
と反対をする。
(いずみは何であたしの言うこと聞かないんだろう。)
そう思いながら
「チョっ、待ってよ、あんた年上の言うこと聞かないの」
葉月は
「年上って何よ、あんたはあたしより半年上じゃないの」
と切り替えした。たしかにいずみと葉月は同期生でもいずみは葉月に比べても二月生まれで半年上だった。いずみは
「いいの、あたしはあんたをこうなったら引っ張っていくから」
と葉月のジャケットを捕まえて歩き出した。いずみが
「痛いじゃない」、
「チョっ、待って、ねえ、コイン投げて裏出たら・・ソーホーとか」、
「裏出たら自由の女神」。
いずみと葉月は、正面が高いビルで左右が複合ビルに囲まれたロックフェラーセンターの広場で立ち止まった。いずみは、
「公平に五回勝負ってどう?」葉月は、、
「いい?あたしからね」
20ドルコインを大空に向かって投げた。コインはくるくる舞いながらいずみの手に落ちる。コインが表であることを確かめ
「やったあ、表、自由の女神」
葉月が負けずに
「今度はあたし」
コインを空にほうり投げた。コインは落ちて裏を指していた。
「ほら、裏だよ、っていうことはソーホー」
「2対2かよ、よおし勝負」
いずみは、力一杯コインをほうり投げる。
コインは陽にあたってきらきらしながら落ちてきて表だった。
「やったあ、決まった。葉月」
いずみは微笑みながら
「行こう」
「わかったあ」
二人は、タクシーを拾って仲良くバッテリーパークに向かって行った。
ハドソン川の袂にある観光船の発着場のバッテリー・パークにやってきた。
フェリー乗り場には自由の女神観光を楽しもうとする人が詰め掛けていて長蛇の列を作っていた。その時、直ぐ後にいた若い外人に声を掛けられた。
「エクスキューズ・ミー・ウエン・ディッド・ユー。アゴー?」
二人はびっくりしたが、葉月が
「ねえ、あたしと歩くといいことあるでしょう。つきを呼ぶ女なの」
「いい加減にしなさいよ、ウイ・アー・カミング・フロム・トウキョウ・ジャパン」
(私たちは東京から来ました)
とまず初対面の挨拶をした。青年は、いずみの話を興味ありげな表情で聞いていたが、
「私の名前はサム。ケーシーです。私は東京・京都・横浜・箱根に二年前に行きました」
親しみ気に話しかけてきた。葉月は、
「イズ・イット・トルー・アイム・サプライズ」(それは本当、私は、信じらんない)
とわざと両手を拡げて肩をすくめてアメリカ人がよくやる格好をしておどけて見せた。いずみはもうなんとも言えず、葉月って可愛いいと思った。葉月はキャビン・アテンダントとしては小柄だったがキュートで愛くるしく誰からも好かれていた。いずみは、サムがいきなり日本語で応えてきたので二人はびっくりした。
「サムさん、日本の印象どうでしたか?」
「ああ日本は近代的で日本の人とても親切でした。フジヤマ・サクラ・シンカンセン・の国で有名です」
「私の名前は伊東葉月です。日本に居られる間にさくら見ました」
あなたはサクラといいましたが、日本で見ましたか?」と聞いた。サムはそれを聞いて笑いながら
「私、日本で見ました。アメリカでは、ワシントンにあります」
「私の名前は後藤いずみです。私は日本の印象はたしかに富士山・さくら・新幹線と思います)
「あの、白い雪の富士山あります、その下にさくら咲いていて日本の伝統的な美しさがあります。その下を新幹線が通ると全然違うイメージになります」
「はっ、サムさん、」
二人は、サムのいってることが理解できないようだ。
「つまり、日本の国、古い伝統と新しい近代的なものが見事に溶け合っています」
「サムさん、日本語お上手ねえ、あたしたちもいろんな世界の国の人に逢って本当の日本を知ってもらわないとねえ」
サムが、
「あなたたち、なんのお仕事してますか?」
葉月は、サムのアクセントにつられておどけて見せた。
「オー・ワタシタチデスカ・アー・キョクトウ・コウクウノ・キャビン・アテンダントデス」
サムは、
「イッッ・ワンダフル・いつか・あなたたちに会えるかも知れませんね」
と言って二人に興味を示した。
葉月は、丁寧に
「そのときはどうぞよろしくおねがいします」
いずみは
「サムさんはなにをされてるんですか」
「おお、私ですか?ニューヨークの・大学院居ます」
「それで日本語うまいんだ」
とイズミは感心してサムを見つめた。長蛇の列は三人が話している間に進んで葉月といずみ、サムは観光フェリーのステップを踏んで船中の客となった。サムは
「ああ、よろしかったら自由の女神の観光、私が案内します」
二人は
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
とサムに丁寧にお辞儀した。サムは
「えっ・なんて言いました?ふつつかもの、ごめんなさい・二日も一緒出来ません」
葉月とイズミは、
「サムさん、日本では、至らないもの、ええとなんていえばいいかなあ、サムさんわかるかなあ、つまらないものですがって言う意味よ」
「ああ、そうですか、二日案内かと思いました」

船から見るマンハッタンはレンガ・白・黒・青・灰色のさまざまな超高層ビルが折り重なってハドソン川まで迫り壮観だった。青空にかもめが舞い、船が進む度に白い一筋の小さな波が出来て海すれすれにかもめが降りて来るのだった。二人はサムの側に寄り添ってその光景を眺めていた。
その時、いずみが出来たと声をあげた。いずみは、また葉月のお茶目が始まったよ、いずみは得意げに
「葉月、できたよ、言うね、摩天楼 離れ行く船 いま君の 腕に抱かれ われは幸せ」
と短歌を披露した。葉月は、
「気になるなあ、で君のって誰よ」
「もちろんサムさんよ、であんたは居ないの」
葉月はあんたは居ない、自分だけと言ういずみに少しむっとして
「何それ、あんたはいい気になって」
葉月はいずみに掴み掛かろうとした。サムが仲に入って
「まあ、まあ二人とも喧嘩しないで下さい」
と止めた。二人はいつも言い合っているもののふざけているだけで喧嘩しているわけではなかった。
サムに
「どうもすいません」
二人は神妙に頭を下げた。二十分位の船旅は、3人で話しているうちに、、自由の女神像のあるアイランド島に着いた。さすがに目の前に女神像が迫っていて、葉月といずみは思わず、
「ああ、高いっ」
と叫んだ。サムが
「この・女神像は一八七六年・アメリカの独立百周年記念としてフランス人からの国際的友情の印として贈られたものです。高さは、約百五十一フィートあります」
サムの説明を聞いて、葉月は女神像の冠に関心があるらしく、左手で指を指して、
「そうなんだ、サムさん、あそこの冠まで登れるって聞きましたが?」
サムが
「登れますがエレベーターありません」
驚いている葉月に
「あそこの台座迄エレベーター出てはいますが階段は一階からで。螺旋階段です。・あの・冠の尖っている所は七つの大陸と7つの海に自由が拡がっていくことを意味しています」
「ずいぶん詳しいのね、サムさんと一緒で良かった。ねえ、葉月、あたしたち」、
「本当」
うなずきながら、
「ところで、あの自由の女神が左手に持っている本はなんて書いてあるんですか?」
葉月は本のようなものに関心を持っていたサムは、
「ああ、あれですか、本に見えるけどあれはアメリカが七月四日の独立宣言書でローマ字で刻んだ銘板です」、
「そうなんだ、本と思ってました。本だったら重くって自由の女神可哀想」
葉月は優しく言った。いずみはそういう葉月って可愛いと思った。
「上まで早く登りたいよ、ああ早く景色見た~い」
「一寸、あんた子供みた~い」
葉月はいずみにたしなめられた。一階の女神のトローチ(灯火)が二人を迎えてくれ一段と女神像を支える周りが鉄骨でごつごつした真ん中に人二人がやっと登れる螺旋階段を登りはじめた。階段はずっと上まで人が閊えていて急勾配だった。列はなかなか進まないうち一時間ほど時が経ち、やっとの思いで展望台にたどり着いたが頭がつかえるほどの狭いところだった。
「ここが女神の王冠の展望台です。ここは三十人しか入れません」
サムは指を指した。展望塔の窓によっては、女神像の腕が視界を妨げるところもあったが
ある窓からは前面が広がって北側は、ダウンタウンの摩天楼、見渡すとブルックリンからベラザノ橋、スタッテン島など遠くの眺望が見えて、
、「すご~い、登ってよかった」
葉月、いずみは、驚嘆した。素晴らしい展望台の景観も後ろに人が控えているので早々に下りねばならず、螺旋階段を下りて三人は、小さな広場でコーヒーを手にして休んだ。
「ねええ、、サムさん、大学院で何を研究してるんですか?」
「ああ・僕は日本語の研究してます。歌舞伎とかも好きですよ」
「えっ、ほんとに歌舞伎とかって私たちにもよくわからないよね」
「日本語がお上手だと思ったらそうだったんですか?」
二人は、目を丸くして驚いた。
「日本のことばは、とてもきれいですね。英語にない優雅さとか、わびとか、さびとか」
「サムさんからそんなことば聞くとは」
日本人がとうに失ってしまった日本語の美しさをサムさんは持っているのだと思った。
「日本語、好きですが、あなた達、若い人のことばよくわかりません」
いずみは、突然言われて
「はっ」
と驚いた。サムは、
「たとえば、やばっとか、っていうか、とかそうそう、みたいな・まだまだありますよ」
「サムさんが美しい日本語使っているのに、日本人のワタシたちが変な言葉じゃねえ」
と改めて感慨深げに言うと、サムは、
「でも、今の若い人の言葉感性あってそれもいいですよ」
と、ともすれば、若者風の言葉は、軽薄とか、日本語を知らない若者と批判される中で、理解を示してくれたことがなによりもうれしかった。
二人は、超高層ビルが迫ってくるマンハッタンへの帰りのフェリーの船上で、サムとの別れを名残惜しそうに、余韻をこめて
「ありがとう、サムさん、今日はとても楽しかったです。」
 サムも、また二人の顔を見つめて
「葉月さん、いずみさん、またお会いしましょうね」
 三人は、名詞を交換して再会を約束した。








長編小説第十章・第十一章

2006-05-12 00:35:05 | 小説
第十章 回顧


ニューヨーク・アストリアホテルでは、裕彦と亜理紗は二十年前を振り返った話がまだ続いていた。一枚の裕彦が持ってきた写真から、亜理紗も
「この写真見てたらもう次から次へといろんなこと想い出して、
「あなたとあたしはよくお互いの家に遊びに行きましたっけ」
 二人は、一枚の写真を食い入るように見つめて、
「僕もですよ、幼稚園の途中の坂の曲がり角の海の見える白い洋館の家でした。亜理紗さんの家は」
当時を振り返って、亜理紗の顔を見つめる
「二人でよくままごとしたわ。あたしがあなたの奥さんで、私がコロッケ作ったと言うもんだから、またコロッケかあって言って。喧嘩して」
「あれから・・・・・・ああ20年もたったのかなあ、立派になったなあ、極東航空のスチュワーデスで、・・・・・実は僕、あなたが座席の前を通りかかってユニフォームの名札に高梨って・・・・もう心臓がどきどきして、配られたタオルを僕は落としてしまって」
裕彦は、胸のうちを告げた。
「私もなんです。ギャレーで同じ絵里子さんからブランケットの追加を頼まれて、あなたをご指名よ」
といわれて、亜理紗ははじめて裕彦の名前を言われて驚きの気持ちを明かしたのだった。
裕彦は、
「そうだったんですか。実は僕・・・」
亜理紗に何とかしてあいたいと思い、わざとブランケットを頼もうと・・・・」
と心に思っていた気持ちを話そうとしたのをさえぎるように、亜理紗が
「そうしたら彼女、錦小路裕彦さんて言うの、それを聞いた途端、驚いてクラクラと来て、頭抑えて。同僚の絵里子が手を掴んでくれたの。」
と機内でなにも言わなかった亜理紗が気持ちを伝えたので、裕彦はそれを聞いて納得するのだった。同時に二十年も音信不通で会う手立てもなかった亜理紗が純粋な気持ちを持ち続けてるのを知っていとおしく思うのだった。裕彦は、そういう亜理紗に
「あなたと何とかお話したいとでもほかの乗客に迷惑掛けては」、
「それでブランケットをあたしに持ってきてほしいと頼んだわけ」
一寸詰め寄って裕彦に言った。裕彦は、その時の気持ちを手振りと身振りを交えて
「あなたがブランケットを持ってきたときは、うまく言葉が出なくてやっと、でも人違いって言われたときは」
とため息をつくように
「ああ、もう終わりだなあって思って」
亜理紗は、その時、いかに裕彦が落胆していたかがわかって
「ごめんなさい、機内だと、プライベートな、お客様との間は・・・距離を置いてってといわれていて」
いろいろ事情があることを優しく説明するのだった。裕彦は、
「でも、夕食のパンの下にあなたのメモがあった時、もううれしくって」
顔をほころばせて亜理紗にうれしさを伝えた。裕彦と亜理紗は、次第に打ち解けて二十年の二人の空白を埋めるようにお互い努力した。しばし、二人は黙っていたが、亜理紗は自分がキャビンアテンダントの制服のままだったので
「ごめんなさい、着替えて来るわ」
裕彦の元を去った。
しばらくして亜理紗が戻ってきた。
「ごめんなさい。席を外して」
亜理紗は上品なオリーブグリーンのシャネルスーツの下ににピンクのブラウスを着ていた。
「亜理紗さん、なに着ても素敵です」
「ありがとう、裕彦さん」
「そうそう、音楽のテストで亜理紗さんの家に言ったのを覚えている?」
「ああ、あたしがピアノ弾いて、あなたが歌ったのを」
亜理紗は当時を振り返るように言った。あなたは、
「音楽のテストがあるから困ったなあ」
とあの時言われましたねえ。裕彦は、
「そうなんです」
そうしたら、
「歌ってごらんなさい。あたしがピアノひいてあげるからってそれで僕は歌を歌ったけ。
」伴奏してあげる。ええと♪ここからよ♪」
「♪春の小川はさらさら行くよ、岸のスミレやレンゲの花に、姿やさしく色美しく、咲けよ咲けよとささやきながら」
あなたの歌はうまかったんで、
「裕彦さん、うまいんじゃなあい」
「そんなこと遠おい昔になってしまって」、
亜理紗は、壁を見つめるかのように、
「近くの公園で、あたしブランコ乗って遊んでいたら、あなたの「気をつけて。」といったのにあたし、降りる時膝を怪我して、そしたらあなた、ハンカチを膝に巻いて、おぶって家まで送ってくれて、でもあなたの背中に負ぶわれるの恥ずかしかった」
裕彦は、
「そんなこともあったっけ」
「こうやって亜理紗さんと話していると、本当に愛し合ってるんだよ。だって、幼稚園から小学校のかわいい思い出をずっと、ずっと忘れずに大切にして」
「そう。たしかに、あなたにいつか会えるに違いないと、これまでがんばって来たんだし」
「そういえば、それからだんだん戦争がひどくなってとうとう東京とか横浜にもくるようになって、それでとうとうあなたと別れることに悲しかった」
裕彦は、
「そうだなあ、父が大阪に転勤するものだから」
その時、あたしどう言ったか、覚えているわ。
「戦争が激しくなって敵機も東京や横浜にも来て、あたし心配。裕彦さん、絶対死なないでね」
「亜理紗ちゃん、僕は絶対死なないよ、安心して」
「いつか、日本が勝つまで頑張って、必ず逢いましょうね。あたし、絶対忘れない。約束してくれる」
「僕も絶対死なないよ、中学を出て、軍隊に入っても死なないよ、そして必ず逢おうよと言って、君と約束したよね」
「それで、あなたと指きりげんまんして二人で握手したっけ」
亜理紗は、当時を思い出しながらしみじみと言った。
「アア、あなたとお話していてずいぶん当時を思い出したっけ」
「あの頃の亜理紗さんて日本人形のように可愛かったし、今は美人で長身でなんか眩しいっていう感じで」
亜理紗は、ぷっと吹き出して、
「お世辞言わないでよ、もう、困っちゃう、そういう裕彦さんも立派。」
「アア、僕は鼻は団子鼻で低くて大きくて目は小さいし、美男子だったらもっと目立つ・・・・・・・・・」
「目だつって」
「華やかな演劇の役者とか」
「はっ、本当に、あなたってもう、面白い」
「亜理紗さんのように世界を飛び回っているなんて」
「あなたは何でニューヨークへ」
「コンサルタントで、ある企業のアメリカ進出のことで」
「じゃ、英語パリパリなんだ」
「君ほどじゃないよ、アナウンス聞いてたけどさすがだなあ」
「英語ができないとね、国際線勤務だと」
裕彦はふと、亜理紗の手を見つめた。指になにもはめてないことに気がついた。しかし、同時に、質問をして裕彦が望んでいた答えと違って
「あたし、結婚の約束してます」
といわれたら、それは亜理紗とせっかくやっと会ったのにこれで別れになる。どんな初恋の人でも愛していても、結婚してる人と付き合うことは不倫になると固い気持ちを持っていた。彼女にたずねて、裕彦の気持ちと違うなら、その失望はどんなに大きいかとも思った。その一言を亜理紗にたずねるのも恐ろしいとさえ思った。でも二十年ぶりに逢って、裕彦はすばらしい亜理紗の心の美しさと優しさ、上品さと容姿に惹かれてしまっていた。 亜理紗さんこそ、僕が結婚する人だという気持ちはこうやって逢ってますますその気持ちが高まるのだった。裕彦は、思い切って、
「あの、あの、あ、亜理紗さん、結婚はまだですか?」
亜理紗は、唐突に裕彦から聞かれて
「はっ、そのこと聞くの」
と驚いた。
「ええ、怖いような、でも聞きたいんです、指にリングはめていないので」
亜理紗はすかさず、
「ええ、まだです。あなたは?」
「まだですと言うより、あなたのことずっと考えていたのかも知れません」
とうとう本音を言ってしまったと思った。
亜理紗は、
「うれしいっ、そんなにあたしのこと、考えてくれてるなんて」
心の中で思ったがうまく言葉が出なかった。
















第十一章 五番街

 
亜理紗は、裕彦に、
「ねええ、五番街って東側は、ビジネス街、西側は娯楽中心街になってるの」
「で、亜理紗さんはどっちなの?」
「う~ん、やっぱりファッションとかショッピングとかが多い西側かなあ、あなたは?」
「僕は、両方かなあ、ビジネスの時は東側、遊びは西側かなあ」
「裕彦さん、欲張りじゃない」
亜理紗と裕彦は、歩き疲れてベンチで休んだ。裕彦は、屋台でホットドッグとコーヒーを二つ買って来て、
「亜理紗さん、ここで、少し休息しましょう、お疲れでしょう」
「ありがとう」
ニューヨークのビジネスマンの食事は案外簡単で屋台でほっとドッグとかぷれっつとかパンの類を手にコーヒーを持って食事する人が多く、裕彦もアメリカ人風を見習ったのだった。二人はベンチに腰掛けてパンから大きなソーセージがはみ出ているホットドッグに食らいつき、おいしそうに食べた。
「ニューヨークっていつ来ても活気のある街ですね」
「そう、ここは世界の流行の発信基地であるし、あたしたち航空会社にとっては興味津々のところね。ニューヨークで流行したファッションが二、三ヶ月すると東京に伝わってくるのよね」
「亜理紗さんなんか何十回も来ててもそう感じるんですか?」
「そうなの、ソーホーとかワシントン・ビレッジとか、マンハッタン5番街にないアートとかファッションとか、それが認められると一躍脚光を浴びるのも凄いよねえ」
「なるほどね、僕たちはやはりウオール街の証券・金融動向が気になりますね。
だってアメリカがくしゃみをすると日本は風引くというじゃないですか」
ニューヨークへの見方が航空会社の亜理紗とコンサルタントの裕彦とそれぞれ異なっていても、世界に大きな影響を与えることには変わらないと思うのだった。
「そうかっ、今のアメリカとか日本が繁栄していることを目の当たりに見るとあたしたちの小さい頃の出来事って、・・・・・・本当に無意味と思いません?」
「僕もしみじみと感じます」
「なにか昨日のような感じです。あの頃、僕はカーキ色の洋服で、・・・」
「あたしは白いブラウスに紺のもんぺを履いてました。ところで、裕彦さんの家も爆撃受けて焼けたんですか?」
「実は僕も亜理紗さんと別れて大阪へ行ったでしょう?。それでB29の攻撃で・・・・・」
「えっあなたも。」
「ええ、そうなんですよ、それで母、祖母。僕と弟、母は身ごもってました。」
「それは、裕彦さんも大変だったのね」
「大阪初空襲で」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
しばし、二人は沈黙した。裕彦の脳裏に悪魔のような出来事が走馬灯のようによぎる。
「ある夜、寝ようとしたらラジオが京阪神地区、空襲警報発令と言い出して」
「それで」
「何でも敵B29が百機ほど、大阪、神戸を狙って飛んで来たとかいうことで至急避難してくださいと言われて」
「怖かったでしょうね、裕彦さん」
「ほら、早く家から出て、早く避難して、おばあちゃんを連れて避難するから」
と母がせきたてるように言うんだ」
 裕彦が話すと、亜理紗は自分の家の爆撃を重ね合わせるかのように、一言
「あたしの家も」
「それで、僕は弟の手を引いて外に出たらもう上空に敵B29の音がして、急いで畑の防空壕に避難したんだ」
「あたしもそうよ、横浜で、あなたとおままごとやった大きな防空壕でに」
「母も祖母も来て防空壕に入った途端、空がぱっと明るくなったかと思ったら焼夷弾がパラパラと落ちてきて」
「・・・・・」
「その時は、ドシンズシンとすごい耳を劈く音がして皆、身を寄せ合ったんだ」
「大変だったのね、それで」
「そしたら家がやられて火柱みたいに焔が、その時、焼夷弾のかけらが防空壕に飛び込んで燃えるんだ」
と当時の忌まわしい爆撃の思い出を裕彦は亜理紗に語るのだった。
「母は、その時もう外には出られないかも知れないし覚悟して、死ぬかもしれないからと言ったんだ。
 亜理紗は、少し裕彦の方に寄ってきて心配そうに顔を見つめた。
「それで、僕は、君との約束があったので、亜理紗さん、絶対会おうねと二人で約束したのに会えなくてごめんねと」
 裕彦にそういわれて亜理紗は、胸の詰まる思いがした。
「でも、その時、今、助けますから、自警団の人が来て入り口の焔を消して救ってくれたって言う訳」
「ああ、よかった、裕彦さん可哀想」
 亜理紗は、裕彦がいつも自分のことを忘れないで憶えてくれていたのを聞いて裕彦の肩に顔を寄せた。
「本当に大変な目に会ったのね、お互い戦争で惨惨なひどい目にあったわ」
亜理紗は、一言一言を噛み締めながら話した。
「じゃ、歩こうか」
「うん」
 二人は、手をつないで五番街を歩くのだった。
 世界の有名なブランドが集まっていてショーウインドウも秋の装いを凝らしていて亜理紗は時々目を配りながら五番街を歩いた。黄色く色づいた街路樹の下をときどき超高層ビルのわずかな空間のよくはれた青空を仰ぎ見ながら二人は20年ぶりの再会を喜びながら歩くのだった。
「平和っていいわね、こうしてあなたと二十年振りで会って、今、マンハッタンに居るなんて、裕彦さん」
 亜理紗はしみじみ裕彦に話しかけるのだった。
「おやっ、ここが有名なティファニーの店ですね、映画のオードリー・ヘップバーンの」
「亜理紗さん、入りましょう」
裕彦は、亜理紗の手を引いて中に入った。
二人は、リーズナブルな宝飾コーナーに立ち寄った。
裕彦は、亜理紗とネックレスとかイヤリングを見ていたが、
「キャン・アイ・シー・ジス・ネックレス」
(わたしにこのネックレス見せてもらえますか)
「シュア」(承知しました)
店員が、ショウ・ケースから取り出して見せた。
「安月給ですが・・・・・・・これを亜理紗さんにあげる」
亜理紗は、突然の出来事にとまどい、
「これをあたしに? 裕彦さん、気を遣わないで、悪いわ。こんなものいただけないわ」
「お願いだから受け取って。頼むよ」
何回も亜理紗に手をすり合わせて一生懸命になって頼んだ。
亜理紗は裕彦の好意に、
「あなたの好意、喜んで本当にうれしいっ、昔とちっとも変わらない」
亜理紗は、胸が熱くなった。


「愛は時を超えて」第十二章・第十三章フィナーレ

2006-05-11 23:16:58 | 創作TVドラマシナリオ
第十二章 白い観光馬車


裕彦と亜理紗はゆっくりと五番街を歩くのだった。
いつしか二人はセントラル・パークの入口に着いたのだった。
「あれ、あなたと二人で歩いていたら、いつのまにかセントラル・パークに」
連なった建物がプラダホテルが最後でそこは広大なセントラルパークだった。入口には人待ち顔の白い観光馬車が止まっていた。亜理紗はそれに気がついて、
「ねえ、裕彦さん、あれに乗りません?」
「亜理紗さんとあれに乗れるって幸せだなあ」
白い観光馬車に、裕彦は、亜理紗の手を持って
「はい、どうぞ」
ちょっとすまし顔で
「ありがとう」
と亜理紗は、馬車に乗り、裕彦も続いて乗って、二人は顔を見合わせて微笑んだ。馬車が静かに公園を進むと時折風が吹いて色づいた樹の葉が二人のコートの肩に落ちてきた。広い公園には秋晴れを楽しむかのように、ベンチで仲良く腰掛けている年老いたカップル、芝生に寝転んでいる人、ゆっくりと自転車をこいでいる人、犬を連れて散歩している人、バレーボールを楽しんでいる家族、二人で寄り添っている恋人たちがそこにいた。、馬車は、ゆっくりと進んで回転木馬を見て、赤、黄色に覆われた木々の道を進むと、公園のランドマークにもなっているベセスダの噴水が二人を迎えてくれた。噴水の裏は湖があって夕方が近づいたせいか、ボートを漕ぐ人もなく、静かな水面に紅葉が映えて美しかった。
「ニューヨークの秋ってきれいですね?」
裕彦はあたりを見回しながら、
「特に、ここは周囲の摩天楼のあの高いビルと紅葉は見事にマッチして」
「あなたからいただいたネックレスするわ」
亜理紗は、コートを脱いで膝に置いて、バッグからミラーを取り出してネックレスを首につけた。
「どう、似合う」、
「うん、とても素敵だよ」
裕彦は亜理紗のネックレスを見つめながら
「まるで映画の一シーンを演出しているみたいな」
周りの美しい光景に二人の乗った白い観光馬車は似合った。
「あなたはよくニューヨークへよく来られるのですか」
「これで二回です」
「あたしは35回くらいかなあ」
「うらやましいな」
「まあ、仕事なので北米線を担当して以来多いんです」
亜理紗がそういうと裕彦はだまってうなずいた。
「あなたはまたなんでキャビン・アテンダントに」
裕彦はなぜ亜理紗がそうなったか知りたかった。
「あたしっていろんな人に逢ってお話するのがすごい好きなの。それと戦争で」
亜理紗の話に戦争が出てきたので
「それって、わからないけど」
「ほら、日本がアメリカと戦争したとき、資源が豊富なアメリカと、何もない日本と、相手がわからなくてただ勝つ勝つって言ってたでしょう?。結局負けて」
「それでって」
「もう、二度と戦争はいやだと、もっとそれには世界の人と交わらないと。そうすれば視野が拡がってあんな過ち繰り返さないと」
亜理紗は身振りを交え熱っぽく語るのだった。
「すごいんだなあ、亜理紗さんて」
「あなたはなんで今の仕事を」
「ああ、僕の仕事、そうだなあ、まあコンサルタントしてるんだけど、土地があってそこに何を作るとか、広さとか、場所の立地性とか、競合状況とか、採算が合うかとか、そういうことを分析して、今回は日本のある企業がアメリカに販売網を広げるための調査とか」
「それって素敵な仕事じゃないの、もっと自信持って、コンサルタントって、あたしの会社にもいるわ」
「でも、君のそのキャビン・アテンダントと違って地味で一生懸命やっても実際には誰にも知られない地味な仕事なんだ」
「私だって、そりゃはたから見ればかっこよくてすごい目立つけど、泣きたいときも、お客様にいつも笑顔で接して、疲れて孤独で、その上時差にも襲われるし、大変よ」
「でも、機内の亜理紗さんてすごいかっこいいよ。特に、そう亜理紗さんがあの新人のキャビン・アテンダント、ええと、葉月さん、いずみさんの二人を怒ってるとこなんて何か、近づきにくいって感じで」
裕彦は亜理紗がどう答えるかなと思った。
「まあ、見てたのね、名前まで知ってんの、いやだあ、もう」
と亜理紗は裕彦の靴を踏んだ。
「痛っ、亜理紗さん」
亜理紗は笑って、
「ごめんなさい、裕彦さん」
「あのねえ、この頃の新人、ギャルっていうか、価値観違って難しいよ、なにか頼んでもどうしてですか、なぜかって、私なんかすぐに、はいと言って先輩の言うこと聞いたわ」
「亜理紗さんでも難しいことあるの」
「でもって何よ、あたし新人二人にからかわれて本当に苦手なの、まあ、仕事は一生懸命やるんであまりいえないけど」
「たしかに、僕の会社でも今日は用事があるのでお先に帰らせてくださいとか言われて、
この間なんか偶然逢って、彼女とデートとかしたりしていて、結局、彼の分迄仕事背負っちゃうんだよ」
 裕彦は、馬車に一緒に乗っている隣の亜理紗になんとも言えない親近感が次第に感じられるのだった。それは、固い大きな氷が少しずつ溶けて行くように、緩やかではあるが確実に親近感が増してあきていることを歓んでいた。
「亜理紗さん、ところで趣味は何ですか」
「はっ、私、ええと音楽を聴くこととか、私。ピアノ弾くのよ、クラシックはもちろん、ポピュラーbミュージック、ラテンとか、あと絵を書くとか、旅行とか、料理もやるんだけど今いち、あと体育会系だとテニスとか」
亜理紗は白い歯を見せて微笑んで応えた。
「随分、活動的だなあ、僕も音楽が大好きで、クラシック・ジャズ・ラテン・ポピュラー・歌謡曲、何でも、でも特に最近は、そう、ポピュラー、フランクシナトラの歌とかボサノバとかサンバのピアノ曲、とか」
「裕彦さんと一緒にやってみたい、昔のように」
「亜理紗さん、小さいとき、音楽のテストで困ってるとき、ピアノ弾いてくれたもんな、あの頃から
うまかったよ」
「あなたと同じ趣味でよかった」
「亜理紗さんのピアノでもう一度歌いたいなあ、フランクシナトラの歌とか」
「それ今度やりましょうよ、私の家で」
裕彦も亜理紗もこの頃になると二十年の空洞のような想いはまったく拭い去られてもう友達のような親しみをおたがい感じるのだった。裕彦は、亜理紗と話しながらも時折秋のセントラルパークの風景に目をやりながら
「本当にきれいだなあ、亜理紗さんとの思い出ずうっと覚えておくよ」
やがて大きな貯水池が見えてきた。
「この先の北は、樹もこんもり茂っててリスとか野うさぎもいるんだけど、ここから先は人もいない危険区域になるの」
馬車はUターンして元来た道に戻って行った。

第十三章 フィナーレ


馬車がセントラル・パークを一周して周辺の摩天楼の灯りが点きはじめ、時間を追うごとに増えてきて二人を美しく飾る。二人は白い観光馬車を降りた。
「裕彦さん、お食事しましょう、今度は私におごらせて」
二人は、セントラルパーク脇にあるホテルのレストランに消えていった。
「楽しかったわ、裕彦、でもあたしとあなたの二十年の空白埋まらないし」
とホテルを出てくるなり亜理紗は言った。
「僕もです」
外はすっかり夜のとばりが降りていて超高層ビルの灯りが降り注ぐように迫り、赤・青・白・黄などの色のネオンがまたたいてニューヨークの夜を魅了させた。二人にとっては、戦争で時間が止まり、二十年というその空白を埋めるのにお昼過ぎに逢ったのに今まで話しても時間が足らなかったのである。
「私、十時までにホテルに帰らないと。まだ少し時間あるし」
裕彦が
「僕の願い聞いてくれる」
「えっ、でなに」
「僕はまだエンパイア・ステートビルに行ったことないんだ。」
「なあ~んだ。そんなことやさしいことよ。あたし案内してあげるから」
五番街の通りに出て、タクシーを拾った。裕彦と亜理紗は通りががりのイエローキャブ(タクシー)を拾い、タクシーを捕まえた。亜理紗が
「エンパイア・ステートビル・プリーズ」
七時を過ぎても車は一杯で、赤いテールライトがどこまでも続いていた。タクシーは、脇の車や大型バスを抜いたり抜かれたりしてエンパイアステートビルに向けて止まっては走った。
ドライバーがFMラジオのスイッチを入れた。グレンミラーのジャズミュージックが流れて、「ムーンライトセレナード」に変わった。亜理紗が、
「ニューヨークでこの曲を聞くなんて、ロマンチックでいい感じ、ねえ、裕彦」
亜理紗のことばからいつの間にか、さんという敬称が消えていた。
「もうじきよ、エンパイアーステートビルの屋上に近く赤と黄色のイルミネーションが見えるでしょう。あの色ときどき変わるの、秋は黄と赤なの」
亜理紗はタクシーの中でさえ指を指して丁寧に説明するのを見て、優しさや気遣いが裕彦にはうれしく感じたのだった。タクシーを降りて正面に立つと
「ひゃ~、やっぱ高いビルだ」
エンパイア・ステートビルの入り口に立って見上げてる。
「このビルの高さは、・・・・ええと四百四十メートルで・・・・・・百二階の高さなの」
「今のところは世界一なんだよね」
世界は超高層ビルの到来を迎えようとしていた。ニューヨークでも、シカゴでも、また東京でも超高層ビル建設構想が持ち上がっていたからである。二人は展望台に続く入口を入った。夜八時を過ぎても土曜日のせいか意外に多いことからも人気が伺い知れる。
裕彦は、亜理紗の手をそっと掴んで亜理紗も手を伸ばし二人は手をつないで歩くのだった。
「このビルって年中無休、しかも午前零時までよ」
「すご~い、さすが世界一のビルだなあ」
大理石の床は亜理紗の履いているハイヒールの音がコンコンと音をさせて反響する。。
二人はゆっくり歩きながら、
亜理紗は、巨大なビルの正面のレリーフを指差しながら、
「当時流行したアールデコ調の建物で左右対称の外観をしていて何でも建築構造が簡単だったので十日間の間に十四階も一気に工事が進んだそうよ。」
「すごいんだなあ、亜理紗は記憶がいいんだなあ」
裕彦も親しみをもってさんをはずした。親しさがいっそう増してきて、亜理紗の詳しい説明に驚いていた。
「会社の案内センターが5番街にあって、たまにお客様を案内するのでガイドの知識も必要なの」
「若し、僕一人でここに来たら、きっとわからなかっただろうなあ」
「たしか、エレベーターは62台で、屋上まで登るには途中で乗り換えないとダメなの」
裕彦は亜理紗の丁寧な説明に驚き、
「ずいぶん詳しいんだなあ、僕は仕事でニューヨークに来て、すぐ帰るんだけど、ゆっくり見るわけいかなくて、今度も仕事でボストン・フィラデルフィアとか」
「いいじゃない、アメリカの違う点見られて」
「それがねえ、倉庫とか、トラックターミナルとか」
「そうそう、このエスカレーターで二階に行って、そこがチケット売り場なの」
二人はチケットを買って、世界一高いエンパイア・ステートビル屋上展望台に登った。
エンパイア・ステートビルの屋上。
「百二階の屋上はさすがに高く、裕彦は高所恐怖症だった。亜理紗はさっさと歩いていくのに屋上に出たとたん及び腰になってしまう。
「わっ、高っ、膝ががくがく、僕、高所恐怖症、亜理紗」、
「はっ、あなたが」
亜理紗は振り返り、裕彦の側に来て、
「あたしが、裕彦、ほら」
裕彦の手を掴んだ。
「亜理紗、ごめん」、
「ほら、見て、皆笑ってるじゃないの」
「だ、だめなんだ、86階の展望台から下を見ると、身体がすいこまされそうで」
「意気地なし、そのうち慣れるわよ」
亜理紗は思わず言った。
「や、やっぱ、超怖いけど、きれいだなあ、すごい」
裕彦は展望台の柱に捕まり、恐る恐る下を見下ろした。
「ええと、南側は、ローアーマンハッタンっていって遠くのスタッテン島迄きれいでしょう。小さいけど右側に自由の女神がなんとかみえるでしょう」
「うん、あれが自由の女神かあ、近くはビルが低いけど遠くに超高層ビルがあって、スタッテン島迄きれいだ、」
「一寸、こっち来てごらんなさい、南東方向の左側の遠くにブルックリンブリッジが見えるでしょう」
「う~ん、見えるよ、きれいだなあ、橋の形が白いイルミネーションで」
「こっちが北側なの、ミドルマンハッタンでほら超高層ビルが集まってきれいでしょう」
「ニューヨークは、ダイアモンドをちりばめたというのはこのことなんだ」
「この辺はマンハッタンのビルが集中していて直ぐ側のクライスラービルが白く光ってきれい、」
その左のほら細長いビルがパンナムビルなの、」
「知ってる、パンナムといえばTVの兼高かおるの」
「そうなの、あと、遥かかなたの平らなところがセントラルパークなの」
 そう亜理紗の説明を聞いて裕彦は、さっきまで白い観光馬車に乗っていたことを想い出していた。
「裕彦、自由の女神はどっちの方向向いてると思う」
亜理紗は、クイズをとっさに思いついた。
「そりゃ、たしか1874年アメリカ独立百周年を記念して、フランスから送られたので、当然、フランスでしょう」
「ブー、残念。ニューヨーク港の方を向いてるの」
裕彦は、一生懸命に親切に案内してくれる亜理紗を見て胸がこみあげてくるものを感じた。感きわまって、
「亜理紗、遅くまで僕のためにこんなに親切にしてくれて、昔とちっとも変わっていない」
と思わず裕彦は涙ぐんだ。
「私も、・・・・・こうして二十年間ずっと待ち続けていたあなたが、いまそこに」
「亜理紗、僕はどんなにか君がきっといつか現れるだろうと待って・・・・・
・・・待って・・・・・どんなにか待ち続けたことか、僕にとって世界で一番のもうあなたを放さない・・・・あなたを」
亜理紗に近づき抱きしめた。
「待って、待ち続けた二十年の空白が今、あなたとこうして亜理紗愛しています」
「私も、裕彦、二十年前から、あなたが好きでした。今こうして・・・・・ここであなたに逢って、今ここにいるなんて、亜理紗は、裕彦を心から愛しています。これからはずっと一緒に」
亜理紗と裕彦はずっと抱き合っているのだった。亜理紗は、次第に涙がこみ上げてきて泣くのだった。
                          (完)

長編小説「ホテルの恋人たち」①

2006-05-03 14:56:31 | 小説
僕の創作TVドラマシナリオ「ホテルの恋人たち」は以前ホテルの仕事を経験しましたのでそれをもとに巨大ホテルでホテルマンとして成長していく3組の恋人たちを描きましたがこれはもの書きとしての処女作です。
ゆりかもめモノレールの車内
春の朝のうららかな朝、奈央子は眠り込んでる奈央子電車とまり、目を覚ました奈央子、急いでドアに、ドアが閉まる、あわてる奈央子
奈央子「あっ、いけない、これじゃ、最初から遅刻だわ」
流れていく車窓をじっと見ている奈央子
奈央子「本当にもう」(低い声で)次ぎの駅に到着、ドアが開く
急いでホームへ
向かい側ホーム
新橋行きモノレールが到着、気ぜわしく乗る。ドアが閉まり奈央子の赤いハンドバック挟まれる。
モノレールの車内
あせる奈央子、ドアの赤いハンドバッグを取るために両手でドアの隙間に手を入れながら
奈央子「「あっ取れない、どうしよう」が緩衝装置が作動して少し開きそうになった 急いで赤いバッグの紐を引いた。
 「ああ、よかった。紐が取れたらあたしママにしかられちゃうよ」
 国際センター駅に着いてドアが開いたとたん、彼女はかけだしてエスカレーターを降りてホテルに通じる街路樹のある通りに出た。
 同じ頃に深川洋一郎は東京臨海鉄道に乗っていた。
 学生時代から英語が得意だった。それで英語が行かせる分野でということで四菱商事に学校推薦を受けて入社して英語力を買われて部長、役員と随行し相手と交渉のため通訳を行っていたが、あるとき人事異動で社長室に移動してからというもの英語を使う機会を失っていた。
 洋一郎は大きな組織のひとつの歯車で働くように、英語をフルに発揮して人と人のつながりやぬくもりを感じながら働くほうが自分には向いているのではないかと登録していた人材センターからの斡旋でセントラルホテルに入社が決まったのだった。
 洋一郎の家族は入社を喜んでくれて昨夜ははしゃぎすぎて今朝寝坊することになってしまった。
「国際センター」駅に着くや否や洋一郎は脱兎のように地下エスカレーターを駆け上がり道路に出た。
 「俺ってどうしてこうなんだ、大切な人生の出発の時にうっかりして遅刻するなんて」
 駆けながらつぶやいた。
 奈央子もまた洋一郎の前を駆けていた。その時ケータイの着信音が周囲に響き亘った。
 「何で、こんな時に」
 そう云いつつバッグからケータイを取り出して見ると親友ゆっこからだった。
「ああ、奈央子、ねえ今日暇だったらデパート行かない?春のファンションセールが30%OFFよ」
「ねええ、あたし今忙しいの、またね、じゃあ」
 そう云ってケータイの電源を切ろうとした時だった。手にしていたケータイをポロリと落としてしまった。
 洋一郎は、
道路に落としてしまったオレンジ色のケータイを拾い、
「もしもしケータイが落ちていますよ」
 奈央子はその声に走っていた足を止め、
「ああ、どうもすいません」
そういって洋一郎の方を振り向いて側に来て持っていたオレンジ色のケータイを受け取って、
「じゃ、あたし急いでいますから」
と言いながら走って行こうとしたが立ち止まり後ろを振り向いて、
「ところであなたのお名前は?」
「深川洋一郎と云います」
「大切なケータイを拾ってくださって、・・お礼を」
奈央子にそういわれても気持ちは落ち着かなかった。
「お礼なんて、当然のことしたまでで」
洋一郎は突然女性から聞かれて一瞬とまどったものの
「この人悪い人じゃないし」
と思いながらどこか高校時代の初恋の人に似てるなあと思いながら電話番語を教えた。
「どうも、夜改めて、失礼します」
と言って女性は走り去って行った。
洋一郎も右側の曲がり角を曲がってホテルに向かって走った。
走りながら
「あの人が僕の高校時代のずっと会いたかった初恋の人に似ているし」
と思いながら
「まさか、そんな馬鹿な」
と考えを打ち消すようにしてホテルの正面に着いた。
ふと見るとさっきの女性もホテルの正面のドアを開けて中に入った。
奈央子は
「わっすご~いホテルだよ」
と云った。
目の前には大理石の床・広々とした空間に滝のある噴水、ギリシャ彫刻風の柱、モニュメント、吹き抜けの天井とシースルーエレベーター、1階から3階までのテナントの店舗をつなぐ螺旋階段、壁のきれいなモザイク絵画など、望んでいたホテルだった。
それもそのはずであった。
東京のお台場一帯は発展を遂げてすでにホテルが建てられてホテル間の競争は激化しつつあった。
いろいろな商業、アミューズメント、放送施設がすでに開業しており都心までわずか20分という地の利のよさが最近はアパート・マンションなどがどんどん建てられてかなりの定住人口が確保できることが予想された。
一番後発のセントラルホテル800室の収容客にふさわしく複合施設を有するホテルだった。
「いいなあ、こんなホテルで働きたかったよ。あたし」
奈央子は立ち止まりフロントの制服姿の自分を瞑想していた。
ふと、われに返るとそばにさっきの青年がいた。
「あっ、あなたはさきほどの」
「はっ、あなたはさっきケータイを拾ってくださった方ですね、上野奈央子といいます。この新しいホテルに勤めることになって、研修の最初の日なんで」
「いや、驚きました。実は僕も深川洋一郎です。」
「とにかく急ぎましょうよ、もうはじまってるし」
「だけど、あなたと二人でよかった、怒られ感も二人だと分けあえるし」
 シースルーエレベーターに乗って6階会議室の研修会場に急いだ。
 6階を降りると右側に会議室がありそこがホテル幹部社員の研修会場だった。
 ドアの入り口には机が二つ置かれてホテルの総務の男女の係員がじっとこっちを眺めていた。二人はちょっとバツの悪い顔で少しうつむいて近づいた。
 「どうも遅くなりまして申し訳ありません」と洋一郎が言った。
続いて
 「私も遅くなりました。ごめんなさい」と頭を下げた。
係員は
「お名前は?」
と言って机に置いている社員名簿を見た。
「深川洋一郎と申します」
「上野奈央子でございます」
係員は名簿を見ながら二人の名前にチェックを入れたあと、
「今日はまあかまいませんが、ホテルは24時間お客様のサービスを行うところですから明日は遅れず」にいらっしてください」
と言って脇にあった分厚い研修用のテキストを揃えて
「これがテキストです」
と言って二人に渡した。
「どうぞ、このドアを開けて中にお入りください」
遅刻したことを許してくれたので二人はほっとしてドアを開けて部屋の中に入った。
研修センターではちょうどホテル社長の挨拶が行われているところだった。
 静まり返った部屋の中にドアを開ける音がして研修生が振り返り二人は冷たい視線を浴びた。
二人は目線をそらすかのようにして腰を屈めて一番後ろの空席に腰を下ろした。
 「で、ありますから21世紀の新しい時代にふさわしい24時間シティーコミュニケーションホテルを担われるみなさまには当社として大きな期待を持っております。今回日本ではじめて外国籍の方を7名も採用いたしましたのも国際化時代にふさわしく門戸を世界に開放したからにほかなりません。
 すなわち、アメリカ2名、中国2名、フランス1名、韓国1名、イギリス1名
計7名・・・・・」
 では、このホテルの企画から設計・建設に携わりました太陽建設の事業コンサルタントの・・・・・」
コンサルタントの大泉重雄が指示すると正面の大型液晶画面を総務の女子社員が操作をして同時にブラインドが下ろされて部屋が暗くなった。
「皆様がこれからお仕事をされるホテルについてパネルでご説明いたします」
パネルNO1. 
東京都中央区台場1丁目、再開発用地
基本コンセプト
泊まる、安らぐ・・・・・・・・東京セントラルホテル
鍛える、見る・・・・・・・・・併設スポーツクラブ
選ぶ、楽しむ・・・・・・・・・SC SERIENA
パネルNO2
特色ある施設、360度シネスクリーン ワンダフルとうきょう
東京、横浜周辺の迫力ある光景(日本ではじめて)
常設館
パネルNO3
階層構成
32F展望ラウンジ
31F客室
客室
客室
客室
8F 客室
7F 大・中宴会場、
6F 結婚式場、フォト・スタジオ、フラワー・ショップ キッズルーム
貸衣装、理容室、美容室
5F 中・小宴会場・兼会議室、
4Fレストラン、コーヒー・ショップ、ミーティング・ルーム、クリニック
3Fショップ部門、
2F ショップ部門 
1F吹き抜けロビー、フロント、ガイドセンター、銀行、郵便局 ビジネス・センター、
B1駐車場
B2駐車場、 機械室、 カラオケ、地下BAR
ホテル部門  総室数 800室
ロイヤル・スイートルーム、スイート・ルーム、ツインルーム、シングル・ルーム。
各室、インターネット、液晶多目的TV、冷蔵庫、BGM、
FM装置、空調装置、電話、バス、洗面所、
大宴会場 800人収容、小宴会場、会議室、控え室
結婚式場、フォートスタジオ、美容室、理容室
郵便局、両替交換所、コンビニ店、案内所、フラワーショップ、バー、レストラン。
ショップアーケード。
パネルNO5  開発による相乗効果
台場周辺の住宅開発による定住人口の確保
住民の利便性の増大
ホテル利用者、定住者の健康促進
周辺ホテルとの協力、国内、海外宿泊客需要に対応
ベイエリア全体の経済効果
パネルのわかりやすいコンサルタント大泉の説明に研修生たち、静かに聴きいっていた。

 午前中の研修が終わって皆総務係から配られたお弁当を食べていたが、研修から開放されて誰言うことなくホテルの34階の展望室に上がった。
 昼休みの屋上展望等から見る光景は素晴らしかった。
 東はレインブリッジを挟んで品川・新橋・汐留・霞ヶ関から遠く新宿の超高層ビルまでが春霞にかすんで見えた。
 西は台場一帯、晴海から近くは築地・銀座まで一望のもとに収められた。
 滝沢が隣に居る女性の研修生に声をかけた。
「ここから見る景色はすごいなあ、だって東京タワーから新宿まで見えるし」
 「本当、東京タワーが小さく見えるよ」
 井上麻美が答えた。
「ところで、あなたは何でこのホテルを志望したの?」
「あっ、俺?・・・なんでって大した理由はないし」
とこれから研修生として大事な一歩を踏み出さなければならないときにのんびりした重信の答えを聞いて麻美は、
「ねえ、重信さん、大丈夫なの」
と聞いた。
「あっ、俺?大丈夫って言うか、ホテルは同じサービス業でもかっこいいじゃん、フロント立ってて若い女性に会える機会も多いし」
「はっ、あなた自分の将来決めるのにただ漠然と」
「どっか入って仕事やらなくちゃ、だめもとと思って受けたら入って」
重信は直美の顔を見ながら
「俺って昔からすごい楽天的で、あなたは家はどこ?」
「あっ、あたしのこと、家は関西、父が旅館やってるの」
「何、関西?」
「温泉がどんどん少なくなって、それで将来ホテルをやろうということで」
「そうなんだ、それで家出したってわけか」
「ちょっとあなた、家出って人聞きの悪いこと言わないで、ねえ、あたし父にホテルをやりたいと言ったの、勉強してホテルで成功すれば旅館でもホテルでも宿泊業には代わらないでしょう?」
て父にいってやったのよ。
 「そうしたら、お前のいうことはもっともだ、筋がとおているからなあ」
 「ふーん、それで」
「あたし、アメリカのカリフォルニアのホテル学校に2年間留学したの」
という麻美の話に重信も感心した。
「君ってずいぶん努力家なんだなあ」
「そうよ、何でも一生懸命努力して勝ち取るの」
「俺は学校でサッカーの選手やって何回も優勝させたことがあるんだ。家には
二人のあねごが居て・・・デパートとか喫茶店に付き合わされて」
 「ちょっ、あなた、サッカー選手なんてかっこよくてさ、だけど今聞いているとお姉さんに玩具にされてんじゃない」
麻美は重信の顔を見ながらあきれた顔で云った。
 「そうなんだ、あねご二人に付き合わされて段々酒も飲めなくなってしまって」
と真剣になって
 「ちょっと気の毒みたいな」
と同情をした。
「じゃあ、同僚やスポーツの会合の時とかどうするの」
「そうなんだ、だから皆と飲むときなんかジュースで」
と答える重信を見て
 「あたしんちは反対ね、父の相手をさせられてね・・・少しだけ麻美も飲んで見るかと、二人のお兄さんと一緒にされて」
「はあ、僕のところと君のところはまるっきり反対なんだ」
「これってあなたんちとあたしんちを足して2で割るといいかもね」
「ところでえ・・・ホテルでなにをやりたいの」
「お、俺、フロントでも料理でも、営業でも身体を動かしている仕事したいと思うよ」
「あっ、そう」
「君は」
と訪ねた。
「あたしは料飲レストランでもいいわ。何しろお金になって世界料理まで覚えられたらいいよ」
「すげえ、現実的」
「でもね、企画とか経理とかの事務でもいいわ」
「なんだかあたしとあなた。友達になれそう、正反対がいいのかも」
「うん、俺も」
「じゃ、いい友達で」
「うん」
「あらためてっと、あたし井上麻美よろしくね」
「僕は、長谷川重信っていうんだ、よろしく」
長谷川重信は手を麻美に差し伸べた。麻美も微笑して手を差し伸べ二人は握手をした。
「ちょっと待って、この手をそのままでええと」
「何するの?」
手のひらにサインして
「サインしたからこれを持っていよう」
と言って、重信は手を滑らせ
「じいってコピー」
とコピーの真似をして麻美の手を滑らせた。
「コピーしたからもう大丈夫だ」
「なるほど、コピーね、面白~い」
と感心して云った。
一方奈央子は会社が支給した弁当を食べていた。皆、昼休みでこの部屋を出ていて研修会場は空虚な雰囲気で二人だけになっていた。
食べ終わって
「よかったら32階の喫茶室でお茶しない?」
と洋一郎を誘った。
「そうしようか」
二人は食べ終わった弁当を入り口の脇の箱に置いて通路に出た。
エレベーターに乗り32階で降りた。
奈央子は
「窓際に座ろうよ、船の見えるところがいいわ」
と云ってさきに立って歩きティーサロンルームの中に入り海のよく見える窓際に座った。
「あなたは何でこのホテルを?」
「僕、商社辞めてこのホテルに」
洋一郎がそういうと沙耶香は商社のようなところにいて不思議に思って
「そこを辞めるなんてもったいない」
と言った。
「誰もそういうね」
「そうなの、それで?」
「ところが僕の希望とは違い、まあ部長と中近東に二回出張したりしてよかったんだけど」
「部長さんと中近東2回もいけるなんて、もったいない」
「出張はそれ以来なくて経営管理室に回されて、毎朝、コンピューターで会議のための日報、月間統計表づくりなんだ」
「ずいぶん大変だけど地味な仕事なのね」
「商社って華やかな感じだけど」
「それでもっと人と人とのつながりを求めてホテルに転職したわけ」
「あら、もう時間」
「本当だ、行こうか」
自分にとっては大切なケータイを洋一郎が拾ってくれたことをお礼しなければと思い、
「ところであたしのケータイ拾ってくれた大切な人にお礼しなくちゃ、それにあたしの話も夜聞いてね」
と云った。
洋一郎は
「お礼なんていいよ、ほかの人でも拾ってあげたよ」
とさらりとした気持ちで云った。
奈央子は意外な洋一郎の冷たい反応に
「ああ、そうそりゃそうだけど、あたし想い出のケータイ拾ってくれた人っていってるのに」
と少し怒って見せた。
洋一郎は
「ごめん、いまの言葉取り消すよ」
と素直に謝った。
思い直して、
「ま、いっか。・・・・許してあげる」
と言って二人は仲直りをした。
「私って借りは返さないと気がすまない性分ないの」
「借りはいつでもいいよ、そんなに気を遣わないように」
「そうそうあたしの知っているところでお食事して、ケーキ食べて、ピアノ演奏聴きながら楽しむたりしたところあるの」
「君がそんなに言うなら借りを返してもらおうか」
「あなたが、私が落としたケータイ拾って呉れなければ・・・改めてお礼いうわ。あのケータイ、私にとっては想い出の・・・」
と言葉が詰まる
そういって奈央子の顔を見た。洋一郎の頭には
「この人、心の中で高校時代の初恋の人に似てる」
と気持ちが消えなかった。                         展望台では研修生が思い思いの昼休みを過ごしていたが一人寂しそうな表情で海を眺めている韓国出身のキム・オルソがいた。
奈美は
「ねえ、ここで記念の写真撮らない」
と云って寂しそうな韓国のキムを仲間に加えようと思っていた。
太一は
「おーいっ、写真撮るぞ」
と大声で仲間を集めた。
奈美もさらに
「キムさんもいっしょに撮りましょうよ」
と誘った。
絵里奈も
「いっしょに撮りましょうよ」
といってキムの手を引いて彼も仲間に入れた。
紀夫は
「じゃいい、はいチーズも古いし、1+1はにっつこれも古いし、キムさん、韓国ではこういうときに何ていうんだ」
と彼に肩を持たせたいと思って尋ねた。
キム・オルソは
「韓国じゃ1・2・3のこと、ハナ・トウ・セッツていうんだ」

「OK,それできまり、国際親善で」
紀夫は
「ハナ・トウー・セッ」
キム・オルソも笑ったが写真を撮り終えるとまたさびしそうな顔に戻った。
傍の絵理奈がそれを見て心配そうに彼に尋ねた。
絵理奈は
「ねえ、聞いていいかなあ?あなた一人でさびそうだけど何か心配事でもあるの」
キムは
「絵理奈さん・・・・、僕のことを気遣ってくださってありがとう、カムサハムニダ。実は・・・・ソウルの高校時代の初恋の人がいなくなってその後日本に来てることが・・わかったんです」
絵理奈は
「ああ、そうなの?。ここは日本だからきっとその人に会えるよ、元気出しなさい」
キムは
「どうもありがとうございます」
と絵里奈に丁寧に頭を下げて韓国でよく見せる礼儀正しさを示した。
                               未完 執筆中



長編小説「愛は時を超えて」

2006-05-01 21:34:56 | 小説
誰でも自分が幼稚園・小学校時代に幼馴染の女の子・男の子がいたのではないでしょうか。そこで20年ぶりに二人が20年という時を超えて運命の再会をするとしたらという物語を書いて見たくなりました。きっとこの物語であなた自身の幼い頃の過ぎし日を思い出すことでしょう

第一章  ★旅立ち
第二章  ★ギャレーの仲間たち
第三章  ★運命の出会い
第四章  ★揺れ動く心
第五章  ★亜理紗の償い
第六章  ★ホリデイ
第七章  ★再会       
第八章  ★想い出
第九章  ★新人類の青春
第十章  ★回顧
第十一章  ★五番街
第十二章  ★白い観光馬車
第十三章  ★フィナーレ
★ 印 完成

この物語はフィクションであり、ここに登場する企業名、名前は実在しないものであることをあらかじめ断っておきたい。

第一章 旅立ち

昭和43年、秋も深まってきて、街を行きかう人々にも夏の疲労が消えて、落ちついていた表情を見せていた。
そんなある日、錦小路裕彦は、国際マーケテイング株式会社があるメーカーがアメリカに進出し北米に販売拠点を築くためにコンサルタントとして市場調査を一任されたのだった。
裕彦は、羽田空港国際線出発ロビーではじめて任された会社の未来を左右しかねない大役の仕事に思わず身震いするような気持ちだった。
裕彦は思わず両手を拡げて背伸びして「よおし、やるぞ」と言った。
出発までまだ二時間くらいあったので、公衆電話で電話を掛けようと思った。
「錦小路ですが、ニューヨークに行ってきます」
部下の井上が出てきて、
「主任心配しないでください。まかせてください」という声を聞いて安心した。
電話のそばで
「誰なんだ、えっ錦小路君、僕に貸して」という声がひそかにした。部長が
「錦小路君、大変だろうがしっかり頼むよ。ユナイテッド・デリバリー社と契約するための調査だから、君を信頼しているよ」と一切を裕彦に任していることを改めて感じた。
「部長安心してください、満足な結果得られる調査報告書持って帰りますから。」「身体には気をつけてな、じゃあ。」電話は切れた。
裕彦は三十歳を過ぎて今一番働き盛りを迎えようとしていた。同じ時期に入社した同期生はもうほとんどが結婚し家庭を持っていた。
裕彦の母はいつまでも独身でいることを心配し、いろいろ縁談を持ち込んできた。
もちろん、裕彦もいくつかお見合いをしたが、結局このお見合いはなかったことにしてください、本当にごめんなさいと断ったのだった。
裕彦にはどうしても忘れることのできない想い出があった。
それは太平洋戦争中、幼稚園で知り合った女の子と小学校時代までずっと一緒だった高梨亜理紗を忘れることができなかったのである。
なぜなんだ、幼稚園の聖書劇で一緒に出た女の子を好きになってそれから小学校四年生までずっと一緒に過ごしてきてもう20年たっているのに忘れられないなんて。初恋の人ってこういうものだろうか。
いまだに独身で母に心配掛けて、
「ごめんね」
と謝った。
「皆様にご搭乗便のご案内を申し上げます。極東航空27便、サンフランシスコ径由
ニューヨークケネディー国際空港へお出でのお客様は27便ゲートにお越しください」
17番ゲートを歩くとその先には搭乗機までのリムジンバスが2台横付けされて乗客を待っていた。
同じ頃、ショウアップといわれる出発前の極東航空北米線フライトのチェックが行われチーフキャビンアテンダントの高梨亜理紗もそこにいた。
ショウアップに続くプリブリーフィングがCAたちであり、空港会社内の極東航空のコンピューターの端末チェック、端末を使って搭乗便の乗客数、乗客インフォーメーション、機材、駐機場番号、などをチェックして同乗する七人のキャビン、アテンダントたちの一連の確認だった。
その中に高梨亜理紗がいた。亜理紗は入社11年たっていた。亜理紗は幼いころ戦争の苦難を乗り切ってきた。戦争が終わり平和が戻ると、自らの経験から、結局戦争があるのは、相手の国の人たちの理解が足りないからと思っていた。
海外渡航が自由化されて人々が世界に雄飛するとこれからは世界を飛んで自分の目で世界の人々を確かめてもっとお互いが理解しなければ、それが平和につながるはずだと思っていた。
それで、アメリカの二年間の大学留学から帰国して極東航空のキャビン・アテンダントになった。
それだけに、仕事に掛ける情熱はすさまじいものがあった。
亜理紗と塔乗する新人アテンダントに対する実地トレーニングは、厳しくいつしか亜理紗はキャビンアテンダントたちから鬼の亜理紗といわれ、新人たちは涙をこぼすほどで恐れられていた。
亜理紗もかってキャビン・アテンダントになりたての頃は先輩に叱られその辛さ、厳しさを知っているので早く一人前になってほしいという情熱があった。
そんな仲間たちから恐れられている亜理紗にもさびしさを漂わせることがあった。もちろん、仕事に掛けては優秀で、新人の教育も徹底していて上司からも信頼されていて、チーフキャビンアテンダントまで上り詰めて何ひとつ不自由なことはなかった。
チーフキャビンアテンダントの仕事は時間も不規則で搭乗客のサービスに満面の笑みを浮かべながら、襲ってくる時差との戦いにも耐えて、フライトを終えて空港から全身に疲れが出て制服のままでタクシーで帰宅することもあった。
亜理紗はフライトを終えて会社を出て立派なマンションに戻り、鍵を開けて中に入るとそこには誰もいない空虚な空間が横たわっていた。
亜理紗は壁にもたれて制服も着替えずに身体を少し屈めて「ああっ」とためいきをつき、涙ぐんだ。
「あたし30だよね。ああっ・・・・・・」
と思わずつぶやいた。
亜理紗には、幼稚園、小学校時代に、自分を好きになってくれた男の子、錦小路裕彦がいた。、あんなに小さいときの裕彦の初恋って、あたしより裕彦さんが私を好きなんだから。最初は軽い気持ちで、あたしを好きな男の子が居るのと友達に伝えていたのだが、次第に亜理紗も裕彦への思いが深まっていった。
もちろん、自分はキャビンアテンダントでこのまま仕事をして行く行くは客室部長になれないでもない。会社は実力主義を取り始めていたし亜理紗の仕事ぶりをみなが認めていた。
亜理紗にはいろいろな人たちから縁談の話も沢山あった。それらの話から何回かお見合いした。また同じ会社のクルー、木下機長からも
「僕と結婚してください」
という話もあった。しかし、亜理紗は最後には断ったのだった。
、自分を好きになってくれた人やお見合いをした人を断ったためにいつしか周囲も亜理紗はきっと仕事に生きる人と周囲に思わせるようになり、お見合いの話も途絶えたのだった。
亜理紗は、流行のファッションに身を包み、プラダのバッグを持ってブルガリの腕時計を身につけて街を歩いた。身長1メートル74センチの長身は皆振り返ったが心の中はさびしかった。
「私がいけないんだ。いいお話もあったし、木下機長だって、私を愛してくれてるのに」
と心の中でつぶやいて見た。でも一方では、いくらさびしいからって言っても
「自分が本当に好きだという人に私の愛を差し出したい。どんなにお見合いのいい話があっても自分の心を閉ざして結婚することは自分にとって不幸になるし、相手の人を不幸にもする、そんな偽善的な気持ちで結婚はできない」
と考えていた。

亜理紗はふとわれに帰り
「いけない、いけない、こんなセンチメンタルな気持ちになって、あたしには大切なことがある。」と一筋の涙を拭い気持ちを無理に切り替えた。
極東航空空港会社ではニューヨーク22便の準備のために慌しかった。
化粧室では亜理紗はユニフォーム姿を鏡で見ながら
「ええと一にスマイル、二にスマイルか」
がっつポーズを取って
「あたしはやる、ようしがんばるぞ」
と気合を入れて化粧室を出て行った。
社内の通路を歩いている亜理紗を本多チーフパーサーは見つけて
「高梨さん、ちょっと」
と声を掛けた。
亜理紗は「はっ私?」
と振り向いて本多の顔を見た。
「今日のニューヨーク便だけど、あの新人のCAが二人乗務することになっているの。それで」
亜理紗は、
えっあの新人?新人が乗るとは聞いてましたけど」
といった。
 あの新人とは伊東葉月、後藤いずみだった。二人とも個性が強くなぜですか?どうしてですかと素直さが感じらない新人類として評判になっていた。
「客室部長が高梨君の搭乗機に乗せて厳しくしてもらったほうがいいよと急遽変更になってね」
本多は答えた。
亜理紗はちょっと言いにくいような表情をさせ本多に尋ねた。
「二人とも研修は終わっているし合格はしてるけど頼んだわよ、あなたなら大丈夫だから」
と本多は仕事は一番出来るしと考えていた。
「こんなこと言うと怒られちゃうかなあ、ほらこの頃の子ってこうだから、こうしてねと言ってもわかってますとか、どうしてですか?とか結構こっちの方で後輩に気使うんですよ」
と亜理紗はチーフとしての自覚は持っていたが、最近研修を終えて入ってくる新人CA(キャビンアテンダントの略)は苦手と思っていた。
本多は、
「あなたのいうことわかる、だけど皆、早く一人前になってもらわないと困るの」
「そう思います」
「だから思い切ってびしばしやってちょうだい」
「はい、わかりました」
 亜理紗はうなずいた。
 
客室部に入ると、川崎部長が
「おお、高梨君ご苦労さま、僕の判断で急遽伊東、後藤の新人を二十二便に搭乗させることにしたのだが、鬼の亜理紗君なら大丈夫」
「部長、鬼の亜理紗ってその言葉止めてください」
亜理紗はちょっとふくれっ面した顔でぴょこんと部長にお辞儀して用意していたカートを手にした。
亜理紗は小走りでカートを引いてプリブリーフィング(前の段階でのブリーフィング)の行われる室に向かった。
すでに6人のアテンダント仲間と本多パーサーが待ち構えていた。
「遅れてどうもごめんなさい」
軽くお辞儀して打ち合わせを始めた。
 本多チーフが、
「これから打合わせをします。自己紹介のあと、皆様各自の受け持ち、サービスの内容、各クラス別の乗客数、そのほかキャビン関係で生ずる事柄などをおこないましょう。本日は、伊藤葉月、後藤いずみさんの新人二名を加えて七人のキャビンアテンダントで乗務します。ではまずチーフの高梨さん、秋野さんの順にお願いします。」
亜理紗は、
「高梨亜理紗と申します。私は極東航空入社10年を経ていて31期生です。海外線勤務5年を経過しています。どうぞよろしくお願いいたします」
 次いで、絵里子が口を開いた。
「秋野絵里子と言います。40期生です。どうぞよろしくお願いいたします。国際線乗務経験3年目です。まだフライトしていないところは、ええと、・・南米ブラジルのリオデジャネイロに、ハンガリーのブダペストに、インドのニューデリーに、
ええと・・・それから・・・」
(また、始まったかあ、彼女に話されたら長いよなあ、ようし、この辺で)
亜理紗は、
「はい、次の方」
と言った。
「私の名前は小西優子で62期生で・・・・・」
と次々に自己紹介があって新人二人の番になった。              「伊東葉月と申します。国際線乗務は2回目です。70期生です。どうぞよろしくお願いいたします」
「後藤いずみといいます。同じ70期生で、国際線乗務はこれで二回目です。どうぞよろしくお願いします。私のキャラは明るく、少しそそっかしく、趣味は短歌とか詩をインスタントに・・・・・・」
葉月はいずみの足を軽く自分のヒールで蹴った。あんた、いい加減にしなさいと小さな声で葉月にささやいた。
(ええ、ここにもいたのかよ)
と亜理紗は思いながら、
「折角のお話ですが、搭乗とか忙しいので、今度楽しみに次ぎの方」と言って気がついた。
(わっやばい、次ぎって言ったけど、あたししかいないじゃないか。そそっかしいなあ。)
そう思いながら急にすまし顔を作り、
「ええと、本日ファースト、エコノミーともほぼ満席です。お客様が何を求めているか、注意を払ってクレームが出ないように迅速に行動しましょう。ニューヨークまで約16時間の予定です。途中サンフランシスコ空港に寄航します。長時間のフライトですのでお互いが助け合って、交代して急速取って疲れないようにしてまいりましょう」
皆は、納得して亜理紗の言う説明を聞いていたが、本多チーフパーサー、高梨チーフキャビンアテンダントはなおも皆の受け持ち、キャビン関係、緊急事態発生の対応などについて説明は続いていた。
亜理紗はプリブリーフィングを終えて乗客インフォーメーションを見て車椅子の客、UM(無添乗の子供)を見て
「一九八人プラスゼロかあ」
と小さくつぶやいた。
プリブリーフィングを終えると、平井機長、福島副操縦士のクルーが待っている室に入った。
「さあ、合同のブリーフィングを始めよう」
平井機長が言った。合同ブリーフィングとはクルーとキャビン関係者のCAが緊急脱出時の対応、非常口の確認、到着地までの飛行ルートの説明、天候、おおよその飛行時間、目的地の天候とか、キャビンアテンダントとして必要とされる説明を行うことだった。
皆は、長身の平井機長の説明を聞いて、航路上の天候も安定していて、ジェット気流に乗れればサンフランシスコまでの時間も1時間ほど短縮されること、ニューヨークの天候も快晴と聞いて安心した。
変わって本多チーフパーサーが、
「では、本日のサービスプランについて簡単にご説明します。離陸後1時間で最初に夕食サービスを行います。言い忘れました。本日のお客様はファースト5名、エコノミーが192名、トータルで197名様の予定です。入国書類の配布、食前酒とドリンクサービスの用意を行います。なお、本日はベジタリアン(菜食主義者)のお客様が七名様分が容易してありますが間違わぬように充分注意してください。このほか免税品商品販売も行いますので、そちらのほうもよろしくお願いします」
 本多は、皆の顔を眺めながら新人二人にもわかるように丁寧に説明し頭を下げた。
 合同ブリーフィングを終えると、クルーは去って、いつものように亜理紗は駐機場に続く長い通路をキャビンアテンダントたちと歩いた。
 歩きながら「もう10年目かあ」と小さくつぶやいた。
駐機場にはダグラスDC8スーパーコンステレーション(空の貴婦人)が秋の日差しの中に大きな巨体を横たえていて銀翼がきらきら輝いていた。
亜理紗は、搭乗機を眺めながら世界の空に羽ばたこうとするこの瞬間が好きだった。これだからキャビン・アテンダント辞められないんだといつも大きな瞳で見上げていた。
(しかし、でもあたしは結婚願望でおいおい二重人格者かよ)
と心の中は複雑だった。
階段を上がり機内に入ると亜理紗は並んでいる6人のアテンダント一人ひとりに手を合わせて微笑みながら
「さあ、頑張っていこうよ」
といつものようにエールの交換を行った。この仕事はなによりも皆と一緒にチームワークを形成することが大切と考えていた。搭乗客を迎えるためにキャビンアテンダントたちがやらなければならないことは非常に多かった。
機内の安全確認、ウエバラ、(ウエイト・バランス)いわゆる荷物積載量の確認や新聞カート、トイレの状況、食器、材料などの点検といろいろあって、いつもアテンダント七人ではこなせないほどだった。
さあこれからが戦場だ、亜理紗は
「機内の整備状況、サービス物品点検、飲み物とか、お食事の量の搭載、オーデオチェック、それにトイレの確認とか仕事、山ほどあるんで、このチェックリスト見てチェックしてちょうだい」
と言った。
亜理紗は、新人2名が入っているので、
「乗客搭乗まで少ししか時間がないの、協力してやりましょう。葉月さん、いずみさん、頑張ってねえ」
と励ました。
二人は
「はい」
と返事して、葉月はトイレと収納棚チェック、いずみはオーデオチェックに廻るのだった。
乗客の搭乗まで目前に控えていて七人のキャビンアテンダントはトイレの水の流れ具合、客席のオーディオの確認、国内外の新聞の確認、テレビの状況、荷物収納棚一つ一つのチェックなどをこなさなければならず駆け巡って戦場のように混乱していた。
一方、ギャレーでも三食分の食材、食器、飲み物の量、免税商品の確認などを短時間で終えねばならず喧騒だった。
「いつも戦場になるし」
亜理紗は低い声でつぶやいた。
「お食事の数、ミート、フィッシュ、それぞれ、それと・・・・そうそうベジタリアン食も」
客席ではキャビンアテンダントたちの声が飛び交っていた。
亜理紗はチェックリストを持ち由佳里の数えた結果を記入確認していた。
その時、
「乗客搭乗五分前です」
という声が響いた。
その瞬間、今まで喧騒だった機内がシーンとして元の静けさに戻った。
いよいよ搭乗客を迎えるこの一瞬は亜理紗たちを緊張させた。
三人のキャビンアテンダントとパーサーチーフは搭乗口にたち搭乗客を迎えた。
「ウエルカム・トゥー・ボーデイング」、
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、ようこそ」、
「アンニョンハセヨ」
とことばこそさまざまだったがお客様を心から迎えることには代わりがなかった。
客席に立っていたいずみが素早く
「お客様、お席がお分かりになりませんか」
七十歳過ぎたと思われた白髪の婦人が困っているようだ。婦人は小さなボストンバッグを手にしていたが、重そうだった。
「50のAのお座席はこちらです」
といい、婦人が持っていたボストンバッグを収納棚にあげた。
乗客が搭乗し終わると七人のアテンダントたちは機内をめまぐるしく仕事をこなしていた。
アテンダントは通路に立ち救命胴着を身につけて非常の際の脱出方法を説明しはじめた。
亜理紗は時計を見た。出発十五分前を指していた。マイクを取りアナウンスをはじめた。
「皆様こんばんは、本日は極東航空DC8・27便にご搭乗くださいましてありがとうございます。当機は途中サンフランシスコに寄港、ニューヨークケネディー空港に参ります。飛行時間は約一六時間を予定しております
当機はまもなく離陸いたします。お座席のシートベルトを今一度ご確認くださいませ」
続いて
「ウエルカム・ボーディング・トゥー・ファーイーストエアーラインDC8・27フライト・・・・・・・・」
座席のシートベルトの確認をアテンダントたちがお客様の席を見回っている。
「シートベルトのご着用をお願いいたします」
「ジス・フライト・テイクオフ・フュー・メネッツ・プリーズ・ファッスン・ユアー・シートベルト・サンキュー」
放送が終わると亜理紗もほっとしてシートべるトを閉めた。
 一方、コックピットでは、機長、副機長が最終点検を行い離陸準備を始めていた。
 羽田航空管制塔とファーイーストエアーラインの航空機の間で交信が行われていた。
 機長が
「ファーイースト・エアー二八、クリア・トウー・スタート・・・」
副機長が復唱して、
「ビフォーアー・スタート・チェックリスト」、
「スタート4」
と次々に動作確認をして
「ナンバー4スタート、フルパワー」
と最後に四つのエンジンが全開して離陸体制が完了した。
一方、機内では、アテンダントも着席、やがてエンジン全開で滑走路を疾走、離陸した。
飛行機は順調に飛行していて離陸から一時間を経過した。

第二章 ギャレーの仲間たち

ギャレーに七人のキャビン・アテンダントは集まって、亜理紗はてきぱきと指示した。
「いいこと、キャビンアテンダントって看護師とか保安員とか、またある時には主婦とかやさしい恋人とか果たさなければならないの」
と新人二人のトレーニングもしなければならずやさしく説明した。、
「それって研修のときに聞きました」
葉月が答えた。
「このことはむづかしいのよね、つまりお客様の要望って多種多様だし」
「あたしたち国内線の時にも聞きました」
いずみが答えた。
(やっぱ、そうきたか、扱いにくいなあ
「今日はどちらも満席なの、それで・・・」
亜理紗は免税品のカートを目の前に言った。
亜理紗は全部説明するのでなく仕事がわかってもらうようにいつも質問して新人の意識を高めるようにしていた。
いずみが口を開いた。
「それでお客様のお買い物の際に、ドルだけでなく、ロシアだとルーブル、ドイツだとマルク、中国だと元とか・・」
いずみがすかさず
「貨幣のレートに気をつけろといってるみたいな」
「ピンポン」
亜理紗は言うと二人は笑った。
「あのさ、何期生?」
「私たち七十期生です」
葉月といずみの答えを聞いて亜理紗は自分が急に年をとったと思った。何やってんの、ここでひるむなんてと考え
「そう、新人同然ね。言っておくけどお金の換算にはくれぐれも気をつけてね。大変でしょうが」
と言ってここは先輩らしさを見せなければと思った。
葉月が
「あの~亜理紗先輩、私たちまだキャビンアテンダントになってまだ直ぐだし、どうして私たちにそんな難しいことを」
いずみも
「あたしもそう思います。なぜですか?、貨幣レートの換算の・・・・もし間違えたら先輩責任取ってくれますか?」
(出た、やっぱり、どうしてですか、なぜですかが)
亜理紗は、
「あのねえ、言って置きますが、どんなことでも最初は難しいと思うの・・・・
そんな・・・そんなこと言ってたらいつまでも仕事っておぼえられないわ」
いずみが
「わ、わかりました。先輩が責任持つならやってみます」
と言った。
亜理紗は新人の教育は厳しく叱るときには徹底的に叱ったが反面、和やかな親しみの雰囲気をかもし出すことは誰よりも優れていた。この二人問題意識があるようだし任せようと思った。
「香織と優子はお客様のチェックをして呉れる?。特に酔っ払ってる方とか具合の悪い方がいないか注意してね」
二人は微笑んで指で丸を作りオーケーと答えた。
「それに不審な動きをする人がいるかも注意して。気をつけてそれとなく見張って」
亜理紗は言った。
航空会社は、近年航空機のハイジャックに異常なほど神経を尖らせていて、上司からもいつも注意を受けていた。テルアビブ空港とか赤軍の福岡空港ハイジャック事件が起きて以来、キャビン・アテンダントの仕事は保安官の役割も果たさなければならなかった。
香織が「まかせて先輩、あたしたち例えゴキブリ1匹でも逃がしはしません。」
亜理紗は思わず笑った。
「ゴキブリは、機内にはいないけど、その心構えでやって」
と言った。機内ではキャビンアテンダントたちがいそがしそうに働いていた。
裕彦は側を通りかかったアテンダントに
「あの、ニューヨークタイムスありますか」と聞いた。
「お客様今直ぐお持ちしますので」
今度の出張はニューヨークなのでなによりも現地の情報を知っておきたいと思った。
200名近くの座席はほぼ満席に近かった。夕方発のこの28便はニューヨークに夕方5時に着くので仕事は翌日すればよく時差との戦いにも有利だった。
「お客さまおしぼりでございます」
キャビンアテンダントが熱いお絞りを一人ひとりに配っていた。


中編小説「愛は時を超えて」第二章・第三章

2006-05-01 15:54:34 | 小説
第二章 ギャレーの仲間たち

ギャレーに七人のキャビン・アテンダントは集まって、亜理紗はてきぱきと指示した。
「いいこと、キャビンアテンダントって看護師とか保安員とか、またある時には主婦とかやさしい恋人とかその場の判断で臨機応変に果たさなければならないの」
今回は新人二人のトレーニングもしなければならずやさしく説明した。
「それって国内線のときに聞きました」
葉月が冷たい反応を見せる。
「このことはむづかしいのよね、つまりお客様の要望って世界各国によって習慣、生活が多種多様だし」
「あたしたち国際線の時にも聞きました」
いずみも同じような態度なのだ。
「香織と優子はお客様のチェックをして呉れる?特に酔っ払ってる方とか具合の悪い方がいないか注意してね」
二人は微笑んで指で〇を作りオーケーと答えた。
「それと不審な動きをする人がいるかも注意して。気をつけて、それとなく見張って」
香織が、
「任せて先輩、あたしたち例えゴキブリ1匹でも逃がしはしません。」
ギャレーに居た皆が笑いに包まれる。
「ゴキブリは、機内にはいないけど、その心構えでやって」
亜理紗は二人を送り出した。彼女は、免税品のカートを目の前にして、
「伊藤さん、後藤さん。今日はどちらも満席なの、それで・・・」
亜理紗は全部説明するのでなく仕事がわかってもらうようにいつも質問して新人の意識を高めるようにしていた。いずみが口を開いた。
「それでお客様のお買い物の際に、ドルだけでなく、ソビエトだとルーブル、ドイツだとマルク、中国だと元とか・・」
葉月がすかさず
「貨幣のレートに気をつけろといってるみたいな」
「ピンポン」
亜理紗の声で二人は笑った。自分に比べて十五期生と言ったことを思い出して、急に歳をとったと思った。何やってんの、ここでひるむなんて
「言って置きますが、お金の換算にはくれぐれも気をつけてね。大変でしょうが」
ここは先輩らしさを見せなければと思った。
葉月が
「あのお、亜理紗先輩、私たち、キャビンアテンダントになってまだ直ぐだし、どうしてですか?、私たちにそんな難しいことを」
いずみも
「あたしもそう思います。なぜですか、貨幣レートの換算の・・・・もし間違えたら先輩責任取ってくれますか?」
(出た、やっぱり、どうしてですか、なぜですかが)
亜理紗は、
「あのねえ、言って置きますが、どんなことでも最初は難しいと思うの・・そんな・そんなこと言ってたらいつまでも仕事っておぼえられないわ」
いずみが
「わ、わかりました。先輩が責任持つならやってみます」
と、この場はもう逃れることができないと思ったようだ。亜理紗は新人の教育は厳しく叱るときには徹底的に叱ったが反面、和やかな親しみの雰囲気を醸し出すことは誰よりも優れていた。この二人問題意識があるようだし任せようと思った。機内では、キャビンアテンダントたちがいつも客席を廻って乗客の細かな要望に対処していた。
裕彦は、側を通りかかったキャビンアテンダントに
「あの、ニューヨークタイムスありますか」
「お客様今直ぐお持ちしますので」
今度の出張はニューヨークなのでなによりも現地の情報を知っておきたいと思った。英語は際立ってできるほどではなかったが、父が熱心に学生時代教えてくれたので何とか新聞を読んで大筋を理解できるのだった。現地での会話も頑張ってやってきたのだった。
「お客さまおしぼりでございます」
キャビンアテンダントが熱いお絞りを一人ひとりに配って廻る。
亜理紗は皆に仕事を与えた後、ギャレーで 一息ついていた。乗客の様子を巡回していた香織と優子がギャレーに帰ってきた。香織が
「亜理紗助けて」
「はっ、助けてってなに」
「お客様20Dのお子さんが機嫌が悪くて泣いていてお母さんがなだめてるんですが困っておられるようなので」
「それで私がその子を泣き止ませるって言うわけ」
香織は、困った顔をして、
「私たち、お子さんなだめたのですが泣きやまず、亜理紗先輩なら不可能なことはありません」
「香織が私を信頼してくれるのはうれしいわ、だけど無理なことも」
「いいえ、先輩はこれまでもお客様の難問を解決されてきましたし」
「わかった、じゃ行って来る」
亜理紗は、部下や上司に頼まれると決していやとはいえなかった。隅の引き出しから折り紙を取り出してギャレーを出て行った。20の通路側の母親が
「何を言ってもこの子が言うこと聞かなくていやがったりして困ってるんです」
「わかりました、お子様のお名前は」
「隆夫といいます」
「隆夫ちゃん、あのね、お姉ちゃんがこの折り紙でなにか作ってあげましょう」
嫌がってる隆夫が亜理紗の優しい顔を見て、急ににこにこして
「お姉ちゃん、じゃキリンさん折ってくれる、象さんでもいいよ」
「ごめんなさい、お姉ちゃん両方ともわからないの、その代わり隆夫ちゃんに鶴を折ってあげるね」
亜理紗は隆夫の顔を見つめながら鶴を折り始めながら、はっとした。
「ありちゃん、僕、折れないよ」
「ひろちゃん、折ってあげるね、ええとこうして」
ふと、自分が幼稚園だったとき、裕彦に鶴を折っている姿が目に浮かんだ。鶴を折り終えると、亜理紗は、
「隆夫ちゃん、ほら、鶴さんが折れたでしょう」
「お姉ちゃん、どうもありがとう」
母親も軽く頭を下げた。
「本当にこの子のために、すみません」
亜理紗はこの時まさか、その裕彦と三十分後に運命の再会をするとは考えてもいなかった。


第三章 出会い

離陸して二時間、すでに808便は太平洋上にあった。キャビンアテンダント山下はるかが聞いた。
「お客様お飲み物はいかがですか」
六人のキャビンアテンダントは休みなく乗客の機内サービスを行っていた。
「これからまだ十時間の旅か」
裕彦は、カップのコーヒーを飲み終えた時、
「コーヒーよろしいですか、お代わりしましょうか」
まだういういしい感じのはるかが話しかける。
「結構です」
裕彦は答えた。
「次のお客様にお飲み物を聞いてね」
新人に付き添ってる背の高いベテランキャビンアテンダントがいう。新人の機内の実習なのかなあ、裕彦は何気なく彼女の顔を見ると、胸のネームプレートには、FAL TAKANASI 高梨と記されている。
「あっ、似てる、亜理紗さんに」 
裕彦は、驚きの声をあげようとしてあわてて口を抑えた。
「まさか、あの幼稚園の幼馴染で二十年間消息不明の亜理紗さんじゃないよ」
心の中でそう思う。その瞬間さっき配られた手に持っていたお絞りを床に落としてしまった。
彼女は同じように二十年間も頭の隅から離れない裕彦がこの国際線に乗ってるとは考えていなかった。裕彦に軽く会釈して次の座席でドリンクサービスをしてやがて裕彦の視界から消えた。
「まさか、戦争で行方不明の彼女が乗ってるはずはないよ」
無理に考えを打ち消そうとした。
「だめだ、記憶から消えない、抹消しようとしても、だめ」
あたりの乗客に聞こえない小さな声でつぶやく。
「よおし、今度のレポートでも見ておくか」
そう思って頭上の収納棚を空けてアタッシュケースを取り出して書類を取り出す。北米販売網確立に伴う予備調査、大きな活字が目に飛び込んできたが、さっきの高梨 亜理紗のことばかりだった。
ありちゃん、僕折り紙できないよう
あたしが折ってあげるから貸してごらんなさい
忘れていた幼稚園での想い出がよみがえってきた。

「書類も頭に入らないし」
機内のエアコンはよく効いて裕彦の周りには冷気が漂っている。足の周りが冷えてきたことに気がついて
「そうだ、亜理紗さんにブランケットを持ってきてもらおう、そして聞いてみよう」
そう考えただけで心臓がぱくぱく鼓動しているのを感じた。裕彦は、ちょうど通りかかったキャビンアテンダントに
「済みません、エアコン効きすぎて、ブランケットを」
「済みません、今お持ちします」
と絵里子がいうのを遮るように、
「あのお、高梨亜理紗さんにお願いしたいのですが」
「お客様、高梨亜理紗ですか?」
「ええ、お願いします、友人なので、僕の名前は錦小路裕彦といいます」
「わかりました、その旨伝えます、少々お待ちくださいませ」
皆にそれぞれ役割分担した後、亜理紗はギャレーで熱いコーヒーをポットに入れてコックピットの平井機長と福島機長、小林機関士に持っていこうと思った。その時だった。絵里子が客席から戻ってきて
「今客席17Cのお客様から空調がきついのでもう一枚ブランケットを持ってきてって。高梨亜理紗さんにお願いしたって」
亜理紗は熱いコーヒーを手にしながら
「私でないとだめなの?」
「ええ、どうしても亜理紗先輩でないとって、もしかしてお客様、先輩のことが好きかも」
「そりゃねえ、絵里子さんならわかるけど、あたしもうアネゴの歳よ」、
「とにかく、高梨さんをと言ってます」
「まさか、もう、で、お客様のお名前は?」
亜理紗はたずねた。絵里子は亜理紗の顔を意味ありげに見つめながら
「錦小路裕彦様とか」
「はあっ」
亜理紗は目を丸くして驚いて瞬間ふらついた。
「どうしたんですか、先輩?」
絵里子は心配し手を持って身体を支えるようにして手を掛ける。
「ありがとう、ううん、何でもないよ」
平静を装ったもののもう心臓の鼓動が音をたてて耳に聞こえるほどだった。まさか、人違いじゃないのか、でも錦小路っていう苗字は全国探してもほとんどなかった。二十年間、頭のどこかにあったあの裕彦さんがこの飛行機に乗っているなんて。信じられないと思った。亜理紗はブランケットを取り出し
「行ってくる」
ブランケットを手に持って裕彦に届けに行った。客席17C、ここだわ、裕彦は書類に目を通している。亜理紗は身体を少し屈めて声を掛けた。
「お客様、ブランケット、お届けに参りました」
乗客は、
「どうもありがとう。少し空調強くって」
書類を見ていた裕彦は顔をあげ亜理紗をしげしげと眺めた。
「あっ」
亜理紗は小声で驚いた。幼かった頃の面影が顔ににじみ出ていて
「あ・・あなたは高梨亜理紗さんですね?。横浜の幼稚園時代で一緒だった、僕のこと覚えて・ニューヨークに仕事で行くところで」
そう裕彦から言われて驚いて声も出なかった。のどはからからに渇き思わず
「お、・・お客様、失礼ですが、人違いだと思います。どうも大変し・・失礼しました。」
とやっとのことで答えて、丁寧に頭を下げてギャレーに消えた。
裕彦は亜理紗に人違いと言われてひどく落胆した。自分からキャビンアテンダントのコーナーに行って高梨亜理紗に話をしようかとも思った。でもそれは仕事中の彼女を困らせたり傷つけてもよくないと思った。目の前に二十年間想い続けてきた初恋の人とやっとめぐり逢ったのに、その想いは目前で崩れ落ちる思いだった。亜理紗が去ったあと、膝に置いていた書類に目を通しはじめたが、彼女のことだけ考えていた。まだサンフランシスコ迄、随分時間があるし、また機会があるだろうと考えても落ち着かなかった。ギャレーでは仲間が待っていた。亜理紗はどきどきする心臓を手で押さえながらギャレーに入った。
「ああ、驚いた」、
「お帰りなさい、で、どうなの」
「それが、ねえ、、ねえ、ねえ。もう」とまだ気持ちが落ち着かなかった。
絵里子が、
「何なんです。亜理紗先輩」
亜理紗はまだ驚きを隠しえずに
「か、彼、幼稚園、小学校のときからあたしを好きで。」
葉月が
「超すごいっつ」
絵里子がすかさず
「それでデートの約束したの?」
「う~んん、お客様なにか人違いではないかって・・・・」
「亜理紗チーフ、どうしてそんなことを、最高のチャンスなのに」
「そうかもねえ、ああ、あたしって馬鹿じゃなかろうか」
絵里子が、
「私だったら」
「でも、今はフライト中だし、お客様に愛してるなんて言えないよ」
そこへ乗客の様子を見に行った香織と木綿子がギャレーに戻ってくる。
「何かあったんですか、亜理紗、なんだか元気ないし」
亜理紗は、この二人にもわかっちゃうのかなあ、香織とは一番親しいし知られたくないなあと心の中で考えていた。
亜理紗と香織は歳が二歳違いでいつも香織の相談に乗っていた。
「亜理紗、あなたならどうする?」
と恋人のこととか、両親のことからちょっとした仲間とのトラブルにいたるまで親身になって相談に乗るのだった。
香織は、本当に亜理紗を頼って心強い先輩と尊敬されている。それだけに香織にだけは自分の情けない姿だけは知られたくなかった。
その時葉月が
「亜理紗チーフの恋人が機内に」
「余計なことを言うんじゃないの」
亜理紗は、目をつりあげ葉月に怒って見せた。
気がつくと新人いずみも帰ってきていた。亜理紗は恥ずかしそうにして小さくなっていた。
舞衣子が、
「ねえ、亜理紗、ラブラブのようだけど、今は仕事中だから、ニューヨーク着いてから遭うのはいいけど」
葉月も、
「あのう、こんなこと亜理紗チーフに言ってわるいんですけど、彼の夕食にメモを書いてパンの下にそれを置くとか」
舞衣子も
「サンフランシスコ着いた時、デッキでそっとメモを上げるとか」
香織が、
「それとも亜理紗、私がお客さまのところに行って、錦小路裕彦さんをここに呼んできてあげようか」
「そんな」
「お客さまとの対応、会社の規則にあるけど、すでに亜理紗は昔からのお知り合いだから、チーフが行くと目立つし」
「香織、ありがとう、でも私」
「それでここで彼とここで話している間、少しくらいなら、住所とか電話聞くくらいなら、席はずしてもいいよ」
「香織さん、皆さん、お気持ちだけでいいの」
「なに、私たちその間、席はずしてお客さまのサービスだって出来るんだし」
「皆、本当にありがとね」
亜理紗は、私の彼のためにこんなに皆が親切にしてくれてと思うと、思わず目になみだが溜まりギャレーの仲間たちってなんと優しく思いやりがありあり素晴らしい仲間だろうと胸があつくなった。








TVドラマ脚本「ホテルの恋人たち」 あらすじ

2006-05-01 14:28:12 | 創作TVドラマシナリオ
東京の台場に新しく出現する巨大ホテルに採用された研修生たちが、ホテルの発展とともに成長していきながら、ホテルの中で繰り広げられる喜びと悲しみの華やかな三組の恋人の「ホテルの恋人たち」の物語です。
ホテル研修の初日、道路で奈央子が落としたケータイを洋一郎、拾って彼女を見るとなんと高校時代の初恋の人。
研修の昼休み、何気なく話した重信と麻美、二人の性格がまるっきり正反対のところが意気投合。
韓国人キム・ヨンイルはソウルで恋人だったリュ・イジンが突然行方不明、東京で一家が居ることがわかり、とうとう彼女と喜びの対面。、
また、ホテルで働く人たちとホテル利用客との心温まる交流も物語として登場します。
純粋で愛のある物語をどうぞお楽しみください
このドラマを書くにあたって

このドラマを書こうと思ったきっかけは過去ホテルの経験と仕事を参考にホテルで働く恋人たちを生き生きと描きたいと思ったにほかならない。
コンサルタントとしてのホテルの仕事と若干のホテル経験、実務経験に加えてさらに調査して書いたものであるが、あくまでも仮想「ホテル」ということでこの物語はホテル及びストーリーに登場する諸施設は実在しないことを最初にお断りしておきたい。

このドラマに登場する主な人物のプロフィール
深川 洋一郎(30)
一度は一流商社に入社したもの、人材バンクを通じて東京台場セントラルホテルの幹部研修生として転職。
研修当日、時間に遅れて途中、道路の前を走っていた女性がケータイを落としてケータイを拾ってあげた。
その女性とは、洋一郎が片時も忘れられなかった高校時代の初恋の人と運命的な出会いをすることになる。

上野 奈央子(29)
女子大を卒業後、ニューヨークの大学に2年間留学したので、アメリカに多くの友達を持っている。
研修当日、時間に遅れてホテル研修会場に向かう途中、ケータイを落とし、洋一郎がケータイを拾い出会う。
奈央子には、アメリカ時代のマイケルという恋人がいるが、洋一郎を次第に愛するうちに二人の恋人というジレンマに陥り、次第に罪の意識のジレンマに立たされる。


長谷川 重信(25) 
スポーツが好きで、明徳大学ではサッカー部に籍を置き、全日本大学サッカー試合で優勝したこともある。
二人の姉妹の言うことをよく聞くので、二人からよく甘味喫茶など女性しか行かない店に連れて行かれる。
おしるこやあんみつ、和菓子を食べると、二人の姉妹から、重ちゃん、かわいいなどとよく言われる。。
性格は何事も楽観的に考えていて、恋人麻美とはいつもやりあっている。
 
井上 麻美(23)
独立心旺盛で関西の女子短大卒業後、単身アメリカ、カリフォルニアのあるホテル経営学校に2年間留学。
麻美の父は、地元旅館組合理事長を兼任しているため、顔が広く早く、地方の有名な観光地の温泉旅館の一人娘。父がこの旅館を早く引き継いでほしいと願っているが、麻美はホテル経営に興味を抱きアメリカ、ロスアンゼルスの大学ホテル経営学科に入学、性格は勝気、負けず嫌いな反面、人をすぐ好きになる。

キム・オルソ(26)
韓国、ソウル出身、ホテル研修生で外国人採用の一人。 
日本に興味を示しているが、とても礼儀正しく、目上の人をものすごく尊敬している。高校時代の恋人、リュ・イジンが突然行方
不明になってあるとき在日朝鮮人の親戚にいることが分かり、日本興味があることもありホテル研修生となる。
ホテルの仕事に精進する一方、恋人リュ・イジンの行くえを調べている。
ある日、リュ・イジンがこのホテルのレストランで働いていることを知り15年ぶりに感激の再会を果たした。

リュ・イジン(27) 
キム・ヨンイルとはソウルの大学付属高校生と一緒でキム・ヨンイルは彼女をとても愛している。
事情があって誘拐されそうになるが一家は在日韓国人の親戚を頼って日本で一家は生活することになる。
彼女はキム・ヨンイルに会いたいと思ったが、思いがけず彼と再会することになる。


岡田 麻里亜(28)
深川洋一郎の姪、神戸に住んでいるが、国際航空に入社、パーサーとなるが、語学能力を買われて、ロンドン支店に勤務となる。
久しぶりに一週間だけ日本に帰ってきて洋一郎と会うことになるが、ある日洋一郎が麻里亜と会っているのを菜穂子が目撃してこれが誤解となる。
後に誤解が解けて、洋一郎、奈央子、麻美とともに楽しい時を過ごすことになる。

朝比奈 梨花(36)
客室支配人として、研修生の教育訓練を担当する。
高校卒業後、国際的な名門ホテルに就職、実力派。
セントラルホテル発足に伴いスカウトされた。
フロント接客、顧客対応について、研修生を厳しく訓練するところからいつしか鬼の梨花支配人と呼ばれるが、本当は暖かい人情を持っている。

片倉 優子(38)
メインテナンスマネージャーとしてホテルの高校卒業後、メインテナンス会社、ホテルの経験を経てセントラルホテルにスカウトされる。


ドラマシナリオ 「ホテルの恋人たち」
ドラマシナリオのあらすじ

第一話■恋人たちの出会い
東京・台場新シティホテルの新入社員研修に向かう途中、研修生の上野奈央子は電車でうたた寝をして遅刻、同じころ洋一郎も遅刻、奈央子が落としたケータイを拾い女性が後ろを振り向いた瞬間、女性(奈央子)の顔は、洋一郎が片時も忘れられない高校時代の初恋の人であった。
昼休み、二人は、自己紹介、ホテル入社の動機や希望などいろいろうちとけて話すのだった。
一方、32階展望台スカイラウンジでは、隣で眺めていた研修生の麻美(井上麻美)に重信(長谷川重信)は声を掛けるのだった。
麻美は、関西の観光地の父は温泉旅館を経営していたが、旅館の衰退とともに近代的なホテルに改装したいと考えていた。
両親を説得、単身アメリカののホテル経営学校に留学、ホテルでの実際の勉強を兼ねてホテル研修生として就職したのだった。
一方、重信はスポーツマンで二人の姉妹の感化を受けいつしか酒もほとんど飲めないようになっていた。どこか頼りないがとても純粋で正直な重信のおおらかさに麻美は惹かれるものを感じたのだった。
一日の研修を終えた夕方、奈央子は洋一郎にケータイを拾ってくれた貸しを返したいと話をし、奈央子と洋一郎は食べ、飲み、そしてピアノ演奏の曲でダンスを楽しむのだった。
同じ夕方、麻美は重信を新宿の炉辺焼きの店に誘ったものの開放感から少し飲みすぎて重信は麻美の居る兄の家までタクシーで送ることになった。
翌日、昨日、お互いがプレゼントしたものを、沙耶香は黄色いスカーフを、洋一郎は黄色いネクタイを結んで二人は逢ってにっこりと微笑むのだった。
一方、麻美は翌朝、昨日重信に迷惑掛けてタクシーで送ってもらったこと、初対面なのに酔った姿を見せたことに罪悪感を感じ、重信に逢ってもうつむいたままでバッグから出した雑誌で顔を半分隠し重信にもう二度とお酒も飲み過ぎないしもう迷惑も掛けないと必死に謝った。
                               (第一話)、
第二話■厳しい現実
ホテルの基礎的理論を終えて、二週間後開業を間近に控え研修生を待っていたのは厳しい接客訓練だった。
客室担当の梨花(朝比奈梨花)支配人は、接客マナー、会話を研修生に自覚させて出来ないと何度も繰り返し訓練をし、いつしか研修生から鬼の梨花支配人と呼ばれるようになっていた。
又、押尾さくら、料理、宴会マネージャーは宴会場の準備、、宴会場でのセット手順、片倉優子メンテナンスマネージャーはホテル内、客室メンテナンス手順など、時にはタイムウオッチで測定するなど、研修生たちにとっては、ホテル利用者サービスの裏には大変な陰の苦労があることを改めて知るのだった
(第二話)
第三話■憧れ
研修生も無事最後の仕上げに掛かっていた。今までの研修の成果を研修生が抱いている抱負や希望を把握したいとホテル側はこれまでの経験とホテルのあるべき将来の姿としてパネルディスカッションで司会に洋一郎、補佐兼書記に奈央子が選ばれた。奈央子は洋一郎が巧みに研修生の意見を集約、纏め上げることにびっくりし、洋一郎を尊敬のまなざしで見つめるのだった。          
                          (第三話)
第四話■新たな始まり
研修生たちは、客室、フロント、料理、宴会ビジネスセンター、事務部門に配置された。
研修生の麻美、重信は共にレストラン、宴会、会議部門で働いていたが、顧客、厨房料理係との調整などのジレンマに悩むことも多かった。
先輩たちの指示に従い働いたが、失敗も数多くホテルの顧客第一という自己犠牲に立ったサービスの難しさを肌身で感じるのだった。 
(第四話)
第五話■とまどい
通常業務に付いたもののフロントの果たす仕事は広い範囲で時として顧客それぞれの要望にしたがって対処しなければならず、先輩から細かい指導を受けた。
一方、料理、宴会部門も客の要望を伝えたり、出す料理の手順、食器セットの並べ方、接客マナーなど覚えなければならないことが山積していて、またビジネス部門もコンピューター操作、メールの受け取り、発信、会議資料のための各種業績日報、などでも研修生たちはとまどいを見せるのだった。
                           (第五話)
第六話■雪の日の出来事
雪の降るある日、ホテルも大学受験生が多く詰め掛けていた。
そのとき、宿泊客から電話が沙耶香に掛かって来た。早めに学校に出かけた受験生の母から「息子が大学に出かけたが受験票がない。ホテルで落としたようだ。」と大変な電話だった。。問題は9時に試験が始まるため、それは時間が限られた。。
支配人は、監視ビデオテープがある保安室にいき沙耶香は受験生が食事をしたレストランを料飲部の麻美とともに探すのだった。新人二人も加わってレストラン裏の従業員通路においてあったゴミ袋の中まで調べるのだった。
奈央子たちは次第にあせり始めていた。そのとき新人の一人大崎江里子がごみの中から折った新聞紙に受験票があるのを発見,、奈央子に差し出すのだった。。。
奈央子は持っていたケータイで支配人に連絡し、奈央子に受験票を発見した大崎江里子とともに二人でホテルが用意した車で受験生の待っている平安大学に向かった。
やっと校門のそばで待ち焦がれていた受験生に受験票を無事渡すのだった。
受験生は、奈央子と江里子の手を握って「あなたは命の恩人です。」と感謝した。
帰途、新人の大崎江里子は奈央子に、「あたし、料飲部で食器セットとか、単調な仕事でホテルに入ったこと後悔していたんです。でもあたしのようなものでも、お客様にこんなに感謝されることがホテルマンの生きがいなんだなあと今わかりました。」と切々と訴えるのを見て沙耶香もうれしく思わず奈津子を抱きしめるのだった。。
レストランでお客様の応対をいていた麻美は、昼休み近くのレストランに出かけ、その帰り、雪の舞い降りるホテル前の道路に立っている一人の女性に意味ありげと思い声を掛けた。。彼女は夫と口論して東京で自活します。といって家出してきたこと、大阪から新幹線でここまで来る途中、バッグに入れていたお金やカードなどすべてどこかで財布をすられてしまい、宿泊予約したもののお金も全くなくて。」と涙がてらに話すのだった。
麻美は、まだ結婚して3年目であり、二人でよく話しあってもういちどやり直しなさい。とやさしく声を掛けるのだった。
麻美の優しい気遣いが通じたのか、私が腹立てて夫の静止も聞かずに家出したので。と話した。麻美は私がご主人に電話してあなたがここに居ることを話し、明日の朝でもご主人に迎えに来てもらいましょう。と話をし、とにかくここで一泊して明日ご主人に迎えにきてもらいましょう。と彼女を励まして、自分のカードを出してシングル・ルームに案内し、お金はいつでもいいわ。と彼女に話すのだった。
彼女は、「こんなに優しくされたのは初めてです。私ももっとあなたのように夫にこれからします。と泣きながら麻美の手をいつまでも握るのだった。
麻美は夕食に彼女を誘い打ち解けて話をするのだった。
ちょうどそこに奈央子も来て、麻美の話を聞きほめるのだった。
雪も止んで、真っ青な冬晴れの朝、大阪から夫が駆けつけてきて二人は拠りを戻し、夫は麻美に何度もお礼を言い、二人がロビーで抱き合う姿を見て当てられるのだった。
麻美、奈央子はホテルの外に出て真っ青な空に向かって、「今日の青空のように私たち本当に幸せよね」と二人は喜び抱き合うのだった。
                         (第六話)
第七話■忘れえぬ人(前編)
5年過ぎてもう研修生たちもすっかりプロとしてのホテルマンになっていた。
奈央子はもう洋一郎と片時も忘れられないほど深く愛していたが、一方ではケータイをくれたアメリカ留学時代のマイケルのことも忘れられず、洋一郎に対して二人の人を愛そうとする罪の意識も感じていた。
ついに奈央子はケータイの秘密を洋一郎に告白し、それを聴いて動揺の色を隠せなかったが、洋一郎は沙耶香がそんな心の悩みを持っているのは気の毒だと、一度アメリカに逢いに行ったほうがいいよと逆に薦めるのだった。。
奈央子はそれを聴いて、洋一郎に感謝しながらニューヨークに旅立つのだった。
機内の中で洋一郎からもらった手紙を読み想いがせつせつと書かれていて思わずごめんなさいとつぶやき涙するのだった。
友人マリコの出迎えを受けた。翌日雨の降る5番街でティファニー付近の交差点でふとマイケルが立っているのを見てたまりきれず猛烈なダッシュで走り、マイケルの後を雨のしずくとともに顔中涙でぬらしながら消えては現れるマイケルの姿をどこまでも追いかけたがそれは所詮幻影でしかなかった。
5番街のセントカソリック大聖堂の入り口で疲れ果て泣いている奈央子を仕事を終えて帰宅するマリコを発見し可哀想にとしっかり沙耶香を抱きしめるのだった。
翌日、マイケルの居所がわかり、まづ奈央子を乗せてマイケルの両親の家に向かったが、ツインタワービルのテロリストの攻撃により、ちょうど商談に向かったマイケルは犠牲者となったことを父から聞き奈央子は涙に暮れるのだった。
一人息子を失った悲しい両親の話を聴き奈央子、マリコとも両親の深い悲しみと慰めの言葉を掛けた。。
奈央子も少しづつ現実として受け止め、想いでのケータイはマイケルの両親に返すことこそ大切だとお礼を言いそっと手元置いてマリコとともに帰るのだった。                              (第七話前編)
第七話■忘れえぬ人(後編)
翌日、マリコは奈央子のために一緒にマンハッタンを散策したが、奈央子の心の傷の痛手は大きく、セントラルパーク・グランド0地点・ピア21・エンパイアステートビル・タイムズスクエアといろいろなところを歩いたが、奈央子はマイケルとの想い出をマリコに涙して話すのだった。
特にマイケルの遭難現場のグランド0地点では、奈央子は悲しみの頂点に達し現場にあった小さな岩に赤いショルダーバッグからリップスティックを取り出し、「MikelIm,Sorry、Forever love you」と書いて岩にそっとキスをして戻ってくる奈央子をやさしく抱きしめるのだった。
奈央子はこの後、ホテルで一緒に働いている人のプレゼントのため、サックスアベニューデパートでネクタイを買うのだったが、マリコはあなたの恋人と聞きながら、明るい表情を取り戻した奈央子にほっとするのだった。。
5日間のニューヨーク滞在を終えて、マリコに見送られて奈央子はニューワーク空港をあとに洋一郎の待つ東京に帰るのだった。 
                            (第七話後編)
第八話■迷惑な一日
奈央子は傷心の想い出から立ち直りたいし、洋一郎にも久しぶりに逢いたくてそのままホテルに直行したが連休も終わった初日というのに結婚式、宴会会議、団体観光客と館内は混雑しており、支配人に依頼された団体観光客を奈央子は手際よく裁くのだった。一方、支配人から依頼を受けた麻美、、リュ・イジン、EH・エリックなど数人は都内企業にセールスに出かけるのだった。
                            (第八話)
第九話■傷心
深夜、総支配人から緊急会議の招集があり、客室フロントをはじめ料飲・販売渉外などの各主任が参加した。
奈央子は客から頼まれたFAXを打ちに出かけたが、洋一郎がケータイで女性と「今夜銀座で会おう。」という会話を目撃した。。
奈央子は入り口の受付デスクの「PM7:00 銀座MSビル1F麻里亜と書かれたメモを見て危なく倒れそうになるのだった。
洋一郎にメモを見せたが洋一郎は、「麻里亜は僕の姪で今海外に居て一週間東京に帰ってきているだけだよ。」と話すのだったが、洋一郎に疑念の気持ちを抱くのだった。
翌日奈央子の疲れて沈んだ顔を見て、麻美をはじめ新人3人が落ち込む菜穂子を誘い銀座にショッピングを誘うのだった。
3人はブランド物を見てお茶でもしようとビルを出たとき、。偶然洋一郎に出会ったが、そのあと、奈央子は「とても今日は悲しい。」と言って自分だけ飲めないビールを無理して飲むのだった。
酔った奈央子は、メモのMSビルでまた洋一郎と麻里亜がいるのを見て涙がほほをつたい、「私悲しい、寮よりママに会いたい。」という奈央子のことばどうり、麻美は自宅に届けるのだった。
翌日、両親が沙耶香の話しを聞き、「その方を信じること」と純粋な奈央子を励ますのだった。
同じころ、麻美は洋一郎と昼食を共にしながら、沙耶香の微妙な心の揺れに気づいてと忠告するのだった。
追い詰められた洋一郎はとうとう「彼女はもっと前の高校時代の憧れの初恋の人」と告白し、麻美は驚きの念を隠せなかった。
5日後、洋一郎は、奈央子を誘い、麻里亜の前で私の高校時代からの初恋の人で結婚したいと考えていることを目の前で話そうと決心するのだった。午後、一寸用事があるのでと洋一郎に断ってフロントを出て行った。
その後時間が経つに連れて、洋一郎はホテル館内すべてを探して回ったが姿が見えず、最後に宴会会議場で制服を変えて水をお客に注いでいる奈央子を発見、彼女の心に傷をつけてしまったことにショックを受けた。
帰り、洋一郎は自分の非をわびながら、早く縒りを戻さねばと「一緒に麻里亜に会って僕の恋人だと紹介したい。だから逢ってくれないか」と誘うのだったが、冷たくあしらわれ洋一郎は思わず奈央子のほほをたたき「君はずっと会いたかった高校時代の初恋の人だ、本当に愛しているんだ。そんな僕がほかの人と浮気をする?」と告白し、奈央子は驚き「そんなに長い間私のことを想っていて。」と怒りから嬉しさの涙にかわるのだった。
それをカーテンに隠れて聞いていた麻美は「少しは私の忠告効いたかな。元の鞘におさまって良かった。」というのだった。
洋一郎は麻美に気がつき、麻美も加えてその夜新橋のスカイラウンジで洋一郎、は麻里亜の前で奈央子は愛する恋人であることを話し、麻里亜はこんなすばらしい恋人がいて、洋一郎幸せね。」と喜ぶのだった。
その後4人は打ち解けて楽しい話に時も忘れて楽しむのだった。
洋一郎は、奈央子と縒りが戻ったことを心の中で喜ぶのだった。
                              (第九話)
第十話■ある夜の出来事
ある夜、客室からいろいろクレームがあり、奈央子、洋一郎が宿直で忙しかったが、、洋一郎と奈央子は共に宿直当番でTVが見えない、空調が不良、クレジットカードの紛失など、対応に苦慮していた。洋一郎は夜間比較的な暇な麻美、重信、韓国人のキム。オルソに応援問題を解決しようと総支配人を尋ねた。       未完検討中                         (第十話)
第十一話■告白
入社して5年目を迎えたある日、奈央子は夜の汐留ビルのラウンジで洋一郎から「奈央子さんは、僕の10年間待ち続けた高校時代の初恋の人であること」を改めて告白され、再び驚きを隠しえなかったが、奈央子は以前一度は認めたものの「私は全然記憶にないことと人違いじゃないの」
最初は拒否したものの洋一郎の度重なるあまりの熱心さに、心に引っかかるものを感じて、家に帰って母にそのことを話すと、「母は大切なものだろうと思って一部はいろいろな記録を残してある。」と話した。奈央子が庭の隅の物置小屋に入りある箱の中を探すと写真や交換日記を見ているうちに洋一郎が自分を本当に愛していることを知り、確証したいと考えて友人を訪ねて聴きそれが本当であったことを知っていつしか洋一郎への熱い想いになってくるのだった。
翌日奈央子は洋一郎に冷たい反応をしたことを心からわびるのだった。
とうとう洋一郎の真実の愛を見出して二人は婚約をするのだった。
                             (第十一話)
第十二話■真実の愛
一方、重信と麻美はホテルの仕事のことで言い張っていたが、ホテルセールスで積極的に行動する麻美を見て重信は、麻美をいっそう愛するようになっていた。
また、韓国人キム・オルソは、飲食・宴会部門でずっと働いていたが、彼は韓国の礼儀の正しさを守り、謙遜に振舞い皆から慕われていた。彼の恋人リュ・イジンの行方を捜そうと年休を利用しては、いろいろ調べたがこのホテルの隣接レストランで働いていることをとうとう突き止めて12年ぶりに感激の対面、再会するのだった。
                              (第十二話)
 
第十三話■真実の愛 
ある日の深夜、重信はフロントの応援で客室巡回見回りを行っていたが、ある客室から煙が少し出ていることを発見、無線通信電話で各部門に連絡、警備員が来る前に、何よりも客を救わねばならないと、ちょうど駆けつけた支配人、警備員の静止も振り切ってツインルームの煙の中を部屋の中に入り宿泊客の命を助けたものの重信は一酸化炭素を吸って意識不明の重症で、救急車で病院に担ぎ込まれた。
麻美はちょうどテーブルセットを一人頑張っていたが、その話を聞くやいなや制服姿のままで、病院にかけつけたものの意識不明のままベッドに横たわる重信を見て涙が止まらず、病院に泊り込んで徹夜介護し涙に明け暮れするのだった。
数日たって、危機状態は脱却したものの予断を許さない状況であったが、自分の名をかすかに呼ぶ重信の顔を見て重信がこんなに自分を愛してくれていることを知り二人は結婚の意志を固めるのだった。
麻美が連日の介護で寝てしまっているとき、看護師から意識が回復された話を聞いて麻美は思わず抱きしめ愛していることを告げるのだった。
                             (第十三話)
第十四話■恋人たちの旅立ち
ホテル開設15周年記念パーティーが開かれて、洋一郎は副支配人、奈央子は、客室マネージャー、重信は麻美の旅館をホテルに改築するために関西に向かうのだった。
キム・オルソはリュ・イジンとともにソウルのホテルから要望を受けて韓国に帰るのだった。
こうして3組のホテルの恋人たちの新しい旅立ちが始まるのであった。
                             (第十四話)
(全編終り)





懐かしの鉄道車輌「103系」

2006-04-28 23:20:08 | 懐かしの鉄道車輌
103系は1963年から1984年の21年間にわたって製造、101系の後継車として生産されてその車両数は3000輌に達し、首都圏、中京圏・関西圏の大都市はもとより全国各地に配置されました。
路線区ごとに中央線・大阪環状線はオレンジ、京浜東北線・関西の東海道線・阪和線はブルー、山手線・奈良線はグリーン、総武・南武線・宝塚線はイエローという具合にカラーコーディネートされて配属されました。
外観デザインは101系を踏襲されていますが、初期型と後半型に分けられ後半投入車輌は前面運転台の窓が高くなり高運転台型と名付けられました。
常磐線の103系は15輌の長大編成で特に北千住ー松戸ー柏ー我孫子間は時速110キロ以上の激走を見せています。
松戸に当時住んでいましたので上野ー松戸間をこの103を利用しましたが北千住ー松戸間は車輌をがたがた云わせてものすごい勢いで疾走するせいかモーターのあるモハは床が熱くなるほどでした。
地下鉄千代田線に新型車が投入されると地下鉄用車輌103系が常磐線用エメラルドグリーンに塗装され直して大量に投入されました。
ちなみに地下鉄線用103系は前面貫通ドアでした。
一時は3000輌の多い車両数があった103系も後継車201系、205系が登場するに及び次第に地方路線、仙石線、大糸線、呉線、などに配属されて大都市圏ではその姿を見なくなって来ています。

大井田さくらのツアーコン日記② 未完

2006-04-25 19:41:40 | 創作TVドラマシナリオ
■機内
すでに夜は明けて窓から朝の太陽が差し込んでくる
客「ああ、よく寝たな、今何時かなあ」
CA「英語で昼食の案内」
CA日本語で「お客様に申し上げます。ただいまよりご昼食を差し上げます」
客 「えっ、朝なのに何で昼食?」
さくら「みなさま、当機は日付変更線を過ぎています。時計を前日に戻していただいてただいまの時刻は午後12時10分ですので時計をお合わせください」
客 「道理で昼食のはずだ」
CA「Chikin or Fish]
客 「Chikin prease」
CA「oh right」
CA「Chikin or Fish」

CA「Lady&Gentlemen,This Fright soon will be aproach Siatle Tacoma Inter NationalAirPortofFinalterminal about 2Hour」

客 「さくらさん、あの地平線の黒いものは何ですか?」
さくら「あれがこれからみなさまがいらっしゃる北米大陸なんです」
さくら「みなさま、この飛行機はシアトル止まりになります。

乗客 「はっ、この飛行機ミネアポリス空港まで行かないんですか?」
さくら「ご安心ください、私たちはシアトルで1時間休憩してサンフランシスコ行きの飛行機に乗り継ぎます、それに」
乗客 「それに?」
さくら「アメリカでは飛行機は鉄道より手軽で本数も多いから心配いりません」

■シアトル・タコマ空港に機首を下げて到着
CA「Meet to you again,bye」
CA「thank you,have your nice trip」
CA「ご搭乗ありがとうございました、またのご利用をお待ちしています」

■入国管理センター
さくら「皆様、これからアメリカ本国入国手続きを行います。その際係官から
    二つの質問があります。
    最初に旅の目的は、と聞かれますから「観光」サイトシィングと答えてください」
客 「英語で・・質問ですか?」
さくら「もちろんです、ここはアメリカです」
客 (笑)
さくら「英語で、What are you doing purpose」
客 「わしゃ、英語は苦手じゃが、ここは頑張らんと、ねえ、さくらさん」
さくら「ええ、頑張ってください」
客 「もう一つは?」
さくら「何日間アメリカに滞在されますか、英語でHow Many days stay in USA、って聞かれますから皆さんの場合は10日間ですから、ええとテン・デイズと答えてください。おわかりになりましたか?」
客 「はい」

さくら ツアーの人たちを見守る。

■エックス線透視装置
さくら「皆様、お手持ちの鞄、トランク、バッグなどをあの装置に掛けますので」

さくら「そのあとボディーチェック行いますのでこのケースにポケットのものを入れてください」
一人一人がボディーチェックを受けている。
係員 「OK」
係員 「OK」
さくら、注意して見守っている
ある乗客が何度もゲートを通ってもパスしないでやり直しをさせられている。
さくら「はっ、何で」
係官 「Onece more please」
さくら(声を大きくして)
さくら「お、お客さま何をされてるんですか」
客 「何度も言われたとおり、ここのゲート通るとブーって云う音がして、通してくれないんだよ」
さくら「金目のものをポケットにお入れになってません?」
客 「いや、そんなものは」
さくら「じゃ、お客さま、もう一度」
 「ブーッ」
係官 「No,Oncemore please」
さくら「すべてのポケットの中の紙切れでも何でも出してください」
客 「コイン、10円銅貨があるけど」
さくら「わかったわ、それも全部出してください」
客 「ああ、さくらさんのお陰です、だけどどうして10円銅貨が」
さくら「アメリカは厳しいんです」
全員がやっと無事に通過できて国内線発着乗り場へ移動のためモノレールで
さくら全員の後ろに離れていて見守りながら歩く。
さくら「まったく添乗は大変だよ、一人だしさ面倒見切れないよ、もう」


■1時間後
CA「Good afternoon,Well come bording」
CA「Nice meet to to you」
客 「サンフランシスコって云うところはえらい遠いところなんだなあ」
さくら「これから1時間で着きますよ」

■機内
CA「英語で説明している」
客 「さくらさん、今なんて云ってるんだね」
さくら「これから皆様にお飲み物をお配りします、ワインでも何でも、シャンパンもありますからどうぞと云ってます」
客 「えっ、シャンパン飲めるんだ」
客 「シャンパンなんてしゃれたものは俺は飲んだことないし、いいなあ」
客 「あんたも飲む?」
客 「わしもこの際シャンパン飲んでみたいわ」
CAに向かって
客 「お姉さん、シャンパンスリー」
さくら客の話聞いてて
さくら「大変だ、止めないとえらいことに」
さくら「お、お客さま、シャ、シャンパンはアルコール分が非常に高く、飛行機は気圧が低いのでお飲みになると地上に比べて酔いが早く回り、醒めるのが遅いのでお控えください」
客 「大井田さん、わしは酒は飲んでも飲まれんから大丈夫だよ」
客 「四国の人間は酒に強いから」
さくら「皆様がそれほどおっしゃるなら、でも飛行機は室内も気圧が低くそれに1万メートルの高さなので直ぐに酔うんですよ」
客 「さくらさんには決して迷惑掛けません」
さくら「分かりました、シャンパンは結構甘くてさっぱりしますけど、アルコール成分強いのでお気をつけください」


さくら「お客様、左の下をごらんください、サンフランシスコの市内に入りました」
客 「あの小さな赤い橋は」
さくら「あれが有名なゴールデンブリッジです」

CA「Lady & Gentlemen soon will be aproache in San Francisco Inter NationalAir Port about 30Minutes」

■サンフランシスコ空港リムジンバス乗り場
リムジンバスに乗り込むツアー団体
バスに乗り終わると
さくら、人数を数えている
さくら「全員おそろいですね」
ドライバーに
「Thats OK」


さくら「みなさま、長旅本当にお疲れ様でした。時刻は午後3時ちょうどです。
飛行機の整備点検不良などのトラブルで時間が遅れましたことをおわび申し上げます。これからホテルに参りましてちょっとお休みを取っていただきます。
それから夕食を終えまして、皆様を夜のサンフランシスコ観光にお誘いいたします。集合時間は夜7時に玄関前に集まってください。よろしくお願いします。」
客「いやあ、サンフランシスコにとにかく着いたんでほっとしてます」
さくら「皆様のトランク、お荷物類はそれぞれのお部屋にホテルの係員が運びます
その際係員の方にチップを必ず用意されてさしあげてください」

■貸切バス
さくら「こんばんは。皆様これから夜の観光ツアーにご案内します。ええとコースは、さきにサンフランシスコの街が一望の下に眺められるツインピークスに・・・」
■バスから見える夜の街

■ツインピークスの丘
さくら「みなさま、お待たせいたしました。こちらがツインピークスです。」
さくら、居眠りしているお客3人に気がつく
さくら「もしもし、お客様つきましたよ」
客  「・・・・・・・・・」
客  「・・・・・・・・・」
さくら「もしもし、お、お客様ツインピークに着きましたよ。」
さくらの回想場面
客  「お姉さんシャンパンスリー」
さくら「た、大変なことになる、止めないと・・・」

さくら「もしもし、サンフランシスコノ夜の街はきれい・・・・」
客  「うるせーよ、眠いんだ寝かしといてくれよ」
さくら「お客様、サンフランシスコを見たいと言ってここまでこられたのでしょう」
客  「寝かしといてくれよ、俺の勝手に」
さくら「わかりました。飛行機の中でお酒を機内で飲むと・・」
客  「うるさいんだよう、お前は」
(これだけいってもだめか、だから飲むなといったのに)

さくら



■ウエストラインホテル
さくら「みなさま、お待たせしました。ホテルに到着いたしました。長旅どうもお疲れさまでした」

客 「どうもさくらさん、お世話になりました」
■翌日ホテル前
現地の若いアメリカ人のツアーガイドが立って居る。
さくら気がついて近付いて
さくら「Nice meet to you,Im Eastan sightseeing tourist」
さくら「My name is Sakura Oida」