女優月丘千秋

女優月丘千秋についてのブログ。
About A Japanese Actress - Chiaki Tsukioka

『幽霊暁に死す』上映中

2021-05-22 21:48:12 | 作品
今日から始まったシネマ・ヴェーラ渋谷の
『小林信彦プレゼンツ これがニッポンの喜劇人だ!』特集で
月丘千秋の出演作品『幽霊暁に死す』を上映しています。

http://www.cinemavera.com/programs.php

『幽霊暁に死す』(1948)
監督:マキノ正博
出演:長谷川一夫、轟夕起子、斎藤達雄、沢村貞子、月丘千秋、飯田蝶子、徳川夢声、万代峰子、花菱アチャコ

【解説】
新婚早々、校長に反抗してクビになった中学教師の長谷川一夫。
叔父(斎藤達雄)に斡旋されたのは“幽霊屋敷”の管理人で…。
長谷川が教師と幽霊(実は幼い時に死んだ自分の父)の二役を演じる軽妙洒脱な一本。両者が一つの画面に入る画面合成の完成度も高い。
いかにもマキノ的な奇想天外な演出が冴え、突然の音楽の挿入、パン、移動キャメラ、と縦横無尽!


略歴

2020-03-08 11:20:51 | 基本情報



1925年 3月20日 広島県広島市で薬局の父弥六、母信子の二男三女の次女として生まれる。
    本名 旭爪菊江(ひのつめきくえ)
    長女は、女優の月丘夢路。(本名旭爪明子)
    実の誕生日は、1924年10月17日であったのだが、戸籍の登録が遅れてしまった。
 
1937年 広島大学付属小学校 第一部尋常科卒業

1942年 広島県立第一広島高等女学校 卒業
姉の月丘夢路(明子)と同じく宝塚音楽舞踊学校(現・宝塚音楽学校)に入学
    「旧制高女を卒業して、昭和17年に宝塚音楽学校に入った。若い女性なら当時誰でもあこがれた"宝塚"である。しかし、彼女には"ここでスターになりたい"なんていう気負った気持ちはなかったという。"ラインダンスがやりたかったんですよ。それで宝塚に入ったんです。スターになりたいなんて思ったことないんですよ"」(東京スポーツ 1947年1月13日 インタビュー)

1944年 宝塚音楽舞踊学校卒業。
    4月の初舞台直前に、宝塚大劇場は閉鎖、海軍予科練に接収され、舞台に立てないうちに退団。
    姉の夢路が、轟夕起子に誘われて、轟の夫のマキノ正博が所長をしていた松竹京都へ移籍すると同時に、
    月丘千秋として映画界に入ることになる。(命名はマキノ正博)

1947年 「地獄の顔」(大曾根辰夫監督 松竹)
    
    「この無欲な彼女にスターへの道が開けた、松竹映画"地獄の顔"のヒロインの役がころがりこんだのだ。水島道太郎主演、大曾根辰夫監督のこの映画、姉の夢路さんが急病で、妹の千秋さんがピンチヒッターで登場する。"スターになりたくなってたまらない人"だったら、これは願ってもないチャンスだが"なまけ者"を自称する千秋さんにとっては、格別の感想もなかったらしい。」(同上)

    「花ある星座」(大曾根辰夫監督 松竹)
    姉の夢路、4歳の妹洋子と三姉妹共演して話題を呼ぶ。

1948年 マキノ正博が設立したC・A・Cに入る。
    「肉体の門」(吉本プロダクション=大泉スタジオ)
    「幽霊暁に死す」(マキノ正博監督 新演技座=C・A・C)

1949年 「果しなき情熱」(市川崑監督 新東宝)
    この頃、ヒロポン中毒に陥っていたマキノ正博を、事実上の夫の医師山口直とともに支える。

1950年 「殺陣師段平」(マキノ正博監督 東横)
    「女佐膳」(冬島泰三監督 伊藤プロ)

1951年 山口直と入籍。
    7月~11月 在米日系人の慰問公演に、姉夢路とともに渡米し、各地を廻る:
     ハワイ4島、ロサンゼルス、サンノゼ、フレズノ、サンフランシスコ、サクラメント、オークランド、ポートランド、シアトル、スポケーン、ソルトレイク、デンバー、シカゴ、ニューヨーク

1953年 東映へ移籍。

1954年 「忠治外伝 火の車お万」(津田不二夫監督 東映)

1959年頃 テレビを活動の中心に移す。
    「あの波の果てまで」(NTV)

1961年 「半七捕物帳」(NTV)

1962年 「落葉樹」(ABC)
    「ああ美しき人ゆえに」(KTV)

1964年 「女の海」(MBS)

1965年 「飛行機雲」(NHK)
    「愛染かつら」(CX)

1966年 「異母姉妹」(CX)

1967年 「光速エスパー」(NTV)

1987年 最後の映画出演「暗号名黒猫を追え!」(井上梅次監督)

1988年 カトリック成城教会にてキリスト教に洗礼

1994年 最後のテレビドラマ出演「ロス警察'94 ウエストコースト殺人事件」(ANB)

舞台は、新宿コマ劇場「島倉千代子ショー」や花登筺原作の芝居などに出演。


2015年5月10日 逝去 享年91

シネマヴェーラ渋谷で2作品上映されました。

2017-11-03 20:17:11 | 基本情報
『深夜の告白』(1949年)

監督:中川信夫
出演:小沢栄、山根寿子、池部良、月丘千秋、三宅邦子、東野英治郎、河津清三郎、千田是也、青山杉作、東山千栄子、村瀬幸子

『人生選手』(1949年)

監督:田中重雄
出演:藤田進、花井蘭子、河津清三郎、堀雄二、月丘千秋、小林桂樹、江川宇礼雄、小堀誠、汐見洋、清水将夫、浦辺粂子、杉山美子

なお、シネマヴェーラ渋谷様のご厚意で、写真集をプレゼントキャンペーンにご利用いただきました。


出演作品 1940年代

2015-05-12 00:46:08 | 略歴
1) 1947.01.28 地獄の顔(大曾根辰夫)  松竹京都  


2) 1947.02.25 猿飛佐助 忍術千一夜(沢田正平) 松竹京都


3) 1947.07.01 母の灯(市川哲夫) 松竹京都

4) 1947.08.03 花ある星座(大曾根辰夫) 松竹京都

5) 1947.08.16 女優須磨子の恋(溝口健二)松竹京都  ... 小川八重子

6) 1947.09.09 激怒(小坂哲人) 松竹京都

7) 1948.02.23 われの泣きぬれて(芦原正) 松竹京都

8) 1948.08.10 肉体の門(マキノ正博 小崎政房) 吉本プロ=大泉スタジオ

9) 1948.10.12 幽霊暁に死す(マキノ正博)新演技座=C・A・C  ... 娘きみ子

10)1949.05.31 今日われ恋愛す 第一部 愛欲編(島耕二) C・A・C



11)1949.05.31 今日われ恋愛す 第二部 争闘篇(島耕二) C・A・C


出演作品 1949~1952年

2015-05-11 00:54:38 | 略歴
12)1949.06.14 人間模様(市川崑) 新東宝  ... 新井沙丘子

13)1949.06.20 深夜の告白(中川信夫) 新東宝  ... 松木キヨ子

14)1949.09.06 ホルスタイン物語 母の丘(八木沢武孝) 六和映画

15)1949.09.27 果しなき情熱(市川崑) 新世紀プロ=新東宝  ... 石狩しん

16)1949.10.10 あきれた娘たち(斎藤寅次郎) 新東宝



17)1949.12.06 人生選手(田中重雄) 新東宝  ... 曽木麗子

18)1950.04.26 戦後派親父(斎藤寅次郎)  新東宝

19)1950.04.29 海のGメン(志村敏夫) 玄海灘の狼  新東宝

20)1950.05.06 東京ルムバ(鈴木重吉)  大泉映画

21)1950.08.19 新粧五人女(滝沢英輔)  東横

22)1950.08.26 殺陣師段平(マキノ正博) 東横  ... 娘おきく

23)1950.10.07 君が心の妻(高木孝一)  松竹京都

24)1950.11.03 黄金獣(志村敏夫) 新東宝  ... コニー園部

25)1950.12.15 女左膳(冬島泰三) 鍔鳴無刀流の巻  伊藤プロ
 脚本 井上梅次

26)1951.01.13 夜来香(市川崑) 新東宝=昭映プロ  ... 妹・千代

27)1951.06.15 にっぽんGメン 不敵なる逆襲(佐伯清) 東映京都

28)1951.12.14 快傑鉄仮面(渡辺邦男) 東映京都

29)1952.02.29 娘十八びっくり天国(斎藤寅次郎) 新東宝

30)1952.03.20 新選組 魔剣乱舞(萩原遼) 東映京都

31)1952.03.28 夢よいづこ(小田基義)  新映プロ

32)1952.05.22 右門捕物帖 謎の血文字(荒井良平)  新東宝

33)1952.06.05 貞操の街(志村敏夫) えんらく社

34)1952.07.03 いとし子と耐えてゆかむ(中川信夫) 東映東京  ... 高村亮子

35)1952.07.23 磯節情話 涙の恋千鳥(小田基義) 新映プロ

36)1952.11.20 夕焼け富士(中川信夫)  綜芸プロ=新東宝  ... 娘美穂

37)1953.02.25 色ごよみ 権九郎旅日記  新東宝

出演作品 1953年~

2015-05-10 01:02:24 | 基本情報

1953.04.29 あぶない年頃  新映プロ

1953.05.27 暁の市街戦  東映東京

1953.06.24 子は誰のもの  東映東京

1953.08.25 神変あばれ笠 前篇  東映京都

1953.08.31 神変あばれ笠 後篇  東映京都

1953.12.08 母系図  東映東京

1954.01.15 続続続魚河岸の石松 大阪罷り通る  東映東京

1954.02.17 近世名勝負物語 秩父水滸伝  東映東京

1954.04.13 少年姿三四郎 第一部 山岳の決斗  東映東京  ... 大曽根俊平

1954.05.25 少年姿三四郎 第二部 大川端の決斗  東映東京  ... 大曽根俊平

1954.06.08 二挺拳銃の竜  東映東京

1954.06.22 母恋人形  東映東京

1954.08.24 続水戸黄門漫遊記 地獄極楽大騒ぎ  東映京都

1954.10.26 継母  東映東京  ... 篠原光枝

1954.11.30 忠治外伝 火の車お万  東映東京


1954.12.21 母を尋ねて幾山河  東映東京

1955.01.21 恋天狗  東映京都

1955.01.27 大岡政談 血煙り地蔵  東映東京

1955.03.06 大岡政談 黄金夜叉  東映東京

1955.05.10 飛燕空手打ち  東映東京

1955.05.17 飛燕空手打ち 第二篇 青春の斗魂  東映東京

1955.05.24 飛燕空手打ち 第三篇 月下の龍虎  東映東京

1955.07.30 源義経  東映京都

1955.08.29 力闘空手打ち  東映東京

1955.09.06 力闘空手打ち 挑戦鬼  東映東京

1955.09.13 力闘空手打ち 復讐の対決  東映東京

1955.10.25 魚河岸の石松 石松故郷へ帰る  東映東京

1955.11.08 まぼろし怪盗団 第一部 まぼろし怪盗団  東映東京  ... 児玉康子

1955.11.15 まぼろし怪盗団 第二部 魔王の蜜使  東映東京  ... 児玉康子

1955.11.29 まぼろし怪盗団 第三部 悪魔の王冠  東映東京  ... 児玉康子

1955.12.04 笛吹若武者  東映京都

1956.04.11 竜巻三四郎  東映東京

1956.06.28 泣き笑い土俵入り  東映東京

1956.07.12 水戸黄門漫遊記 怪猫乱舞  東映京都  ... 中老菊波

1956.08.01 母恋月夜  東映東京

1956.08.15 水戸黄門漫遊記 人喰い狒々  東映京都  ... 小枝

1956.09.18 緑眼童子 神変からくり屋敷  東映京都

1956.09.26 緑眼童子 解決篇  東映京都

1956.10.02 愛の翼 お母さん行ってきます  東映東京  ... 菊谷咲子

1957.01.15 純情部隊  東映東京

1957.01.22 母星子星  東映東京

1957.02.12 らくだの馬さん  東映東京  ... 文字豊

1957.02.19 警視庁物語 白昼魔  東映東京  ... 「イヴオンヌ」のマダム

1957.02.25 とんちんかん八百八町  東映東京  ... お藤

1957.05.07 多情仏心  東映東京  ... 美津枝

1957.06.25 さよなら港  東映東京

1957.07.02 船頭姉妹  東映東京  ... 妻康子

1957.07.09 鯨と斗う男  東映東京  ... 夏子


1957.08.06 少年探偵団 二十面相の復讐  東映東京

1957.08.11 少年探偵団 夜光の魔人  東映東京

1957.09.01 ふり袖太鼓  東映京都

1957.09.29 爆音と大地  東映東京

1958.01.15 おしどり駕籠  東映京都

1958.02.19 曲馬団の娘  東映東京  ... あやめ

1958.04.09 非常線  東映東京  ... 蘭子

1958.05.07 不敵なる反抗  東映東京

1958.07.22 おけさ姉妹  東映東京

1958.11.11 点と線  東映東京  ... 八重子

1958.12.22 月光仮面 魔人の爪  東映東京

1959.05.05 白い通り魔  東映東京

1959.06.23 空は晴れたり  東映東京

1960.11.29 第六の容疑者  宝塚映画

1960.12.11 金づくり太閤記  東宝

1961.06.30 あの波の果てまで 後篇  松竹大船

1961.12.07 めぐり逢う日まで 真紅の巻  松竹大船

1967.01.14 雪の喪章  大映東京  ... 仙女

1967.06.15 花を喰う蟲  日活

1968.07.12 怪談 蛇女  東映東京  ... すえ

1970.09.23 ママいつまでも生きてね  大映東京

1971.06.25 ごろつき無宿  東映東京

私家本写真集をお譲りいたします。

2013-12-28 11:58:48 | 基本情報
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殺陣師段平

2013-08-05 01:12:34 | 基本情報
ここでは、女優としての月丘千秋の素晴らしい演技のシーンを紹介したい。
映画館で、映像と音として体験していただけば、それに勝るものはないのだが、ここではそのシーンを言葉で形で再現する。スクリーンショットと合わせて、実際の映像を思い浮かべて頂きたい。

『殺陣師段平』(1950年 東横映画 監督:マキノ雅弘)より
 沢田  市川右太衛門
 おきく 月丘千秋

楽屋
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化粧を整える沢田

倉橋「お、おい、段平の殺陣はまだ来ないのか」
沢田「え、うん。まだ来ないんだよ。
倉橋「弱ったなぁ、今日の間に合わないなぁ」
沢田「う、うん。」
楽屋番「先生、まだぁ・・・」
沢田「段平の使いも来ないのか」
楽屋番「へぇ、ずーっと、楽屋口で待ってましたんやけど、使いも気まへんのや。
 段平さんのこっちゃさかい、また中風でもなんでも、飲んでしもたのじゃないのかとちがうのかと思いまんのやけど。」
沢田「そうかね・・・」
楽屋番「はぁ、じゃ、もいっぺん」
倉橋「じゃあ、そうしてくれ」
楽屋番「は、承知いたしやした」
倉橋「ま、今日はしょうがない。明日の間には合うだろう。」
沢田「あぁ。ま、ちょっと、楽しみ過ぎたんだね」
倉橋「ふ、ははは・・・」

楽屋口
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おきく「あ、こんばんは」

刀を持ったおきく、ちょこっとお時儀をして、走って楽屋の方へ入る

楽屋口の男「ちょっとこんばんはじゃないよ、なんだ。なんだ、あんた。」

貼紙:「開演中 出演者の面会 絶対禁ず 支配人」

受付の男「なんだ。おい、面会かい? あかん、あかん。
おきく「沢田先生に会いたいんです。」

開幕のベルが鳴る。

受付の男「もう幕上がってんねん。開演中は決して会わんのや。あかん、あかん
     あかん、ここに書いてあるやないか」
おきく「え、あの、でも、ちょっと」
楽屋口の男「開演中はあかんのや、あかん、あかん、帰って、帰って」

おきく、楽屋口から追い出される。

そこに、先の楽屋番が来て、段平の使いを探すが、もうおきくは見当たらない。

舞台
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開幕のベルが鳴り続ける。

沢田「段平からないのか?」
スタッフ「段平? なにもきやしはらへん」
沢田「そうか・・・」
スタッフ「はい。(他の役者に向って)早く早く!」

沢田、セットにつく

南座・表
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開幕のベルが鳴り続ける。
走るおきく、入口から入る。きょとんとする劇場スタッフ。

客席
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おきく、満席の中、右往左往し、花道へ。
花道にあがり、舞台袖まで走る。

開演のベルが鳴り止む。
おきく、倒れこむ。

舞台
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おきく、肩で息をつき、這うようにして、肩で幕を揚げ、幕の下から、沢田のいるセットへ入り込む。
立ちあがり、役者たちをかきわけ、沢田の方へ、走る。

おきく「あ、先生!先生 ・・・  大将の ・・・ 段平の殺陣が・・・」
沢田、「(目を輝かせ)う、うん! 出来たか!?」

観客の声「早く、始めろ!」

おきく「は、はい! やっと・・・ やっとできました・・・(泣く)」
沢田 「そうか。ん、そりゃ、よかった・・・(顔をあげる)
    そりゃよかったね・・・(小声になる)
    じゃ、後で・・・」
おきく「え? あの先生・・・間に合うんです。お願いします。」
沢田 「段平が来なきゃ、どうにもならないじゃないか」
おきく「わてが習ってきました。わてが出来るんです!」
沢田 「もう時間が無い」

おきく、役者たちに連れ去られていく。

おきく「先生、お願いです、わてが出来るんです!お願いです、先生!」

客席
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開幕を待つ観客

舞台
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おきくが、懇願の声を上げる中、沢田、セットの床に着く。
拍子木が鳴る。
沢田、飛び起きる。

沢田「待て!待て待て、おいおい」
と、おきくの方へ走り、おきくをつかまえ、床のところへ呼び寄せるる。
沢田「みんな、みんな」

客席
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開幕を待つ観客 一層声が高まる。

舞台
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拍子木が鳴る。
沢田、一層の歓声に、あわてて、幕の方へ走る。

幕の前
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沢田「みなさん、申し訳ございません。大変、幕間が延びましたことを、沢田、みなさんにお詫び申し上げます。
   実は、ただいまから皆さま方に観ていただきまる、忠治最期の場の立ち回り、今日ただいままで、努力をして参りましたが、真実を欠くるように思えて、非常に苦しんでおりました。
   新劇の演劇は、この新国劇の、この沢田の生命であります。」

観客「そうだ!そうだ!」

沢田「はからずも、今日、ただいま、中風で倒れました殺陣師市川段平が、この殺陣をつけてくれたのであります!
   必ず、皆さま方のご満足を得るものと、沢田は深く信じております。
   どうか、真実の演技を、真実の演技を演技を皆さま方に観ていただく、
   不肖この沢田のために、いま一時の、いま一時の、その時間をお与えください。」

観客、喝采。

舞台
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喜ぶおきく、役者たち。

おきく「先生!」
沢田 「よかった!・・・・・・・」

沢田はおきくを床へ連れていき、皆と一緒に、おきくを囲む。

沢田 「みんな、みんな、一緒に観ておくんだぞ。いいか。いいか。さ、さ、やってくれ。やってくれ。落ち着いてやってくれ」

おきく「(喜びの表情から真剣な表情に)はい・・・
    あの・・・(と腰を下ろし、忠治の床に着く)
    捕り方はんがジリジリと押し寄せてきてもらいます。
    "御用御用"と声だけかけるけど、
    恐れてなかなか近寄れまへんのや。」
沢田 「うん」
おきく「忠治は、忠治は、不治の身体、やっと、やっとの思いではいずり起こして、
    震える手で力いっぱい、刀を、刀を」

段平(月形龍之介)の瀕死の殺陣がオーバーラップされる。

沢田 「うん・・・」

観客席
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(静まりかえっている)

舞台
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沢田、いきいきとした目でおきくの方に近寄る。
沢田 「よしわかった、ありがとう!やれるか、やれるか、やってみる!
    え、あんた、段平の代わりだよ。」
おきく「はい」
沢田 「いいかい、舞台の袖から 段平の思惑どおりか、どう違うか、しっかり見てくれ。いいか。
    いいか。僕が駄目だったら、あんたが、あんたが、僕に駄目を出すんだよ。
    いいかい、しっかり見ていてくれ!」
おきく「はい!」
沢田 「え、いいか。よし、開けろ!」

おきく、舞台の袖に。
拍子木が鳴り、歓声が鳴り響く。

(中略)

終演後の舞台で
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おきくは数珠を手に持っている。

沢田 「段平はいい男だったねぇ」
   「いい奴だった」
   「ほんまにいい人やしたなぁ」
沢田 「おきくさん、いいお父さんでしたねぇ。」
おきく「いいえ、わては」
沢田 「段平はあんたのおとっつあんだ。
おきく「いいえ、違います」
沢田 「いいや、そうだ。あんたは、娘さんだ。確かに段平の娘さんだ。この沢田にはよく分かっている。
    あんたの殺陣から、段平の血を見たんだ。あんたは娘さんだ。確かに段平の娘さんだよぉ」
おきく「でも、わては・・・」
沢田 「段平の子だったら、嬉しいんだろ、あんた」
おきく「先生! 本当なら・・・」
沢田 「本当だよ」
おきく「本当なら、嬉しおすねんけど。本当なら、たった一言だけでも・・・」
沢田 「父だと、段平から聞きたかったんでしょう。」
おきく「ええ!」
沢田 「もっとも。だがね、おきくさん。あんたのようないい子に父だと言えなかった段平は、・・・段平は、可哀相な男でしたねぇ。そうでしょう。ねぇ?
    だから、段平はいいお父さんでしたねぇ・・・」
おきく「嬉しおす・・・・(と突っ伏して泣く)」

沢田 「ねぇ、倉橋君、死ぬほどの病気と知ってはるのか?」
倉橋 「そうだったねぇ」

沢田 「おきくさん、堪忍してくださいよ。段平を殺したのは僕だ。」
おきく「いいえ、違います。」
沢田 「いや、そうだ」
おきく「違います。違います。おとっつあんは。」
沢田 「おとっつあん、おとっつあんだよ!」
おきく「ええ、先生、おおきに、言います。言わしてもらいます。
    おとっつあんは、殺陣師が一世一代の殺陣と取っ組んで死ねる。
    先生にお礼言うといてや。こんな嬉しいことはおまへんのや。
    ほんまだす。くれぐれも段平がそう言ってたと言うといてや・・・」
沢田 「段平・・・嬉しいこと言ってくれたなぁ。嬉しいなぁ・・・」
おきく「そして、死んだ可愛い女房のお春がお盆で帰って来よりますさかい・・・」
沢田 「ん、女房のこと言ったか?」
おきく「へぇ!
    明日、お春と二人で仲良う南座を観に行くんや。
    沢田先生が勝つか、市川段平が勝つか・・・・」
沢田 「勝つ?」
おきく「はっきり見届けてから、わいみたいなもんや、地獄に行くんや。
    間違うても極楽行くか。
    とにかく、お春に連れて行ってもらうんや。
    先生、負けたらあきまへんで。わいみたいなもんに負けんように
    しっかりやってもろうてや・・・
    おとっつあん。息を引き取るまで、何遍も、何遍も・・・」    
沢田 「段平、言ったな、段平。明日は勝つぞ。明日は・・・」

沢田、舞台から観客席へ
おきく、再び、突っ伏して泣く。

幕の前
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無人の観客席に向い

沢田 「段平! 段平! 段平!」


    

テレビドラマ

2013-06-27 14:15:53 | 基本情報
奥様はバラのトゲ 1955-56
おとぼけ天使と娘達 1956/02/08
人生ご案内 1958/09/07 ~ 1959/02/22
この子に幸を 1959/01/22 ~ 1959/01/29
黒い手袋 1959/02/01
清水港は鬼でも笑う 1959/02/03
燃えろ燃えろ 1959/02/13 ~ 1959/02/20
あの波の果てまで 1959/04/03 ~ 1960/12/26
風流交差点 夜の台風 1959/08/24
赤い雲 1959/09/30
鬼の泪 1959/11/01
指名手配(第4回)ダイナマイト殺人事件 1959/11/17
執行猶予 1959/11/23
風流交差点 赤とんぼ夫婦 1959/11/25
おかあさん(2)(第8回)粉雪 1959/12/03
現代幸福読本(第10回)女の幸せについて 1959/12/12
あざ 1959/12/27
かげろう絵図 1960/02/03 ~ 1960/04/27
冬の紳士 1960/02/18
噂 1960/02/23
おかあさん(2)(第23回)春のクリスマス 1960/03/24
女とくつ下 1960/03/26
私売ります 1960/04/06 ~ 1960/09/28 ※
揺れる耳飾り 1960/04/12 ~ 1960/04/19
夫婦百景(第103回)髭と女房 1960/04/25
つくられた真実 1960/05/14
廻れ人生(第20回)みみず医者 1960/05/19
これが真実だ(第29回)この広い空の下で 生きている差別 1960/05/28
火の疑惑 1960/06/04
能面の家 1960/06/17
妻の波紋 1960/07/29
人生うらおもて(第1回)臨時昇給 1960/08/04
透明な暗殺 1960/08/13
討入り十二刻 1960/12/14
銀座の雪 1961/01/09
ただ今テスト中 1961/02/01
人生うらおもて(第28回)べったら漬 1961/02/09
女の四季(第48回)春を待つ 1961/02/28
文鳥 1961/03/10
人それを情死と呼ぶ 1961/03/11
濁流 1961/04/08
決定的瞬間(第15回)罠 1961/04/13
かわいい女たち 1961/04/23
青べか物語 1961/05/13
刹那 1961/05/15
夫婦百景(第159回)ご不満型女房 1961/05/22
幼い薔薇 1961/07/02
石のおもて 1961/07/10
純白の夜 1961/07/26
わが町の歌(第18回)殴られる私 1961/08/17
哀愁日記 1961/09/12
忘れ得ぬ人 1961/10/03
乳色の墓標 1961/10/12 ~ 1961/10/19
半七捕物帳 1961/11/04 ~ 1962/06/09
この地果つるまで 1962/03/04 ~ 1962/09/30
女の園(第26回)噂の女 1962/04/15
その人の名は言えない 1962/05/24 ~ 1962/05/31
女の園(第37回)櫛 1962/07/08
=女= 白い対流 1962/08/06 ~ 1962/08/13
落葉樹 1962/09/04 ~ 1962/11/28
秋の太鼓 1962/09/25
証言 1962/10/11 ~ 1962/10/12
ああ美しき人ゆえに 1962/11/07 ~ 1963/05/08
女の園(第62回)縁むすび 1963/01/06
早春 1963/01/12
女の園(第72回)東京から来た女 1963/03/17
七人の刑事(1)(第90回)狙われている 1963/06/20
東京・赤坂・六本木 1963/07/01
いつの日その胸に 1963/10/07 ~ 1964/01/18
判決(1)(第53回)埋もれた暦 1963/10/16
西陣の姉妹 1964/02/09
あざやかな手 1964/02/15
可愛い悪女たち 1964/06/16 ~ 1965/01/05
女の海 1964/07/06 ~ 1964/10/02
ばばぬき 1965/03/12
飛行機雲 1965/04/05
愛染かつら 1965/07/05 ~ 1965/08/20
特別機動捜査隊(第202回)栄光 1965/09/08
鉄道公安36号(第134回)瓢箪から出た駒 1966/01/05
大岡政談 池田大助捕物帳 1966/04/08 ~ 1967/03/3 ※
鉄道公安36号(第155回)独身終列車 1966/06/01
異母姉妹 1966/09/05 ~ 1966/11/04
七人の刑事(2)(第148回(通算第287回))愛のように 1967/06/19
ふたり 1967/07/01
光速エスパー 1967/08/01 ~ 1968/01/23
妻よ妻 1968/02/14
伝七捕物帳 1968/03/09 ~ 1968/07/06 ※
道頓堀 1968/04/03 ~ 1969/03/26
友禅川 1968/04/23 ~ 1968/10/15
奇妙な仲 1969/04/16 ~ 1969/06/25
S・Hは恋のイニシァル 1969/04/28 ~ 1969/07/28
見合い恋愛 1969/08/18 ~ 1969/11/10
コント55号60分1本勝負(第23回)裏町の星 1970/09/03
ワン・ツウ・アタック! 1971/04/03 ~ 1971/06/26 ※
気になる嫁さん 1971/10/06 ~ 1972/09/27 ※
泣くな青春 1972/10/02 ~ 1973/01/29 ※
プレイガール(第215回) 港町の風俗巡査1973/05/14 ~ 1973/05/14
江戸を斬る 梓右近隠密帳(1) 1973/09/24 ~ 1974/03/25 ※
バーディ大作戦 1974/05/11 ~ 1975/05/17
プレイガール(第278回)怪談・蝙蝠屋敷の怨霊 1974/07/29
おふくろさん 1975/04/06 ~ 1975/09/28
あかんたれ 1976/10/11 ~ 1977/07/29 ※
水戸黄門(第8部)1977/07/18 ~ 1978/01/30 ※
特捜最前線(第32回)殉職・涙と怒りの花一輪 1977/11/09
銭形平次(第619回)母子笛 1978/04/19
ゆうひが丘の総理大臣 1978/10/11 ~ 1979/10/10 ※
特捜最前線(第102回)拳銃哀歌II・狼たちの決算! 1979/03/14
新五捕物帳(第67回)悲恋おんな坂 1979/05/08
翔んでますえ 1979/10/01 ~ 1980/03/31※
水戸黄門(第11部)1980/08/18 ~ 1981/02/09 ※
氷山のごとく 1980/10/11 ~ 1981/03/28
Gメン'75(第328回)香港カラテVS赤い手裏剣の女 1981/09/19
特捜最前線(第262回)紅い爪! 1982/05/26
ちゃんとした恋人 1982/09/19
秋祭りだよ!サザエさん 1982/09/29
奥多摩殺人渓谷 1982/11/13
海にかける虹 1983/01/02
開き過ぎた扉 1983/10/22
水戸黄門(第15部)1985/01/28 ~ 1985/10/21
描かれた女 1985/02/05 ※
ロス警察'94 ウエストコースト殺人事件 1994/04/24