紅茶には抗酸化作用があるカテキンなどのポリフェノールが豊富に含まれていると言われています。ですが、紅茶に牛乳を入れると紅茶のポリフェノールと牛乳に含まれているタンパク質のカゼインが結合して抗酸化作用が失われてしまうという情報をネット上で目にします。
このことについて素人なりに調べてまとめてみました。
調べた結果から言いますと、紅茶にミルクを入れるとポリフェノールの抗酸化能が無くなると言っている人もいるし、無くならないと言っている人もいました。ですから、まだ決着はついていないということだと思います。
なお、調べた論文の一番新しいものでも2007年なので、もっと新しい情報があるかも知れません。
〇紅茶に含まれるポリフェノール
・緑茶の主なポリフェノールであるカテキン類は紅茶では他の物質に変化していて、テアフラビン、テアシネンシンとテアルビジン(存在しているが正体不明)などと呼ばれるポリフェノールが多く存在している。緑茶のカテキンに比べて紅茶のポリフェノールは、組成が非常に複雑で構造が未解明のものが多い(田中2008)。
・カテキンの抗酸化能に及ぼす影響への寄与は緑茶では93%だが紅茶では少なく34%と計算された(Artsら2002)。紅茶ではカテキン以外のタンニンである酸化ポリフェノールのポリマー(polymers of oxidized polyphenols)の寄与が大きいとされている。
〇紅茶にミルクを加えたらポリフェノールあるいは血液中の抗酸化活性はどうなったか
異なる結果を報告した論文がいくつかありました。これらをまとめてお話の形にできればよいのですが、いくつかの論文はAbstractしか入手できなかったので、以下のように結果の羅列になってしまいました。ご了承ください。
1.ポリフェノールが無効化あるいは抗酸化活性が低下した例
・カテキンの抗酸化能のマスキング(効力が妨害される状態)は、アルブミン (21.1 ± 4.1%) と β-カゼイン (20.0 ± 3.5%) の混合で最も顕著で、α-カゼインと κ-カゼインでのマスキングはそれほどではなかった(アルブミンもカゼインもタンパク質)。結論としてフラボノイド(注1)とタンパク質の相互作用は、フラボノイドの抗酸化効果に影響する。(Artsら2002)。つまり、紅茶に加えたミルク中のタンパク質に加えて、血液中のタンパク質とも結合して抗酸化能に影響している可能性があるとしている。この論文の実験はIn vitro(生体外、試験管内)で行われた。
(注1)ポリフェノール ⊃ フラボノイド ⊃ カテキン、フラボノールなど
・紅茶にミルクを加えるとミルクなしで飲んだ時に観察された抗酸化能の増加が無くなった(Serafiniら1996)。試験管内と生体内の両者で測定し、生体内ではヒト血漿抗酸化能(TRAP)の測定によって比較した。(この論文は全文は入手できずAbstractのみ)
・紅茶にミルクを入れずに飲むオランダ人男性は虚血性心疾患患者の割合が低いが、紅茶にミルクを入れる英国では紅茶の消費量が多いにもかかわらず、虚血性心疾患が他国と比べて少ないというデータは得られなかった(Hertogら1997)。著者らはミルクの添加によって、お茶のフラボノールが吸収されなくなったと推察した。
・ミルクを入れた紅茶を摂取すると、ポリフェノールが血管機能に与える好ましい効果が失われた(Lorenzら2007)。
※この論文に対してElm(2007)はこの少数の被験者による結果だけでは、健康のために紅茶にミルクを入れるべきではないというようなアドバイスをするべきではないと述べている。また、Hertog(1997)の結果についても、英国人で紅茶にミルクを入れていない人のデータがないという欠点があるとしている。
2.紅茶にミルクを入れても影響がなかった例
・紅茶を1回摂取すると、ヒト体内の血漿抗酸化活性が上昇する。紅茶にミルクを加えて飲んでも上昇に影響がなかった(Leenenら 2000)。(この論文は全文が入手できずAbstractのみ)
・紅茶にミルクを入れて飲んだ時、血中のカテキン濃度は低下したが、ミルクなしの紅茶と比較して、抗酸化能に対する効果に影響はなかった(Reddyら2005、Abstractのみ)。
・van het Hofら(1998)は、カテキン類(total catechins)をまとめて測定する方法を用いている。紅茶の主なポリフェノールであるテアフラビンおよびテアルビジンも含めての測定値だが、それらの測定値への寄与は少なめとのことなので、紅茶の調査としては適切ではないかもしれない。結果としてはミルクを加えた紅茶を飲んでも、血中のカテキン類の濃度に影響はなかった。紅茶に加えたミルクの量の違いが、これまでのいろいろな報告の異なる結果の原因の一つではないかと考察している。
私が調べた結果は以上です。ミルクを入れると効果が失われるという結果の方が多いようですが、実験や調査によって異なる結果が得られているので、「ミルクを入れた紅茶は健康増進効果が失われる」と判断するのはまだ早いかも知れません。
MJTJ Arts et al. Interactions between Flavonoids and Proteins: Effect on the
Total Antioxidant Capacity.J. Agric. Food Chem. (2002), 50, 1184-1187
E von Elm Tea without milk: lifestyle advice based on a small lab study. European Heart Journal, 28, Issue 11, (2007) 1398
MGL Hertog et al. Antioxidant flavonols and ischemic heart disease in a Welsh population of men: the Caerphilly Study. Am J Clin
Nutr (1997) 65: 1489-94.
KH van het Hof et al. Bioavailability of catechins from tea: the effect of milk.European Journal of Clinical Nutrition (1998) 52, 356-359.
R Leenen et al. A single dose of tea with or without milk increases plasma antioxidant activity in humans European Journal of Clinical Nutrition (2000) 54, 87–92
M Lorenz et al. Addition of milk prevents vascular protective effects of tea. European Heart Journal (2007) 28, 219–223.
V C Reddy et al. Addition of Milk Does Not Alter the Antioxidant Activity of Black Tea Ann Nutr Metab (2005) 49 (3): 189–195.
M Serafini et al. In vivo antioxidant effect of green and black tea in man.
Eur J Clin Nutr (1996) Jan;50(1):28-32.
田中 隆 植物ポリフェノールに関する化学的研究とその紅茶色素生成機構解明への展開 YAKUGAKU ZASSHI 128:1119-1131 (2008)
このことについて素人なりに調べてまとめてみました。
調べた結果から言いますと、紅茶にミルクを入れるとポリフェノールの抗酸化能が無くなると言っている人もいるし、無くならないと言っている人もいました。ですから、まだ決着はついていないということだと思います。
なお、調べた論文の一番新しいものでも2007年なので、もっと新しい情報があるかも知れません。
〇紅茶に含まれるポリフェノール
・緑茶の主なポリフェノールであるカテキン類は紅茶では他の物質に変化していて、テアフラビン、テアシネンシンとテアルビジン(存在しているが正体不明)などと呼ばれるポリフェノールが多く存在している。緑茶のカテキンに比べて紅茶のポリフェノールは、組成が非常に複雑で構造が未解明のものが多い(田中2008)。
・カテキンの抗酸化能に及ぼす影響への寄与は緑茶では93%だが紅茶では少なく34%と計算された(Artsら2002)。紅茶ではカテキン以外のタンニンである酸化ポリフェノールのポリマー(polymers of oxidized polyphenols)の寄与が大きいとされている。
〇紅茶にミルクを加えたらポリフェノールあるいは血液中の抗酸化活性はどうなったか
異なる結果を報告した論文がいくつかありました。これらをまとめてお話の形にできればよいのですが、いくつかの論文はAbstractしか入手できなかったので、以下のように結果の羅列になってしまいました。ご了承ください。
1.ポリフェノールが無効化あるいは抗酸化活性が低下した例
・カテキンの抗酸化能のマスキング(効力が妨害される状態)は、アルブミン (21.1 ± 4.1%) と β-カゼイン (20.0 ± 3.5%) の混合で最も顕著で、α-カゼインと κ-カゼインでのマスキングはそれほどではなかった(アルブミンもカゼインもタンパク質)。結論としてフラボノイド(注1)とタンパク質の相互作用は、フラボノイドの抗酸化効果に影響する。(Artsら2002)。つまり、紅茶に加えたミルク中のタンパク質に加えて、血液中のタンパク質とも結合して抗酸化能に影響している可能性があるとしている。この論文の実験はIn vitro(生体外、試験管内)で行われた。
(注1)ポリフェノール ⊃ フラボノイド ⊃ カテキン、フラボノールなど
・紅茶にミルクを加えるとミルクなしで飲んだ時に観察された抗酸化能の増加が無くなった(Serafiniら1996)。試験管内と生体内の両者で測定し、生体内ではヒト血漿抗酸化能(TRAP)の測定によって比較した。(この論文は全文は入手できずAbstractのみ)
・紅茶にミルクを入れずに飲むオランダ人男性は虚血性心疾患患者の割合が低いが、紅茶にミルクを入れる英国では紅茶の消費量が多いにもかかわらず、虚血性心疾患が他国と比べて少ないというデータは得られなかった(Hertogら1997)。著者らはミルクの添加によって、お茶のフラボノールが吸収されなくなったと推察した。
・ミルクを入れた紅茶を摂取すると、ポリフェノールが血管機能に与える好ましい効果が失われた(Lorenzら2007)。
※この論文に対してElm(2007)はこの少数の被験者による結果だけでは、健康のために紅茶にミルクを入れるべきではないというようなアドバイスをするべきではないと述べている。また、Hertog(1997)の結果についても、英国人で紅茶にミルクを入れていない人のデータがないという欠点があるとしている。
2.紅茶にミルクを入れても影響がなかった例
・紅茶を1回摂取すると、ヒト体内の血漿抗酸化活性が上昇する。紅茶にミルクを加えて飲んでも上昇に影響がなかった(Leenenら 2000)。(この論文は全文が入手できずAbstractのみ)
・紅茶にミルクを入れて飲んだ時、血中のカテキン濃度は低下したが、ミルクなしの紅茶と比較して、抗酸化能に対する効果に影響はなかった(Reddyら2005、Abstractのみ)。
・van het Hofら(1998)は、カテキン類(total catechins)をまとめて測定する方法を用いている。紅茶の主なポリフェノールであるテアフラビンおよびテアルビジンも含めての測定値だが、それらの測定値への寄与は少なめとのことなので、紅茶の調査としては適切ではないかもしれない。結果としてはミルクを加えた紅茶を飲んでも、血中のカテキン類の濃度に影響はなかった。紅茶に加えたミルクの量の違いが、これまでのいろいろな報告の異なる結果の原因の一つではないかと考察している。
私が調べた結果は以上です。ミルクを入れると効果が失われるという結果の方が多いようですが、実験や調査によって異なる結果が得られているので、「ミルクを入れた紅茶は健康増進効果が失われる」と判断するのはまだ早いかも知れません。
MJTJ Arts et al. Interactions between Flavonoids and Proteins: Effect on the
Total Antioxidant Capacity.J. Agric. Food Chem. (2002), 50, 1184-1187
E von Elm Tea without milk: lifestyle advice based on a small lab study. European Heart Journal, 28, Issue 11, (2007) 1398
MGL Hertog et al. Antioxidant flavonols and ischemic heart disease in a Welsh population of men: the Caerphilly Study. Am J Clin
Nutr (1997) 65: 1489-94.
KH van het Hof et al. Bioavailability of catechins from tea: the effect of milk.European Journal of Clinical Nutrition (1998) 52, 356-359.
R Leenen et al. A single dose of tea with or without milk increases plasma antioxidant activity in humans European Journal of Clinical Nutrition (2000) 54, 87–92
M Lorenz et al. Addition of milk prevents vascular protective effects of tea. European Heart Journal (2007) 28, 219–223.
V C Reddy et al. Addition of Milk Does Not Alter the Antioxidant Activity of Black Tea Ann Nutr Metab (2005) 49 (3): 189–195.
M Serafini et al. In vivo antioxidant effect of green and black tea in man.
Eur J Clin Nutr (1996) Jan;50(1):28-32.
田中 隆 植物ポリフェノールに関する化学的研究とその紅茶色素生成機構解明への展開 YAKUGAKU ZASSHI 128:1119-1131 (2008)