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気になった呼吸器関連論文

抗線維化薬と長期予後

2017年01月19日 | びまん性肺疾患
『特発性間質性肺炎診断と治療の手引き(改訂第3版)』がひっそりと発行された。JRS会員全員に配布されることもなかったので,びまん性肺疾患業界以外の人には気づかれないぐらいである。

改訂第2版が出版されたのは2011年だったので、抗線維化薬であるピルフェニドンは2008年に発売されていたものの,ASCEND試験(NEJM 2014;370:2083-2092)も,ニンテダニブのINPULSIS試験(NEJM 2014;370:2071-2082)も発表前であり,内容を比較すると隔世の感がある。とはいえ,IPFがtreatableになったとはいうものの,抗線維化薬による肺機能低下や増悪予防は報告されていても,予後が改善しているというエビデンスは乏しい。

Lancet Respir Med の2017年1月号に掲載された今回の論文は,抗線維化薬のピルフェニドンの死亡率におよぼす影響を検討したものである。

研究デザインは,3つの無作為化第3相試験(CAPACITY004試験,CAPACITY006試験,およびASCEND016試験)のプール解析,および,これらのデータと日本での第2相および第3相試験のデータを加えたメタアナリシス。IPF患者に,ピルフェニドンを投与すると,プラセボと比較して,死亡率が低下するかどうかを検討した。

結果であるが,52週時点において、全死亡に対する相対危険度はプラセボと比較してピルフェニドン群で有意に低かった(ハザード比0.52 [95% CI 0.31-0.87; p=0.0107])。さらに,救急治療関連の全死亡(ハザード比0.45 [95% CI 0.24-0.83; p=0.0094]),IPFによる死亡(ハザード比0.35 [95% CI 0.17-0.72; p=0.0029]),IPFによる救急治療関連の死亡(ハザード比0.32 [95% CI 0.14-0.76; p=0.0061])もピルフェニドン群で有意に低かった。メタアナリシスにおいても52週時点での全死亡はピルフェニドン群で有意にリスクが低かった。120週を超える期間でも、ピルフェニドンはプラセボと比較して,治療による全死亡(p=0.0420)、IPFによる死亡(p=0.0237),IPFによる救急治療関連の死亡(p=0.0132)で有意であった。

以上の結果から,ピルフェニドンはプラセボと比較して120週を超えても死亡リスクの減少と関連していた,と本論文では結論されている。しかしながら,プライマリーアウトカムを示したTable.1を見ると,"End of study"と記載されているCAPACITY004とCAPACITY006の統合解析(120週までのフォローデータが得られた)では全死亡でハザード比は0.69だが,95% CIは0.46-1.05と1をまたいでいる。以前の報告(ERJ 2016;47:243-253)からも治療1年後の時点でのアウトカムに関してはプラセボより有益であるのは確からしいとしても,長期にわたるアウトカムについては断定的なことは言えないのではなかろうか。

抗線維化薬によるIPFの治療は,COPDや喘息と違って自覚症状が改善して満足できることもないし,肺癌化学療法と違って画像が変化するわけでもなく,医療者・患者の双方にとって目に見えないアウトカムを求めるものになっている。高血圧症や糖尿病の場合はなかなか目に見えなくても,コモンディジーズだし,世間のコンセンサスは得られているが,IPFの場合は,添付文書で「【警告】本剤の使用は,特発性肺線維症の治療に精通している医師のもとで行うこと」とか釘を刺されてしまったりして,なかなか敷居が高い。この論文のバックグラウンドには「IPFの臨床試験において全死因死亡率は低い,したがって前向きでの死亡率に関する臨床試験は困難であり,プール解析やメタアナリシスを正当化する」とか書かれているが,やはりOSや長期観察によるPFSをエンドポイントにした前向き試験で有益性がきちんと検証されることを期待したい。

Nathan SD, Albera C, Bradford WZ, et al. Effect of pirfenidone on mortality: pooled analyses and meta-analyses of clinical trials in idiopathic pulmonary fibrosis. Lancet Respir Med 2017;5:33-41