あいもしゃしゃりも

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読書感想文 「こころ」

2007年04月01日 | 日記
 「上 先生と私」では、主人公が先生に対して自分を理解してもらおう、先生を理解したいという思いが強いと思う。
自分の考えを先生にぶつけ、先生の思いや考えを引き出して行く。このやり取りの書き方には読み手に主人公や先生の微妙な表情さえ想像させてくれる書き方がしてあると思う。先生は自分の過去を探られるのは嫌らしいが、主人公の純粋な心持に次第に心を開いていき、色々なアドバイスや自分の考えを伝えてくれるようになり二人は親密になっていく。
 この中に先生の考え方として「恋は罪悪」というこの物語の中で最後まで考えさせられる文が出てくる。果たして恋はそう悪いものであるのだろうか、私自身の経験として言えば良くも悪くも無い、メリットもあればデメリットもある、しかし先生は「恋は罪悪」と言い切る強い確信を持っている。それは何故かと考えさせられる。
「中 両親と私」では、主人公の父親と先生を比較する事が多く、病気の父親の事を心配しながらも、先生の事を考えている主人公の心が見てとれる。
両親が主人公の事を心配し、就職の事を先生に相談したらどうかと持ちかけてくる場面では、先生に地位や収入の事を相談し、両親を安心させたいと思うと同時に、このような相談をして先生に軽蔑されるのではないかという恐れと、先生が私の依頼に取り合うまいという思いが主人公の行動から伝わってくる。
父親が昏睡状態になり看病に追われる中で、先生から手紙が送られてくる。その中に「死」という文字を見つけた時、主人公の心は父親よりも先生の方に向っていく。
「下 先生と遺書」では主人公に過去を話すと約束したとおり、先生の過去について書いてある。
親戚に騙され人間不信になってしまった先生が上京し、軍人の未亡人とその娘さんが住む家に下宿させて貰い、同郷の友人Kに同情し自分の下宿に同居させる。
しかし、娘さんへの恋の縺れからKを傷つけていき、ついには自殺にまで追い込んでしまった。自分の心の汚さを知り、自分自身を憎む様になった先生は、もう一度死んだつもりで生きて行こうと決心する。
そして今、明治天皇の崩御、乃木大将の殉死を知り、明治という時代の精神に殉死するように先生も自殺する。
ここで先生が言っていた「恋は罪悪」という言葉の意味が分かります。Kを自殺させてしまったのは自分の罪であり、また恋の罪でもあると先生は言いたかったのでしょう。
自分の罪を妻に知らせず、一人で背負ってきた先生の最後として、自殺はKへの最後で最大の詫びだったのだろうと思います。

いや~この本はいいですな、おすすめです。