現役最年長野手の千葉ロッテマリーンズ・井口資仁選手が9月24日、本拠地ZOZOマリンスタジアムで行われる対北海道日本ハムファイターズ戦で自身の引退試合に、六番・DHで試合に出場しました。
井口選手は9回には同点のホームランを放ち有終の美を飾りました。
この試合ではチームメイトは背番号6を着用していたことから、どんなに愛されていた選手かがよくわかります。チームキャプテンの鈴木大地選手、2015年ドラフト1位の平沢大河選手ほか、中村奨吾選手、三木亮選手、大嶺翔太選手ら、チームの将来を背負った若手選手たちはみな、背番号6を慕っています。なお、伊東勤監督も今季限りの退任を発表していますが、「来季からとは言わない。しかし、いずれはマリーンズの監督に」というのが多くのファンの願いだと思います。
井口選手は交流戦を終えて間もない6月20日に今季限りの現役引退を発表し、8月27日に、古巣・福岡ソフトバンクホークス(当時; 福岡ダイエーホークス)戦で、かつてのホームグラウンドに立ち、惜別の安打を放つと、翌28日に選手登録抹消を志願し、9月24日のラストゲームに備えました。
「若手にチャンスをあげて欲しい」というのが、この日までの登録抹消を志願した理由でした。
「浦和(マリーンズの二軍本拠地)で若者と一緒に汗を流したい。原点に戻って、また1カ月(野球が)できたらいい」
自ら「キャンプ」と称した浦和での生活は朝7時、普段と変わらず球場のウエイトルームに入り、まずはしっかり体を目覚めさせることからスタート。室内練習場では若手に負けじと、1スイングずつ無駄がないように気持ちを込めてバットを振り込んでいく。
現役引退が決まっているにも関わらず、最高を追い求める背中を見て、質問に来る若手の姿は連日絶えなかったそうです。
引退試合後の会見でこう語っています。
「目標だったり、自分の軸と言うものをしっかり持っていたので、それがこの21年間しっかり出来たことだと思いますし、これからも次の目標に向かって、しっかり目標設定してやっていけたらと思います」
明確な目標設定を立て、それを実現するために今、何が必要かを見極め、そのための準備をするのです。この21年間、その姿勢に一切の妥協はりません。また、この言葉は、自分自身だけでなく、これから上を目指そうとする若手選手へのメッセージでもあるでしょう。
自分のこれまでの実績や名誉に驕ることなく、偉ぶらず、自らが率先してどんなことでも動く姿。MLBから帰り、マリーンズに在籍した9年間は、若手たちの模範になったと思います。
引退試合が行われた日には、一緒にプレーした現東京ヤクルトスワローズの成瀬善久選手ら、後輩たちも多く足を運んでいたそうです。
「まず、人として尊敬できますし、練習量も凄いし、この年で、なんでそんなに動けるの? と常に思っていました。一緒にやっていても、自分からなんでも率先してやってくれる人で、自分らはもっとやらなきゃと常に思っていましたし、なんでも背中で見せてくれる人でした。なかなかそういうタイプの人っていないじゃないですか」
誰からでも、どの立場、どの角度から見ても決してぶれない人としての評価が井口選手の持ち味です。こういう記録や数字には表れないものを持つ選手というのは、他にもいると思います。また、実際の会社の中にも多くいると思います。
この日の引退試合後、キャプテン・鈴木大地選手もこんなことを話しています。
「野手なんで一年間、試合に出続けなきゃいけないというのを凄く教わりましたし、痛くても、どんなに体が悪くても、医者にダメだと言われなければ試合に出続ける姿を横でずっと見てきました。僕の中で一番教わったのはそこです」
その他にも同じ内野手として、教わったことは数知れず、特に今季は一緒に過ごす時間が多く、そこから吸収したことがたくさんあったそうです。鈴木選手の今後の野球人生の大きな財産になったでしょう。
後半になって、マリーンズがようやく調子を取り戻してきたのには、この井口選手の影響もあるかも知れません。そして、マリーンズが次期監督の就任を要請するのもわかるような気がします。
「最後の試合でこういう勝ち方をしてくれたので、本当にみんな任せたぞという気持ちになりましたし、なんとか負けられないということをみんなベンチで言っていたので。最後も気持ちが1つになって勝てましたし、こうして出来るチームですから、残り試合、そして来シーズンも頑張ってほしいなって思います」
この言葉が次期監督としての言葉なのかどうかわかりませんが、「求心力」があるのがよくわかります。
逆に世の中には「求心力のないリーダー」が多くいることも現実です。見ていますと、そのようなリーダーがいると「報・連・相」が「報告したくない」「連絡したくない」「相談したくない」になっていて、それでも仕事が回ってしまう成功体験から、辞めていく人が続出してしまうというのです。
次のような例が「求心力のないリーダー」として言われています。
■心変わりが激しく、軸がブレている
「自分のデスクに恥ずかしげもなく自己啓発本を置いていて、それに影響を受けた指針を打ち出す上司。本の受け売りだから、言ってることがブレまくり」
「自分が興味のある仕事をしたい、売り上げを立てないといけない、仕事の質が落ちていると指摘された……その時々の『自分の都合で修飾した理屈』を部下に押し付けて『シゴト』を語る上司。吠え始めると『また始まった…』とみんなが下を向く」
■忘却を理由に約束を守らない
「新たなプロジェクトを引き受ける際に、交換条件的にそれまでやらされていたキツイ仕事を軽減する、という約束が盛り込まれていたのに、都合が悪くなると忘れたフリをしてその約束を取り消しにかかる上司」
■叱るのではなくキレる
「自分が不利益を被った、よけいな手間を取らされた時だけ激怒する上司」
「新人への指導が絶望的にヘタ。叱ることができないから、すごくデキる人か、まったく向上心がない人のどちらかしか残らない」
■自分の欲しかった答えしか聞き入れない
「小部屋に呼び出して今後について相談してきたかと思ったら、どうしたいかはすでに決まっていることがわかる話し方。それに沿った答えだけ『やっぱそうだよね』と言う上司。部員全員を個別に呼び出してやっているが、要は決定の責任を分散する言質を取りたいだけ」(38歳・企画)
■劇場型人間で自分が主役でいたい
「安っぽいドラマみたいに、感嘆や内心の独り言を大きな声で言う上司」
「『周りは主役の自分を引き立てるために尽くす脇役』みたいに思っている勘違い上司。関わる人を振り回したあげく、自分ひとりだけ、やけに満足げ」
こうした「職場を破壊する」リーダーには、井口選手のように「若手にチャンスを」なんて思考は1ミリもないでしょうね。