医者の仕事は患者の健康問題を解決することだが,時々困っていないのに病院にやってくる患者がいる。特にスリープの初診患者はほとんどがそうで,職業運転手は別として,主訴が「いびきがうるさい(と奥さんに言われる)」「(他科入院中だが)寝ているときに呼吸が止まっている(ことが看護師さんに見つかり主治医が紹介した)」とかで,本人はさっぱり困っていないということがしばしばである。
とはいえ,睡眠呼吸障害のうち,重度のOSA患者では全死亡や心血管死亡が増加することが観察研究から示されている(Sleep Breath 2017;21:181-189, J Am Coll Cardiol 2008;52:686-717)。陽圧換気療法は睡眠時無呼吸の標準治療だが,心血管イベント抑制や生命予後改善の効果が期待されていたものの,そのエビデンスは乏しかった(循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン,2010)。ところが,2012年以降,複数の無作為化試験が報告され,2016年には参加者2,700人というこれまで最大規模の臨床試験Sleep Apnea Cardiovascular Endpoints (SAVE) Studyが発表されたが,その結果はネガティブであった(NEJM 2016;375:919-931)。
そんなわけで,今回は取り上げるのは,NEJM Journal Watchの8月7日号から,JAMAの7月11日号に掲載されたシステマティックレビュー・メタ解析である。
データソースはMEDLINE,EMBASEおよびCochrane Library。2017年3月までに発表された,主要有害心血管イベントまたは死亡の報告を含む無作為化試験を検索した。データ抽出は2人の独立した研究者が行い,ランダム効果モデルを用いてメタ解析を行い,要約相対リスク比(RR),リスク差(RD)および95%信頼区間(CI)を算出した。主要評価項目は,ACS・脳卒中・血管死の複合(主要有害心血管イベント),個々の血管イベント,および死亡とした。
解析には10個(CPAPが9個,ASVが1個)の臨床試験が組み込まれた(症例は計7,266例,平均年齢60.9[51.5~71.1]歳,男性5,847例[80.5%],平均BMI30.0[SD 5.2])。主要有害心血管イベントは356件,死亡は613件報告されたが,陽圧換気療法は主要有害心血管イベント(RR 0.77[95%CI 0.53~1.13,P=0.19],RD -0.01[95%CI -0.03~0.01,P=0.23]),心血管死亡(RR 1.15[95%CI 0.88~1.50,P=0.30],RD -0.00[95%CI -0.02~0.02,P=0.87]),全死因死亡(RR 1.13[95%CI 0.99~1.29,P=0.08],RD:0.00[95%CI:-0.01~0.01,P=0.51])のいずれとも有意な関連はなかった。同様に,陽圧換気療法とACS,脳卒中および心不全との関連も認められなかった。CPAPとASVで差はなく,メタ回帰解析において無呼吸の重症度,追跡期間あるいは陽圧換気療法のアドヒアランスの違いによる転帰との関連はなかった。
本研究の結論としては,陽圧換気療法は心血管イベントや死亡の減少とは関連がなかった,となる。論文中のFigure 2を見れば一目瞭然だが,ネガティブスタディーをいくら統合解析してもポジティブな結果にはならないのである。では,この論文には価値はないか,というと,そんなことはないと思う(メタ解析はエビデンスレベルが高いとかそういうことは別にして)。以前も書いたが,呼吸管理では薬物治療以上に,どんな患者にどういう介入をするか,がポイントになる。Figure 4から読み取れるのは,陽圧換気の時間は長いほど,AHIは高いほど,効果が高そうだということだ。エディトリアルではないが,結論を出すには Far Too Soon to Say である。
やっぱり,PSGで重症と診断された患者には陽圧換気療法をおすすめするべきなんだと思う。確かに自覚症状のない患者のアドヒアランスは悪い(J Cardiol 2014;63:281-285)のだが,SAVE Studyの平均アドヒアランス(3.3時間!)に比べたら,かわいいぐらいである。
Yu J, Zhou Z, McEvoy RD, et al. Association of Positive Airway Pressure With Cardiovascular Events and Death in Adults With Sleep Apnea: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA 2017;318:156-166.
Gottlieb DJ. Does Obstructive Sleep Apnea Treatment Reduce Cardiovascular Risk?: It Is Far Too Soon to Say. JAMA 2017;318:128-130.
とはいえ,睡眠呼吸障害のうち,重度のOSA患者では全死亡や心血管死亡が増加することが観察研究から示されている(Sleep Breath 2017;21:181-189, J Am Coll Cardiol 2008;52:686-717)。陽圧換気療法は睡眠時無呼吸の標準治療だが,心血管イベント抑制や生命予後改善の効果が期待されていたものの,そのエビデンスは乏しかった(循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン,2010)。ところが,2012年以降,複数の無作為化試験が報告され,2016年には参加者2,700人というこれまで最大規模の臨床試験Sleep Apnea Cardiovascular Endpoints (SAVE) Studyが発表されたが,その結果はネガティブであった(NEJM 2016;375:919-931)。
そんなわけで,今回は取り上げるのは,NEJM Journal Watchの8月7日号から,JAMAの7月11日号に掲載されたシステマティックレビュー・メタ解析である。
データソースはMEDLINE,EMBASEおよびCochrane Library。2017年3月までに発表された,主要有害心血管イベントまたは死亡の報告を含む無作為化試験を検索した。データ抽出は2人の独立した研究者が行い,ランダム効果モデルを用いてメタ解析を行い,要約相対リスク比(RR),リスク差(RD)および95%信頼区間(CI)を算出した。主要評価項目は,ACS・脳卒中・血管死の複合(主要有害心血管イベント),個々の血管イベント,および死亡とした。
解析には10個(CPAPが9個,ASVが1個)の臨床試験が組み込まれた(症例は計7,266例,平均年齢60.9[51.5~71.1]歳,男性5,847例[80.5%],平均BMI30.0[SD 5.2])。主要有害心血管イベントは356件,死亡は613件報告されたが,陽圧換気療法は主要有害心血管イベント(RR 0.77[95%CI 0.53~1.13,P=0.19],RD -0.01[95%CI -0.03~0.01,P=0.23]),心血管死亡(RR 1.15[95%CI 0.88~1.50,P=0.30],RD -0.00[95%CI -0.02~0.02,P=0.87]),全死因死亡(RR 1.13[95%CI 0.99~1.29,P=0.08],RD:0.00[95%CI:-0.01~0.01,P=0.51])のいずれとも有意な関連はなかった。同様に,陽圧換気療法とACS,脳卒中および心不全との関連も認められなかった。CPAPとASVで差はなく,メタ回帰解析において無呼吸の重症度,追跡期間あるいは陽圧換気療法のアドヒアランスの違いによる転帰との関連はなかった。
本研究の結論としては,陽圧換気療法は心血管イベントや死亡の減少とは関連がなかった,となる。論文中のFigure 2を見れば一目瞭然だが,ネガティブスタディーをいくら統合解析してもポジティブな結果にはならないのである。では,この論文には価値はないか,というと,そんなことはないと思う(メタ解析はエビデンスレベルが高いとかそういうことは別にして)。以前も書いたが,呼吸管理では薬物治療以上に,どんな患者にどういう介入をするか,がポイントになる。Figure 4から読み取れるのは,陽圧換気の時間は長いほど,AHIは高いほど,効果が高そうだということだ。エディトリアルではないが,結論を出すには Far Too Soon to Say である。
やっぱり,PSGで重症と診断された患者には陽圧換気療法をおすすめするべきなんだと思う。確かに自覚症状のない患者のアドヒアランスは悪い(J Cardiol 2014;63:281-285)のだが,SAVE Studyの平均アドヒアランス(3.3時間!)に比べたら,かわいいぐらいである。
Yu J, Zhou Z, McEvoy RD, et al. Association of Positive Airway Pressure With Cardiovascular Events and Death in Adults With Sleep Apnea: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA 2017;318:156-166.
Gottlieb DJ. Does Obstructive Sleep Apnea Treatment Reduce Cardiovascular Risk?: It Is Far Too Soon to Say. JAMA 2017;318:128-130.