俺とアル、ついでに大佐が協力してエッカルトを打ち倒して
俺の世界…アメストリスには平和が戻ろうとしていた
ただ一つ…俺の憂いを残して
邂逅10~終結~
「ウィンリィはどうするんだよっ!!兄さん!!」
俺が切り離した尾翼の上から、鎧でない、生身のアルが叫ぶ
「…これ、ありがとうな…って言っておいてくれ」
真新しい機械鎧を見せて、俺は笑う。
悔いは、なかった。
魂を一度現実世界へ送ってきたとき、すでにアルに対する心配は消えていたけれど
アメストリスでちゃんと生身の体を見れて、深く安心した
ウィンリィは、また悲しむかもしれないが、残る気はなかった
俺には…こいつらを門の向こうへと返さなくてはいけないから
…いや
それはただの言い訳かもしれなかった
俺はただ…もう一度…門を抜けたいだけなのだ
もう一度抜けて…そこであいつに会えたら…なんて、我ながら女々しい事を考えている
「兄さんっ!!!」
アルが涙を流している
男がそう簡単に泣くなよ、と言いたかったが俺も口を開けば泣きそうになりそうだったから、黙った
たった一人の家族。たった一人の肉親。
それを捨ててでも、あいつを選ぼうとする俺を、アルは許さないだろうか?
でも…それでも…俺は…あいつを選んだのだ
「ごめんな…アル。俺…あいつを見捨てられない。きっと見つけ出すんだ…」
アルからすれば、何のことを言っているか分からないだろう。
でも、それでいい。
それでも…アルに理由を話さないのは嫌だったから…そうとだけ言ったのだ
「(…アルのこと…頼むな)」
そして俺は視線だけで大佐に礼を言う
…閉じられた目、眼帯の下から…一瞬涙が見えたような気がした
---さようなら---
心の中でそう呟いて、俺は門の開いた地下都市へと進み、再び門をくぐった
◇◇◇
門の中…俺は相変わらず彷徨っていた
おチビさんに会いたいと思っても…どっちへ行けばいいのかなんて、見当も付かない
それに…会えたところで…どうしろと言うのだろう
俺はずっと…おチビさんのことを忘れてしまった
たくさん傷つけて…たくさん酷いことをした俺を…おチビさんは嫌いになったかもしれない
もう前みたいに笑いかけてくれないかもしれない…
でも…それでも……会いたい気持ちは募るばかりで…
「おチビさん……」
せめて気を紛らそうとして、俺はおチビさんを呼ぶ
『エンヴィー』
「っ!?」
不意に、何かに呼ばれた気がした
まるで、俺の声に応えるかのように…
そして、自然と目が行った先には小さな光があり
わけも分からないまま…俺は光を追いかけた
◇◇◇
これで通算五度目になる門を潜り抜ける最中、俺は誰かの声を聞いた
そう、「おチビさん」…と
「…いる…のか……?エンヴィー…」
信じられない気持ちで、門の中に目をやる
けれど、眩いばかりに光り輝いてるそこを見渡すことは困難で…
でも、もしエンヴィーが近くにいるなら…俺に気づいてくれるかもしれない
例え俺を憎んだままでも…なんらかの反応をしめしてくれるかもしれない
殺しにきたっていい。…エンヴィーに会えるなら
だから…もう一度だけ呼んだ
「エンヴィー」
…と。
そして門を抜け…俺が再び降り立ったのは、最初と同じエッカルトの邸だった
ただ違うのは…こちらのヒューズさんに撃たれたエッカルトの死体が転がり
ノーアがアルフォンスの遺体を抱えているという事だけだった
相も変わらず、上空には門が開いたままだ
そして…鎧の中に紛れ込んでいたアルと再会し、俺はアルと共に門を破壊するべく天井を仰いだ
やはり…そこにかつてあったはずのエンヴィーの姿はなかった
もしかしたら、ドラゴンのままで未だこちらの世界にいると思ったのに…その希望は叶わなかった
そして、門を閉じれば…それはもう、あちらの世界、そしてエンヴィーとの永遠の別れを意味する事となる
…今更、やめることなんて、しない
「…さよなら…エンヴィー……」
アルが材料集めの為に離れたとき、そっと別れを告げる
…が
「…勝手にサヨナラしないでよ、おチビさん」
「…っ!?」
頭上から降ってきた声に、心臓が飛び跳ねる
俯いていた顔を再び天井へと向ける
そこには…あいつがいた
「久しぶり、おチビさん」
前と同じ呼び名で
前と同じ格好で
前と同じ笑顔で
あいつは…俺を呼んだ
「エンヴィー!!!!」
俺が叫ぶと、エンヴィーは今しがた自分がいた二階の通りから飛び降り、俺の前へと降り立つ
そして、そのまま俺の体を力一杯抱きしめてくれた
「…ごめん…おチビさん…」
エンヴィーの声が、温もりが、すぐ傍に聞こえる、感じれる
それが嬉しくて…涙があふれた
悲しみでない、それが…
「…っ…もう…チビじゃね…ぇよ…」
言いたいことはたくさんあるのに、うまく言葉が出てこない
「…うん…。でも…俺にはおチビさんだから…」
エンヴィーも同じなのだろう…どことなく、声が震えている
「気づいたら…光の中で…おチビさんに会いたくて…、どこかから…おチビさんの声が聞こえた気がして…そっちに光があって…それを…追いかけたら…ここに…いた…」
「…っ…俺も…聞こえた……お前の…声が…」
俺を抱きしめる力がさらに強くなる
だから…俺からも、力一杯抱きしめ返してやった
今は…これだけでいいから…
言葉なんて…後からいくらでも交わせるから…
今はただ…この邂逅を味わっていたかった…
二人で、共に…いつまでも……
FIN
強引に終わらせてみました(オイ)
これでいいんです。二人がそろってればそれで…(笑)