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【名馬物語】第6回 キングヘイロー

2020-03-26 17:00:00 | 名馬物語
今年の高松宮記念はドバイWCの延期(中止)によって、直前の乗り替わりが発生するようですが、高松宮記念で思い出す一頭としては、キングヘイローが印象深いです。


[世界的な良血馬]

父ダンシングブレーヴ 母グッバイヘイロー(母の父Halo)
栗東・坂口正大厩舎 牡 鹿毛

キングヘイローの母、グッバイヘイローはアメリカでG1を7勝した名牝で、父のダンシングブレーヴは「1980年代のヨーロッパ最強馬」とも評され、凱旋門賞を圧倒的な末脚で制した馬でした。
そんな超のつく良血馬だったので、今考えると日本で走ることだけでも驚きです。

注目されたキングヘイローのデビューは、まず武豊騎手に騎乗依頼があったそうです。しかし予定が合わなかったため、たまたまその場にいたデビュー2年目の福永祐一騎手が騎乗することになります。

福永祐一騎手の父は、元騎手で「天才ジョッキー」と呼ばれたものの、落馬事故により引退を余儀なくされた福永洋一氏。その息子である祐一騎手は初騎乗から2連勝という華々しいデビューを飾り、当時の若手騎手でも注目の存在でした。

いわば「良血」どうしのコンビが誕生し、新馬戦、黄菊賞を快勝。東スポ杯3歳Sではレコード勝ちし、クラシックの最有力候補として名乗りを上げました。
福永騎手はこれが重賞初制覇。1.4倍の支持をうけたラジオたんぱ杯ではロードアックスに敗れ2着としますが、それでもスタージョッキー候補と良血馬のコンビに対して、「クラシック最有力」という評価は揺るぎませんでした。


[3強と呼ばれたクラシック]

年明け初戦は弥生賞を選択し、ここでも1番人気に押されますが、きさらぎ賞勝ちのスペシャルウィークが豪快に差し切り勝ちを収めます。キングヘイローは動きが鈍く、逃げたセイウンスカイも捉えることができず3着に敗れてしまいます。
この結果によりクラシックは「3強」と言われ、中でもスペシャルウィークが少し抜けている、という評価に変わりました。

キングヘイローにとって正念場となった皐月賞では、セイウンスカイが横山典騎手に乗り替わり、グリーンベルトで絶妙の逃げ。1番人気のスペシャルウィークは大外18番に入り、馬場の荒れた外を通ることになりました。
結果はセイウンスカイが逃げ切り、キングヘイローは2着。スペシャルウィークは3着に敗れたものの、「負けてなお強し」の印象を与えました。

セイウンスカイに距離の不安が囁かれたこともあり、二冠目のダービーではスペシャルウィークが1番人気。キングヘイローは2番人気に押されました。
福永祐一騎手はデビュー3年目でダービー初騎乗。それも2番人気に騎乗となるとプレッシャーはとんでもないものだったと思います。本人は「頭の中が真っ白になった」と回顧しています。
かくして、キングヘイローはスタートからハナを切り、暴走気味にハイペースで逃げる展開となったのです。
結果は直線でスペシャルウィークが突き抜けて圧勝。武豊騎手に初めてのダービー制覇をもたらしました。セイウンスカイは番手からの競馬を強いられて4着。キングヘイローは14着に大敗してしまいます。
福永騎手にとっては苦いダービー初騎乗となり、キングヘイローは「3強」の中でただ1頭、無冠で春を終えることになりました。

当時の菊花賞は11月の上旬に行われ、9月神戸新聞杯→10月京都新聞杯と2戦して本番に向かうことも可能な番組編成になっていました。
神戸新聞杯では鞍上を岡部幸雄騎手にスイッチして臨みましたが3着。ダービー馬スペシャルウィークが出走してきた京都新聞杯では再び福永騎手に手綱が戻ります。
直線では2頭が激しいデッドヒートを繰り広げますが、2着。

↑直線で福永騎手は叫びながら追っていたそうです。2頭の叩き合いがめっちゃカッコいい!

最後の一冠、菊花賞はセイウンスカイの鮮やかな逃げ切りに終わり、キングヘイローは5着。古馬に挑んだ有馬記念でも6着に終わり、G1勝ちのないまま3歳時を終えます。


[転機・乗り替わりと距離短縮]

古馬となったキングヘイローは鞍上を柴田善臣騎手に変え、さらに1600mの東京新聞杯に出走しました。新馬戦以来のマイル戦でしたが、見事に圧勝。
さらに中山記念も快勝して、一躍マイル~中距離路線の主役候補として名乗りを上げます。
しかし安田記念11着、宝塚記念8着といいところが無く、毎日王冠、秋の天皇賞でもそれぞれ5、7着に敗れてしまいます。

キングヘイローはマイルCSに出走を決めますが、ここで福永騎手にもう一度チャンスが巡ってきます。福永騎手はこのレースに頭を丸めて臨む気合いの入れ様でしたが、その年の安田記念の勝ち馬エアジハードの前に敗れ、無念の2着に終わります。
暮れのスプリンターズSでも福永騎手とのコンビは継続されましたが、初のスプリント戦でスタートから置かれ気味になり最後方。しかし直線では猛然と追い込んで3着まで食い込み、1200mへの適性を感じさせる結果となりました。


[無冠のキング]

年が明けてダートに目を向けた陣営はフェブラリーSに出走します。母グッバイヘイローという血統背景から、1番人気に押されたが、内枠で砂を被ったためか大敗に終わります。
「何としてもキングヘイローにG1を取らせたい」という陣営の熱意は、レース選択を見てもひしひしと伝わってくるものでした。

再びスプリント戦に戻った高松宮記念は、スプリンターズSで後塵を拝したブラックホーク、アグネスワールドが1、2番人気。柴田善臣が騎乗したキングヘイローは4番人気となりました。


スプリンターズSの時と違ったのは、キングヘイローがスタート後にそれほど置かれなかったこと。
アグネスワールドが好位から抜け出すところに、外からブラックホークが襲い掛かり、アグネスが振り切った瞬間内から伸びたのはディヴァインライト。鞍上は福永祐一騎手です。それらを大外からまとめて差し切ったのがキングヘイローでした。
悲願のG1制覇に、キングヘイローを管理する坂口調教師は人目をはばからず涙を流しました。また、福永騎手は「勝ったと思ったが、一番いてほしくない馬が前にいた」と語りました。

その後、6戦してキングヘイローが勝利を挙げることはできませんでしたが、引退・種牡馬入りして、オークス・秋華賞の2冠牝馬カワカミプリンセス、スプリントG1を2勝したローレルゲレイロ等を排出します。

[キングヘイローと福永祐一]

柴田善臣騎手の手腕により、キングヘイローがG1制覇を成し遂げたのは間違いありません。しかし、キングヘイローといえばやはり福永祐一なのです。

顔面蒼白で馬群に沈んだダービーから20年、トップジョッキーの一人となった福永騎手は、ワグネリアンを駆って2018年日本ダービーのゴール板を1着で駆け抜けました。

キングヘイローは2019年3月19日に老衰のため他界します。
その5日後に行われた高松宮記念で、福永祐一騎乗のミスターメロディが優勝。

馬と人の織り成すドラマは、競馬の一番の魅力だと感じます。



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