CBTセンター

認知行動療法の使用感・使用例などを具体的に書き込む

Panic DisorderのAさんのケース②

2006-01-08 | パニック障害
A:こんにちは。よろしくお願いします。
C:こんにちは。こちらこそよろしくお願いします。前回から今回までの間で何か特に変わった事はありましたか?
A:ええと・・・特にありませんでした。いや、無かったというより・・・。
C:なんでしょう?
A:前回けっこうしっかりとPDについて説明してもらったからか、ずい分頓服(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)を飲まなくなりました。
C:ほう。それはどういうことです?
A:カウンセリングを受ける前は、ちょっとでも症状が出ると、すぐに頓服を飲んでいました。しかも徐々に飲む量が増えつつあったんです。なんか頓服依存症みたいで、自分でもすごく嫌で・・・。もうこの薬から一生離れられないのかなあと思うと辛かったんです。
C:なぜ変わったんですか?
A:なぜでしょう?良くわかりませんが、Panicの基礎知識を聞いてなんかすごい安心しました。ああ、治る病気なんだなあって思えたからでしょうか。とにかくすごい希望を感じました。
C:それは良かったですね。PDは適切に治療すれば治る病気ですから、一緒にがんばっていきましょう。また飲まれていた頓服はベンゾジアゼピン系のお薬で、PDに関して確たる有効性が無いので、飲もうが飲むまいが、PDの治療とは関係ありません。
A:そうなんですか?頓服を飲むとすごく安心していたんですが?
C:頓服を飲まれたとき、飲んだ直後ないしは薬の封を開けた直後に安心していたのではないでしょうか。もし薬理作用で効果があるのであれば、少なくとも飲み終え、胃や腸が吸収し、肝臓を経由し、血液脳関門を通り、脳神経に働きかけて、何分後かに効果が出ます。もっと早く出ているのであれば、おそらくプラセボー(偽薬)効果で、つまり暗示のようなものでしょう。
A:確かにいつも口に入れた瞬間、もっと言えばお薬の封を切った瞬間に安心してました。今までは頓服をほとんど毎日飲んでいて、時々足りないから、普段の診察以外にも頓服をもらいに行ってたぐらいです。でも前回の診察の時までには初めて頓服が余っていました。
C:それは良かったですね。薬代も馬鹿にならないですから経済的にもお徳だと思います。しかし普段飲まれているSSRI系のお薬は、PDに対して有効とされていますから、今後もしっかりと飲み続けてください。PDが治ってからも再発予防のために半年ぐらい飲み続ける方が良いというデータがありますから、普段の薬に関しては主治医の先生と相談の上調整していってください。さて、前回お渡しした用紙は書けましたか?
A:書き方がよく判らなかったんですが、これで良いんでしょうか?
C:説明不足ですみませんでした。しかし見た所バッチリ書けているようです。少し読ませてください。・・・とてもよく書けていると思います。幾つか質問させてください。何度か同じ状況がありますが、これは通勤コースなんですか?
A:はい。そこはいつも引っかかります。行きも帰りも遠回りするので、不便です。
C:そういう所は不便が多いので、逆に治療の意欲が沸いてくるところですね。もう1つ、これは友達と車で遊びに行ったんですか?
A:はい。私は一応助手席で、もし友達が疲れたら運転を代わって・・という事になってたんで、その日に行くかどうかすごく迷いました。でも結局友達がずっと運転してくれたんで大丈夫でした。
C:自分が運転しなければ大丈夫なんですか?
A:そうですね。一番怖いのは私が運転中におかしくなって、事故が起こってしまう事ですから、助手席に乗るのはまだマシです。でももし運転代わってと言われてたら、ヤバかったと思います。
C:車の運転は怖いけれど、遊びに行くのは好きみたいですね。そのように活動性が高いと治療のやる気が出るので、とても良い事だと思います。どんどん遊びの計画を立てて色んなところに行ってみてください。
A:はい、判りました。
C:こんな風に不安を観察していて、ご自身で何か気がついた事はありますか?
A:ええと、・・・基本的には怖い事を避けているのでパニックは起こらないですが、チョコチョコ小さい怖さがあるなあって思います。特にクラクラ来るのが多くて、あんまり多いから全部書いてないですが、仕事をしててもしょっちゅうなります。
C:なるほど。現在一番多く困っているのはクラクラなんですね。多くのPDの方がクラクラを感じるようです。直接クラクラを消す事は難しいのですが、対処する方法は2つあって、1つはクラクラした時に手をついたり、座ったり、どこかにもたれたりせずに、そのままにしておくことです。もう1つはクラクラはさておき、PDの別の部分を治療しているうちに自然に治るという事です。
A:自然に治るんですか?
C:それぞれの症状はPDという全体でまとまっていますので、他の治療をしている間に、かなり軽減すると思います。今のところはクラクラは無視してそのまま仕事を続けるように心がけてください。他の治療も進みますし、放っておけばそのうち無くなります。
A:わかりました。やってみます。
C:さて、今日は二つの事をやってみたいと思います。1つは不安状況の階層化で、もう1つは内的なエクスポージャーです。色々な不安があると思いますが、その中でも一番強いものは何ですか?
A:高速道路で渋滞にはまる事ですかね?盆とか正月の渋滞情報をTVで見たりするとぞっとします。今考えただけでも嫌です。
C:ではそれを100点として、その他の不安がそれぞれどれぐらい強いのかを表にしてみましょう。通勤途中の交差点で赤信号に引っかかるのは、何点ぐらいになりますか?
A:80点ぐらいです。
C:では80点で。仕事中にクラクラ来るのは何点ぐらいの不安でしょう?
A:それは30点ぐらいかな。
C:そんな調子で、他にも不安だと思う状況について、表に書き込んでいってください。
****表に記入・調整****

C:そのうちエクスポージャーをする時期が着たら、この表などを参考にして段階的にチャレンジしていきましょう。例えば今するとしたら、どれぐらいの事までできそうな気がしますか?
A:今ですか?今だとこの45点の「誰かの車に乗って高速道路に乗る」ぐらいですかね。
C:なるほど。ちなみにエクスポージャーは低い方からやっていけば、その内高い方の不安も自動的に下がっていきますから、今は無理だと思っても治療が進めば高い方にもチャレンジしてみようかなと思えるようになりますよ。
A:そうなると良いんですが。
C:そうなると良いですね。さて、次は内的なエクスポージャーをやってみましょう。中学生の頃は過呼吸があるとおっしゃってましたが、現在でもそれに悩まされる事はありますか?
A:今では過呼吸は無いです。でも息苦しいなと感じる事はけっこうあります。PDになっている時はけっこう息苦しいです。
C:PDの方で発作時に明白に過呼吸ではないが、呼気と吸気のバランスが崩れる方は大勢いらっしゃいます。実際のところPDの発作の時に起こっている身体症状のいくつかは、息を吸い過ぎて二酸化炭素が不足してしまう「呼吸性アルカローシス」という現象から来ています。呼吸性アルカローシスの症状は手足が冷たくなり、心臓がドキドキし、頭がぼうっとしたり、頭痛がしたり、視界が狭くなったり、真っ白になったりします。そういった体験をしたことがありますか?
A:私がPDを起こしているときは大抵そうです。呼吸は苦しいですし、本当に頭が真っ白になりますし、手足が冷たくなってこのまま倒れるんじゃないかとか、気が狂うんじゃないかとか、死ぬんじゃないかと怖くなります。
C:過呼吸はハァハァ息をするというわかりやすい形のものもありますが、もっと見えにくい自然な感じの過呼吸も多いです。例えば少しずつ息が上がるというか、呼気より吸気の方が多くなっていく場合とかもあります。やってみるとこんな感じです。
****自然に息が上がるモデリング****
A:呼吸に気をつけてみた事はなかったですけど、ひょっとしたらいつの間にかそうなっているかもしれません。
C:これは重要なポイントなので、今度PDの予兆を感じた時は自分の呼吸がどうなっているかを注意して観察してみてください。さて、内的なエクスポージャーですが、二つからなります。1つは息止めで、もう1つは過呼吸誘発です。何秒ぐらい息が止められますか?
A:20秒ぐらいだと思います。
C:ではちょっと何秒止められるか測ってみましょう。合図をしたら息を止めて、もう限界だと思ったら手を挙げて息を吸ってください。念のため言っておきますが、人間は自分で息を止めて死ぬ事は不可能です。もし仮に気絶するまで息を止めたとしたら、気絶した瞬間から自動的に呼吸が再開されます。まあでもそんなに頑張らないでください。
A:判りました。
****息止め実験****
C:25秒持ちましたね。やってみてどうでしたか?不安になりました?
A:苦しかったです。少し不安になりましたが、いつでも自分で呼吸を再開できるのでそれほど怖くはなかったです。
C:実際のところCBTのエクスポージャーはいつでも自分でやる事ですから、いつでも自分でやめられる事ばかりです。では次に過呼吸実験をしてみましょう。ちょうど25秒止められましたから、25秒ばかり息を吸ったり吐いたりしてみましょう。ちょっとやって見せますね。大きく吸って、大きく吐いて・・・こんな感じです。そのときにどんな感覚が起こるか、自分の体の変化に注目しながらやってみてください。私がスタートと言ったら始めて、ストップと言ったらやめて下さい。
A:判りました
****過呼吸実験****
C:どうでした?
A:頭がぼうっとします。手足も少ししびれるような、冷たいような、違和感があります。目がちかちかするのと、なんか苦しい感覚があります。さっき息を止めた時よりも怖かったです。
C:発作が起こっているときの感覚と似ていますか?
A:そうですね。そう言われれば似ていると思います。こういう感覚がした時はヤバイ!と思うときです。
C:PDの説明の所でしていた「内的なトリガー」とは、まさにその事です。生物は危険が迫ったと思うと自然に呼吸が速くなります。それはFight-Fly-Fixという反応で、アドレナリンが出て、血液を体の末端から中心に引き上げて危険に備えます。過呼吸の結果起こる症状は、私がやっても、誰がやっても起こります。しかしPDの方はそのような危険への準備反応を「パニックが起こる前兆だ」と解釈することで、ますます不安が高まり、ますます準備が進みます。
A:そうなんですか。そんな風には考えた事がなかった。ヤバイとしか思わなかったです。
C:今は「過呼吸実験の結果、身体反応が起こった」という風に解釈されていますから、普段の発作のときよりも不安が少なかったと思いますが、どうですか?
A:そうですね。不安でしたけど、発作の時はこんなもんではないです。
C:普段の発作の時も、訳がわからず発作の前兆だと解釈するよりは、アルカローシスが起こっていると解釈すれば、不安になり過ぎずに済みますし、適切な対処が取れます。対処とはゆっくり深く息を吐くように意識するか、あるいは最初にやった息を止める事です。
A:息を吐くか止めるかで良いんですか?
C:そうですね。基本的には体の中の二酸化炭素が減りすぎると症状が出るので、しばらく息を止める事で二酸化炭素のバランスが回復し、症状が治まってきます。逆に息を吸えば吸うほどバランスの傾きが酷くなって、症状は酷くなります。
A:あー、私のやっていたのは逆ですね。息苦しいからもっと息を吸おう吸おうと焦ってしまって・・・。
C:その辺は私も謎なんです。吸いすぎて苦しくなってるのに、益々吸いたくなってしまうのはなぜなんでしょうね?しかしとにかく、先ほど体験したような症状が起こっているときは「二酸化炭素の量が減ってきてるんだ」と解釈し、「バランスを取り戻すために息を止めよう」と対処したら、随分と楽になると思います。息を止められない場合は、なるべくゆっくり息を吐き切る様にして下さい。とにかく吸う事よりは吐く事が重要です。
A:わかりました。やってみます。何か今までは「ああ、ヤバイ」としか思わなかったんですが、色々説明がつくことだったんですね。
C:人間は説明のつかないことには強い不安や恐怖を覚えます。幽霊やUFOもその類です。PD治療の鍵は「PDという現象の理解」にありますから、PDについての正確な知識がどんどん増えるにつれ、訳がわからず不安や恐怖になるのはマシになっていくでしょう。
A:ああ、なんかでも、今日ちょっと判ったような気がします。良かったです。
C:それは良かったですね。PDのもう1つの特徴は体の感覚がけっこう重要なところです。体の感覚ばかりは言葉や文字で説明できるようなものでは無いので、さっきの実験のように実際やってもらって、体で味わってもらいながらそれをどういうものなのか冷静に解釈する必要があります。大抵のパニック発作の時はとても冷静で居られないでしょうから、計画的にエクスポージャーをして、そのときの様子をメモして、それについて色々考えてみる。そしてPD現象を今までとは別のやり方で受け止める事ができたら、PDはかなり良くなります。
A:わかりました。やってみます。
C:では本日の課題ですが、生活をしていて不安を感じた時に自分の呼吸がどうなっているかの観察と、それに伴ってどんな体の感覚があるのかの観察をしてみましょう。そしてできれば先ほどやってみた「息止め対処」を行って、それでどうなるかも見てみましょう。この表に書き込んでみてください。
A:はい。やってみます。今日もありがとうございました。
C:こちらこそ、ありがとうございました。