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Bass-ically Playing

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Ain't No Mountain High Enough -1969 b: Carol Kaye

2011-04-18 02:06:26 | 日記
Someday We'll Be together Again, Ain't No Mountain High Enough - Diana Ross は当時(未だ違法だったが)どこでも行われていたレコーディンング技術である。それは何かというと、先に楽器だけ録音しといて、あとで歌をかぶせるやり方で、今では一般的なやりかたではあるが、60年代でも平気に行っていたのはモータウンぐらいだった。モータウンだけではおおっぴらにトラッキングは行われており、その場合はミュージシャンには倍のギャラを支払って、クレジット無しで、黙って帰すようにした。モータウンでは、いかにもライヴ録音に見せかけ、シンガーを物理的にそばで口パクで歌わせた。つまりマイクはプラグインされてなく、ただそばで邪魔していたわけ。ダイアナ・ロスのレコーディングでは合計コーラス20人、ギタリスト約6人、ドラマー2人、その他パーカッション、ストリングス、ホーンのオーケストラが集まっていた。ダイアナ・ロス自身も物理的に側にいるにはいたとのこと。そして本人は、このテイクの一年後、バカンス先で自分の歌だけを重ねた。公にはJames Jamersonがベースを弾いた、ということになっているし、跡継ぎとされたボブ・バビットもそう断言しておるが、それが嘘であることが、沢山の書類などが証拠となる。実際、ジェームスの未亡人にあたるジェマーソン夫人が、「ケイ氏は他のたくさんのヒット曲で充分にクレジットを与えられたのだから、せめてモータウンだけは多めに見て下さいよ」と米ベースプレイヤー誌に1990年頃に書いた時点で、もうバレた、と私は思った。

下記、ケイ氏の回想からの要略:

「そのときの指揮者ギル・アスキー。ギタリストは全員で1つの長い譜面を読むように指示された。ギタリストは3台譜面台を使って、私は(ベースは一人なので)2台の譜面台に長い譜面を捲りやすく広げた。譜面には、ジェマーソンがマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの「エイント・ノー・マウンテン」でレコーディングしたときのベースラインが書かれてあった。」

ジェマーソンをモータウン・ベースのザ・イノヴェイターとして尊敬していたケイは内心、「違うスタイルだわ」と驚きながらも、初見で弾いた。そう、ケイは初見に強かったし、いつもシラフであった。2テイク目でバンドはノリだし、シンガーたちは踊りだし、気分が向上した。 エンディングの近くにキーチェンジがある。そこでページを捲ろうとして失敗した。譜面を落としてしまったのだ。焦ってギル・アスキーの顔を見ると、彼は「続けて!」という合図をした。仕方なく自分のベースラインをアドリブした。ダイアナ・ロスの『エイント・ノー・マウンテン』はキャロル・ケイの演奏によるジェームス・ジェマーソン・スタイルであり、終わりだけ、キャロル・ケイ・スタイル、ということだ。土壇場で生み出したベースラインが案外気に入ってしまったのか、ケイは、3ヶ月後、ジョー・コッカー「フィーリン・オーライト」のレコーディングに似たベースラインを弾いた。音楽マニアはこれを読んであれ?と思うかもしれないけど、ジョー・コッカー「フィーリン・オーライト」は、ダイアナ・ロス「エイント・ノー・マウンテン」よりも後にレコーディングしているのだ。ダイアナの歌はセッションの1年後に録って、1970年にリリースされた。

レコーディングの最中、ベリー・ゴーディーは踊り続けており、そのうちスタッフやコーラスの全員がブースで踊ってどんちゃん騒ぎしてなにやらハイになって、一人はケイの娘に迷惑をかけた、という話しである。それを見て苛立つケイはますます刺々しいベースを弾いた、と本人は思い出す。

これを機にケイは「二度とモータウンなんかで仕事しない」と怒ったらしいが、約束したもう一曲、"ウィール・ビー・トゥゲザー・アゲイン"をレコーディングして、モータウンからおさらばした、という話しである。

そのときのレコーディングをトランペットのオリー・ミッチェルは8ミリにとったが、モータウンの警備艦に禁じられ、すぐにしまったので一部しか残っていない。ダイアナがいかにプリマドンナ気取りであるかもケイはみんなに知って欲しかった。伝説のベースプレイヤー、キャロル・ケイにとっての「最も卑屈なレコーディング」ではある反面、最もヒットして、ベース史に残ったレコーディングでもある。途中からのアドリブ奏法、パンチの効いた16部音符のクロマッチック・アプローチは、ジャズ・ギタリスト顔負けのテクニックであり、人種も性別も演奏には関係ないという究極の証拠である。

追記:ある専門誌のチャック・レイニーのインタビューで「ジェマーソンは実はツーフィンガーもできた」と発言していたのに「それを信じたくない」と書いていた記事があった。だから、この事実を受け入れたくない人がたくさんいることは想像できる。だが、もし自分がキャロル・ケイの立場だったら、と考えれば自ずと答えは出るだろう。