生きるとは呼吸することではない

気になった呼吸器関連論文

COPDの増悪頻度

2017年09月21日 | 閉塞性肺疾患
 GOLDでは2011年から,従来の気流閉塞によるStage(病期)とは別に,ABCDの四つのグループの層別化が採用されている(AJRCCM 2013:188:51-59)。その背景には,ECLIPSE study(NEJM 2010;363:1128-1138)での,同じ病期でも増悪回数にばらつきがあり,増悪を予測する因子としては過去の増悪歴重要である,という観察結果がある。ABCD分類は,症状(mMRC,CAT)とリスク(気流閉塞または1年間の増悪回数)の組み合わせから4つのカテゴリーに分類するもので,それぞれのグループに対して推奨治療を提示するような治療戦略となっている。さらにGOLD2017からは,FEV1-free approach(AJRCCM 2016;194:541-549)が採用されて,ABCDは症状と増悪歴の組み合わせになった。つまりは,リスクとして過去の増悪歴が重視されるようになったわけだが,実地臨床では増悪があった年もあれば,そうでなかった年もあり,それは治療内容のせいだったのか,たまたまなのか,実はあまり確かなデータはなかった。

 今回取り上げるのは,3年間の前向き研究で,年ごとの増悪頻度を調べた Subpopulations and Intermediate Outcome Measures in COPD Study (SPIROMICS) の結果である。

 研究デザインは縦断的前向き観察研究で,資金提供はNHLBIである。解析対象患者は3年間の前向きデータが40~80歳のCOPD患者。患者を年ごとの増悪頻度で分類し,ステップワイズロジスティック回帰によって年ごとのCOPD増悪に関連する因子を比較した。さらにzero-inflated negative binomial modelを用いて,フォローアップ中の増悪予測因子を評価した。

 結果だが,2981人の患者が登録され,1843人がCOPDをもっており,うち1105人が3年間の前向き観察を完了した。1105人のうち538人(49%)が3年間で少なくとも1回の増悪を経験し,567人(51%)は増悪がなかった。82人(7%)は毎年少なくとも1回の増悪を経験し,23人(2%)は2回以上の増悪歴があった。増悪のあった年となかった年が混じっている患者は456人(41%)と多く,特にGOLD3および4の患者で多かった(456人中256人[56%])。ロジスティック回帰を用いると,3年間で年間1回以上の増悪がみられた患者は,増悪歴がない患者と比較して,ベースラインのCATスコアが高く,過去に増悪歴があり,CTで末梢気道病変がみられ、血中IL-15濃度が低く、血中IL-8濃度が高かった。

 本研究は,GOLDで既に示されている症状や増悪歴以外にも,末梢気道病変やIL-15・IL-8といった増悪の予測因子を示したが,一方で,COPD増悪は年ごとに個々の患者でばらつきが大きいことも明らかにした。本研究の結果はABCDの層別化に根本的な疑問を投げかけていると言えるだろう。

 GOLDが増悪リスクを重視しているのは,増悪予防が生命予後の代替エンドポイントであるという発想に基づいている。本研究のベースラインでの年1回以上増悪を経験している患者の頻度は22%であったが,ABCD分類の元ネタになったECLIPSE studyでも年間2回以上の頻回増悪群は12%,本研究ではたったの2%にすぎない。我が国のCOPD患者ではさらに増悪頻度が低いとされていて,北海道コホートのデータでは0.20回/年(ERJ 2014;43:1289-1297),real worldを反映していると思われる石巻地域COPDネットワークのデータだと0.36回/年(日呼ケアリハ学誌 2016;26:285-290)と,いずれも一桁違っている。我が国のCOPD患者においてABCDグループの層別化がどれぐらい妥当か,というエビデンスがきちんと示される必要と思う。


Han MK, Quibrera PM, Carretta EE, et al. Frequency of exacerbations in patients with chronic obstructive pulmonary disease: an analysis of the SPIROMICS cohort. Lancet Respir Med 2017;5:619-626